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契約しようとしているのは本当に“本人”? 携帯電話ショップ店員から見た「本人確認」と「マイナンバーカード」

ITmedia Mobile 2024年7月28日 11時5分

 ここ数カ月ほど、携帯電話の契約手続きにおける「マイナンバーカード(個人番号カード)」の話が話題に挙がることが多い。

 ネガティブな面では、偽造されたマイナンバーカードを用いて、契約者本人以外に“なりすまして”携帯電話の機種変更を行ったり、SIMカードの再発行を行ったりといった事件が発生した。

 このことを受けて、政府(内閣府や総務省)では携帯電話の契約時の本人確認について本人確認書類のICチップ読み取りを必須化する方向で検討が進められている。対面手続きではマイナンバーカードの他、運転免許証や在留カードへの対応が想定されているが、非対面(オンライン)手続きではマイナンバーカードの利用が必須化される可能性が高い。

 そこで今回の「元ベテラン店員が教える『そこんとこ』」では、携帯電話の契約にまつわる本人確認について、昔の筆者の経験と、現在も第一線で働く携帯電話ショップの店員(スタッフ)からの話を交えつつ解説していきたい。

●「買う側」だけでなく「売る側」も大変な本人確認

 携帯電話の契約手続きで本人確認書類を求められた場合、多くの人は運転免許証を提示してきたと思う。筆者自身も、自分が客(契約する側)として契約する場合は運転免許証を出すことが多く、店員(契約を受け付ける側)としても、本人確認書類として受け付けることが一番多かったのは運転免許証だった。

 ただ、運転免許証での手続きが多いとはいえ、特に都市部では運転免許証を持っていない人も珍しくない。そのような人は「パスポート(旅券)」「住民基本台帳カード(住基カード)」「健康保険証」や、外国籍のお客さまは「在留カード」で受け付けることもあった。

 しかし、不正契約防止の観点から、契約時に使える本人確認書類には定期的に見直しが入る。そのため、以前は使えた本人確認書類が無効になったり、別の書類と併せた提示を求められるようになったりすることがある。また、ある通信事業者(キャリア)では単体で受け付けてもらえる書類でも、別のキャリアでは利用不可(あるいは条件付きで受け付け)というケースもある。

 そんなこともあり、筆者が現役店員だった頃は、本人確認が行えず手続きを進められない事案、以前の本人確認書類が使えずクレームに発展した事案、果ては本人が本人であることを証明できる書類を、どうやってもそろえられない事案もあった。

 少し話がそれるが、せっかくの機会なので≪気を付けるべき「本人確認書類」を幾つか紹介しておく。

日本国旅券

 日本国旅券(日本のパスポート)はかつて、有力な本人確認書類として広く通用していた。しかし、2020年2月4日発行分から「所持人記入欄(住所記入欄)」が廃止されたことに伴い、NTTドコモでは本人確認書類としての通用を完全廃止した。

 他のキャリアでは引き続き日本国旅券を本人確認書類として利用可能だが、2020年2月3日までに発行された(所持人記入欄がある)旅券を用意するか、キャリアごとに定められた補助書類と一緒に提示する必要がある。

在留カード

 在留カードを使う場合は、ほとんどのキャリアで国籍国の旅券(パスポート)を補助書類として提示する必要がある。キャリアや契約条件によっては、さらなる補助書類の提示を求められることもある。

 条件次第で在留カード“単体で”本人確認を行えるキャリアもあるが、何らかの補助書類が必要だと思って準備を進めた方がよいだろう。

住基カード/マイナンバーカード

 マイナンバーカードの前身となった住基カードは、ソフトバンクでは本人確認書類として利用できない。他キャリアでは顔写真付きのカードを本人確認書類として利用可能だが、一部のキャリアでは補助書類の提示が必要だ。

 一方、マイナンバーカードは全キャリアにおいて“単独で”本人確認書類として使える。ただし、市区町村が発行した「個人番号(マイナンバー)通知カード」(※2)や「個人番号通知書」は本人確認書類として利用できないので注意しよう。

(※2)個人番号通知カードの発行は、2020年5月25日をもって終了している

健康保険証

 かつては健康保険証も本人確認書類として通用していた。しかし、偽造を含めて健康保険証を悪用した不正契約が相次いだこともあり、全てのキャリアにおいて本人確認書類としては使えなくなった。

 ただし、他の有効な本人確認書類を所持していないことが多い未成年者(18歳未満)の契約手続きでは、キャリアが指定する補助書類と併せて提示することを条件に、確認書類として利用可能だ。

 また、携帯電話回線(端末)の新規契約や契約変更“以外”の手続きについては、引き続き健康保険証を本人確認書類として使えるキャリアもある……のだが、どのような手続きで使えるのかはキャリアによって大きく異なる。そのため、特に成人の場合は健康保険証以外の本人確認書類を用意した方が無難だろう。

