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富士通は「AIエージェントの“正体”」をどう見る? AI事業のキーパーソンに聞く

ITmedia エンタープライズ 2025年2月5日 7時30分

●AIエージェントをいかに活用すべきか 国内ITサービスベンダー4社に聞く

「AIエージェント活用元年」になりそうな2025年。

AIエージェントをうまく活用できるかどうかの分かれ目になるのが、「AIマネジメント」だと筆者は考える。

いずれ複数ベンダーのAIエージェントが社内に混在する段階になったとき、データ管理をはじめとするマネジメント面で収拾がつかなくなる可能性があるからだ。

そこで、国内ITサービスベンダー大手のNTTデータや富士通、NEC、日立製作所のAI事業のキーパーソンに、AIエージェントをいかに活用すべきかについて、特にAIマネジメントの問題をどう解決すべきかという切り口で取材した。

既にAIエージェントのテスト段階にある企業だけでなく、これから導入を考える企業の参考になれば幸いだ。

 4社取材企画の3回目となる本稿では、富士通の岡田英人氏(SVP、技術戦略本部長)に話を聞いた。同氏は富士通が提供する先進技術をグローバルで戦略的に事業展開する仕掛け作りを担う。AIはその最重点の取り組みだ。

 同氏が説くAIマネジメント対策とはどのようなものか。ユーザー企業の現時点におけるAIエージェントの利用状況や、今後発生しそうな課題を聞いた。AIマネジメントによって何を目指すか。さらにAIエージェントの活用に求められる企業姿勢について、同氏が熱く語った内容とは。

●富士通はどう見る?「AIエージェントの可能性と課題」

 2024年後半から注目を集めるAIエージェントだが、企業での利用状況はどうなのか。岡田氏は次のように述べた。

 「企業活動において今、まさしくAIによる革命が起きつつある。特にAIエージェントは企業の経営に大きな影響をもたらすだろう。私がここ数年、活動拠点にしてきた米国シリコンバレーではAI革命の波に乗ろうという企業の強烈なエネルギーを感じた。そこからユースケースもどんどん生まれている。一方、日本はどうかというと、関心はあるものの取りあえず様子見している企業が非常に多いように感じている。このままだと、日本企業は『エンタープライズAIのデススパイラル』に陥ってしまうのではないかと懸念している」

 同氏が言う「エンタープライズAIのデススパイラル」とは、図1の左下から右回りで起こる悪循環のことだ。

 まず、限定的な領域へのAI導入で様子見すると、やりたいことをやるにはもう少しおカネをかけないといけないと思うようになり、導入コストがかさんでいく。さらに、場当たり的な動きからユーザー部門のスキルや経験不足が露呈してAI技術のアップデートにも対応できなくなり、ビジネス価値を見いだせずにROI(費用対効果)も不明確なままとなる。そうなると、いつまでたっても準備不足のままで同じことを繰り返すようになる。

 こうした悪循環に陥らないように、「AIの導入は企業として覚悟を決めて、アグレッシブに突き進む姿勢が大事だ」と、岡田氏は力を込めた。

 では、AIエージェントの可能性と課題についてはどのように見ているのか。まず、可能性については次のような見方を示した。

 「AIエージェントの可能性としては、企業の業務全体を効率化して生産性を向上させ、新たなビジネス価値を生み、サプライチェーンも最適化して、つまりは企業を力強く成長させられる。どうすれば、それが実現できるか。ポイントは“つなぐ”ことにある。企業ではこれからさまざまな業務ごとに適したAIエージェントが使われるようになる。しかし、業務全体として効果を上げるには、それらを連動させる必要がある。当社はそうした複数のAIエージェントが協調する環境作りに注力している」

 これは、取材テーマであるAIマネジメントへの対応に直結する話だ。富士通がどのように取り組んでいるかは後述するとして、一方の課題についてはどう見ているのか。

 「課題としては、可能性の話と裏腹に、複数のAIエージェントが協調する環境を安全かつ信用できる形で実現できるかどうかが挙げられる。まずはAIが技術的に正しい答えや意思決定を迅速に出し続けられるか。それを踏まえて、企業としてAIエージェントの導入をどれだけ前向きに判断できるか。ベンダーとしては、その前向きに判断いただけるようにクオリティーの高い環境作りに尽力したい」

 端的にいえば、「信用できるAIエージェント」かどうかだ。これは人間関係も同じだろう。

●AIエージェントで「経営とITの融合」へ

 そうした可能性と課題があるAIエージェントのマネジメント対策として、富士通はどのようなソリューションを提供するのか。岡田氏は次のように説明した。

 「複数のAIエージェントが協調する環境作りに向けて、当社は“コンポーザブルアーキテクチャ”を提唱している。これはまさしく複数のベンダーのさまざまな業務向けのAIエージェントを連携させて、企業の業務全体の効率化や生産性向上を図り、サプライチェーンも最適化して力強く成長することを目的とした取り組みだ」(図2)

 「コンポーザブルアーキテクチャ」について、同氏はこんな見方も示した。

 「コンポーザブルアーキテクチャは、企業にとって何を意味するのか。これまで長らく“経営とIT”あるいは“ビジネスとIT”の関係について一体化させることが重要だという議論があったが、その実現が難しいことも広く認識されてきたと思う。人に置き換えると、経営者やビジネスパーソンと、ITを担うエンジニアとのコミュニケーションにはギャップが生じやすかった。AIエージェントはそのギャップを埋める存在になり得るのではないか。AIエージェントを有効活用するには、両者がしっかりと連携することが不可欠だ。つまり、コンポーザブルアーキテクチャはこれまで難しかった“経営とITの融合”に向けたアプローチだ」

 ITという言葉は、「AI」あるいは「デジタル」と置き換えてもいいだろう。この見方は、「企業にとってのAIエージェントの正体とは何か」という疑問に対する核心の答えだと、筆者は感じた。

 なお、富士通のAIエージェントへの取り組みについては、本連載の2024年12月16日掲載記事「AIエージェントの進化形は? 富士通のテクノロジー戦略から探る“企業を支えるAI戦略”」を参照いただきたい。

 最後に、AIマネジメント対策として、訴求したい点を聞いたところ、岡田氏は次のように述べた。

 「AIエージェントの活用に向けて取り組む姿勢として、失敗を恐れずにチャレンジしていただきたい。AIエージェントは“ティッピングポイント”を超える時期が必ず来るので、それを先取りするくらいの発想が必要だ。企業として複数のAIエージェントをどう生かしていくかを考えてしっかりと準備すれば、AIについては早く着手したほうがエージェントのクオリティーが向上するのも早いので、ぜひ積極的にチャレンジしていただきたい。その際、当社をパートナーに選んでいただければ、最大の効果を生み出せるように尽力する。日本から世界へ自信を持って発信できるAIエージェントの活用事例をどんどん広げたい」

 「チャレンジ」という言葉を繰り返す岡田氏の熱いメッセージが印象的だった。「ティッピングポイント」とは、ある時点から一気に普及テンポが上がることだ。筆者の見るところ、恐らくそれは2025年に訪れるだろう。先に紹介したデススパイラルでは、限定的な領域から始めることに警鐘を鳴らしているが、肝心なのはAIエージェントの正体を理解し、将来像を描いた上で、投資効果を素早く上げられるところから積極的に取り組んでいくことだろう。岡田氏の話を聞いて、そう感じた次第である。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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