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IIJmio“長期優遇施策”の狙い 「新規ばかり優遇」からの脱却、旧プランからの移行は課題か

ITmedia Mobile 2024年7月31日 11時10分

 旧料金プランの既存利用者優遇策として「長得」を展開していたIIJmioだが、ガイドラインの改正によってそれが囲い込みと見なされ、現行のギガプランでは導入が見送られていた。これを現在の形に合わせて復活させたのが、「IIJmioご愛顧感謝特典」だ。特典は、その中身が大きく3つに分かれる。

 1つは端末割引の「mio優待券」、もう1つが秋に始まる予定の「家族割引」だ。3つ目が「長期利用特典」で、契約年数に応じてデータ容量が追加される他、SIM交換や再発行の手数料が年1回無料になる。回線を追加したい人のために初期費用割引も実施する見込みだ。この長期利用特典は冬にサービスを開始する。

 では、なぜIIJmioは既存の契約者に向けた特典を拡充しているのか。その狙いを、IIJでMVNO事業を率いる常務執行役員の矢吹重雄氏と、コンシューマー事業を統括するMVNO事業部コンシューマサービス部長の亀井正浩氏に聞いた。※料金は全て税込み。

●端末ラインアップを気に入ってIIJmioに残っている人が多い

―― 発表時には、ご愛顧感謝特典を導入できるようになった背景があまり語られていなかったと思います。まずは、この点を教えてください。

亀井氏 電気通信事業法27条の3が解除され(23年12月の省令改正によって、IIJは対象事業者から外れることになった)、すぐにできることはありました。ただ、旧プランの方に出している長期利用割引だけだと物足りない。何かプラスαになるものが必要と考えていた中で、楽天モバイルが家族割(最強家族プログラム)を開始しました。

 こちらも家族割はやりたいと思っていたので、かぶってしまいましたが(笑)、キャンペーンという形で追い付くことにしました。家族割もそうだし、mio光とのセット割もそうで、契約いただけることのメリットがあれば満足度向上につながります。

 また、IIJmioは外部評価で高評価をいただけていますが、端末ラインアップを気に入って残ってくださる方がけっこうな割合でいます。この時期に端末が多く発売されることは分かっていたので、6月から8月の間に優待ができればという思いがありました。契約期間が長いだけでなく、別のきっかけで受けられる優待の仕組みあればということで端末割引を導入しています。

 ただし、端末割引に関しては、27条の3とは直接的な関係はありません。それよりも、直近で端末を買われた方に向け、メリットを付与できることを考えました。

矢吹氏 お客さま還元の発想は3年ぐらい前からあり、事業部でも顧客満足度を上げるという方針を出していました。IIJmioが最もIIJmioらしいところは、格安SIM黎明(れいめい)期から長く使い続けているお客さまが多いことです。そこに対し、いかに還元するかを考えました。長得は規制されてできなくなってしまいましたが、いよいよ27条の3の対象から外れたので、いろいろとできることが増えました。

 解約率という意味だと、2年ぐらい前がピークで今は下がっています。当時は短期解約する転売ヤーがいたり、ahamoショックもあったりで、解約率が高まっていました。そのときにできることが少なかった。ギガプランを出し、徐々に変わってきてはいますが、端末に関しては、買っていただいた方を大事にするということをやっています。

―― 逆に言えば、長期利用特典のようにデータ容量を付与するとガイドラインに抵触していたということですね。

亀井氏 その通りです。割引に関しては、MNPで割り引くよりも金額は低くなっています。

●既存ユーザーからは「新規ばかり優遇している」ように見える

―― 端末割引は、解約抑止という側面もあるのでしょうか。

亀井氏 1年目から2年目、2年目から3年目に変わるところで、買っていただいた端末によっては解約率が上がることがあります。買い替えの際に、他も検討してしまうのでしょう。新規契約向けのキャンペーンは大々的にやっていますが、それも、既存のユーザーからは「新規ばかり優遇している」ように見えてしまいますし、実際そのようなお声もちょうだいしていました。

―― ただ、どのぐらいの割引があるのか、実際に端末を買ったユーザーにしか分かりません。ここはいかがでしょうか。

亀井氏 早速X(旧Twitter)にさらされてしまいました(笑)。金額は1000円が下限で、最大は7000円ぐらいまで出しています。

―― その金額は、どのような要素で決まるのでしょうか。

亀井氏 契約している料金プランは関係がなく、例えばOPPOをかつて買った人が1年たった場合、2年たった場合というような形でご支援する額を決めています。その意味では、完全に時期とメーカーですね。

