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アプリ統合で反転攻勢 「楽天ペイ」の“現在地“は? ポイント経済圏の行方

ITmedia ビジネスオンライン 2024年4月23日 13時54分

 楽天ポイントという最強のポイントを持つにもかかわらず、リアル店舗での決済ではいまひとつ出遅れ感もあった楽天ペイ。しかし、今回グループが持つ決済手段をすべて集約し、さらにフィンテックサービス全体も統合するスーパーアプリ化を宣言することで、攻勢に出ようとしている。

 「圧倒的なオープン戦略が功を奏してきた。次のステージに入っていきたい」。4月18日に開いた会見で、楽天ペイメントの小林重信社長はこう話した。楽天ペイは現在どんな状況にあり、何を目指そうとしているのだろうか?

●楽天ペイがアプリ統合、スーパーアプリへ

 次のステージに向けて楽天ペイが採った戦略は、楽天グループ各社が持つサービスの統合だ。その先には、楽天証券や楽天銀行など、決済以外の金融サービスとの融合も行う。これまでサービスごとにアプリを提供していたが、その戦略を転換し、PayPayのようなスーパーアプリを目指すということだ。

 それぞれを詳しく見ていこう。まず12月ごろをめどに、楽天ペイ、楽天ポイントカードのアプリを統合する。楽天ペイアプリには、現在も楽天ポイント機能が搭載されているが、楽天ポイントアプリを廃して楽天ペイに1本化するという意味だ。そして2025年には、電子マネー「楽天Edy」のアプリも楽天ペイに統合する。

 さらに統合第2弾として、楽天カードアプリの主要機能も、楽天ペイに搭載していく。分割払い、リボ払い、キャッシング、キャンペーン、利用明細などが楽天ペイから操作閲覧が可能になる。これによって、楽天の決済サービスはすべて1つにまとまることになる。

 決済系の統合が完了後、将来的には楽天証券、楽天銀行などといったグループが持つフィンテックサービスとの連携も進めていく。

●楽天ペイの立ち位置

 新戦略を打ち出した楽天ペイだが、現状の立ち位置を確認しておこう。主要コード決済サービスの会員数を見てみる。PayPayは6000万人(2023年10月時点)、d払いは5199万(2023年3月末)、au PAYは3438万(2024年3月末)、そしてメルペイは1683万人(2024年12月)となっている。しかし、楽天ペイはユーザー数を公開していない。

 そこでインフキュリオンが2023年11月に行った調査から、各コード決済サービスの利用率を並べてみよう。調査対象の50%がPayPayを使っていると答えてトップ。そして楽天ペイは2位の23%につけた。

 楽天ペイによると、ダウンロード数は昨年対比で64%増加した。さらに月間取扱高は76%増加したという。業界平均は37%なので「2倍速で伸長」(楽天ペイの諸伏勇人執行役員CMO)とアピールする。

 PayPayなど他社が大型のキャンペーンを行い一気にユーザーを獲得したのに対し、楽天ペイはそれほどキャンペーンにコストを費やしてこなかった。これは、ほぼゼロから立ち上げなくてはいけなかった他社に対し、すでに楽天ポイントという強力な経済圏があったためでもあるだろう。そして、ちょうど同時期に楽天モバイルの立ち上げが重なり、他社のようには先行投資ができなかったという懐事情もある。

 なかなか攻めに出られないもどかしさもあったものの、2023年12月には初めての単月黒字にもなり、攻勢に出るタイミングが到来したといったところだろう。

 いずれにせよ、PayPayには遅れをとったものの、楽天ペイはおそらく2番手に付けており、良い立ち位置にある。小林社長は「今、相当良いポジションにある。高い成長率を維持している。最終ターゲットとしては1億以上を誇る楽天ID、そして3000万を超える楽天カード、楽天ポイント経済圏に親しんでいる方すべてに使っていただく水準を目指す」と話し、ここからの攻勢をにじませた。

