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ドコモは通信品質をどう立て直すのか 前田新社長が語る「品質ナンバーワン」への方策

ITmedia Mobile 2024年6月18日 19時20分

 6月14日に、前田義晃氏がNTTドコモの代表取締役社長に就任した。これを受け、同社は6月18日に記者会見を開催。前田氏が今後の経営方針や注力していく分野を語るのと同時に、記者からの質問に答えた。

●「当事者意識」「リスペクト」「チャレンジ」の3つを方針に掲げる

 前田氏は、2000年に前職のリクルートからドコモに転職。当時、急成長していたiモードに携わり、その後もドコモがスマートライフ領域と呼ぶ非通信の分野を担当してきた。コンテンツの開拓やサービス開発などがその役割で、最近ではd払いやdポイントといった金融・決済サービスも前田氏が手掛けている。2022年にはカンパニー制で誕生したスマートライフカンパニーのトップに就任した。

 方針として挙げたのは3つ。1つ目が、「当事者意識を持つこと」だ。特に通信サービスに関しては、「通信を担当していない社員も常に品質を意識する」ことを掲げた。逆に、「通信を担当している社員も、サービス、コンテンツの品質に目を向け、全体に対して当事者になる」(同)という。2つ目が「リスペクトすること」。個人、法人問わず、多くのユーザーの声に耳を傾けることを重視するという。こうした取り組みをしながら、「チャレンジをし続けること」も方針に掲げる。

 通信事業者であるドコモで、一貫して非通信分野を歩んできた前田氏だが、社長就任会見で真っ先に挙げたのが、「通信サービス品質の向上」だった。「ドコモのサービスは全て通信が土台になっている」という思いがあったからだ。

 通信品質は、「さらなるSub6エリアの拡充を主軸にしながら、マルチユーザーMIMOなどの高機能、最新型基地局への移行も速やかに推進する」ことで向上させていく方針。体感品質も重視し、「混み合う場所や時間帯でも、動画視聴やd払いでの決済を快適にご利用いただける品質を確保する」(同)。モバイルネットワーク体感の評価指標であるOpensignalで1位を目指すことも宣言した。

 また、もともと前田氏が担当していた非通信分野は、まず金融・決済サービスの拡充に取り組んでいくという。「最も身近な情報ツールであるスマートフォンならではの強みを生かし、一番身近なライフマネーパートナーになることを目指す」(同)のがその方針。エンターテインメント分野では、「ドコモのアセットやテクノロジー活用していく」(同)。ライブ会場やスタジアム、アリーナでの観戦体験向上や、6月3日に発表のあった国立競技場の運営を通じた新たな体験価値の創造などをその事例として挙げた。

 研究開発では、HAPSや低軌道衛星(LEO)、静止軌道衛星(GEO)を連携させる「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」の取り組みを挙げ、「この領域ではグローバル展開も見据えている」と語った。先に挙げた方針の通り、いずれの注力分野でも「お客さま起点で事業運営」を徹底するという。プレゼンテーション終了後には、報道陣からの質疑応答に答えた。分野別の主な一問一答は、以下の通りだ。

●Sub6の拡充で体感品質を向上、通信分野の運営方針は?

―― 通信に関して、今の課題をどう捉えているのか。また、非通信分野出身だが、通信分野のかじ取りをどうしていくのか。

前田氏 昨年来、さまざまなご指摘をいただいていたが、23年度を通じて集中対策を実施し、改善は進んでいる。実際、昨年度後半には300億円を投じ、ネガティブな声はだいぶ減っている。お客さま体感品質向上の効果はあったと理解している。もちろん、対策はもっと強化していなければならない。人口集中地域に関しては、さらなるトラフィック増を見据えて、Sub6の集中投下を行う。

 これまで通信を直接担当したことは確かにない。ただ、ドコモに来てから10年ほど、iモードをやらせていただいた。さまざまなコンテンツやサービスは、通信のインフラの上で価値が成り立っている。当時から、どのぐらい通信サービスが進化すれば、どういうコンテンツが提供できるかは社内が一体となって検討してきた。もちろん、それはさらに強めていかなければいけない。私だけでなく、ドコモの社員全体がそういう認識を持っている。

―― 現状、通信ではドコモの強みはどこにあると思っているのか。

前田氏 他社に先駆けて「瞬速5G」を整備してきた。全国的に見るとカバー率は一番だと思っているし、全国レベルでの品質を提供できている強みはある。ただ、エリアごとに強い弱いはある。当社だけでなく、他の会社もそうだが、どんどん強化し、負けないようにしていきたい。

―― 5Gへの投資はどうなるのか。

前田氏 まず5Gへの投資は積極的にやっていく。その中でも、Sub6を中心とした通信品質に好影響がある投資は大きく進めたい。東名阪などの都市部を中心としたところには、集中的に(基地局を)打っていくし、全国的にも進めていく。装置自体も新しいものに切り替える。毎年毎年、かなり多くの設備投資をしているが、その中でもかなりの割合をここにつぎ込んでいく。

―― 全社的にネットワークを意識するという話があったが、組織にそれをどう反映させるのか。

前田氏 組織に明確に反映させているわけではないが、ドコモ全体で問題意識を持って強化する。新経営陣全体でも、既に討議をしている。どこのエリアでお客さまが「ここはちょっとよろしくない」と思っているかを見える化して、全社で共有する。問題があるところには、速やかに手を打ちに行く。可視化も含め、それが会社全体で共有され、そこに対して現場がスピーディーに対応していく仕組みをより洗練させる。組織というより、今まで以上に全社で取り組んでいきたい。

