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ドコモが能登の復興支援ライブで“5G Massive MIMO臨時局”を展開 通信速度とパケ詰まり効果を検証した

ITmedia Mobile 2024年7月19日 17時39分

 7月6日と7日、NTTドコモも主催(※)として参加した、能登の復興支援ライブを中心としたイベント「PEACEFUL PARK 2024 for 能登 -supported by NTT docomo-」を石川県金沢市の産業展示館で開催した。

 現地でボランティア活動を実施していたMISIAさんをはじめ、藤井フミヤさん、久保田利伸さんなど著名アーティストが多数参加した音楽ライブに加えて、被災しつつも食事支援に協力している石川県を中心とした料理人によるPEACEFUL TABLEや、被災した地元企業による特産品のマルシェ、d払い募金などを実施したイベントだ。

 この会場で、NTTドコモの臨時局としては初となる「5G Sub-6帯のMassive MIMO(MU-MIMO)を用いた移動基地局」を展開し、屋外と屋内の混雑に対するネットワーク対策を実施した。

 Massive MIMOを用いた基地局は、5G通信のさらなる大容量化に向けて採用が進んでいる技術だ(4Gでも一部先取りして導入されている)。一般的な基地局のアンテナと違い、数十から100以上ものアンテナ素子を並べた設備を用いてビームフォーミングやMU-MIMOといった技術を利用することでスマホとの通信を効率化し、同じエリア内でより多くの通信を処理できる。都市部などの人が密集し通信が混雑するエリアへの効果が期待されることから、「パケ詰まり」対策になることが期待される。

 また、2024年に入ってドコモの他、KDDIや楽天モバイルなどもあらためて「5G Sub-6帯でのMassive MIMO」の本格的な運用や導入について発表を増やしている。この記事ではドコモのイベントでの取り組みをもとに、ここ最近のMassive MIMOに関する話題についても紹介していこう。

●混雑するイベント会場に大容量のMassive MIMO基地局を整備

 今回対策を行ったNTTドコモ 北陸支社によると、Massive MIMO搭載の5G基地局による通信性能の向上効果は2倍以上だという。

 北陸ではMassive MIMO搭載の5G基地局を、2024年2月に開場したサッカー専用施設「金沢スタジアム」周辺に整備済み。3月のJ3リーグ開幕戦では混雑するスタジアムのほぼ全体でダウンロード300Mbps以上、アップロード40Mbps以上の環境を提供できたという。

 今回取材したPEACEFUL PARK 2024 for 能登では1日あたり約7000人の来場が想定される上に、レストランやマルシェの物販といった店舗でもd払いなどのネット決済の利用も増えることから、ドコモでは初となる基地局車によるMassive MIMO搭載5G基地局の臨時局を展開したという。

 具体的には、ライブ前にチャリティキッチンや待機列などで人が密集する産業展示館4号館の前と、ライブ開場の中に対して5G Sub-6帯 3.7GHz帯によるMassive MIMO搭載の基地局を展開した。

 この他、他社の携帯電話回線でdアカウントのd払いなどを利用するユーザーを想定して、屋外にはStarlinkをバックボーンに用いたd Wi-Fiを提供している。

●Massive MIMOの効果をチェック! 混雑時でも500Mbps以上を確認

 実際のドコモの5G速度を簡単にチェックしていこう。開場直後の13時台は通り雨もあってまだ人も見た限り数百人程度だった。この状況下で複数回テストしたところ、ダウンロード900~800Mbps、アップロード80~50Mbpsを確認できた。他の場所でも、高速な5G Sub-6基地局周辺かつ、利用者が少ない状況で確認できる速度だ。

 音楽ライブ開場前の16時ごろは、屋外に7000人近い人が集まり行列や飲食、買い物の利用、記念撮影やSNSへのアップなど、人が密集しつつそれぞれが思い思いに楽しんでいる時間帯だ。この状況下でスピードテストを複数回実施したところ、ダウンロード800~500Mbps、アップロード70~40Mbpsの結果を確認できた。ここまで混雑した環境で、空いている状況の5G Sub-6帯に近い速度で利用できるのは驚きだ。

 簡易的なテストだが、周辺の人数が数百人から7000人にまで増えたにもかかわらず5Gの高速通信を提供できたとなると、Massive MIMOにより5G Sub-6帯の通信をより効率よく運用し、混雑した環境下でも高速通信を提供できたとみていいだろう。

●夏から秋にかけて9つのイベントでMassive MIMOを含む対策を実施

 NTT北陸支社では、今回のMassive MIMO搭載基地局を含めたネットワーク対策を、夏から秋に向けて開催される9つのイベントで実施するという。

 この際の工夫として、ビル上など既設の4G基地局に対して5Gの臨時局を加える方法も活用していくという。これにより、イベント会場に臨時局を展開するスペースがない場合や、見通しのいい場所から臨時局のエリアをより広く展開できるとのこと。新たに5G局を展開する場合は1年程度かかるが、この方法なら3カ月程度で整備できる。