●ポイント経済圏の現況

 5大ポイント経済圏の現況をまとめておこう。前回は矢野経済研究所がまとめた国内ポイント市場規模調査を紹介したが、今回は野村総合研究所の調査から。それによると、2022年の民間ポイント発行額は1兆2342億円で、前年から14%成長したという。

 ここであれ? と思った人は鋭い。楽天ポイントは2022年に約6200億ポイントを発行し、PayPayは6000億ポイントを発行した。この2つだけで1兆2000億円に達している。にもかかわらず、民間ポイント発行額合計が1兆2342億円というのはどういうことか。

 実は2022年には、9548億円にのぼるマイナポイント事業関連のポイントがある。いわゆる行政発行のポイントだ。これらマイナポイント関連のポイントは、楽天ポイントやPayPayポイントといった形でユーザーに配布された。PayPay6000億円、楽天ポイント6200億円にはそれが含まれているというわけだ。

 野村総研によると「2023年度はマイナポイント事業の発行額が6500億円減少する見込み」だという。これが、楽天ポイントの発行額が伸びずに足踏みしている理由であり、PayPayポイントがなかなか発行額過去最高更新の発表がない理由でもあるわけだ。

●利用状況に基づいたポイントの強さ

 もう一つ、5大ポイント経済圏の数字を別の角度から見ておこう。前回の記事では各社が公表しているユーザー数(会員数)と年間発行ポイント数から、それぞれの共通ポイントの規模感を推察した。ただし、発行ポイント数はともかく、会員数は本当のユーザー数を表しているとはいえない。現在使っていなくても、ポイントカードを作ったことがある人は多いだろうし、場合によっては1人で何枚もカードを作っている場合もある。TポイントとVポイントの会員数合算で1億5500万人というのはそういう数字だ。

 では実際の利用状況に基づいたポイントの強さはどうか。それが分かるデータとして、野村総合研究所が2021年8月に1万人に対して行った調査を紹介する。Web調査ではなくサンプル抽出による訪問アンケートであり、信頼性も高い。

 それによると、「普段の買い物やサービス利用において、貯めているポイント(複数回答)」に対し、トップを取り続けているのは、実はTポイントだった。このところ、スマホ対応の遅れや、パートナーだったヤフーとの別離などから、ジリ貧と見られたTポイントだが、実のところは頭一つ抜けた共通ポイントの王者だったともいえる。

 単純なアクティブユーザー数だけではなく、積極的に貯めたり使ったりする熱心なロイヤルユーザーにおいてもTポイントは強い。同調査の中でロイヤルユーザーの数が最も多いのはTポイント。約半分のユーザーが「積極的に貯めて使う」と回答している。

 ただしロイヤルユーザーの比率が最も高いのは楽天ポイントだ。楽天ポイントユーザーのうち約4割が、非常に熱心に利用している。

●PayPayの牙城を崩せるのか

 このように2年前の段階では、Tポイントの強さはまだまだ健在だ。そしてTポイントは4月22日にVポイントと統合し、一気にデジタル化にかじを切った。

 現時点では、三井住友カードのVポイント基盤と、Tポイント基盤をID連携し、名称をVポイントに共通化した上で、残高も合算するにとどまる。しかし、今後「三井住友カードと協議しながら、新しいサービスを順次搭載していく」(CCCMKホールディングスの撫養宏紀氏)とし、例えば三井住友カードで決済すると、別途Vポイントカードを出さなくてもポイントが貯まる機能などを盛り込んでいく考えだ。

 従来のプラスチックのTポイントカードもそのまま利用できるが、新たにプラスチックのVポイントカードを発行する計画はない。「プラスチックからスマホに移行させたい。モバイルに登録しやすくなるようなカードを準備している」(撫養氏)

 リアル店舗の決済において楽天が本格攻勢、そしてTポイントはVポイントに名前を変え三井住友カードと一緒に反転攻勢に出る。ディフェンディングチャンピオンであるPayPayの牙城を崩せるかに注目だ。

(斎藤健二、金融・Fintechジャーナリスト)

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