●通信料収入はどう上げるのか、金融・決済分野は銀行業にも意欲

―― ARPUが下がっているが、通信料収入はどう上げていくのか。

前田氏 しっかり上げていきたい。昨年度はirumoやeximoをやらせていただいたが、irumoは低料金なので、ここでシェアを拡大したい。シェアの拡大は当たり前だが重要で、通信料収入を上げるのにも効くが、新しい分野での売り上げを積み重ねるにも顧客基盤が必要になる。さまざまなお客さまの使い方に対応する料金プランを、しっかり提供しなければならない。irumoをご支持いただき、低容量プランに多くの方が入ればシェアに対してはプラスになるが、結果としてARPUは低下傾向になる。

 通信サービスの収入も上げたいが、それ以外も上げる。基本的にはこういう戦略。irumo、ahamoに入った方が「爆アゲ セレクション」のようなものをお使いいただくと、APRUが上がったり、そこからさらに上のプランに入っていただけることもある。

 金融連携しているポイ活プランもある。どちらかといえば、決済サービスをお使いになったり、ポイントを多くためたりしている方に支持していただけているが、これは当たり前。ただ、メリットをご理解いただけた方の中には、これまでお使いでなかったドコモの決済サービスを使う動きもあることが見えている。こういったところからも、通信ARPUを上げる取り組みは続けていきたい。

―― 金融サービスについて、競合他社は銀行を持っている。ドコモはどうするのか。

前田氏 金融領域で事業を進めてこられたと思っており、非通信領域の推進役にもなっている。一番伸ばせているのは決済分野。dカード、d払いは全体の取扱高も伸ばしており、昨年度に関しては13.1兆円。18%ぐらいの成長をしている。PayPayはカードとコード決済の両方でお話をしているが、同じぐらいのレベルで競争をしている。昨年度は投資もやらせていただいた。

 銀行口座は大変重要な機能。お客さまからお支払いいただく際の機能もそうだが、加盟店に対して決済していただいたお金をお振込みさせていただくのも重要で、われわれとしては必要な機能。ここには、いくつかの選択肢がある。

 現状はMUFGと提携しているが、パートナー提携するのが1つ。昨年度(子会社化したオリックス・クレジットやマネックス証券)のように、ある種のM&Aもある。最難関だが、自分たちで立ち上げるやり方もある。さまざまな検討を進めているので、お知らせできるタイミングが来たら発表したい。

―― 生成AIにはどう取り組んでいくのか。

前田氏 AIの活用はどんどん進めていきたい。コンシューマー向けに関しては、PixelやGalaxyなど、複数の機種が生成AIに対応し、画像編集や検索をより便利にご利用いただけている。これ自体は、これからも進めていきたい。ここに搭載されているAIは各メーカーが中心になって対応しているものだが、さまざまなパートナーと連携しながら提供したい。

 法人に対してもそうで、ソリューションに力を入れて進めていきたい。グループ全体では(NTTが開発したLLMの)「tsuzumi」を成長させることに取り組んでいる。まだまだこれからだが、がんばっていきたい。

●社長就任は「まったく想像していなかった」「覚悟を決めるのが大変だった」

―― 今回の社長人事はサプライズといわれている。どのような形で就任を伝えられ、持株会社の島田(明)社長からはどんな話を聞いているのか。

前田氏 井伊(基之・前社長)から話を伝えられたのは事実で、そのときは相当驚いた。正直、まったく想像していなかったので、「私でできますか」という反応をした。「できない」とは言われず、「頑張れ、できる」と言われた。井伊もドコモの社長に決まったとき、その前の吉澤(和弘・元社長)に「できますか」と言ったと聞いている。時期はさすがに言えないが、そんなに昔の話ではない。時間が短く、覚悟を決めるのが大変だったぐらい少し前の話になる。

 私自身がこれまでやってきていない分野まで含めて見なければいけないが、島田社長からは、「会社は1人でやるものではない。みんなの力を結集してやることが大事。そういった考えでやれば大丈夫」と言われた。

―― お客さま視点というキーワードが出たが、ライバルの存在はどう見ているのか。通信品質も、数字だけでなく現場を体験すれば分かるのではないか。

前田氏 お客さまのお声があることは認識しているし、皆さま(報道陣)からもお声をいただき、改善していきたい。また、他社の方に対してもリスペクトは持っている。お客さま起点で事業運営していくときに大事なのは、いかにバイアスをかけずにフラットに見るか。お客さまの声をしっかり理解すること。ともすれば、「こういうことなんじゃないか」と勝手に尾ひれをつけてしまうが、そうではなく、正面からおっしゃっていただいた事実を正確に受け止めるのが大事だと思っている。

 同じように、われわれは競争しているが、競合他社がどういう形でそれぞれの取り組みをしているかは、しっかり見ていきたい。そこをしっかり見て、把握して、時にはよさをまねすることも含めてどうやっていくか。自分の会社がこうだからこうすればいいというのは、まさにバイアスで、そうではなく、事実をフラットに把握し、取り組みを行っていく。

―― 入社時の2000年は、iモードでイケイケだった。当時と比べて失われているものや、取り戻したいメンタリティはあるか。

前田氏 当時にあって、今にないものがあるとは思っていない。やはり時代は移り変わる。その時その時に最良と思って取り組み、決断する。そうやって前に進んできた。その結果が思わしくないことはもちろんあるが、チャレンジをし続けないと成長することはできないし、強さにつながることもない。そういった姿勢は持ち続ける。

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