 今回の移動基地局車も4G対応のものの装備を活用しつつ、外付けで5G Massive MIMO搭載基地局を加えている。移動基地局車自体も新たに整備するには時間がかかることから、この方法は有用だという。

 冒頭で触れたように、2024年からドコモ以外も5G Sub-6帯のMassive MIMOの活用について説明する機会が増えている。これらの動きについて簡単に説明していこう。

 Massive MIMOを簡単に説明すると、数十から100以上のアンテナ素子を並べたユニットを用いて空間上での電波の指向性を制御する「ビームフォーミング」や、応用して複数のスマホに個別の電波リソースを割り当てて同時通信を可能にし、一般的な基地局よりも通信効率をより向上させる「MU-MIMO」を利用できる技術や設備を指す。

 これにより、通信が混雑しがちな場所でも処理できる通信量が増え、快適な通信が可能になる。前述したように、今回取材したNTTドコモ 北陸支社の取り組みでも、5G Sub-6 100MHz幅にMassive MIMOを用いることで2倍以上の通信効率を実現できるとしている。

 ただ、どの周波数帯でも活用されているわけではなく、アンテナ素子のサイズや効率から全体的には5GのSub-6やミリ波、ソフトバンクなどが先取りして4Gでも導入した2.5GHz帯や3.5GHz帯などで用いられることが多い。

●2024年に5GエリアやMassive MIMOの発表が増えている理由

 なぜ2024年にドコモだけでなくKDDIや楽天モバイルなども5G Sub-6のMassive MIMOを含む5G関連の発表を増やしているかというと、いくつかの理由がある。特に大きいのは、5Gスマホの普及が進んできたことと、大手4社ともに関係する関東首都圏での3.7GHz帯の制限緩和だ。これにより、各社とも首都圏で5G Sub-6 3.7GHz帯の出力アップによるエリア拡大を進めている。

 まとめると以下の通りになる。

・5G対応スマホの普及率が全体の半分程度にまで増えてきた

・2024年3月末に関東首都圏でも5G Sub-6 3.7GHz帯の衛星干渉条件が緩和され、対応エリアを整備しやすくなった

・4社とも持つ5G Sub-6の3.7GHz帯は帯域幅が100MHz幅と広く、Massive MIMOによる通信効率改善の恩恵が大きい

・Massive MIMO設備の小型、軽量化が進んだ

・2023年度末までの5G整備計画が一段落した

 特に5G Sub-6の3.7GHz帯は周波数幅が100MHzと広く高速なので、干渉条件の緩和でこのエリアを広げやすくなっただけでも通信の混雑緩和を期待できる。それでも混雑する箇所には、この記事で紹介した金沢のイベントのように5G Sub-6かつMassive MIMOの基地局を整備することになる。Massive MIMOは4G向けの20MHzや30MHz幅の帯域でも用いられているが、5G Sub-6の100MHz幅で用いた方が通信効率の向上の幅はより大きくなる。

 では、Massive MIMOでパケ詰まりが解消するのかというと、これだけで全てが解決するわけではない。もちろん都心のターミナル駅周辺や、今回ドコモが金沢で展開したようなイベント会場でMassive MIMOは有用だ。だが、それ以外の多くの場所は5G Sub-6のエリアの拡大や、郊外などはその他の周波数帯も用いた地道なエリア整備が求められる。

 ドコモの5G整備が良くも悪くも注目されている要因は、5G開始当初に政府の方針もあり、全国の市区町村へ5Gを整備する方針で進めたことだ。だが、これがその後のコロナ禍を経て増大した都市部での通信需要の増加と?み合わずに通信の混雑の要因となってしまった。これについては以前の記事で解説している。

 だが、NTTドコモ前田新社長も就任会見にて都市部における高速なSub-6帯エリアの拡大や、モバイルネットワーク体感の評価指標である英Opensignalの「一貫した品質」部門にて、2024年度末までにNo.1を目ざす方針を表明している。都心部の通信に余裕が生まれないと、ネットを活用した新しい社会インフラの実装や仕事の在り方、エンターテインメント、ウェアラブルやXRなど新しい通信の需要が生まれにくくなり通信事業の拡大にも影響する。今後に期待したい。

 ドコモは今回のPEACEFUL PARK 2024 for 能登のように、イベントを主催しつつMassive MIMO搭載の5G臨時局を展開してサービスを提供するなど、リアルとデジタルを融合させたエンターテインメントや体験の展開に力を入れている。6月に発表した新しい国立競技場の運営への参画や、各地で建設が進むアリーナ施設の運営などに関する参画もこの一環だ。こちらについてはまた別の記事で紹介する。

(取材協力:NTTドコモ)

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