 上記の通り、同じ書類でもキャリアによって扱いが異なることは多い。キャリアAでは単体で通用するが、キャリアBでは補助書類が必須で、はたまたキャリアCでは通用しない――そんなこともあるので、特に複数のキャリアを取り扱う併売店の契約担当スタッフは、キャリアごとの本人確認書類の利用可否を頭に入れておかないといけない。

 どのキャリアで問題なく通用する本人確認書類というと、マイナンバーカードか運転免許証(運転経歴証明書)くらいしかない。しかし、運転免許証は一番手頃な「小型特殊自動車免許」でも、都道府県の運転免許センターで試験を受けて合格しないと発行されない。「誰でも所持できて、どのキャリアでも通用する本人確認書類」が必要なら、マイナンバーカードは事実上唯一の選択肢といえる。

 ともあれ、公的機関が発行した正式な書類であり、基本的には「肌身離さず持っているもの」ではあるものの、本人確認書類はお客さま(ユーザー)はもちろん、店員にとっても“大変”なものなことが分かるはずだ。

●現場は「ICチップ読み取り」をどう考える?

 先述の通り、政府は携帯電話の契約における本人確認方法を「ICチップのあるカードの読み取り」に一本化する方針で、特に非対面手続きではマイナンバーカード“のみ”許容する方向で検討が進められている。

 この件について、携帯電話の契約実務を担当する店員はどう思っているのだろうか。複数の現役店員に話を聞いた。

 マイナンバーカードへの(事実上の)一本化に賛成です。運転免許証と違って、年齢層問わず持てることが何よりのメリットです。(感覚的に)マイナンバーカードを持っているお客さまは多いので、これからは「マイナンバーカード持ってますか?」と聞くことで案内の簡略化が可能になると思います。 マイナンバーカードをお持ちでない方についても、(店頭では)運転免許証や在留カードのICチップの読み取りが必須になるとのことですが、イニシャルコストや手続き方法がどうなるかはさておき、偽造書類による不正契約のリスクを大きく軽減できる観点でデメリットはありません。

 iPhoneでは、来年(2025年)の夏までにマイナンバーカードの情報を丸ごと格納できるようになり、Androidスマートフォンでも各種電子証明書以外の情報を格納できるように調整が進められていると聞いています。スマートフォンのマイナンバーカードで本人確認できるようになったら、携帯電話の回線契約や端末購入をもっと気軽にしてもらえるんじゃないかと期待しています。

 (本人確認書類の)ICチップに設定された暗証番号を入力していただく運用にすれば、少なくとも券面だけを偽造した書類での不正契約は防げます。 「目視でどうにかできないのか?」という根性論を言う人もいますが、昨今の“ガワ”の偽造は本当に精巧で、特に運転免許証なんかは肉眼だけで偽造だと見破ることは非常に困難です。過去に「(契約に)偽造免許証が使われた」ということで、警察の方が来られたこともあります。こういうトラブルを未然に防ぐには、本人確認をマイナンバーカードに(事実上)一本化することは歓迎したいです。

 ご覧の通り、少なくとも携帯電話ショップの店員の多くは本人確認書類のICチップ読み取り義務化を歓迎している。先述の通り、現在は本人確認書類のバリエーションが多く、キャリアによって取り扱いが異なるものもある。お客さまが適切な書類を「持っていない」あるいは「取得できない」という理由で申し込みを受理できないことも少なからずある。

 その点、人口の約8割が交付申請を行い、4人に3人近くが保持しているマイナンバーカードを本人確認書類として“最優先”に据えることは、案内の簡素化やトラブルの回避、ひいては成約につなげやすくなると考えているようだ。

 また、店員のコメントにもあるように、昨今の偽造された本人確認書類は、非常に精巧に作られている。実は筆者も、偽造された運転免許証で契約を受け付けてしまい、実務担当者として警察からの事情聴取に応じたこともある(その時は、主に偽造免許証を使った被疑者が契約時にどんな様子だったのかを聞かれた)。

 しかし、偽造が精巧になっているとはいえ、本人確認書類のICチップを読み取り、所持者本人しか知り得ない暗証番号(パスワード)を入れてもらった本人確認をすれば、ほぼ全ての不正契約は防げる。そういう観点では、昨今の政府の動きは正しい方向性のように思える。

 一方で、本人確認書類のICチップの読み取り、特にマイナンバーカードを本人確認書類の“主”に据えることに懸念を持っているスタッフもいる。

●「ICチップ読み取り」で考えられる懸念とは?

