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大和証券、データ活用で成約率2.7倍 「顧客に損をさせない」ための秘策とは?

ITmedia ビジネスオンライン 2024年5月31日 7時5分

 大和証券では営業活動におけるデータ活用を強化しており、成約率が2.7倍に成長するなど、売り上げを伸ばしている。

 しかし、データをもとに「ニーズの高い顧客」を見極め、効率的な商品提案ができるようになった一方で、本当の顧客満足に向き合えているのか、課題に感じていた。

 そんな中、同社は顧客ロイヤルティを測る「NPS」指標を活用し、成約率だけでなく、顧客満足度を意識した営業組織に変革を遂げているという。

●成約率2.7倍 大量のデータから「ニーズの高い顧客」を見極める

 同社では、顧客のWeb上の行動データや残高情報、過去の取引実績、プロファイル情報、営業員によるCRMの記入情報……といった莫大なデータから「購入ニーズの高い顧客」を導き出し、効率的な営業活動を実現している。

 「例えば、投資信託を売りたい場合は、これまでの購入実績が大きく関係するため、過去購入経験がある人に加点する。その他、Webサイトで投資信託の閲覧履歴がある人は購入の確率が高くなるためさらに加点。

 他にも商品ごとの購入者データなどから年齢や性別、居住地などの傾向を考慮し、購入する確率が高い属性を持つ顧客に加点をしていく──。このように、さまざまな要素から最も購入に近い顧客をAIで導き出している」(MISデータ管理部長・長谷川理氏)

 長谷川氏は「データ活用はあくまで底上げだ」と話す。証券会社は商品数が多く、必要な知識も多岐にわたる。年次や経験によってばらつきが生まれる営業員の知識やスキルを、ツール活用でサポートしている。

 これらのデータにひも付く営業活動によって成約率は2.7倍に成長。解約率も半減するなど収益に貢献した。また、ツール活用に対する営業員からの満足度も84%と非常に高い。

●本当に「顧客のためになる」営業なのか……顧客満足とデータ活用を両立へ

 データ活用によって成約率が向上し、収益アップに成功した一方で、同社は課題も感じていた。長谷川氏は「本質的な顧客ニーズや顧客満足と向き合えているのか、本当に顧客目線に沿った営業をできているのか、疑問が残っていた」と振り返る。

 そこで同社は、顧客ロイヤルティを図る「NPS指標」を導入。成約率だけでなく、NPSスコアの向上を目標に置いた営業活動へと舵を切った。

 NPS(Net Promoter Score、ネット・プロモーター・スコア)は、顧客ロイヤルティ、顧客の継続利用意向を知るための指標だ。顧客満足度に並ぶ新たな指標として昨今注目を集めている。

 このNPSスコアを向上させるためには、顧客の損益率を改善することが欠かせない。そのため、営業員は商品の運用状況を伝える場として顧客と定期的な面談を実施している。面談では、単に状況を伝えるだけでなく、顧客に損をさせないために何ができるかをプレゼンする。

 面談は営業員が多忙な時も忘れないよう、システムで管理し、「必ずやること」として通知しているという。

 同社は経営基本方針として「お客様の資産価値最大化」を掲げ、データを活用した的確な市場環境分析と、面談など密なコミュニケーションを通じた深い顧客理解の2軸を強化してきた。長谷川氏は「日経平均が過去最高値を記録したことにももちろん助けられてはいるが、現在のNPSは過去最高まで向上した」と語る。

●「DXはシステム部門の仕事」ではない 全社のDX推進、どう進めた?

 今でこそ成果が出ており、顧客満足度も従業員満足度も高いが、全社を挙げたデータ活用、DX推進にはかなりの苦労があったという。

 同社では「環境・人材・文化」の3軸でDX推進に取り組んできた。

 「環境はツールの導入や整備、人材はDX人材の育成。そして文化は、みんなが働きやすく、『DX推進やツール導入が正しいことなんだ』と全社員が思っている状態を目指すこと。この文化の醸成がすごく大変だった」(デジタル推進部長・植田信生氏)

 各本部、各従業員がDX推進を自分事化するためにはどうするべきか……。同社も頭を悩ませたという。

 さまざまな工夫をする中で、(1)「小さな成功体験」を重ねたこと、(2)社長を巻き込み、トップダウンで進めたこと──の2点が、特に大きく貢献した。

 まず、DXを推進するにあたり、本部ごとに「3年後に目指したい姿」と「具体的なアクション」を決め、社長直轄の会議で取り組みの内容、進捗を発表したという。植田氏や長谷川氏の所属するデジタル推進室、MISデータ管理部は徹底的に各本部のサポートに回った。

 「DX推進を始めた当初は、現場の従業員からは『デジタル、DXはシステム部門の仕事でしょ』というイメージを持たれていたが、全員が自分事化していかねばならないと感じていた。従業員のマインドを変化させる必要があった。

 現場からあがった課題に対して、システム部門がサポートをするという座組みで推進したからこそ、ツール導入なども組織の新たな風土として根付かせることができた」(MISデータ管理部長・長谷川氏)

 「各本部がDXに取り組み、小さな成果を出したことが成功体験となり、DX推進における問題意識の醸成につながった。

 その結果、全社的にDX人材の不足に取り組むことになった際も、どの本部でも共通の課題認識を持つことができた」(デジタル推進部長・植田氏)

●今後は生成AI活用に注力

 今後は生成AI活用に注力する方針だ。NISAや投資への興味関心の高まりとともに、証券サービスも増えている。手数料無料のサービスなどは、同社にとっても大きな脅威になりうるという。

 「生成AIによって、多くのことが“人がいなくても”完結できるようになってきた。今後は、デジタルマーケティングにおいて、生成AI活用を含めてビジネスを再度デザインすることで、当社ならではの差別化要素を確固たるものにしていきたい」(MISデータ管理部長・長谷川氏)

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