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約2万円の折りたたみケータイ「Orbic JOURNEY Pro 4G」を試す シンプルで使いやすいがローカライズに課題も

ITmedia Mobile 2024年7月27日 6時0分

 スマホやタブレットを引っ提げ、日本市場に参入したOrbic(オルビック)が、新たな端末を発売した。フィーチャーフォンの「Orbic JOURNEY Pro 4G」がそれだ。同機は非常にシンプルな折りたたみ型の携帯電話で、主に通話やSMSなどのメッセージサービスを利用する人に向けた端末。バッテリーの着脱が可能だったり、サブディスプレイが搭載されていたりするのも、かつてのフィーチャーフォンを想起させる。

 もう1つのトピックとして見逃せないのが、同機に日本で初となる「KaiOS」が搭載されている点だ。KaiOSとは、かつて日本でKDDIから発売された「Fx0」が採用していた「Firefox OS」から派生した、フィーチャーフォン向けのOS。Googleが一部資本を注入しており、同社のサービスに対応している他、日本からもKDDIがファンドを通じて出資を行っている。では、Orbic初のJOURNEY Pro 4Gや、そこに搭載されたKaiOSの使い勝手はどうか。実機に触れながら、今後の行方を占った。

●シンプルなフィーチャーフォンで、ボタンの押し心地は良好

 まずは外観から。いわゆる2つ折りのフィーチャーフォンで、シンプルにまとめられている。光沢感のある樹脂のボディーは少々チープな印象を受けるものの、実際、実売価格は2万円アンダー(各社のECサイトで税込み1万9800円)。価格相応といったところだが、気軽に購入できるのはうれしいポイントだ。ヒンジはやや緩めだが、片手で簡単に開閉できる。ヒンジ中央にある円形のパーツがボタンのようにも見えるが、残念ながらこれはワンプッシュボタンではない。

 側面には左側面にはUSB Type-Cのポートとカメラボタン、右側面には3.5mmのイヤフォン端子と音量ボタンが備わっている。かつてのフィーチャーフォンは、ホコリの侵入防止や防水・防塵(じん)などのためにカバーをつけている端末が多かったこともあり、むき出しになっているのは新鮮。すぐに使えるという、実利もある。また、USB Type-Cで充電でき、スマホと充電器を共有できるのもこの仕様のメリットといえる。

 2つ折りのケータイが主流だった日本市場では、フィーチャーフォンの進化が異常なほど進んだ。薄型化もその1つ。一部の仕様は今でも受け継がれており、例えばドコモが取り扱っているFCNT製の「arrowケータイ F-41C」は厚さが15.8mmに抑えられている。しかも、防水・防塵に対応しながらだ。これに対し、JOURNEY Pro 4Gは19.8mmとそこそこの厚みがある。全体的に丸みを帯びた形状のため、収まりはいいが、ポケットなどに入れると膨らみが少々目立つ。

 一般的な2つ折りケータイと同様、開くと上部がディスプレイ、下部がカーソルキーやテンキーになる。待ち受け状態でテンキーを押すと、そのまま電話番号の入力画面になり、すぐに電話を発信できるのはフィーチャーフォンならでは。電話もアプリの1つであるスマホとの大きな違いといえる。キーは1つ1つが大きく、クリック感もしっかりあって押しやすい。連打したときにカチカチと音が鳴り、小気味よく文字を入力していける。

 縦に長く、上部のメニューキーにやや指が届きづらいのは難点だが、スマホの画面上部をタッチするよりは簡単。片手で容易に操作できるのは、フィーチャーフォンならではだ。操作体系も日本のフィーチャーフォンと似た部分が多く、かつて使ったことがある人なら、すぐに慣れることができる。一方で、ディスプレイはさすがに粗い。文字などのドットが普通に見えるだけでなく、撮った写真も実際のデータより汚く見えてしまう。

 当初はカメラの性能が相当低いのかも……と思っていたが、スマホやPCにメールで送信して確認したところ、屋外ではやや暗めながらも、それなりの解像感で写っていた。決して優秀なカメラというわけではないが、ディスプレイの性能のため、それ以上に低性能に見えてしまうため、損をしているような印象がある。後述するが、このディスプレイゆえにWebサイトも見づらい。閲覧用デバイスとして使うには厳しいため、割り切りは必要だ。

●日本語環境で使えるKaiOS、Googleアカウント連携も便利

 JOURNEY Pro 4Gに搭載されているKaiOSは、主に海外で販売されるフィーチャーフォンに採用されてきた。日本でもHMD Globalが開発したNokiaブランドの復刻端末が、時折話題になることがある。一方で、日本市場ではこのOSを搭載したフィーチャーフォンが登場するのは初めてのこと。これまでは、日本語入力などもなく、普段使いには適していなかった。

 この点の心配は無用。JOURNEY Pro 4Gは日本語表示が可能なだけでなく、日本語入力をはじめとしたローカライズも施されている。日本語入力は、予測変換にも対応。2タッチ入力など、キーを押下する回数を減らせる入力スタイルは利用できないものの、まずまずのスムーズさで文字を打っていくことが可能だ。「#」キーの長押しで、文字種の切り替えもできる。

