Infoseek 楽天

ラーメン・餃子・生ビール「1000円」の壁を突破! 3年連続値上げ「日高屋」、ロードサイド進出はうまくいくのか

ITmedia ビジネスオンライン 2024年6月5日 6時30分

 「日高屋」を展開するハイデイ日高の業績が好調だ。2024年2月期の既存店客数は前年比で18%増、全社売上高はコロナ禍前の2020年2月期を上回った。人流回復により飲酒客が戻ったことも影響している。

 「ちょい飲み」戦略により駅前・都市部で勝者となった日高屋は今後、ロードサイドへの進出を狙う。だが値上げを避けられず、5月31日には3年連続となる価格改定を実施した。ラーメン・餃子・生ビールの組み合わせも、いよいよ1000円を超える。物価高が続く中で日高屋は今後も安さを訴求できるのだろうか。好調な業績の背景と今後の戦略について分析していく。

●首都圏の都心・駅前に進出する日高屋

 関東ではよく見る日高屋だが、それ以外のエリアに住む人にとってはなじみが薄いチェーンかもしれない。日高屋は関東、特に都心部の駅前に多く出店するチェーンで、2024年2月末時点で418店舗を展開する。5月29日時点で公式Webサイトから確認したところ、都道府県別では東京都で約190店舗、埼玉県で100店舗弱を展開する。神奈川、千葉はそれぞれ70、50店舗ほど。

 5月末の改定でも価格を据え置いた390円の「中華そば」が看板商品であり、麺類は「とんこつラーメン」「味噌ラーメン」「野菜たっぷりタンメン」などさまざまだ。幸楽苑など、標準的なラーメンチェーンのメニュー構成といえる。一方で唐揚げや生姜焼き、ニラレバ炒めなど、定食メニューが豊富な点も特徴である。

 ラーメン単品は概ね700円以下、中華そばと半チャーハンのセットは価格改定後でも680円としており、安さを売りとする飲食チェーンとして知られる。生ビールは350円、ハイボールは330円とアルコール類も安く、夜は男性1人の飲酒客も多い。実際に日高屋は「ちょい飲み」のうたい文句で会社帰りの飲酒客も取り込んできた。乗降客数の多い駅では東口と西口の両方に店を構えることもある。

●コロナ禍経て客単価が向上 客数減少も売り上げは成長

 運営元のハイデイ日高は日高屋のほか、立ち飲み業態として「焼鳥日高」などを展開する。ただし運営する約450店舗の9割以上を占めるのは日高屋であり、直営店が主力事業だ。2020年2月期以降の業績は次の通りで、2024年2月期にコロナ禍以前の水準を上回った。

売上高:約422億円→約295億円→約264億円→約381億円→約487億円

営業利益:約40億円→▲約27億円→▲約35億円→約6億円→約46億円

 2021年2月期、2022年2月期はコロナ禍が直撃し、業績も大幅に悪化した。日高屋はロードサイド比率が低く、駅前・都市部に出店していたことから人流減少の影響を受け、時短営業や酒類提供の自粛も追い打ちをかけた。テークアウト・デリバリーにも対応したが、麺類という特性上、相性が悪かったとみられる。既存店客数で見ると2021年2月期は前年比で67.9%まで減少し、2022年2月期はさらに9割の水準まで落ち込んだ。

 しかし2023年2月期には客数が前年度比で29.0%増え、2024年2月期にはさらに18.4%増加。コロナ前と比較して全体の客数は減少しているものの、客単価の増加もあって売上高は以前の水準を上回っている。後述するように値上げを続けているが、それでも1000円を出せば満腹感を得られるほど食事でき、夜はちょい飲みも楽しめる。飲食チェーン各社による値上げが相次ぐ中、日高屋の割安感が高まったことが、客数増の要因として考えられるだろう。

●3年連続で値上げも、まだまだ安い

 値上げラッシュの例に漏れず、日高屋も近年は値上げを実施している。それも3年連続でだ。5月末の価格改定では約80商品を10~60円程度値上げした。以下に2022~24年における3回の値上げによる価格推移の例を示す。

とんこつラーメン:450円→470円→480円→490円

野菜たっぷりタンメン:520円→550円→570円→590円

中華そば+半チャーハン:640円→660円→670円→680円

餃子(6個):230円→250円→270円→290円

生ビール(中ジョッキ):290円→320円→340円→350円

 段階的に上昇しているが上昇幅は非常に緩やかであり、できるだけ安く抑えたいという企業努力がうかがえる。注目すべきは390円の中華そばで、同商品は2002年に1号店が開店して以来、価格を維持している。競合の幸楽苑は290円の中華そばを2006年に発売、低価格路線で規模を拡大したが2015年の終売で客離れが進み、業績が悪化した。日高屋が390円を死守する背景には幸楽苑と同じ轍を踏みたくない意図もあるのかもしれない。

 かつてハイデイ日高の青野敬成社長は、中華そばの価格を維持する目的について「幅広い層にファンになってもらうこと」と語っている。子どもに味を記憶してもらえれば、その後の継続的な利用を見込めるという算段だ。一方で、中華そば・餃子・生ビールの3点セットで1000円以下を維持してきたが、今回の価格改定で1020円となった。物価高や人件費の上昇が続く昨今、これ以上の価格維持は限界なのであろう。

●ロードサイドで生き残れるのか

 今後について日高屋は「首都圏600店舗」という目標を掲げている。埼玉にある行田工場を中心に、これまで通りの駅前出店を続けるほか、ロードサイドにも進出。北関東・甲信越地方も狙うという。セントラルキッチン方式とドミナント戦略を採ってきたため、手広い出店が難しく、あくまで近場に限られるのだろう。

 ただ、近年は北関東のロードサイドを押さえる幸楽苑が苦戦している。町田商店系列などの個性的なラーメンチェーンも台頭する中、幸楽苑には以前のような突出した割安感がなく、個性が薄まったためと筆者は考えている。

 ロードサイド店は都心店より立地のメリットが小さく、味と価格で勝負する必要がある。メニューの特徴的に、日高屋は幸楽苑と同様、ラーメン店のスタンダードに位置付けられ、何か特別な「味」を目当てに訪れるチェーンとはいえない。

 そのため、消費者の価格に対する視線は、今後よりシビアになっていくと考えられる。車で行くロードサイド店は、都心の駅前店のようにちょい飲み需要も期待できない。中華そば390円、満腹感が得られるセットで1000円以下という基準が生命線になるだろう。このまま割安感を維持できるのか、今後の値上げと郊外出店の動向に注目したい。

●著者プロフィール:山口伸

経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。

この記事の関連ニュース