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業務外注サービスはAIでどう変わる? NTT Comとトランスコスモスの提携に見る「BPOの進化」

ITmedia エンタープライズ 2024年7月22日 16時17分

 コア業務以外の業務を切り出して外部事業者に委託することで、自社の競争力に関わる事業に費すリソースを増やすBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)。そのBPOサービスが、AIをはじめとする最新のデジタル技術でさらに進化を遂げようとしている。

 NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)とトランスコスモスが2024年7月17日に発表した戦略的事業提携は、それを象徴した動きだ。AIなどを利用することでBPOはどう変わるのか。BPOの進化がDXにもたらす影響を考察する。

●AIでどう変わる? 3つの社会課題に対応したソリューション

 両社の提携内容は、NTT版LLM(大規模言語モデル)「tsuzumi」をはじめとしたICTソリューションを提供するNTT Comと、コンタクトセンターをはじめとする幅広いBPO事業を展開するトランスコスモスが、AIを活用したBPOソリューションを共同で開発し、販売するというものだ。第一弾として、生成AIを活用したコンタクトセンターの共同開発や、GX(グリーントランスフォーメーション)ソリューションおよび自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)ソリューションの提供を開始した。

 両社が同日開催した記者説明会では、NTT Com代表取締役社長の小島克重氏、トランスコスモス代表取締役共同社長の牟田正明氏が登壇した。以下、両氏による説明のエッセンスを紹介する。

 両社は今回の提携に至った背景として、「少子高齢化、労働人口減少による人材確保への対応」「加速度的なITの進化とセキュリティへの対応」「ESG(環境・社会・ガバナンス)経営をはじめとする複雑な社会要請への対応」といった3つの社会課題を挙げた。その上で「これらに対応するためには、個社での取り組みには限界がある。アウトソーシングによる事業の選択と集中が、これからますます求められていく」(牟田氏)との見方を示した(図1)。

 そうした中で両社は、それぞれの強みを持ち寄れば、これら3つの社会課題に対応したソリューションをワンストップで提供できると判断し、今回の事業提携に至った(図2)。

 具体的な提携内容は、「新規ソリューションの共同開発」および「顧客への導入・運用」での連携だ。

 新規ソリューションの共同開発では、tsuzumiを活用した次世代コンタクトセンターの開発や、教師データの提供による高精度な生成AIソリューションの開発を進める。また、経理・人事のバックヤード業務など、業界横断の共通業務の課題解決に向けて、インフラ技術と専門人材をパッケージにした新たなソリューションの開発を行う計画だ。

 この新規ソリューション領域を、トランスコスモスでは「Digital BPO」と呼ぶ。Digital BPOは「BPO業務とデジタル技術を融合した顧客業務の変革支援サービスの総称」で、同社の登録商標である。

 一方、顧客への導入・運用では、両社で開発したGXソリューションや自治体DXソリューションをお互いの顧客に共同で提案、提供する(図3)。

●プロセス重視の考え方がDXのベースに

 それぞれの取り組みについて、もう少し説明しておこう。

 次世代コンタクトセンターの開発については、コンタクトセンターの業務効率化および顧客接点の高度化を目的に、tsuzumiを活用したセキュアなAIコンタクトセンターを開発する。tsuzumiの特徴である超軽量なパラメータサイズを生かし、専門的な内容や各社特有の内容を学習させることで回答精度を向上させる。オンプレミス環境やNTTグループのプライベートクラウドで利用できるため、個人情報や機密情報の取り扱いなど高いセキュリティを確保できる。さらにtsuzumiを活用したAI自動応対サービスを展開し、要望に応じた最適な回答提示や自動化により、顧客企業のCX(カスタマーエクペリエンス)向上にも貢献するとしている(図4)。

 GXソリューションの提供については、温室効果ガス(GHG)の排出量について算定ロジックの定義やデータを収集、分析、可視化して、削減に向けたアクション提案などをワンストップで提供する。データ収集から可視化までを自動化することで、人手をかけずに「サービスの購入金額や物量」「排出係数」「温室効果ガス排出量」などのデータを生成できるという。

 自治体DXソリューションの提供については、自治体のDX推進に向け、NTT Comの地域事業者向け運用管理システム「Local Government Platform」とトランスコスモスのSNSを活用した住民コミュニケーションサービスおよびBPOサービスを両社からワンストップで提供する。自治体における職員やデジタル人材の不足を解決し、暮らしやすく魅力ある地域づくりを支援するとしている。

 両社は今回の事業提携により、今後5年間で1000億円のビジネス規模を目指す構えだ。この取り組みの延長線上で両社がビジネスを大きく広げていこうとしているのが、Digital BPOである(図5)。

 従来のBPOとDigital BPOのような「デジタル技術を活用したBPO」は別のものなのか、それとも従来のBPOもDXにシフトするのか。会見の質疑応答で聞いてみたところ、両氏とも「従来のBPOもDigital BPOにシフトしていく」との回答だった。

 最後に、筆者がBPOに注目する理由を述べておきたい。端的にいえば、BPOのベースにあるプロセス指向の考え方が、DXを進める上で重要だと考えるからだ。

 BPOおよびプロセス指向の考え方について筆者は、BPOのメリットとして自社の競争力の中核となる重要な業務に人材や資源を集中できる他、中核でない業務に固定的に張り付いていえう人員や設備などにかかる費用を変動費化し、企業規模や業績に応じて柔軟にコントロールできることにあると理解している。

 BPOを利用する際はまず、委託先がどこかにかかわらず、「業務の切り出し」という作業が重要になる。どの業務が切り出せて委託でき、何ができないのかを切り分ける作業だ。特に日本の業務内容は複雑なケースが多い。人事や総務などで明文化しにくい慣行があってルールが定型化されていなかったり、属人的な経験に依存していたりする業務に心当たりがある企業は多いだろう。

 「定型化できない」といって放置していては、委託できる作業が減るのに加え、効率的に業務をこなすためのマニュアルも作れず、先に述べたBPOのメリットを生かせない。切り出せない業務をできるだけ小さくすることがミソとなる。そうして切り出された業務が機能的につながったものが、ビジネスプロセスである。このプロセスを重視する考え方がDXのベースにある。つまり、プロセス指向の考え方を実践することが、DXの成功につながるのである。そして、今まさにAIがその強力な支援ツールとして使えるようになってきたわけだ。

 これからDXを全社的にうまく進める企業は、おそらくBPOを効果的に適用していくだろう。そう考えると、BPOは企業にとって働き方の変革にもつながるといえそうだ。

○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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