 スマホのフリック入力やキーボード切り替えに慣れているとまどろっこしく感じるが、SMS程度の短い文章やメールアドレス程度であれば、特に引っ掛かることなく入力できた。フィーチャーフォンを使わなくなって久しい筆者ではあるが、昔取ったきねづかなのか、想像していた以上には快適に文章を作成できた。タッチパネルでの文字入力と違い、キーの物理的なフィードバックがしっかりあるのも悪くない。

 また、連絡先(電話帳)も「姓」「名」の順に並んでいるなど、細かな点も日本語環境にローカライズされている。フリガナを付けられないのは難点だが、最低限の日本語化はされている。細かな点では、主要な国内MNO、MVNOのAPNもあらかじめ登録されていたので、自分の回線に合ったものを選択するだけだった。

 もう1つ、連絡先に関しては、Googleアカウントときちんと同期できるため、スマホとの2台持ちをした際の使い勝手がいい。連絡先の管理はスマホでやっておき、実際に検索や電話をかけるのはJOURNEY Proという使い分けも可能。Googleアカウントでログインできるのは、日本で販売されているフィーチャーフォンにない利点だ。これのおかげで、メールの設定も非常に簡単で、すぐに使い始めることができた。

 ちなみに、上で掲載したJOURNEY Proで撮った写真は、Gmailに添付し、PCあてに送る形で端末内からデータを移している。キャリアメールなどは使えないものの、ある程度、それをGoogleのサービスで代替可能だ。Googleマップもプリインストールされており、経路検索なども行える。フィーチャーフォンではあるが、一部スマホ的なサービスも活用できるというわけだ。

 ただ、アカウントを登録しても、なぜかカレンダーの同期はできなかった。同期設定は済ませているため、筆者の環境で何らかの不具合が起こっている可能性もある。GmailもHTMLメールの場合、文字が小さすぎて読めないことがあった。液晶の解像度が低いためだ。また、GPS対応だが測位が遅いのか、Googleマップで不正確な位置が表示されることもあった。低スペックのフィーチャーフォンゆえに、それなりの制約もある点は念頭に置いておきたい。

●ブラウザ搭載、アプリストアも使えるが、ローカライズは課題か

 ブラウザも搭載されており、Webサイトの表示が可能。動作は速いとはいえないものの、検索してニュースを読む程度であれば、それほどストレスは感じないだろう。一方で、こちらも画面サイズや解像度の問題で、PC向けのサイトは見づらい。全体のごく一部が画面いっぱいに広がってしまうからだ。試しにGoogle検索から飛ぶ形でITmedia Mobileにアクセスしてみたが、モバイルブラウザと判定されず、PC向けのページが開いてしまい、記事を読むのに難儀した。

 KaiOSにはアプリストアも存在しており、アプリを追加することも可能だ。アプリのジャンルを示すタブなどは、きちんと日本語化されている。一方で、現状、そのバリエーションはiOSやAndroidと比べると極めて少なく、日本語化されているアプリも非常に少ない。ミニゲームなどは言語が違っても遊べそうだが、ツールの多くはダウンロードしても使い道がないケースも多い。

 これは標準搭載されているアプリも同じ。例えば「ニュース」アプリは、日本語に切り替えることは可能だが、そうすると中身が空っぽになってしまう。天気予報アプリも現在地が機能しないことがあった。どのような層が利用するのかにもよるが、これまでキャリアのフィーチャーフォンを使っていた人が乗り換えるには、少々クセが強すぎる印象もある。

【訂正:2024年7月27日22時30分 初出時、「GPS非搭載」との記述がありましたが、誤りでした。おわびして訂正いたします。】

 現状、日本で販売されているフィーチャーフォンは、AOSP(Android Open Source Project)ベースの独自OSを搭載しており、アプリをユーザーが手軽にインストールする方法はふさがれている(ベースがAndroidのため、ないわけではないが)。これと比べると、KaiOSの方が自由度は高いが、その自由度が生かし切れていない印象も受けた。

 こうした点を踏まえると、JOURNEY Pro 4Gは、やはり電話やSMS、Gmailなどを中心とした使い方が中心になりそうだ。こうした機能を使う分には、操作性もシンプルで悪くない選択肢といえる。スマホに触れたくない休日に持ったり、データ通信するスマホとは別に電話用のケータイとして持ったりする端末にはなりうる。2台持ちの観点では、Googleアカウントで連絡先を同期できる機能が役に立つ。

 仮にLINEや各種コード決済アプリがあればもう少し用途の幅も広がるはずだが、そのためには、まず日本で端末が普及する必要がある。9割以上のユーザーがスマホを使う中、あえて日本市場向けのフィーチャーフォンにアプリを投入する開発者は少ないだろう。鶏が先か卵が先かになってしまうが、Orbic1社だけで解決できる問題ではないことだけは確かだ。ファンドを通じてKaiOSに出資しているKDDIなど、キャリアの協力も不可欠になる。グローバルでのスケールメリットは生かしやすいだけに、業界ぐるみでの推進も期待したい。

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