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「AQUOS R9」で起きた“3つの異変” Proなし、デザイン刷新、実質値下げの意図を聞く

ITmedia Mobile 2024年6月19日 6時5分

 シャープのフラグシップスマートフォン「AQUOS R9」が、7月中旬以降に発売される。RシリーズはスマートフォンAQUOSの最上位モデルであり、最先端の技術やスペックを盛り込んでいる。

 しかし2024年は“異変”が起きている。2023年、AQUOS Rシリーズはお手頃価格のハイエンド「AQUOS R8」と最高峰のスペックを備える「AQUOS R8 pro」の2モデルに分けた。2024年もこの流れを踏襲するのかと思いきや、発表されたのはAQUOS R9のみ。5月8日の発表会では、「今期、AQUOS R9 Proは投入しない」ことが明かされた。

 もちろん、AQUOS R9もライカ監修のカメラやSnapdragon 7+ Gen 3、12GBメモリ、より明るくなったPro IGZO OLEDなど、ハイエンドと呼ぶにふさわしいスペックを有している。ただ、Snapdragon 8シリーズや1型センサーのカメラは見送られており、Proを求める人にとっては物足りないかもしれない。

 ポジティブな変化もある。端末価格が高騰する中で、AQUOS R9はオープンマーケット向けモデルが10万円前後(税込み、以下同)という価格を予定している。

 ハードウェアで大きく変化があったのがデザインだ。三宅一成氏が設立した「miyake design」監修によるデザインを取り入れて、従来のAQUOS Rシリーズから一新した。背面がよりプレーンな印象になり、カメラの台座に「円でも楕円(だえん)でもない自由曲線」を取り入れた。

 今期、なぜProがなく、安価な価格を実現できたのか、なぜデザインを変えたのか。5月8日の発表会後に行われたグループインタビューでシャープに聞いた。質問に答えたのは、通信事業本部 本部長の小林繁氏、通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の中江優晃氏、通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 課長の清水寛幸氏の3人。

●パフォーマンスと価格の絶妙なバランスを取った

 まず気になるのが、やはり「Proがない」理由だ。中江氏は、パフォーマンスと価格の絶妙なバランスを取ったことを説明する。「パフォーマンスは大事です。その性能を出すためにコストで頑張る。値段ありきでは考えていません。ハイエンドスマートフォンとして、われわれが想定するユースケースに耐えうる性能を持ちながら、価格的にお手頃という絶妙なバランスを取りました」

 「実際、意識調査を見ると、何が何でも一番いいチップでないといけないという人は、数年前に比べると激減しています」と小林氏。「本当に普段快適なら、チップの品番にはこだわらない、8系にこだわらない」という人が圧倒的に増えてきているという。

 性能と価格の関係は、「性能が倍になるからといって値段が倍になるわけではない」ことが難しい小林氏は言う。性能が上がると価格も上がるが、その幅は緩やかなカーブになる。一方、需要と価格の関係でいうと、「お客さまの需要は、あるところでは急激に下がるようなカーブをしている」と小林氏。「性能と価格」「需要と価格」のカーブが交差する絶妙なポイントを探りながら、スペックと価格を決めてきた。

 その結果、SIMフリーモデルの価格は10万円前後を実現した。昨今の円安状況を鑑みても、この価格は2024年のハイエンドスマホとしては十分安い。Snapdragon 8 Gen 3を搭載した他社のフラグシップ機を見ると、メーカー直販価格はXperia 1 VIが18万9200円から、ROG Phone 8が15万9800円から、Xiaomi 14 Ultraが19万9900円。もちろんプロセッサの差はあるが、AQUOS R9の価格が10万円だとすると、他社のフラグシップ機より約6万円~10万円安い。Proがないことが取り沙汰されているが、10万円前後の価格は大きな武器になるだろう。

●AQUOS R9の「10万円前後」は実質的な値下げ

 さらに、2023年に発売したAQUOS R8のSIMフリーモデルが13万円台後半だった。2023年からさらに円安が進んだ現状を考えても、AQUOS R9の10万円前後は特筆すべき安さだといえる。中江氏は「自分たちの中でかなり頑張りました」、清水氏は「10万円のハイエンドは覚えやすいので、そこは意識しました」と振り返る。

 小林氏はスマートフォンでは「パッケージング力が問われる」と前置きした上で、以下のように話す。

 「一般的に、プロダクトのライフサイクルは、成長期にはより優れたもので差別化を図りますが、成熟期に入ると、価格と機能のバランスがとても重要になります。言葉は悪いですが、Snapdragon 8シリーズを搭載して20数万円ですという商品が出ると、どう思うか」

 同時期にソフトバンクからは「Leitz Phone 3」が発売されたが、こちらの製品はAQUOS R8 proがベースになっている。プロセッサにSnapdragon 8 Gen 2を搭載するハイエンドモデルで価格は19万5696円(税込み)。決して安くはないが、「20万円切ることにはこだわった」(小林氏)という。

