業務を支援したり自動化したりする生成AIが本格的に使われるようになる将来、あなたの会社の組織形態はどうなるか――。
アクセンチュアが2024年11月14日、そんなシミュレーションを実現するための新たなAI研究開発拠点「アクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都」(京都市中京区)を開設した。同日、同社は京都大学とのAI分野の研究開発における包括連携協定を締結した。両者は、「異なる立場に立つAIが企業の組織設計について議論し、同センターを訪れた人がその議論に加わる」という構想を披露した。
アクセンチュアが描くAI活用の将来像を基に、“その先の将来像”を考察する。
●「AI同士の議論にヒトが参加」 経営に新たな洞察を得るための施設とは?
まずは、新拠点と連携協定について、キーパーソンの会見での発言からエッセンスを紹介する。
アクセンチュア ジャパン 代表取締役社長/CEO 兼 アジアパシフィック 共同CEOの江川昌史氏はアクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都の役割について、「当社が持つAIに関する最先端の知見を集約するとともに、学術機関とも連携してAIの社会実装に向けた世界先端の研究開発および世界に向けた発信、そして、生成AIをはじめとする先進技術によって全国のお客さまの変革活動を支援していきたい」と説明した(図1)。
同社 執行役員 データ&AIグループ日本統括 兼 アクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都 センター長の保科学世氏は、「最先端のAIを研究開発するだけでなく、経営者がAIに対する理解を深め、AIとの多様な対話を通じて企業経営に新たな洞察を得るための施設だ」と強調した。
アクセンチュアと京都大学の包括連携協定の締結式が会見時に執り行われ、アクセンチュアから江川氏と保科氏、京都大学から総長の湊長博氏、理事・副学長の引原隆士氏、稲垣恭子氏が出席した。
両者は共同で推進する取り組みとして次の5つを挙げた。
・異なるリーダーシップスタイルが人間のパフォーマンスやウェルビーイングに与える影響に関する共同研究
・行動経済学に基づく、人間社会におけるあるべきAI活用に関する共同研究
・AIの公平性・透明性を確保する責任あるAIに関する共同研究
・大規模言語モデルのマルチエージェントを用いた研究・開発プロセスなどの効率化と高度化に関する共同研究
・学術・ビジネス領域双方の知見を持ち合わせたAI人材の育成
京都大学の湊氏は協定の締結について、「アクセンチュアとはこれまで個別のテーマごとに連携を進めてきた。今回は、京都で蓄積された歴史や知識を基に、さまざまな意思決定の過程においてAIによるエビデンスに基づいた検証をするというアプローチを提案していただいた。改めて包括的な連携によって新たなステージへ進みたいと考えた」と説明した。
これら2つの発表内容の詳細については新拠点、連携協定の発表資料を参照いただきたい。
さて、先に述べた「生成AIを活用した組織設計のシミュレーション」は、保科氏がアクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都の活用事例として説明したものだ。それがどのようなものなのか。以下に紹介していこう。
●生成AIを活用した組織設計 “その先”にある将来とは?
保科氏によると、アクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都のコンセプトは、「AIと人、AI同士の共創空間」だ。同センターを訪れた人が複数のAI同士の会話に参加して、議論する場を提供する。
このコンセプトに基づいた事例としての生成AIを活用した組織設計は、現在の組織構成や配属人数だけでなく、企業として将来ありたい姿(経営計画や重点施策)や市場動向、さらにはアクセンチュアがグローバルな活動で蓄積してきた生成AIの先進事例や職種別生成AIインパクト調査などのデータから、企業戦略に即した組織と配属人数をAIが提案するものだ(図2)。
異なる立場の生成AIが議論しながら、あるべき組織構造を提案する形だ(図3)。
図3の左側は、AI人事コンサルタントによる組織見直し提案を作成・提出するプロセスだ。AI人事コンサルタントには、業務変革を強力に推進する「積極派」と、人材を徹底的に活用する「保守派」がいて、それぞれに見直しの提案を行う。それらを基に、右側にあるように積極派、保守派、それに中間派も加わり、カスタムLLM(大規模言語モデル)も利用しながら議論し、AIファシリテーターが内容をまとめ上げて組織の最適な配属人数を導き出していくという流れだ。
ここでいうAI人事コンサルタントやAIファシリテーターは、すなわち「AIエージェント」だ。このバーチャルな議論に人が加わって意見を述べることも可能だ。これによって、あらゆるデータを駆使して意見の異なる専門家たちと組織変革に向けた充実した議論ができる。
そうして生成AIのインパクトを加味した組織変革をAIが提示したのが図4だ。
図4の左端にある各種の入力データを基に、ブルーで示されているのが現状の業務と人員数だ。そこから議論によって導きだされたのが、グリーンで示されている、生成AI適用後の業務とその必要人員数だ。
既存の全ての部署で人員が減少しており、減少した人員は新たに設けられた部署への異動やリスキルの対象となっている。ちなみにリスキルが必要な従業員は全体の39%と、衝撃的な割合だ。
保科氏によると、図4は議論によって導き出された結果だが、新たなスキルを身に付けた従業員を生かすために再び組織を変革するなど、取り組みを継続することが重要だという。
●筆者の考察:AIを活用して「イノベーションを起こせる組織設計」は可能か?
最後に、この話を聞いて筆者の頭に思い浮かんだことをお伝えしよう。この取り組みからさらに踏み込んで、AIを活用して「イノベーションを起こせる組織設計」が実現できないものだろうか。
図4で示されたように、新設部署や従業員のリスキルがイノベーションにつながる可能性もある。しかし、筆者が提案したいのは、イノベーションを起こすことを強く意識した組織設計や人材の活用だ。
例えば、それぞれの目的を明確にしたプロジェクト型組織にし、業務におけるAIの活用はもとより、人材が最大限の力を発揮できるチーム作りやキャリア・適性診断、相性診断などによる人材マッチングにAIを活用できないだろうか。
AIそのものが主体となってイノベーションを起こすことは、将来はともかく、現在は難しいだろう。イノベーションには「化学反応」が不可欠だ。それを期待できるのは、人が持つクリエイティビティのぶつかり合いだ。そうしたチーム作りに人事データとAIをもっと活用できるのではないか。
アクセンチュアにも今回の話の延長線で、AIを活用したイノベーションを起こせる組織設計にぜひ取り組んでいただきたい。そして、従業員のリスキルについては、多くの人材が自らのクリエイティビティを磨く方向に動いてもらいたい。
アクセンチュアの生成AIを活用した組織設計の話が興味深かったので、上記のようなことを考えた次第だ。引き続き、この分野でのAI活用に注目していきたい。
○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。