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富士通CTOが説く「AIエージェントが動かすエンタープライズの将来像」とは

ITmedia エンタープライズ 2024年9月18日 7時0分

 最新ITを活用したエンタープライズの将来はどんな姿なのか。富士通が2024年9月10日に開催した投資家・アナリスト向けのイベント「IR Day 2024」で、執行役員副社長でCTO(最高技術責任者)とCPO(最高製品責任者)を務めるヴィヴェック・マハジャン氏が、同社のテクノロジー戦略とともに、「2030年のエンタープライズの世界」としてAIエージェントによる製造業でのイノベーションを例示して見せた。その話が興味深かったので、今回はその内容を紹介し、エンタープライズの将来像を探ってみたい。

 同イベントでは、富士通の主力事業であるサービスソリューション分野から「モダナイゼーション」「Fujitsu Uvance」「コンサルティング」、そしてこれら3つの成長ドライバーを支えるテクノロジーの戦略について説明が行われた。

 本稿ではまず、同社のテクノロジー戦略について、エンタープライズの将来像に関わる基本的な戦略を説明しよう。

●エンタープライズに向けた富士通のテクノロジー戦略

 マハジャン氏によると、同社のテクノロジー戦略は「AIを軸にした技術領域の融合によって新しい価値を創出し、ソリューションビジネスを差別化する」ことにある。具体的には、サービスソリューションにおける3つの成長ドライバーを支えるキーテクノロジーとして、「AI」「コンバージングテクノロジー」「データ&セキュリティ」「コンピューティング」「ネットワーク」の5つに注力している(図1)。

 エンタープライズを支えるAI戦略としては図2に示すように、AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」を中心に、生成AIおよびその補完技術やセキュリティ、データ保護、デジタルツインなどの領域で最先端のAIテクノロジーを活用できるようにしている。そして、これらを支えるコンピューティングやネットワークの基盤をユーザーニーズに応じて提供できるのが、富士通の強みだ。こうした同社のAIテクノロジーについては、図2の下段に記されているように既に多くの導入実績もある。

 とりわけ、エンタープライズ向け生成AIフレームワークとして、多様で大規模な企業データに対応できる「ナレッジグラフ拡張RAG」、変化する企業ニーズに柔軟に対応できる「生成AI混合技術」、挙動制御でAI活用の不安を払拭する「生成AI監査技術」を用意した。また、直近ではエンタープライズ向けLLM(大規模言語モデル)としてカスタマイズ性を高めた「Takane」をCohere(コヒア)と共同開発し、提供することを発表した。

 エンタープライズのAIニーズを支えるコンピューティングについても改めて紹介しておこう。マハジャン氏は図3を示しながら、同社のエンタープライズ向けAIコンピューティング基盤の特徴として「省エネ」「ハイコストパフォーマンス」「オープンアーキテクチャ」の3つを挙げた。量子コンピューティングの研究開発にも注力し、グローバル市場でも存在感を発揮している(図3左下)。

 マハジャン氏は以上のように同社のテクノロジー戦略を紹介した上で、2030年のエンタープライズの世界としてAIエージェントによる製造業でのイノベーションの例について、まず全体像を図4に示し、「2030年にはAIエージェントがエンタープライズの世界で大きな役割を果たしているだろう。狙いは、意思決定のスピードアップと生産性の向上だ。こうした動きが経済に大きなインパクトをもたらすことになる」と述べた。

 図4は、AIがクロスインダストリーを超えて自律的に最適化や調整、判断する世界として、製造業のサプライチェーンにおける利用イメージを描いたものだ。この図4を全体の構図として、同氏は2030年のエンタープライズの世界でどのようなことが起きるのかを、以下のように説明した。

●2030年のエンタープライズの世界とは

 まず、サプライチェーンAIエージェントがSNSなど外部情報から突発的な需要急増の情報をキャッチしたとする(図5)。

 すると、サプライチェーンAIエージェントは需要予測モデルや突発的な需要の変化に基づいて、需要が増加すると判断した(図6)。

 需要が増加すると判断したサプライチェーンAIエージェントは工場や倉庫、運送の各AIエージェントに対して増産に向けた再計画を指示した(図7)。

 指示を受けた工場、倉庫、運送のAIエージェントは増産に向けてそれぞれの間で情報連携を開始した(図8)。

 さらに工場や倉庫、運送のAIエージェントはそれぞれに必要な外部連携先からも情報を取得した(図9)。

 そして、他の工程との連携や収集、分析に基づき、各工程において増産に向けた配置を再設計した(図10)。

 各AIエージェントは再設計したプランをサプライチェーンAIエージェトに複数の提案施策としてフィードバックした(図11)。

 サプライチェーンAIエージェントは複数の施策を分析して増産を判断し、各AIエージェントに増産を指示した(図12)。

 増産の指示を受け、各工程において増産に向けて動き出した(図13)。

 ここまでそれぞれの動きの図を示しながら、マハジャン氏は最後に次のように述べた。

 「一連の動きは常に自律的に動き続ける。今回は製造業のサプライチェーンを巡るAIエージェントの動きを例に挙げたが、幅広い業種でAIエージェントの利用が今後広がる。エンタープライズの世界はガラリと変わるだろう」

 できるだけイメージしやすいように各プロセスの図を掲載してみたが、いかがだっただろうか。

 マハジャン氏が言うように、AIエージェントによってエンタープライズの世界は今後、大きく変わるだろう。同氏は、狙いとして意思決定のスピードアップと生産性の向上を挙げたが、AIエージェントによる最大のインパクトは何といっても「業務の自動化」だ。しかもAIエージェントが経験を積めば積むほど、スピードアップも生産性向上もどんどん進展していく。このAIエージェントの動きを人間がどうチェックしていくのかという点も、人間が経験を積んで修得していくことになるだろう。

 企業や組織にとって、AIエージェントは今後、最も注目すべきキーワードになりそうだ。

○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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