 AQUOS R9を“値下げ”できた要因は、「プロセッサの影響は大きい」と清水氏。仮にSnapdragon 8 Gen 3を搭載していたとしたら、Galaxy S24と同じく13万~14万円程度の価格になっていたのではないだろうか。もちろんそれだけでなく、「カメラセンサーなど、いろいろ頑張りました」と小林氏。

 AQUOS R9は通信キャリアではNTTドコモとソフトバンクが発売するが、キャリアが販売するモデルについては、各社の端末購入サポートを適用できる。48回払いで購入し、1年や2年使用した後に返却すると、残りの割賦が免除されるため、よりお得に運用できる。そうしたキャリアはメーカーにとって「最大のパートナー」(小林)といえる。電気通信事業法で端末価格の割引が規制される中、「お客さんの負担を軽減されるためにいろいろなアイデアを出されている。もっと大きな影響が出るとことで、応えてくださっているので、感謝しかない」と小林氏は述べる。

 今期のAQUOS R9がバランスに優れたモデルであることは理解できるが、それでもProが欲しいという声は存在する。シャープとしても、今後Proをやめるわけではなく、そのニーズがあることは認識している。「お客さんが今回、X上でProはないのか、と言われているので、ありがたい。期待してくださっているお客さんがいらっしゃるなと。ブランドを立たせるためにフラグシップが必要だという意見は社内でも強いです」(小林氏)。

 2023年にAQUOS R8とAQUOS R8 proの2ラインで展開したことで「お客さんの層は広がった」(小林氏)。「当たり前ですけど、1機種よりも2機種で展開した方が、商業的な数値で見ても結果はよかった。やる意味はありました」(中江氏)

●デザイン刷新の背景に「存在感がなくなってしまう」危機感

 AQUOS R9ではデザインも大きく変わった。特に変化したのはカメラの台座だ。カメラを過度に目立たせるのではなく、円形の台座の中に自然とたたずんでいるように感じる。ネットではカメラレンズが「コダマのようだ」という意見も目にする。カメラの台座は、従来は黒系統の異なるカラーにしていたが、AQUOS R9では本体と同色にそろえているのも特徴だ。

 ただ、小林氏は「最初に提案を受けたときに、めちゃくちゃ違和感がありました」と率直に話す。「しっくり来ていなかったのですが、2カ月くらい持って、めっちゃいいなと。第一印象と、日々使ったときの印象がだいぶ違う」と話す。「賛否両論があるとは認識していた」が、「海外のお客さんは、めちゃくちゃいいと絶賛した」そうだ。

 これまでのAQUOS Rシリーズはガジェット然としたデザインが多かったが、AQUOS R9では「生活用品に違いイメージ」(清水氏)を意識したという。

 miyake designを起用した経緯について、「いろいろなデザインを検討するうちの1人でした」と中江氏は振り返る。

 「デザイナーさんにひも付くデザインのやり方やコンセプトを通す人もいらっしゃいますが、三宅さんは、グローバルに通用する日本のデザインは何かを考えたときに、共感できるものを提案いただけました。私たちは具体的な絵は描けないですが、言葉では『こういう感じ』と説明していました。その有象無象の言葉の中から、『こういうことですよね?』と解釈いただけたのがよかったのです」

 あくまで筆者の主観だが、AQUOS R9のデザインは、senseやwishであれば違和感ないものの、ハイエンドのAQUOS R9だとミスマッチしているように感じた。ただ、そこには先入観があるのも確かだ。

 「僕たちは、senseシリーズはこう、Rシリーズはこうという、AQUOSの中で分ける考え方が強かったのですが、グローバルにも展開していくことを考えると、『AQUOSって何?』ということが強く求められてきています。(シャープの)中でも差別化、というのは脇に置いて、AQUOSはこうです、ということを伝えていかないと、AQUOS自体の存在感がなくなってしまいます」(清水氏)

 なお、AQUOS R9では従来搭載していたイヤフォンジャックが見送られた。「賛否両論あった」(小林氏)が、イヤフォンジャックを入れることで本体の厚さが増し、バッテリー容量が減ってしまうことから、外す決断を下した。

●海外展開で再認識したAQUOSの魅力 日本の物作りが支持されている

 AQUOS R9をグローバルモデルとして展開するにあたり、世界で受け入れられるデザインを模索した。AQUOSは以前から台湾やインドネシアなどでも販売していたが、AQUOS R9からグローバル展開を本格化する。

 AQUOSを海外展開するにあたり、AQUOSのよさを再認識することが多いという。

 例えば防水性能をチェックする際、シャープは1機種ずつ確認しているが、これを聞いた海外のキャリア関係者が驚いたという。海外では通常、ランダムで抜き取った個体だけ防水性能をチェックしているためだ。「そういう信頼性は、海外のキャリアさんから見るとビックリされます。僕らもランダムで抜いてチェックすればいいかもしれませんが、そこは譲れない線があります。日本の物作りを支持される人がいらっしゃるのです」(小林氏)

