高齢化と担い手不足で畜産農家が減る中、広島県庄原市に牛の飼育に青春を捧げる女子高生がいます。「地元の食を支えたい」と、愛情を持って育てた牛の成長と、命と向き合った日々の記録です。
サシの入ったA5ランクの牛肉を育てたのは、高校生です。店に立ち、自ら特徴をアピールします。
■購入客は…
「脂っぽくないし、さっぱりしておいしかった。買わせてもらった、ちょっとだけ。」
店に並んだおよそ490キロは、3日で完売しました。
広島県立庄原実業高等学校に通う、生物生産学科の松木紗希さんと児玉真梨菜さんは、畜産を学び、命と食の大切さに向き合います。
児玉さんが得意なことは、子牛のミルクやり。この道を選んだきっかけです。
■広島県立庄原実業高等学校3年 児玉真梨菜さん
「兄が入学してて、動物もあるから来てみたらと誘われたのがきっかけで。めっちゃ牛かわいいじゃんとなって、そこで哺乳で牛にはまってしまって。」
松木さんはブラッシングで、牛との信頼関係を築きます。
■広島県立庄原実業高等学校3年 松木紗希さん
「自分は家が農家なわけでもなくて、非農家出身なんですけど。小さい頃から動物が好きで、動物に関わる仕事に就きたいなと思っていたときに、庄原実業という学校があると知って。」
学校で飼育する牛は16頭。2人は入学後、主に2頭の牛の飼育に携わり、成長を記録に残してきました。そして、2024年で節目の100回目を迎える、牛の体形の美しさとなどを競う「広島県畜産共進会」への出品を目指していました。
まずは第一段階、共進会へ出品できるかどうかの知らせが届きました。出品が決まった「りんりん号」は、発育の良さが評価されました。
10月上旬、JAの職員などが「りんりん号」の状態を確認するため、農場を訪れました。
■審査員
「めちゃくちゃ大きくなっていますよ。」
本番に向けて、お墨付きをもらました。
■広島県立庄原実業高等学校3年 児玉真梨菜さん
「牛としてはすごくきれいということで、褒めて頂いたので、とてもうれしかったです。」
■指導する担当者
「この牛は、しっかりと発育のいいところを見せてもらっていいかなと思います。」
審査は一週間後。多くの人が集まることが想定され、自然と調教にも力が入ります。見た目も評価の対象の一つ。本番に備えます。
共進会は、2人にとって初めての大舞台です。和牛と乳牛、合わせて73頭が出品されました。審査のポイントは、体の大きさと繁殖用のメス牛としての適正など、評価は10項目に上ります。
■畜産農家は…
「頑張ってほしいですね、若い人に。どんどん年齢層が上がってきているので。」
そして「りんりん号」は見事、優秀賞を獲得しました。出品したグループのなかで、16頭中5番目の評価でした。
■広島県立庄原実業高等学校3年 児玉真梨菜さん
「うれしいですね。毎日コツコツやってきたかいがあったな。」
畜産を学ぶ上で、避けては通れない道もあります。この日は、育ててきたもう1頭「心結(みゆ)号」の出荷です。
■広島県立庄原実業高等学校3年 児玉真梨菜さん
「一番は悲しいですね。生まれたときから出荷までを携わることができたので。」
■広島県立庄原実業高等学校3年 松木紗希さん
「一番関わってきた子なので、すごい悲しいです。」
別れの時が近づきます。
■広島県立庄原実業高等学校3年 松木紗希さん
「きれいな状態で出荷するために、今きれいに(ブラッシング)してあげてます。」
時間を惜しむかのように、「心結号」も2人に寄り添います。生まれて間もないころからおよそ2年半、ほぼ毎日手入れしてきました。
■広島県立庄原実業高等学校3年 松木紗希さん
「これから畜産をやっていく上で、何回も乗り越えていかなきゃいけない壁だと思っているので。慣れることはないんですけど、自分が関わってきた、関わっていく1頭1頭に感謝を込めて、これからも畜産をしていきたいと思います。」
■広島県立庄原実業高等学校3年 児玉真梨菜さん
「愛情を込めて育ててきた子なので、すごく悲しいですけど、いろんな人に美味しいと言って食べてもらえたらうれしいなって思います。」
歩んできた月日は、2人を大きく成長させました。
■広島県立庄原実業高等学校3年 児玉真梨菜さん
「私たちは動物生産類型で学んでおり、今回販売している牛は、A5ランクの8番のお肉です。」
10月。2人の姿は、広島市内の商業施設にありました。出荷した牛肉を、自ら販売するためです。「地元で育てた牛を食べてもらいたい。」畜産にかける思いです。
■訪れた客は…
「お米とかジャガイモくらいなら(栽培できるが)。牛肉はすごいですね。おいしいです。」
「高校生だから遊びたい時間とかきっとあるんだろうと思うんですけど、生き物相手だから、制約とかきっとあると思うんですね。だけど、明るく元気よくやってるのを見るといいなと思いますね。」
■広島県立庄原実業高等学校3年 児玉真梨菜さん
「出荷したときはすごく悲しかったんですけど、いろんなお客様に「いいお肉だね」とか、「いい色だね」とか褒めてもらえることが多いので、うれしいですね。」
■広島県立庄原実業高等学校3年 松木紗希さん
「牛を育てる上で最終的なゴールが、消費者のみなさんに「おいしい」と言ってもらえることがゴールだと思うので。自分たちの若い世代が、こういうことを通して「食」というものを発信していくのは、とても大切なことだと考えています。」
手塩に育てた牛の成長と、命と向き合った日々は、2人にとってかけがえのない経験となりました。「食を支えたい。」女子高生はこれからも一歩ずつ、夢に向かいます。
【2024年11月12日 放送】