 今回、複数の店員に話を聞く中で、ICチップの読み取りによる本人確認に懸念を抱く声もあったので紹介する。

 なぜかマイナンバーカードを極端に嫌っている人っていますよね。なぜそこまで嫌うのか、理由まではちゃんと聞いてないので分かりませんが、まだ持っていないという人も一定数います。 一応、政府方針としては対面手続きの場合は運転免許証や在留カードも許容する方向するとのことですが、無理に本人確認方法をマイナンバーカードに一本化してしまうと、理由があってマイナンバーカードを持ちたくない人や持てない人は手続きできなくなります。そういう人でも受け付けられる基準や仕組みを用意すべきだと思います。

 マイナンバーカードを主たる本人確認書類とするのはいいとして、運転免許証を含む他の書類をどこまで使えるようにするのかという議論はきちんとすべきだと思います。現状の政府方針は「マイナンバーカードか運転免許証のどっちかなら持ってるだろ」「外国人なら在留カードを持ってるから何とかなる」という考えが透けて見えてしまって、ちょっと乱暴な感じを受けてしまうんですよね……。 現状でも、昔と比べると本人確認書類として使える書類は絞られてきていますが、さらに絞ってしまうと本人確認できなくなるお客さまが結構出てしまうのではないかと不安です。

 先述の通り、マイナンバーカードは運転免許証を「持っていない人」「持てない」人でも取得できる、貴重な本人確認書類だ。しかし、店員の話にもある通り、何らかの理由で「持たない」選択をする人や、主に受け取り方法がハードルになって「持てない」という人もいるのは事実だ。

 このままでは、マイナンバーカードや運転免許証(または在留カード)を持っていない人は、携帯電話にまつわる契約手続きを行えない――通信手段へのアクセシビリティーを考えると、解決すべき課題の1つとなるだろう。

●マイナンバーカードをメインに据えると事務負担が減る?

 今回聞き取りを進める中で、複数の店員からICチップの読み取りカードの読み取りで“期待”していることがあるという声もあった。

 マイナンバーカードを含めて、ICチップを読み取るということは氏名や住所の情報を取得できます。制度の議論次第な面はあると思いますが、ICチップの読み取りを顧客管理システムに統合する方向性なら、お客さまの名前や住所の情報にICチップの情報を入力できるようにしてほしいと思っています。 店舗の業態や配備される端末にもよるのですが、お客さまの名前や住所を端末に“手入力”しなければいけない場合があります。名前や住所には普段あまり使わない漢字が使われることがあって、入力に時間が掛かってしまうことがあるんですよね。あと、「ハイフン」と「長音記号(伸ばし棒)」を間違えてしまうことも防げます。 人が入力するからこその手間やエラーが減らせるのであれば、業務的に楽になる部分が多いんですよね。

 お客さまの名前や住所は、契約時に必ず間違いがないかお客さま自身にも確認してもらっています。なので間違えることはめったにないはずなのですが、それでも後から「間違えていた」ということで訂正の手続きを取ることがあります。 契約が済んだ後に「ご契約ありがとうござます」という手紙が届くことがあると思うんですが、あれは契約者の住所や氏名に誤りがないことを確認するためのプロセスでもあります。手紙が届かなかった場合は、不正利用を抑制する観点から回線の利用を停止します。万が一、誤入力で手紙が届かず利用停止となったら、間違いなく大クレームです。 マイナンバーカードで顧客情報の入力を省略できれば、このような間違いによるトラブルを防げます。契約を担う店員としては大歓迎です。

 現状では「本人確認をする際に、書類のICチップを読み取る」という方針は決まっているものの、読み取った情報を契約情報の入力補助に流用できるようにできるようにするかは決まっていない。

 ただ、マイナンバーカードや運転免許証、在留カードのICチップには“正しい”氏名や住所の情報が格納されていることを考えると、煩雑になりがちな「お客さま情報の入力」の省力化につなげる観点で情報を流用したいと考えるのはある意味で当然といえる。

 利用者目線でも、ICチップに格納された氏名と住所の情報を使えば、手続きをスムーズに終えられる上、氏名や住所の間違いによるトラブルを回避できるのでメリットは大きい。

●まとめ

 世間をにぎわせている「携帯電話契約時のマイナンバーカードによる本人確認」だが、少なくとも店舗側は歓迎する声が多い。一方で、お客さま(契約者)視点に立つと、マイナンバーカードの「どんな情報が利用されるのか分からない」という漠然とした不安というのは感じられる。

 あくまでも筆者個人の意見にはなるが、携帯電話契約時のICチップ読み取りの必須化は、手続きの簡略化や本人確認の確度を高めるという点で非常によい施策だと考えている。

 だが、「どうしてもマイナンバーカードを持ちたくない」という人が極端に手続きが面倒になってしまったり、一切の手続きができなくなってしまったりしないようにする工夫や制度設計、マイナンバーカードを活用した本人確認について“正しい情報”をしっかり伝えつつ、“誤った情報”の流布を抑える啓発活動などにも、同時に力を入れてほしいと思う。

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