―― 今(※7月上旬)は「Reno11 A」と「moto g64 5G」「Redmi Note 13 Pro+ 5G」の3機種ですが、他にも広げていくご予定はありますか。

亀井氏 はい。他のメーカーからも日本市場に力を入れていくと伺っているので、新しいものはもちろん、奇抜なものも対象にしていきます。この3モデルは、何年も売っていたのがこのメーカーだったからです。

―― 基本的には例えばOPPOを買った人にはOPPOのクーポンが届くという形でしょうか。

亀井氏 そうです。

―― 金額や付与状況が分からないことがあり、どの程度メリットがあるのかがイマイチ伝わりづらいのですが、見える化するようなことはお考えですか。

亀井氏 金額をオープンにするのがいいのか、対象の母数をオープンにするのがいいのかはありますね。今はちょうど3メーカーのクーポンを配っていますが、他社の決済アプリのように常にクーポンがあるような状態にした方がいいのか、その辺のやり方は模索していかなければいけないと考えています。せっかくアプリを開いても、そこが空っぽだとむなしくなるというのはあると思います。そこにはまだ配慮できていませんが……。

―― 今はミッドレンジが中心ですが、IIJはハイエンドモデルも販売しています。こういった端末に、2万円、3万円のようなクーポンを出すこともあるのでしょうか。

亀井氏 そもそも高価格帯の端末は買っていただける方が少ないので、皆さんが買うようなものを中心にしています。そのメーカーを買った経験がある人が少ないと、母数も減ってしまいます。今回の3メーカーは繰り返し販売していて、買ってもらえている端末です。3メーカーを足すと、何十万という数になりますからね。

矢吹氏 メーカーさんとどう育てていくか次第で、考えられることではあります。例えば「Xiaomi 14 Ultra」の次が出たら、メーカーさんも当然(割引を)やりたいと考えるはずですから。

亀井氏 そこはメーカーさんと話をしながらですね。機種を扱う上で、プロモーション費用を双方から出し合うようなことはしています。

●スマホ以外が優待の対象になる可能性も

―― スマホ以外というのもありえるのでしょうか。

亀井氏 そういうものも考えていますし、量販店で購入する際のためのものもできると思っています。端末(スマホ)ありきとは、考えていません。

―― まだ始まったばかりですが、成果はいかがでしょう。

亀井氏 まだ1回目に配った方のクーポンが有効期限を迎えていないので正確には分かりませんが、端末だけを買っていただけるケースは増えています。新しい商品が出たのを認知してもらえる機会も増えました。

―― 既存ユーザーを優遇する一方で、新規契約の割引もそこそこ大きくついています。ここは変えないのでしょうか。

矢吹氏 そこは従来通りです。今や端末販売のIIJのようになってしまっていますが(笑)。ここは、亀井と辻(久司 副部長)がしっかりやっています。

 メーカー側も、SIMフリーマーケットに対する見方が徐々に変わってきていて、だいぶこちらに振り向いていただけるようになりました。ただ、せっかく端末を買ってIIJmioに入っていただけたのであれば、買い替えるときもそのメーカーを選んでいただきたい。メーカーとは、OPPOならOPPO、XiaomiならXiaomiにちゃんと買い替える仕組みを作ることに協力したいとお話ししています。

●家族割引と同時に「名義変更」のめども立った

―― 次に、家族割引についてうかがいます。この狙いを教えてください。

亀井氏 旧料金のファミリープランに残られている方が、まだたくさんいます。複数回線割引への要望もあり、これが響くと考え形にしました。キャンペーンというのではなく、サービスとして一律条件で見合った方には必ず適用するようにします。

矢吹氏 これもずいぶん前からやりたかったことの1つです。ただ、名義変更ができる仕組みがないと、お子さんが巣立ったときなどに解約するしかなくなってしまう。その辺をちゃんと作らなければいけないということがありました。名義変更は開発の難易度が高い一方で、なかなか優先度を上げられなかったのでリリースには時間がかかりました。そのめどが立ったので、合わせて家族割引も展開していきます。

