Infoseek 楽天

ServiceNowの取り組みから探る AIを業務に活用するための「ワークフロー×AI」とは

ITmedia エンタープライズ 2024年10月21日 18時39分

 「私は長い間、DX(デジタルトランスフォーメーション)は必要不可欠だと言ってきた。今、AIが登場し、新たな使命が生まれた。目に見えるビジネストランスフォーメーションだ。しかし、多くの企業がどこから始めればよいのか分からず苦労している。われわれがお手伝いさせていただこう。ServiceNowはビジネストランスフォーメーションのためのAIプラットフォームだ。われわれはAIを皆さまのビジネスや従業員、お客さまのために役立てる変革を進めている。長年の間、夢見てきたことが、ついに実現されようとしているのだ。もう時間を無駄にはできない。さあ、一緒に仕事に取りかかろう」

 米ServiceNowのビル・マクダーモットCEOは、日本法人であるServiceNow Japanが2024年10月15~16日に都内ホテルで開いた年次イベント「ServiceNow World Forum Tokyo」の基調講演のビデオ出演で、来場者にこう呼びかけた。

●AIを有効活用するための「ワークフロー×AI」とは

 少々長めに発言を紹介したのは、「AIによってDXがビジネストランスフォーメーションになる」との捉え方に共感したからだ。しかも「目に見える」というのがミソで、これは「誰でも実感できる」との意味だろう。こんな粋な表現ができるのは、SAPのCEOを長く務め、ServiceNowを今やSalesforceに次ぐ規模の独立系クラウドサービス専業ベンダーに育て上げたマクダーモット氏ならではだ。

 そんなマクダーモット氏のメッセージで始まった同イベントでのServiceNowの訴求テーマは、同氏も述べていた「ServiceNowはビジネストランスフォーメーションのためのAIプラットフォーム」ということだ。筆者はそうした中でも、同社がこれまで掲げてきた「デジタルワークフロー」とAIの掛け合わせによって何が起きるのか、という点に注目した。

 「ワークフロー×AI」はむしろ、同社の訴求テーマの核心と言えるだろう。ということで、今回はこの点にフォーカスして同社の基調講演でのプレゼンテーションのエッセンスを以下に紹介し、考察したい。

●AIによってDXが「ビジネストランスフォーメーション」になる

 マクダーモット氏のビデオ出演に続いてリアルに登場した米ServiceNow CCO(Chief Commercial Officer=最高商務責任者)のポール・スミス氏は、「当社は皆さまのビジネスのあらゆるところにAIを活用できるように支援していきたい」と強調した。「ビジネスのあらゆるところに」という表現が、この発言のミソだ。

 スミス氏に続いて登場したServiceNow Japan執行役員社長の鈴木正敏氏が、同社のAIプラットフォームについて、「AIは革新的なテクノロジーとして活用が進む一方、慎重な対応が求められる面もある。もし、AIがうまく活用されなければ、バラバラなシステムから得られる不完全なデータが原因となって混乱が起きてしまう可能性がある。現実的な問題として、AIのパワーはアクセスできるデータに依存している。個別の業務アプリケーションそれぞれに独自のAIを使わざるを得ない状況だと、混乱は現実味を増す」と警鐘を鳴らした。

 その上で鈴木氏は、「当社のAIプラットフォームは、そうした状況を打開するのに役立つ。ITや人事、調達、財務、営業、カスタマーサービスなど幅広い業務領域において企業全体のプロセスを結合し、業務を統合し、業務の効率化、コラボレーションの促進、そしてイノベーションの推進を実現できる。しかもこれら全てが単一のクラウドでネイティブに設計された環境で動作する」とアピールした(図1)。

●「ワークフロー×AI」でAIによるビジネス価値を生み出せ

 少し補足すると、ServiceNowはITサービス管理から各種業務、顧客や従業員向けのサービスまで企業全体をカバーするデジタルワークフローを構築することで、組織横断的なDXを支援するクラウドサービスを提供している。2004年設立のServiceNowが注目されるようになったのは、グローバル標準のITサービス管理をSaaS(Software as a Service)として提供したのがきっかけだ。もともとは各種業務のワークフローやデータを一元管理する「Now Platform」をPaaS(Platform as a Service)として提供しており、その上で構築したITサービス管理が注目された形となった。

 鈴木氏はこうした経緯を説明した上で、「従って当社のAIプラットフォームは、全てのアプリケーションを結合して統合し、ユーザーが必要とするものを単一の優れたエクスペリエンスで提供する。これによって、さまざまなアプリケーションやタスクを従業員が行き来する必要がないことから、仕事の効率が圧倒的に上がる」と述べた(図2)。

 また、「その卓越したエクスペリエンスは、さまざまな形で提供される。デスクトップのワークスペースやモバイルのポータルなど、どのような形であっても業務全体を手の内に収めることができる」とも語った(図3)。

 こうしたエクスペリエンスとともに、同氏は「当社のAIプラットフォームはワークフローの自動化によって、さまざまなソフトウェアやサービスを共通のプラットフォームで連携させ、業務を『整流化』する。業務やプロセス、システムがシームレスに連携し、以前は人間が担当していた機械的な繰り返し作業をプラットフォーム側で処理できるようになる」と述べた(図4)。

 そして、「そのシームレスな連携のうち、システム的な連携については当社のAIプラットフォームが持つインテグレーションハブによって実現でき、堅牢なデジタルワークフロー構築が可能となる。また、ドキュメントインテリジェンスによってあらゆるドキュメントからデータを抽出し、プラットフォームに展開できる。加えて、プロセスマイニングでは業務がどこで実施されているか、問題となっている箇所はどこかを特定し、自動化の機会を創出する」と説明した(図5)。

 その上で鈴木氏は、「これまでご覧いただいたように、全てが1つのプラットフォームに統合されていることこそが、AIが最良のパフォーマンスを発揮するための原動力になると、われわれは考えている。それはすなわち、個別の業務アプリケーションそれぞれに独自のAIを適用するのではなく、業務をつなぐデジタルワークフローにAIを組み込むことによって、業務プロセス全体にわたってAIによるビジネス価値を生み出せるということだ」と強調した(図6)。

 この最後の言葉が、鈴木氏の主張であり、ワークフローとAIの掛け合わせによる効果だ。そして、AIによるビジネス価値を生み出すことこそが、まさしく企業にとってのビジネストランスフォーメーションである。

 その意味では、ワークフローとAIの掛け合わせは大いに生かしたいところだ。一方で、個別の業務アプリケーションそれぞれに存在する独自のAIは、個別の業務アプリケーションのために作り込まれて学習して賢くなる。ワークフローの観点から見れば「AIのサイロ化」かもしれないが、このバランスをどう考えるかという問題意識は今からしっかりと持って最適解を追求する必要があるだろう。サイロ化という「いつか来た道」を再び辿らないようにしたいものだ。

○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

この記事の関連ニュース