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古いiPhoneで撮影した写真が“エモい”と評価されるワケ 「iPhone 3GS」で試してみた

ITmedia Mobile 2024年7月14日 10時5分

 近年若い世代の間では「エモい写真が気軽に撮れる」という意味で「古いiPhone」で写真を撮ることが話題だ。なぜ話題なのか実際に古いiPhoneを用いて撮影してみたり、同世代の友人等に聞き込みを行って考察してみることにする。

●古いiPhoneへの注目はレトロカメラブームから。エモい理由は「ノスタルジー」な雰囲気から

 SNS上では「古いiPhone」で撮影した投稿が注目を集めている。近年では10~20代のZ世代の若者を中心に数年前のiPhoneで撮影した写真が感傷的。すなわち「エモい」感じで撮れるとのことだ。

 20代の筆者としても、古いスマートフォンの写真に懐かしさはあっても「エモさ」という表現はいまいちピンとこない領域だ。ましてや読者からしたら、この世代のスマートフォンは実際に手に取って使っていた方も少なくないことだ。

 このような「古いスマートフォン」で撮影した写真がエモいと評価される理由は何だろうか。背景には「レトロカメラ」が若い世代でブームになっていることが挙げられる。

 ここにはデジタルカメラのほか、使い捨てカメラやフィルムカメラ、トイカメラも含まれる。むしろ後者のほうが人気を博しており、使い捨てカメラの代名詞「写ルンです」のどこか懐かしい写りは「エモい」ということで今日の若者や学生にもウケが良い製品だ。

 日本では主に「特別な場面を思い出深く残す」といった場面で、この手のカメラの写りが若い世代に好まれるそうだ。筆者としては思い出ほど「鮮明に残したい」と感じるが、同世代の友人に聞いてみると。今のZ世代の若者には「淡いセピア調の思い出」のようなノスタルジックな写りのほうがウケが良いのだという。

 ノスタルジーなことを意味する「昭和レトロ」や「平成レトロ」と称される言葉が登場し、これらの時代の写真などにもある種の憧れ、新鮮さを抱く若者がいることもこのブームを加速させる理由と考える。ある意味「大正ロマン」の現代版だ。

 実は日本だけでなく世界的に見ても、古いデジタルカメラが若い世代を中心にブームとなっている。具体的には2000年代の廉価なデジタルカメラを指し、先行して流行したフィルムカメラやチェキといったインスタントカメラほど手間やプリントコストもかからず、ノスタルジーな質感を演出できることが新鮮に感じるようだ。

 特に中華圏ではこの市場が盛況だ。筆者も香港や深センの中古カメラが多く扱われるエリアを見てみたが、顧客の多くは10~20代の若者が多く、女性の姿も多くみられた。

 このブームを香港在住の友人に訪ねたところ「加工のないエモさ」がウケていると表現された。筆者はこの「加工のない」と表現された辺り、AI補正が当たり前のスマホに対するアンチテーゼ的なものを感じた。日本以上に自撮りブームが盛んで、スマホでは「AIでとにかく盛れるカメラ」が一世を風靡した中華圏でこのような評価になるのには驚いた。

 このような背景もあり、レトロデジタルカメラは人気機種を中心に価格が高騰している。深センで見かけたときの相場は日本メーカーの15年落ちの製品で550元(約1万1500円)前後と思ったより高価だった。このほかに「スマートメディア」といった旧規格の保存メディアも数が少ないことから高騰しているという。

 日本でもフリマアプリや中古販売店をチェックすると、多くの製品がそこそこ高価な価格で販売されている。大手中古店のハードオフのスタッフが「状態のいいデジカメは入荷するとすぐに売れる」と漏らすのも納得の盛況具合だ。

●古い機種なら「エモく」撮れるのか。iPhone 3GSで試す

 さて、仮にもスマートフォンで「エモい」写真を撮れるといったらどのような機種だろうか。ここでいうノスタルジーといった懐かしさを感じるには古いスマートフォンが選択肢に浮かぶ。

 物理的な古さを感じるなら、それこそiPhone 3GS世代だろうか。今のスマホには当たり前に備わる機能がない機種であれば、現代では撮影が難しい「性能不足による表現」ができる。トイカメラ的なエモさを出せるはずだ。

 iPhone 3GSは2009年に発売された。300万画素のカメラに初のオートフォーカスを備えるなど、同社のスマートフォンとしてはカメラ周りは大きな進化を遂げた機種として注目された。筆者も小学生の頃に触れた最初のiPhoneなので、思い入れのある機種だ。

