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予約なしで入れるはずが「予約でいっぱい」なのはなぜ? キャリアショップで今起こっていること

ITmedia Mobile 2024年6月9日 12時5分

 大手携帯キャリアに代わって、各種契約手続きを受け付ける「キャリアショップ」。数年前なら「いつも混んでいる」というイメージを持たれがちだったが、コロナ禍で完全予約制を取り入れたり、契約者用Webサイトで行える手続きを拡充したりした結果、混雑はある意味で過去のものとなった。

 新型インフルエンザ等対策特別措置法における新型コロナウイルス感染症の位置付けが変更されて以降、店頭に「予約なしでも手続き可能です!」という掲示を行うキャリアショップもちらほら見かけるようになった。店内を見ても、コロナ禍前の立ち客が出るほどの混雑ぶりでもない。

 一見、すいているように見えるキャリアショップ。しかし、すいていると思ってふらっと店内に入ると、店員から「当日中の対応が難しい」と告げられ、受け付けを拒否される事案が発生している。こうした話は筆者の回りにとどまらず、SNSを探すと思いの外多く見つかる。「ガラガラなのに(対応を)断られた」、と。

 予約なしでもOKに戻ったはずなのに、予約なしで行くと対応してもらえないことがある――今回の「元ベテラン店員が教える『そこんとこ』」では、キャリアショップ店員の“証言”を交えつつ、この不思議な現象の謎に迫る。

●「ガラガラ=すいている」という認識は捨ててほしい

 今回は、ある代理店が運営するキャリアショップに勤める、筆者と旧知の店員から話しを聞くことができた。

 「ガラガラなのに予約ないと対応してもらえないって、何かおかしいような気がしますよね」と、あえてあおり気味に話を振ってみたところ、至って冷静なトーンでこう答えた。

 予約なしでの手続き、受け付けていないわけではないんですよ。店によっては「予約なしで大丈夫です!」的な掲示もしているくらいですし。でも、手続きは予約のあるお客さまを最優先で行っています。 コロナ禍前から、来店予約システム自体はありましたが、わざわざ予約して来店されるお客さまはそれほど多くありませんでした。しかし、コロナ禍の時に予約を必須化したところ、しっかりと来店予約をしてから訪れるお客さまがグッと増えました。コロナ禍が落ち着いた今でも、予約をした上での来店が多くなっています。 一見するとガラガラに見える店内でも、よくよく観察していただくと、カウンターは満席で、待合室のうち接客対応もできるゾーンは全部埋まっているなんていうこともよくあります。すいているように見えて、接客対応可能な店員はフル稼働中だったりするのです。ほとんどの場合、製品やサービスの展示コーナーの面積が広いゆえにガラガラに見えるだけです(笑)。 「それでも、手続きが早く終われば予約なしの来客にも対応できるのでは?」と思うかもしれません。しかし、次の予約のお客さまがすぐに来店される可能性もあるため、超短時間で終わると分かりきっている手続きでもない限り、割り込ませることが困難だったりします。 結局、当日の予約来店者が限界まで埋まっている場合、いつまで待たせることになるのか読めないので、予約なしの当日来店はお断りするしかないこともあります。

 筆者の自宅最寄りのキャリアショップは、いつも閑古鳥が鳴いているように見える。待ち合いスペースも空席が目立つのだが、いつ行っても「予約がない場合は、しばらくお待ち頂きます」と案内される。「こんなガラガラなのに、どうしてなんだろう?」と思いつつ待っていると、その間に「○時から予約の△様!」という感じで予約来店者が呼び出され、続々と受付カウンターに誘導されていた。

 だがいつ行ってもと案内されるし、待っている間にも「○時から予約の~」とひっきりなしに予約済みの来客が来店し、どんどんカウンターで手続きを行っている様を見ている。

 確かにスタッフの言う通り、目に見える混雑はなくともその日のカウンターの混雑具合はそれなりに予約でいっぱいになっている店舗は多そうだ。

●店舗側の慢性的な人員不足が原因になることも

 違うキャリアショップに勤める店員は、今どきの店舗が抱える悩みについて話してくれた。

 うちも「予約優先で、時間に合わせていらっしゃるお客さまを応対する」という感じで、店舗が混んでいないように見えるのは同様です。Aさん(先に話した店員)の店舗と違い、カウンターは埋まっていないので、余計すいているように見えるかもしれません。 しかし、それでも予約のない、飛び込みのお客さまを断らざるを得ないことがあります。スタッフが足りていないからです。 併売店を含めて、携帯電話の販売代理店では、以前と比べると販売拠点で業務に当たる人員を確保しづらくなっています。店舗の統廃合もあるので「余った人員を回しては?」と思うかもしれませんが、それでも足りないケースがあると複数聞いています。 「どうして足りないの?」と言われると、いろいろ理由はありますがキャリアショップの場合は取り扱う商材や、スタッフがこなすべき業務が多岐に渡ることが大きいと考えます。携帯電話の購入や回線契約だけでなく、プランやオプションの変更を始めとする契約内容の変更受付、料金の支払い対応や解約の受け付け、さらに端末修理や光インターネット回線/固定電話など契約受け付け……といった感じで、昔と比べると、業務が非常に多いです。 一部には、取り扱う上でキャリア内外の資格が必要な業務もありますので、全てのスタッフが全業務に対応できるわけでもありません。ゆえに、カウンターが空いていたり、予約枠に余裕があったりしても、手続き内容によっては「後日の案内」になってしまうのです。

