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NECが「AIエージェントは新入社員と同じ」と言う理由は? AI事業のキーパーソンに聞く

ITmedia エンタープライズ 2025年2月12日 13時0分

●AIエージェントをいかに活用すべきか 国内ITサービスベンダー4社に聞く

「AIエージェント活用元年」になりそうな2025年。

AIエージェントをうまく活用できるかどうかの分かれ目になるのが、「AIマネジメント」だと筆者は考える。

いずれ複数ベンダーのAIエージェントが社内に混在する段階になったとき、データ管理をはじめとするマネジメント面で収拾がつかなくなる可能性があるからだ。

そこで、国内ITサービスベンダー大手のNTTデータや富士通、NEC、日立製作所のAI事業のキーパーソンに、AIエージェントをいかに活用すべきかについて、特にAIマネジメントの問題をどう解決すべきかという切り口で取材した。

既にAIエージェントのテスト段階にある企業だけでなく、これから導入を考える企業の参考になれば幸いだ。

 4社連載の4回目となる本稿では、NECの山田昭雄氏(Corporate SVP 兼 AIテクノロジーサービス事業部門長 兼 AI Technology Officer)に話を聞いた。同氏は長らくNECのAI研究をリードし、2024年8月からAI関連の事業も統括している。

 山田氏が描くAIマネジメント対策とはどのようなものか。ユーザー企業の現時点におけるAIエージェントの利用状況や、今後発生しそうな課題、さまざまな観点からAIエージェント活用の勘所について聞いた。

●NECはどう見る? 「AIエージェントの可能性と課題」

 2024年後半から注目を集めるAIエージェントだが、企業での利用状況はどうなのか。山田氏は次のように述べた。

 「AIエージェントで何ができるのかを説明してほしいという要望を非常に多くいただいている。実証実験も多くのお客さまで始まっており、ニーズはものすごく高い。これから業務ごとのAIエージェントがどんどん採用されていく手応えを感じている」

 同氏によると、RPA(Robotic Process Automation)との違いを聞かれることも多いそうだ。確かに業務を自動化する目的は同じだが、「RPAは人間がプログラムを書いて動き方を指示する。一方、AIエージェントは自らプログラムを書いて動く。要は自律性の有無の違い」とのことだ。分かりやすい説明だったので記しておく。

 では、AIエージェントの可能性と課題についてはどのように見ているのか。同氏は可能性について次のような見方を示した。

 「今、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む中で、AIエージェントはさらにDXを強力に推進する役目を果たせると考えている。なぜならば、AIエージェントは人間に代わって業務を行えるので、とりわけホワイトカラーの業務プロセスを自ら適切に意思決定して自動的に進めてくれるようになるからだ」

 その上で、こうも語った。

 「これまでこうした適切な意思決定に基づく業務プロセスの効率化や自動化に向けた体制作りは、自社だけでやりきれずにコンサルティング会社の力を借りるケースも少なくなかった。だが、AIエージェントがそのコンサルティングを代替することにもなるのではないか」

 この発言は興味深い。AIが多くの業務を実施できるようになるといわれる中でも「コンサルティングは無理」と見られていたが、山田氏は「むしろコンサルティングのような業務がAIに代替される可能性がある」との見方を示した。ならば、他の業務も……と気になるところだが、ここはあくまでAIエージェントの可能性の話としてとどめておく。

 一方、課題についてはどう見ているのか。

 「AIの研究に長年携わってきた立場から申し上げておきたいのは『AIは万能ではない』ということだ。AIエージェントで言うと、企業のDXに大きなインパクトをもたらす可能性がある一方、過度に頼りすぎると普及への負担が増すのではないかと懸念している。というのは、業務の効率化や自動化において、AIエージェントでなくても従来のITシステムで十分に賄える領域もあるからだ。肝心なのは、そうした適材適所の組み合わせによってオーケストレーションする仕組みを追求していくことだと考えている。そのためにもAIに頼りすぎないということを改めて強調したい」

 同氏は、適材適所のAIの組み合わせとして「コンパウンドAI」(複合AI)という言葉も口にした。AIエージェントに続く、今後のキーワードになるかもしれない。

●NECが説くAIマネジメント対策

 コンパウンドAIの考え方自体がAIマネジメントに当てはまりそうだが、今回の取材テーマであるAIマネジメントの対策について聞いたところ、山田氏は「さまざまなAIエージェントを活用する基盤と連携のそれぞれの領域でマネジメントに着目したポイントを挙げたい」として、次のように述べた。

 「基盤として今後考える必要があるのは、AIを活用する基となるデータをどのように使える形にしていくかだ。これまでもデータを管理し活用する仕組みは洗練されてきたが、これからはデータをナレッジ化して管理し活用する『ナレッジマネジメント』をしっかり整備していく必要がある。そうするとAIの学習スピードが一層速まり、AIエージェントがもっと的確かつ迅速に仕事をできるようになる」

 「一方、さまざまなAIエージェントをうまく連携させるには、それぞれの動作におけるガバナンスや学習のさせ方、個々の機能のアップデートなどをきちんとマネジメントする必要がある。つまり、やってはいけないことを教えたり、どう育てるかを考える必要のある新人が加入するイメージだ。ただ、さまざまなAIエージェントの活動履歴が蓄積されてくれば、将来的にはそうしたマネジメントを担当するAIエージェントも登場するだろう」

 ナレッジマネジメントはかねて議論されてきた概念だが、同氏の言う通り、AIエージェントの活用において改めて重要な取り組みになりそうだ。

 こうしたAIマネジメント対策に向けて、NECはどのようなソリューションを提供するのか。山田氏は次のように説明した。

 「先にもお話ししたようにAIエージェントの活用をDXの取り組みとして、企業全体の業務プロセスにおける課題の分析から改善の提案、最適なシステムの構築と運用、それに必要な人材開発、ガバナンス、セキュリティなどをトータルで提供する。そうしたソリューションをさまざまな用途に向けて柔軟に提供しているのが、(NECのDX事業ブランドである)『BluStellar』(ブルーステラ)だ」(図2)

 なお、NECのAIエージェントへの取り組みについては、本連載の2024年12月2日掲載記事「AIエージェントが企業に与えるインパクトは? NECの会見から考察」を参照いただきたい。

 最後に、AIマネジメント対策として最も訴求したい点を聞いたところ、山田氏は次のように述べた。

 「先ほども『新人』という言葉を使ったが、AIエージェントは『新入社員を雇うことと同じ』だと申し上げたい。企業としてこれまで新入社員が活躍できるようにどんなことをやってきたかを思い起こしていただきたい。しかもこの新人たちは専門分野のスキルを持っており、自らも学習意欲が旺盛でどんどん有能になる。AIエージェントの採用に当たってROI(投資対効果)ばかり考えるのではなく、そういう頼もしい仲間とイノベーションを起こしてビジネスをもっと大きくしていくことを考えていただきたい」

 NECのAI事業のキーパーソンとしてこれからメディアにも頻繁に登場するであろう山田氏は、AIエージェントの“伝道師”としても重要な役割を果たしそうだ。今回の取材においてもキーワードである「マネジメント」を意識して応じていただき、4社取材企画の最後を締めくくってもらった。感謝申し上げたい。

○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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