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NTTデータグループの動きに見る「ITサービス事業で注目すべき5つのキーワード」

ITmedia エンタープライズ 2024年8月13日 17時0分

 DX(デジタルトランスフォーメーション)によってエンタープライズIT市場が大きく変化する中で、ITサービス事業は今後どのような方向に動くのか。どの領域のユーザーニーズが高まるのか。ITサービス事業者の国内最大手であるNTTデータグループが2024年8月6日に開いた2024年度(2025年度3月期)第1四半期(2024年4~6月)の決算発表会見で、同社 代表取締役副社長 執行役員の中山和彦氏が説明した注力分野における動きから、その疑問に対する答えを探った。

●注目すべき5つのキーワードとは?

 NTTデータグループは2025年度(2026年3月期)の経営目標として、連結売上高4兆7000億円をはじめとする数値目標を掲げている(図1)。国内事業はNTTデータ、海外事業はNTT DATAが推進しており、売上高の割合は国内が約4割、海外が約6割となっている。

 2025年度の連結売上高の目標達成に向けた戦略について、中山氏は次のように説明した(図2)。

クロスファンクションを成長ドライバーに

 「目標達成に向けて、日本や海外の各リージョンを横断的に支えるクロスファンクションを成長ドライバーに、アセットやソリューションの創出、データセンター需要の取り込みなどによって各リージョンの成長を後押しする。加えて、各リージョンでは既存ビジネスの拡大や生産性の向上、アセット活用によるデリバリー拡大とパートナーシップ強化などをベースに各リージョンでの取り組みを進める。このように、リージョンユニットの成長をクロスファンクションが支える形で、2025年度の目標達成に向けて取り組む」

 筆者が注目したのは、「クロスファンクション」という言葉だ。同社ではその内容として次の5つの領域を挙げている。

1. クラウドやセキュリティを含めたアセットやソリューションを積極的に創出

2. ハイパースケーラーや大企業向けのデータセンター需要の取り込み(AI、NTTグループが推進する次世代ネットワーク基盤「IOWN」などによる差別化)

3. コンサルティングやマネージドサービスの拡大

4. SAP関連ビジネスへの注力

5. クラウドベンダーやソリューションベンダーとのアライアンス強化

 これらのクロスファンクションを、日本ではテクノロジーコンサルティング&ソリューション部門、海外ではGlobal Technology and Solution Services部門が中心となって推進し、各リージョンでの展開を後押しするといった戦略だ。

 そうした戦略の中で、中山氏が注力分野として挙げた4つの動きについて以下に紹介しよう。

 1つ目は、生成AIへの取り組み状況だ。中山氏によると、「ソフトウェア開発における生産性向上の取り組み状況として、2023年度は製造と試験の工程を中心に自社での生成AIツールの普及を進め、140件で適用し、7%の生産性向上を実現した。今後は両工程に限らず、プロジェクトマネジメントを含む全ての工程で生成AIの活用を進め、適用案件数を2024年度で200件、2025年度には400件に増やして20%の生産性向上を目指す」とのことだ。(図3)

 生成AIによってソフトウェア開発の生産性向上を図ることは、ITサービス事業にとって既に必須の取り組みとなっているが、注目されるのはプロジェクトマネジメントへの適用でどれだけ効果を上げられるかだ。プロジェクトマネジメントはプロジェクトに関するノウハウを結集する領域でもあるので、自動化率を高められれば、事業拡大に向けたインパクトは非常に大きいだろう。

●キーワードから探るITサービス事業の方向性

 2つ目は、データセンター事業の取り組み状況だ。中山氏はデータセンター事業が着実に拡大しているとともに、今後も旺盛な需要が見込まれることから積極的に投資を続けると説明した(図4)。

 同社のデータセンター事業については、2024年6月18日付で同社の代表取締役社長に就任した佐々木 裕氏に、記者会見の質疑応答で筆者が「勝算をどう見ているか」を聞いたところ、次のような答えを得た。

 「当社のデータセンターのお客さまは今、45%がエンタープライズ、55%がハイパースケーラーといった状況で、最近では特にハイパースケーラーの投資が非常に旺盛だ。そうした需要を取り込んで事業として順調に成長している。現在、この市場で世界第3位につけているが、今後も世界上位のポジションに居続けることが勝算につながると考えている。そのために、データセンターの構築および運用の技術をさらに磨きたい」

 データセンターについては特に生成AIの普及による需要拡大が見込まれる一方、電力消費量の急増による悪影響が懸念されている。同社がそうした対応で世界をリードする立場になることを期待したい。

 同時に、他のITサービス事業者やITサービスを利用するユーザーにとっても、データセンターをどう使っていくかというのは、これから一段とスマートな対応が求められるようになるだろう。

 3つ目は、M&A(合併・買収)の取り組み状況だ。中山氏によると、「当社は事業の拡大に必要なケイパビリティを機動的に獲得することを目的に、2025年度までに1000億円規模のM&Aを検討してきた。2024年度第1四半期では、ジャステックの子会社化やテラスカイとの業務資本提携、GHL Systems Berhadの子会社化を進めた」とのことだ(図5)。

 同社の取り組みに見るように、ITサービス事業者にとってはこれから事業を拡大するために、M&Aが重要な選択肢になるのではないか。ITサービス事業者としてDXとも融合させたユーザーのトータルニーズに対応するための時間を買う方法として、M&Aの動きが今後活発になると、筆者は見る。

 4つ目は、海外事業統合の取り組み状況だ。中山氏は「2024年度第1四半期は主に海外全体での統合プロジェクトの推進やITシステムの統合を実施し、16億円を支出した。2024年度の事業統合費用は300億円を計画しており、シナジー効果のさらなる推進に向け、事業ポートフォリオ変革やコーポレート機能の最適化、ITシステムの最適化などを中心に進めていく」と説明した(図6)。

 上記の取り組みは、あくまでNTTデータグループの動きだが、ここで筆者が述べたいのは、他のITサービス事業者、さらにはITサービスを利用しながら今後デジタル事業を推進しようと考えている企業には、国内だけでなく海外での展開も見据えて取り組んでほしいということだ。海外展開は長らく日本のITサービス事業者にとって難関だったが、DXの動きをチャンスと捉えるべきだ。商機は必ずあると筆者は考える。

 改めて、NTTデータグループの注力分野における取り組みからITサービス分野で注目すべき5つのキーワードを挙げておきたい。それは「クロスファンクション」「生成AI」「データセンター」「M&A」「海外事業」だ。これらのキーワードから、ITサービス事業の今後の方向性およびユーザーニーズを探れるのではないか。日本のITサービス事業が進化しながら活況になることを期待したい。

○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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