本離れが進み、次々と書店が姿を消す中、広島県の庄原市内に2024年にオープンしたお店があります。経営者の思いに迫りました。
庄原市の中心部にある書店『ほなび』に、朝9時半の開店と同時に客が訪れてきました。
アットホームを感じる店内には、小説からコミック、子ども向けの絵本に至るまで、さまざまなジャンルの本、およそ3万冊を取り揃えています。
■来店客は…
「(町の書店は)中を見て選べるというのは、いいですね。昔からこういうのに慣れているので。」
「すぐに立ち寄ることができるので、心の居場所みたいな感じになってます。」
庄原市の人口は3万1千人あまりで、過疎と高齢化は深刻です。この町での書店の経営は厳しく、2023年は2か所が閉店しました。そんな中『ほなび』は、2024年5月にオープンしました。『ほなび』という名前には、「本を浴びて人々の心を癒やす空間でありたい」という思いを込めました。
この日、休みのスタッフに代わって店頭での準備に加わったのは、社長の佐藤友則さんです。
■総商さとう社長 佐藤友則さん
「前回置いた人の意図を壊さないようにもしないといけないので、そこら辺が面白いというか難しいというか…面白いところですね。」
書店の閉店が相次いだことで危機感を持った佐藤さんは、『ほなび』のオープンを決断しました。現在、庄原市内に残る書店は2つです。
■総商さとう社長 佐藤友則さん
「本屋が閉店すると、地域から本屋がなくなるという現状ですから、そこをなんとか変えてみたい。そういうところにチャレンジしてみたいと思って、オープンですね。」
10月、佐藤さんが開いたトークイベントに、大切なゲストを招きました。
■小林由美子さん
「こんなにたくさん本屋がある中で、誰もうちで買わなあ義理はない。でも、うちを選んで(本を)買ってくれてはる。何百回お辞儀しても、ありがとうと言っても、言い過ぎることはないんちゃうか。」
小林由美子さんは、兵庫県尼崎市で書店を営んでしました。2024年5月、自身の体調などを理由に72年続いた店を閉じました。それまで、経営してきた手腕と人柄で、小説のモデルや映画化されるなどして全国で評判となっていました。
佐藤さんとの出会いは、15年ほど前のことです。小林さんの人柄と、地域の人を大切にする心に感銘を受けて以来、交流を続けてきました。さらに、会社のスタッフを研修に行かせるなどして絆を深めました。
■小林由美子さん
「小林さんのバトンを受け取ってこいと言って、うちに送り込んでくれたんですね。私はそのことが、本当に嬉しくて。」
■総商さとう社長 佐藤友則さん
「生意気な言い方をすると、小林書店の後継ぎというか。勝手にですよ、そう思ってて。」
「まちの本屋を守り抜いていきたい。」交流を通して、佐藤さんは改めて決意を新たにしました。
現在、全国では書店の数が減り続けています。総数は20年で半減し、特に広島県ではここ10年で4割も減少しています。
そんな中、開店から50年を迎えたのが、広島市中区にある紀伊國屋書店です。広島センター街の開業とともにオープンしました。蔵書28万冊をそろえる大型書店で、休日にはおよそ1500人が訪れます。50周年を祝う式典には、全国の出版社などからおよそ170人が参加し、その歴史を振り返りました。
一方で、活字離れの今の状況に危機感を覚えるのは、大型書店も同じです。
■紀伊国屋書店社長 藤則幸男さん
「知力、学力、教養、想像力。そういうものを涵養(かんよう)するためには、スマホではなくて活字をしっかり読んで、新しい発想がでてくる・生きる意欲がでてくるというのが、読書の基本ですから。その本を提供していくのが、書店としての責任であると。」
庄原市東城町にある書店も、佐藤さんが経営しています。ここでは地域密着にこだわり、本にとどまらず、化粧品やエステコーナーなどを備えています。
子どもたちが訪れると、得意のマジックを披露します。小さなお客さんも大事にします。
■保護者は…
「佐藤さんと話しをするのも楽しいので。ありがたい場所です、ここは。とっても。」
■総商さとう社長 佐藤友則さん
「(本屋の存在は)本当に日常でいいと思っています。当たり前でいいと思っていますし、それが3年、5年、10年というふうに続いていく。また、続けていけるような本屋。当たり前の本屋を、なるべく長くしてみたいなと思っています。」
全国的に減り続けている「まちの書店」。地域の客に寄り添うことを大切に、生き残りの模索が続きます。