2025年は「AIエージェント活用元年」になると筆者は見ている。
ただし、複数ベンダーのAIエージェントが社内に混在するようになれば、データの管理をはじめとするマネジメント面で収拾がつかなくなるのではないか。そうなれば、思うように活用できないといった事態が生じるだろう。筆者はこれを「AIマネジメント」の問題と捉えている。
そこで、AIエージェントを活用するために、いかにAIマネジメントの問題を解決すべきか。本稿では国内ITサービスベンダー大手であるNTTデータや富士通、NEC、日立製作所の取り組みから探る。
●NTTデータと富士通の取り組みは?
まず、NTTデータと富士通の取り組みから見ていこう。
NTTデータは2024年10月、オフィスワーカーの生産性向上や付加価値業務へのシフトを実現するための生成AI活用コンセプト「SmartAgent」に基づいたAIエージェントソリューションを発表した。
SmartAgentとは「利用者の指示に応じて、AIエージェントが自律的に対象業務のタスクを抽出、整理、実行し、新たな労働力を提供する」というコンセプトだ。これにより、同社は「人口減少による労働力不足など社会課題の解決に貢献したい」としている。
SmartAgentは、オフィスワーカーの業務に最適化されたAIエージェント「パーソナルエージェント」が、複数の専門性を持ったAIエージェント「特化エージェント」と連携し、対象業務のタスクを抽出・整理・実行するものだ。具体的には法務や経理、人事といった業務に特化したエージェントや顧客の行動特性を学習した特化エージェントが連携し、利用者の業務に最適化された業務の自動化など新たな労働力の提供するという(図1)。
SmartAgentのサービス第1弾として、営業領域を対象にした「LITRON Sales」(リトロンセールス)を2024年11月に提供開始した。データ入力作業や提案書準備、契約書作成、社内文書作成などのタスクを自律的に実行可能だ。同社では生成AIのコンサルティングから導入、運用までを一貫して支援し、アプリケーションからインフラまでフルスタックでユーザーに提供する構えだ。
NTTデータの取り組みについては、2024年11月11日掲載の本連載記事「NTTデータが取り組む『生成AIの活用とガバナンスの“両輪”』 ユーザー企業視点で考察」も参照していただきたい。
富士通も2024年10月、AIが難易度の高い業務を自律的かつ人と協調して推進するAIエージェントサービス「Fujitsu Kozuchi AI Agent」を開発した。第1弾として、損益や商談に関する打ち合せにAIが自ら参加して適切な情報の共有や施策を提案する会議AIエージェントを提供開始したと発表した。さらに、生産管理や法務などの業務に特化したAIエージェントを2024年度中に順次拡充する予定だ。
同社は、「近年、幅広い業務への生成AIの活用が進む一方で、業務適用におけるAIの構築には高度な専門知識が必要だ。多大な時間とコストを要する他、単一のAIモデルが解決できるのは問題の一部にとどまることが多く、期待通りの結果まで至らないことが課題になっていた」とし、「それらの課題を解決するため、AIが自律的に考え、組織やプロジェクトの一員として現場業務に入り込み、適切な情報の共有や施策を提案することで、人々がAIから新しい知見やひらめきを得て創造的な活動を実現できるFujitsu Kozuchi AI Agentを開発した」としている(図2)。
富士通の取り組みについては、2024年12月6日掲載の本連載記事AIエージェントの進化形とは? 富士通のテクノロジー戦略から探る“企業を支えるAI戦略”」参照していただきたい。
●NECと日立製作所の取り組みとは
NECは2024年11月、高度な専門業務の自動化による生産性向上の実現を目指し、生成AIをはじめとするさまざまなAIやITサービスなどを連携させ、業務を自律的に遂行するAIエージェントを2025年1月から順次提供開始すると発表した。
同社のAIエージェントは、ユーザーが依頼したい業務を入力すると、AIが自律的にタスク分解し必要な業務プロセスを設計する。さらに、それぞれのタスクに最も適したAIやITサービスなどを選択し、業務を自動で実行するとしている。第1弾として、経営計画や人材管理、マーケティング戦略など、社内外の情報を包括的に検索し、意思決定が求められる業務のプロセスを自動化するサービスを提供する予定だ。
NECは課題として、「さまざまな企業や公共機関で、生成AIを活用した業務の効率化や自動化など、業務変革に向けた取り組みが始まっているが、実際の業務で生成AIを活用する場合、意図に沿った適切なプロンプトを作成したり、複数のAIを組み合わせたりしないと回答精度を上げられないといった課題が顕在化してきた。そのため、業務ごとに最適なAIを構築するアプローチが一般的だが、それには高度な専門知識、時間、コストが必要となる」と指摘。そうした状況を背景に、同社はさまざまなAIやITサービスなどを連携させ、業務を自律的に遂行するAIエージェントの開発に注力し、推進してきたとしている。
NECの取り組みについては、2024年12月2日掲載の本連載記事「AIエージェントが企業に与えるインパクトとは? NECの会見から考察」も参照していただきたい。
日立製作所は、現時点でAIエージェントと銘打ったソリューションとしては発表していないが、生成AIの取り組みについては「生成AIで深刻な社会課題となっている人手不足をカバーする」ことを最大の目標に掲げており、実質的にAIエージェントの実現に向けて注力している。その取り組みについて、2024年9月9日掲載の本連載記事「日立の『人手不足を生成AIで解消する』発言から改めて問う、“何のために生成AIを使うのか?”」から、同社のAIエージェントを見据えた考え方を抜粋して紹介しておこう。
同社は生成AIに対する期待の高まりとして、これまでとこれからの違いについて次のような見方を示している。
「これまでは生成AIへの期待として、生産性の向上や業務の効率化が挙げられ、それに対しては汎用知識を広く学習した汎用LLM(大規模言語モデル)の利用が適切だった。しかし、これからは人手不足の解消や技能継承の実現、競争力の強化が求められるようになる。それに対しては、それぞれの業務に合わせた業務特化型LLMの構築が必要となる」
その上で、生成AIの活用からDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが日本企業でどのくらい進展するかについて、次のように説明した(図4)。
「生成AIは2023年に広く知られるようになり、さまざまな業務領域で先駆けとなるユースケースが見られるようになってきた。当社としては、生成AIの活用によってオフィスワーカーやフロントラインワーカーの人手不足を解消できるように注力したい。さらに今後、各業務全体に変革を進めるためには、生成AIも含めたDXを推し進める必要がある。そのために当社が用意しているのが、(DX支援ビジネスモデルの)『Lumada』によるソリューションだ」
図4の右側に示されている「各業務全体のDX推進」は、まさしくAIエージェントの活用領域だ。
これまで見てきた4社の取り組みは、AIエージェントの活用で先行していると言えるだろう。最後に筆者の問題意識として挙げたいのは、「複数ベンダーのさまざまなAIエージェントが社内に混在するようになれば、やがてデータの管理や活用も含めてマネジメントの観点から収拾がつかなくなってしまうのではないか」ということだ。
筆者はこれを「AIマネジメント」の問題と提起したい。
この問題に対応するためには、どうすればよいか。そのソリューションとしては製品・サービスだけでなく、本来のマネジメントの観点からのコンサルティングやサポートも必要になるだろう。その役割を果たせるのは、複数ベンダーの製品・サービスを取り扱うITサービスベンダーではないかということで、今回、大手4社の取り組みを紹介した。
今後、本連載では4社のキーパーソンに「企業はAIマネジメント問題にどう対処していけばよいか」という根本的な観点から取材し、1社ずつ取り上げながら考察していきたい。ぜひご期待いただきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。