国内IT需要の今後の動きはどうなるか。好調が続く中で、今後のリスクとして何が考えられるのか。国内ITサービス事業大手の富士通とNECが相次いで発表した2024年度(2025年3月期)第2四半期(2024年7~9月)の決算から受注状況に注目し、見通しを探る。
●「直近の受注は高水準のまま推移」(富士通)
富士通が2024年10月31日に発表したITサービス(同社の場合「サービスソリューション」)における第2四半期を含めた上期(2024年4~9月)の国内受注状況は、全体で前年同期比99%となった。
業種別では、エンタープライズビジネス(製造業などの産業や流通、小売)が前年同期比103%、ファイナンスビジネス(金融、保険)が同109%、ミッションクリティカル他が同111%と伸長した一方、パブリック&ヘルスケア(官公庁や自治体、医療)は同90%と減少した(表1)。
受注状況について、同社 代表取締役副社長 CFO(最高財務責任者)の磯部武司氏は会見で次のように説明した。
「全体としての前年同期比99%は、伸長率が高かった前年並みの水準で推移していることを示している。受注残高が堅調に積み上がっており、DX(デジタルトランスフォーメーション)やモダナイゼーションの商談が継続して拡大している」
業種別には、「前年同期比103%となったエンタープライズビジネスは、DXやSX(サステナビリティトランスフォーメーション)関連、基幹システムのモダナイゼーション案件などが継続して拡大し、モビリティや製造、流通など幅広い範囲で活況が続いている。ファイナンスビジネスは、金融機関向けの基幹システムの大型更改商談を複数件獲得し、高水準だった前年度上期を上回る109%となった。パブリック&ヘルスケアは、前年度上期に公共向けで複数年契約の大型案件を獲得した反動で90%にとどまった。前年同期比111%となったミッションクリティカル領域では、基幹システムの更改などで複数の大型商談を獲得できた」と説明した。
今後の需要については、「上期は前年同期における大型商談の獲得の影響でほぼ横ばいになった。下期に獲得予定の商談パイプラインを見る限りにおいて、デマンドの拡大基調に大きな変化はないと見ている」とのこと。「見通しが明るい中でも、今後の受注にマイナスの影響を与えるリスクをどう見ているか」と質疑応答で聞いたところ、磯部氏は次のように答えた。
「リスクになり得るのは、力強いデマンドに対応したリソースの確保だ。全ての領域でこれが大きな課題となっている。この課題に対処するため、当社では開発の標準化やオファリングビジネスへのシフトを懸命に進めているが、その進捗(しんちょく)がうまくいかないとリソースの手当てができなくなる恐れがある。この点が、今一番のリスクだと考えている」
●「受注の力強い勢いを感じている」(NEC)
NECが2024年10月29日に発表したITサービスにおける2024年度第2四半期の国内受注状況は、全体で前年同期比17%増、変動の大きいNECファシリティーズを除くと同18%増と好調に推移した。同社は今回、受注については上期分を表示せず、第2四半期の結果のみを公表した。
業種別では、パブリックが前年同期比38%増と大幅に伸長し、エンタープライズが同2%増、その他も同15%増と伸びた。エンタープライズの内訳では、製造が同11%増、流通・サービスが同14%増と伸長したものの、金融は同11%減となった(表2)。
この受注状況について、同社 取締役 代表執行役社長 兼 CEO(最高経営責任者)の森田隆之氏は会見で次のように説明した。
「第2四半期は第1四半期に続いて旺盛な需要により大幅に増加した。業種別では、パブリックが大型案件や自治体システムの標準化案件により大幅に増加した。大型案件を除いても前年同期比約10%の増加となった。エンタープライズの内訳では、金融向けが同11%減だったが、前年同期に獲得した大型案件を除くと増加に転じており、引き続き好調を維持している。製造はDX関連の案件が増え、流通・サービスも大型案件を獲得するなど好調に推移している。その他も子会社のアビームコンサルティングが好調に維持している」
今後の需要については、「足元の受注は第1四半期から継続して好調に推移しており、今後も力強い勢いを感じている」(森田氏)とのことだ。会見に同席した同社 取締役 代表執行役 Corporate EVP 兼 CFOの藤川 修氏も、「2024年度については売上に計上できる有効受注残も前年度より4~5%高く推移している。業種別では、金融において引き続き旺盛な需要があると実感している。一方で、流通・サービスにおいては大型案件によって好調だが、さらに大型以外の案件を獲得できる機会も多々あるようなので詰めていきたい」と述べた。
今後の受注にマイナスの影響を与えるリスクについて富士通の会見時と同様に質疑応答で聞いたところ、森田氏は次のように答えた。
「旺盛な需要に対応できるリソースをしっかりと確保できるかどうか、心配している」
このように、リスクについては富士通の磯部氏と全く同じ答えが返ってきた。リソースとは、ヒトやモノ、カネなどの経営資源を指すが、両者とも意図しているのは「人材」だ。逆に人材を確保できれば、仕事はいくらでもあるという状態だといっていい。この点は、両社に限らず、全てのITサービス事業者に当てはまるようだ。
実は、リスクについて、国際情勢や経済動向など外的な動きにおける懸念はないかと聞いたが、富士通の磯部氏およびNECの藤川氏とも異口同音に「国内のIT需要に対し、短期的にネガティブな影響を及ぼす動きは今のところ見当たらない」との回答だった。
折しも2024年11月5日(現地時間)に米国大統領選が投票日を迎える。結果によって、国際情勢や経済の動きが大きく変わる可能性がある。そうなると、国内のIT需要にも影響が出るのではないか。
リソースの懸念はあるものの、国内のIT需要は今、DX特需・AI特需といえる活況だ。ただ、良い時には得てして落とし穴が待っている。数少ない見方かもしれないが、筆者はそのリスクを注視していきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。