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モトローラが日本市場で急成長している理由 1年で出荷台数2倍以上、「edge」「razr」の販路拡大がカギに

ITmedia Mobile 2024年7月6日 11時45分

 モトローラ・モビリティ・ジャパンは7月3日、「motorola edge 50 pro」とそのソフトバンク版にあたる「motorola edge 50s pro」を発表した。2機種はいわゆるミッドハイのスマートフォン。6月に発売した「moto g64 5G」「moto g64y 5G」より1段上のスペックで、処理能力やカメラなどの性能が高く、最大125Wの急速充電にも対応する。

 2023年からキャリアとの関係を強化しているモトローラだが、ソフトバンクとタッグを組んだことも功を奏し、出荷台数は急増している。スマホ市場全体が落ち込む中、その伸び率は2倍以上。プロモーションも強化するとしており、にわかに存在感が大きくなっている。そんなモトローラが成長している要因を分析。2024年度の行方も占った。

●グローバルでシェアを伸ばすモトローラ、日本市場は2倍以上の成長率に

 世界的にスマホの出荷台数が伸び悩む一方で、モトローラはグローバルで着実に成長している。本社を構える米国を含む北米では、前年同期比で12%増を記録し、シェアも3位と高い。そこから地続きの南米では、コストパフォーマンスに優れたモデルが評価され、シェア2位をキープしている。欧州や中東、アフリカでも前年同期比で45%、出荷台数を伸ばした。

 中でも、日本を含むアジア・パシフィックは出荷台数が100%増加しており、市場が急拡大している。スマホ市場が成熟する中、わずか1年で規模が2倍に膨らむのは異例といっていいだろう。そのアジア・パシフィック地域の中で、特に日本市場は成長の速度が高く、全体をけん引している。

 2023年度は出荷台数が135%増加。2022年度から2倍以上の出荷台数となり、オープンマーケットでは3位につけている。実数は明かされていないものの、グラフからは、2倍以上に出荷台数が伸びていることが分かる。それに伴い、「モトローラ」の検索数も55%増加。大規模なプロモーションを行っていない中でも、着実に知名度を上げているようだ。

 では、2023年度のモトローラに何があったのか。モトローラ・モビリティ・ジャパンの代表取締役社長、仲田正一氏によると、「さまざまなお客さまのレンジをカバーできる商品を出せたのが大きい」という。実際、2023年度は日本向けに独自のカスタマイズを加えておサイフケータイに対応した「moto g53j 5G」を発売。そのY!mobile版に当たる「moto g53y 5G」も合わせて投入しており、販路を大きく広げている。

 また、7月3日に発表されたmotorola edge 50 proの前身にあたる「motorola edge 40」は取り扱いMVNOをIIJmioに限定。同時に、モトローラがプレミアムモデルに位置付けるフォルダブルスマホの「motorola razr 40 ultra」も発売し、IIJmioが独占的に販売した。仲田氏は、「パートナーシップがものすごく重要だと思っている」としながら、「IIJにとっても差異化になっているので、そういう意味でプッシュしていただける要因になっているのではないか」と語る。

 さらに、2023年12月には、フォルダブルスマホの廉価モデルにあたる「razr 40」「razr 40s」を発売。2機種とも、先に挙げたmoto g53j 5Gと同様、おサイフケータイに対応。後者のソフトバンク版については、フォルダブルスマホながら発売直後から実質1万円を下回る価格をつけ、大きな話題を集めた。2023年は「ラインアップの拡充」に加え、ソフトバンク/Y!mobileやIIJmioとの「パートナーシップ」という2本柱で大きく成長できたといえそうだ。

●“倍増計画”の一翼を担うedge 50 pro、ソフトバンク版は実質12円に

 約2.3倍という大幅な伸びを記録したモトローラだが、2024年度に関しても「以前より魅力的な商品を提供することで、同程度の伸びを期待している」(同)という。edge 50 proやedge 50s proの投入は、その目標達成に必要なピースの1つと見ていいだろう。edge 50 proはミッドハイのスマホで、必要十分な機能を備えながらハイエンドモデルより“買いやすい”価格を打ち出している。

 プロセッサには「Snapdragon 7 Gen 3」を採用。6.7型のやや縦長なエッジディスプレイは、リフレッシュレートが最大144Hzで滑らかな操作性を実現している。ヴィーガンレザーを採用した背面も独特だ。また、冒頭で述べたように、最大125Wの超急速充電ができ、1%から100%まで充電するのにわずか19分しかかからない。ハイエンドモデルのように突出したカメラ性能はないものの、必要としている機能を高いレベルでまとめ上げた端末といえる。