 筆者もかつては携帯電話ショップの店員だったので分かるのだが、全ての店員が全ての業務に対応できるとは限らない。家電量販店の大規模店舗の場合だと「フロア(売り場)案内担当」と「契約実務担当」が明確に分かれていることがある。時間帯、あるいは混雑状況によってフロア担当が契約を担ったり、逆に契約実務担当がフロア接客に出たりすることもあるが、フロア案内担当の中には、契約手続きを行うためのキャリア内資格を保有していない人もいる。これは、キャリアショップも同様だ。

 対応できる人がいなければ、いくらカウンターがあっても応対できない――当たり前といえば当たり前ではある。

 ひと昔前までは、携帯電話の販売スタッフは「高時給」で「未経験でもOK」な仕事ということもあり、人気の高い職種だった。しかし、メインストリームがケータイ(フィーチャーフォン)からスマートフォンに移り、端末やサービスの取り扱い難易度が高くなってしまった(求められる知識やスキルが広がってしまった)がゆえに人材が集まりづらくなってしまっている。

 先述の通り、商材によっては取り扱いに資格が必要なのだが、キャリア内資格でも、ものによっては取得に数日の研修が必須という場合もある。研修の間の人員不足を埋めるためのシフトを組もうにも、そもそも人手が足りないため困難を来す――そんなこともあったりする。

 資格が必要な業務に従事できるスタッフが増えず(足りず)、その資格を取得させるために必要な人員も確保できないという“負のスパイラル”によって、「すいているように見えて、実はいっぱいいっぱい」というショップは増えているのだと思われる。

●本当は「予約なし客」をもっと受け入れたいが……

 ここまでの話で、一見すいているように見えるキャリアショップが、思っている以上に“いっぱいいっぱい”であることが分かった。

 予約なしで訪れた客に対応したくても、対応できない――このような状況だが、それでも来店予約のない客に来てもらいたいのだろうか。最初に質問した店員はこう語る。

 本当は予約なしの来店をもっと受け付けたいです。予約をしていただいた方が用件も分かるので準備を整えやすく、楽なのは事実です。ただ、困って来店したお客さまを(受け付けられないと言って)帰してしまうのも、心苦しいんですよね……。

 もう1人の店員はこう語る。

 アフターサポート業務だけでなく、飛び入りで入ってきたお客さまにスマートフォンを売ったり、料金プランを提案したりする“余裕”がほしいです。端末の販売やプランの獲得の実績も見られるわけですが、アフターサポートに忙殺されてしまうと、業績面ではつらいのが正直なところです。飛び入り来店に対する営業や提案が決まったときの気持ち良さは、もっと日々の対応の中にほしいなって考えてしまいます。

 コロナ禍を経て多くの手続きはWeb、または電話を通して行えるようになった。しかし、今でもキャリアショップまで出向かないと手続きは存在する。キャリアショップを頼ってやってきた客に対応できない状況に、スタッフも申し訳なさを感じている。

 一方で、キャリアショップには「販売店」としての役割もあり、契約の獲得が求められる。予約客“だけ”を対応しているとその目標達成も危ういという実情も明らかとなった。だからこそ「予約なしでの来店歓迎!」という掲示もなされるのだろう。

●キャリアショップの「在り方」は見直す必要がある(繰り返し)

 以前の連載記事でも少し触れたが、今回2人のキャリアショップ店員に話を聞いて、筆者はキャリアショップの“在り方”を抜本的に見直す時期が来ていると改めて感じた。

 そもそもの携帯電話販売店が少ない地域では、キャリアショップが販売店として担う役割は非常に大きい。逆に、都市部のように携帯電話を取り扱う家電量販店や併売店が多く存在する地域では、キャリアショップは販売店というよりもサポート窓口としての役割が大きくなる。

 同じキャリアショップでも、所在地によって求められる機能が異なる以上、一律の基準で評価することから見直した方がよいのではないだろうか。立地する地域の実情に則した評価ができるようになれば、人員不足の改善が進み、カウンターの回転率を改善しやすくなるかもしれない。

 最後に、キャリアショップが予約なしの客を帰してしまうのは、決してスタッフによる怠慢ではないということも覚えておいてほしい。

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