 余談ながら、2024年に中学生へ進学した子にこのスマホを見せたら「まだ生まれてない」「SNSで見た平成レトロっぽい」と言われたときは思わず変な声が出てしまった。

 何枚か撮ってみる。昼間の作例はそれなりに映るが、全体的に暗い印象を受ける。あの時はこんな感じだったとノスタルジーに浸れるが、今となってはきれいにはみえない。

 夜間はさすがに厳しい印象だ。HDR撮影もできない世代のため、ノイズも多く手振れもしやすい。

 何枚か撮影したが、やはり時代相応の写りだと感じた。懐かしいという感覚にはなるが、筆者的にはエモーショナルな要素はあまり感じない。ただ、このような技術的な未熟さゆえの写りの悪さをノスタルジックと評するのであれば、トイカメラなどと同じ領域と考えたい。懐かしさを「エモい」と評価するのであれば、スマホでも十分に撮影はできそうだ。

●高騰する「中古レトロカメラ」手に届きやすいところに「古いiPhone」

 中古のコンデジとはいえ、10年落ちでも2万円前後となれば安価ではない。また、データの取り込みに別途カードリーダーが必要になるなどの手間やコストもかかる。Wi-Fi機能を備えるSDカードを用いればカードリーダー等は必要なくなるが、古い機種では相性の問題などもある。

 チェキといったインスタントカメラにはプリント用紙、フィルムカメラはフィルムのほかに現像が必要になるなど、趣味を楽しむとしても意外とお金がかかるのだ。

 そこで注目されたのが「古いiPhone」だ。10年ほど前のiPhone 4や5世代は昔使っていたり、保護者のおさがりで手元にあったりする例もある。加えて、iPhone 5Sでも中古相場は5000円前後とお求めやすく、球数が多いことから入手性も高い。高騰するレトロカメラの代わりに選択されるのだ。

 ギリギリZ世代の筆者が高校生の頃に使っていたiPhoneが5や5Sだったことを考えれば、「昔使っていた」や「保護者や兄弟のおさがりで持っている」という意見が出る点も納得だ。

 これに加えて旧式のiPhoneもiOS11以降では、操作性も現行のiPhoneと大きく変わらない。iOS12が利用できるiPhone 5S世代であれば各種SNSアプリも旧バージョンで動作するなど、スマホとしての使いやすさを有している。

 古いiPhoneはデジカメに比べてコスト面の優位性のみならず「操作方法を別途覚える必要がない」「作例をSNSで共有しやすい」という強みが生まれる。このような意味で古いiPhoneに注目がいく点は納得だ。

 確かに2015年以前の機種であれば、AIカメラや複数カメラを用いた要素も下火の時代だ。今回筆者が試したiPhone 3GSとまではいかなくても、昨今のAIカメラ搭載スマホでは撮れない自然である意味「エモい写真」を簡単に残せるのだ。

 現行のAI補正が大きく入るスマートフォンとは異なる写りの機種は使ってきた世代にはどこか懐かしく、より若い世代には新鮮に映る要素を備えている。古いiPhoneで撮影した写真は新鮮な意味で「エモい」と評価されることも納得できた。

 思い返せばスマートフォンのカメラも年を追うごとに幾多の進化を遂げ、写メールが利用できるカメラ付き携帯電話から数えれば四半世紀近い歴史を重ねてきた。筆者よりも下の世代は写メールのサービスが開始されて以降に生まれた人が大半だ。

 若い世代に「子供のころに触れたカメラは?」と聞けば、任天堂のゲーム機「ニンテンドーDSi」や「ニンテンドー3DS」と答える方が少なくない。これらの機種を与えたという保護者の方もいることだろう。この世代では最初に触れたカメラがデジカメではなく、携帯電話やゲーム機といったデバイスだった方も多いのだ。

 読者の中には今は使っていない古いスマートフォンが机の引き出しに眠っている方もいることだろう。機会があれば起動してみて、若い世代が「エモい」と感じる「あの時の思い出」に浸ってみてはいかがだろうか。

●著者プロフィール

佐藤颯

 生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。

 スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。

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