 にもかかわらず、edge 50 proの価格は同社オンラインストアで7万9800円(税込み、以下同)と10万円を大きく下回っている。2023年のedge 40に続いて独占提供するIIJmioでは、これより1万円安い6万9800円で販売。さらにMNPで回線契約すれば2万円の割引を受けることが可能だ。その価格は4万9800円まで下がる。

 ここまでは2023年に投入されたedge 40と同じだが、2024年の新たな動きとして、ソフトバンクがedge 50s proを取り扱う。edge 50s proは、edge 50 proとほぼ同一のハードウェアだが、12GBだったメモリ(RAM)が8GBに減らされている。代わりに、カラーバリエーションがedge 50 proより1色多く、バニラクリームの選択肢があるのはedge 50s proだけだ。

 本体価格は8万5572円とソフトバンク版の方が高いものの、購入から1年は1カ月あたりの支払額が「新トクするサポート(バリュー)」で1円に抑えられている。12回支払って端末を下取りに出せば、その実質価格はわずか12円。2023年に導入したrazr 40sに続き、ソフトバンクがモトローラの端末を“目玉”に位置付けていることがうかがえる価格設定だ。

 モトローラにとっては、edge 50 proをいわばメジャーデビューともいえるキャリア市場に導入できたことを意味する。実質12円で販売するには大量導入が必要になるため、オープンマーケット版だけだったedge 40と比べ、出荷台数を伸ばすことは確実だ。このようにキャリアに導入される製品を徐々に増やしていけば、仲田氏が語っていた“前年度と同水準の成長”を維持できる可能性が高まる。

●カギを握るrazr 50シリーズ、法人事業も強化

 とはいえ、キャリアが取り扱うモデルが1機種増えただけでは、約2.3倍に増えた出荷台数をさらに倍増させるのは難しいはずだ。台数だけならより価格の安いエントリーモデルのシリーズを厚くする手もあるが、仲田氏は「日本市場ではrazr、edge、moto gが最適だと思っている」と語っている。グローバルではmoto eシリーズを展開しているモトローラだが、「アジア・パシフィックだとインドなどの新興国マーケットに適した商品」(同)で、投入には消極的だ。

 6月に発売した「moto g64 5G(とmoto g64y 5G)も非常に好調」なスタートを切れたというが、販路が変わっていないため、倍増に貢献するかどうかは未知数だ。残る選択肢として成長を加速させるカギになりそうなのは、6月に米ニューヨーク州で発表された「motorola razr 50」や「motorola razr 50 ultra」になりそうだ。仲田氏も、「今後、razrも投入していく予定」として、プレミアムモデルの販売拡大に期待をのぞかせている。

 振り返ってみると、2023年に発売されたrazr 40 ultraは、オープンマーケット専売モデルだった。仕様もグローバル版に近く、おサイフケータイには非対応。逆に言えば、この部分はモトローラにとっての“伸びしろ”といえる。edge 50s proと同様、キャリアでの販売を始めることができれば出荷台数を伸ばすことが可能になる。現時点で日本での発売が発表されていないのは、「開発期間がかかる」(同)FeliCaを搭載するため……と見ることもできる。

 パートナーを拡大していく手もある。2023年からキャリアでの取り扱いは一気に増えたものの、いずれもソフトバンクとそのサブブランドのY!mobileだけで、ドコモやau、UQ mobileといったキャリアでは販売されていない。ここで販路を広げられれば、2年連続の出荷台数倍増を達成できる可能性がある。仲田氏は「どうですかね?」とお茶を濁していたが、かつてはドコモやKDDIもモトローラのケータイ、スマホを販売していたため、ありえない話ではない。

 もう1つモトローラが強化していくのが、法人事業だという。仲田氏は、「法人事業の部分を今、強化していこうと思っている」と語る。周知の通り、モトローラは、レノボの100%子会社でグループとして見ると法人との接点は強い。また、モトローラは2023年には「ThinkPad」ブランドを冠した「ThinkPhone by Motorola」を海外で発売しており、同モデルやedge 50 pro、今後日本で発売するrazr 50などはGoogleの「Android Enterprise Recommended」の1機種として用意されている。

 端末のバリエーションを多様化し、販路を広げるというのはある意味王道ともいえる戦略だが、今のモトローラを見ると、その歯車が徐々にかみ合いつつあるように見える。今後日本に導入される予定のrazr 50/50 ultraも含め、その動向には注目しておきたい。

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