 「映像体験のAQUOS、防水や耐衝撃性などは、僕ら独自のよさであると気付いて、それを、日本のお客さまにも届けていくというブランド定義のきっかけになりました。日本が厳しいから外に出て行くのではなくて、日本でももっといい体験を届けるために、外で磨かれていく活動だと認識しています」(清水氏)

 AQUOS R9は台湾、インドネシア、シンガポールで展開する予定だが、その他の国については検討しているのだろうか。小林氏は「米国や欧州も否定はしませんが、より5Gが広がっていく国はチャンスだと捉えています」と答える。ただし米国については「巨大な日本のような市場。キャリアの要求が非常に高い」ことから、簡単にはいかないようだ。ちなみに米国では、ソフトバンクとSprintの共同開発だった「AQUOS CRYSTAL」をSprintに提供していたことはある。

 先代のAQUOS R8シリーズは、「AQUOS R8s/R8s Pro」という製品名で台湾とインドネシアで展開していた。商品名に「s」が付くのは、ライカ監修のカメラを搭載していないことが関係しているようだ。「AQUOS R9も(海外では)一部でsが付くかもしれません」と小林氏。ちなみに海外ではこれまで、「AQUOS sense8」が最も売れているそうだ。

●生成AIはハイエンドだけのもの? Googleと同じことはしない

 PixelやGalaxyをはじめ、2023年~2024年にかけて、生成AIを活用した機能をスマートフォンに搭載するケースが増えている。シャープも生成AIの活用には注力しており、AQUOS R9に、生成AIが留守番電話の内容を書き起こして要約する機能を採用した。

 そもそも昨今、スマートフォンで電話を利用する人は多いのか、という疑問はあるが、「調査をしたら、電話をする人が意外と多い」と小林氏。「通話無料のオプションをキャリアさんが準備しています。また、LINE通話だと相手のデータも消費するので、LINE通話をやめてほしいと思う人もいます。そうした状況を踏まえて決めました」(同氏)

 LINE通話は友人や知人同士で利用するものだが、知らない人から掛かってくるのは音声通話だ。「『これ、何の番号?』ということで怖くて出られないこともあります。その心理的負担をなくす狙いもあります」(清水氏)

 一方、留守番電話の要約機能は、現時点ではAQUOS R9のみで利用でき、同時に発表された「AQUOS wish4」では利用できない。これは「NPUの性能に依存する」ことから、ミッドレンジの端末では難しいようだ。ただ、ミッドレンジ機にも生成AIを使った機能を搭載するかどうかは「まさに社内でも議論が出ている」と小林氏。「クラウドのAIを使ってやっていくような要素かもしれません。ハイエンドスマホだからこそ通話を使うとは限りませんから」

 生成AIを使った代表的な機能として、写真編集での画像生成もある。この点は、「Googleの機能が無償で使える」(小林氏)ことから、積極的に搭載していくことは考えていないようだ。「Googleと競うようなことをしても仕方がないですよね。ハードウェアと密着した部分で頑張れる部分もあります」(小林氏)

 AQUOS R9ではOSバージョンアップは最大3回、セキュリティアップデートは最大5年にわたって提供される。他方、GoogleのPixelではOSバージョンアップもセキュリティアップデートも最大7年と長い。この点について小林氏は「今やっていることが答え」と話す。「そこの数字を競っても仕方がなく、カメラの画素数などのスペックの話とは違います」

 EUでは2025年6月以降、スマートフォンの保守パーツは7年間、ソフトウェアアップデートは販売終了から最低5年間提供するよう定められている。こうした背景もあり、サポート期間を延ばさないといけない環境にグローバルメーカーが置かれていることは小林氏も理解を示す。ただ、「修理できることとOSサポートをすることは違う」と同氏。ハードウェアとして使用できても、OSバージョンアップが打ち切られてしまっては意味がない。ハードとソフトの足並みをそろえることが必要といえる。

●取材を終えて:AQUOS R9は“絶妙な”ハイエンドスマホだ

 今期、「AQUOS R9 Pro」を投入しないことに対して、落胆したユーザーもいただろうが、ハイエンドスマートフォンを、より多くのユーザーに届けたいという強い意思があることが分かった。10万円前後という価格も絶妙だ。2023年~2024年にかけて、ミッドレンジスマホが細分化され、5万円~7万円台のミッドハイモデルが増えているが、その次のハイエンドが12万~15万円。AQUOS R9は、ミッドハイとハイエンドの隙間を埋める唯一無二の存在ともいえる。

 ちなみに、「今期、Proは出ない」の「今期」が2024年度のことを指すのか、はたまた2024年度上半期を指すのかなど、具体的なスパンは教えてもらえなかった。時間差で2024年の秋~冬にAQUOS R9 Proがサプライズで登場する可能性もゼロではないか。ともあれ、“絶妙なハイエンドスマホ”であるAQUOS R9が、どこまで市場に受け入れられるのか、注目したい。

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