―― ちなみに、離れて暮らす家族や家族ごとに名義が違う場合には適用されないのでしょうか。

亀井氏 支払いグループの中に複数回線があれば、音声プランから100円ずつ引いていく仕組みです。そこはあまり考えていませんでした。

矢吹氏 Web申し込みなので、(家族であることの)チェックする手間があまりかけられないという事情もあり、われわれの持っている仕組みの中で、同一支払いを家族の定義にしています。ただ、おっしゃる通り、家族が別のカードで払っていることもあるので、それをシステム的にどう対応していくかは課題の1つです。

―― 100円割引という金額はどのように決まったのでしょうか。

亀井氏 先に楽天モバイルが110円割引をやっていましたが、私たちもすぐにキャンペーンとして100円割引を展開しました。それをそのまま引き継いだ形です。もとの料金が安く、原資もあるので大幅な割引は難しい。プランごとに段階をつけることも考えましたが、一律100円の方が分かりやすいのでこのようにしました。

―― 大容量プランだと割引率は下がってしまうので、そこだけ手厚くすることもできたような気がします。

亀井氏 それも考えましたが、2GBだと割引がなく、30GBだと割引があるというのもちょっといやらしいので、ボツにしました。分かりにくいですし、なぜ30GBからなのかという線引きに答えが出ないからです。

●ギガプランの方が安いのに、いまだ旧プランを使い続ける人も

―― ファミリーシェアからの移行を促進する狙いもありそうですが、今どのぐらい残っているのでしょうか。

亀井氏 プランごとの細かな内訳は出していませんが、旧プランがまだ10数万ほど残っています。その3割、4割ぐらいがファミリーシェアプランです。既に受注停止にはしていますが、SIMの追加やプラン変更はできます。クローズしたい気持ちはあるものの、ファンもいてそれもなかなか……。

―― でも、金額的にはギガプランを複数回線持った方が安いですよね。

亀井氏 安いです。ただ、お手続きが面倒というだけなのだと思います。実際、私の友人でもいますが、「何で変えてくれないの?」と聞いたら、最初に手続きしたときで十分安かったから……と言われてしまいました(苦笑)。

矢吹氏 自分自身もそうですが、電気が自由化したときに、調べれば調べるほどよく分からなくなってしまい、結局、今でも東京電力から変えていません(笑)。果たしてそれに変えると、自分の家の電気代が安くなるのかが分からなかったからです。多分、これは業界全体の問題なのかもしれませんが、携帯電話も結局どれだけ安くなるのかが、分かりづらいのではないでしょうか。MVNOの場合、昼の品質問題はありますが、料金は確実に安くはなります。その中での比較となると、結局どれがいいのとなってしまうのかもしれません。

●家族での契約やSIM発行手数料の無料化で解約抑止につなげる

―― 最後の長期利用特典は、ガイドラインで昨年までできなかったことですね。

亀井氏 はい。ただ、ギガを配れと言っても、3GB、4GB、5GBと出すわけにはいかないので、ちょっと足りないときに使ってもらえるようなものを考えました。これをきっかけに上のプランにしてもらいたいと欲を出してもよかったのかもしれませんが、それはないかということで今の形になりました。

 オプションサービスの割引も以前はありましたが、これも今回はなしにして、手数料の割引やギガの付与に絞っています。

―― 初期費用の割引というのは、これをフックにして家族での契約につなげるという狙いもあるのでしょうか。

亀井氏 はい。まだまだ複数回線契約は少ないですからね。契約を家族内で分けているのかもしれませんが、ギガプランの4分の1程度しかいません。ちょっとずつ増えてはいて、アプリでシェアしやすいようにもしていますが、長期利用特典が切り替えるきっかけになればと思っています。今後は、訴求の仕方も変えていきたいですね。

―― 大手3キャリアでは家族で契約があると解約を抑止できるという話がありますが、これはMVNOも同じでしょうか。

亀井氏 ありますね。IIJmioでも、光回線をご契約している方の解約率は低くなっています。

―― SIM交換や再発行手数料も無料ですが、これはeSIMへの機種変更を想定しているのでしょうか。

亀井氏 はい。再発行時のSIMプロファイルの発行手数料は220円や433円かかりますが、音声通話SIMから音声eSIMへ形状変更するようなときの2200円が無料になります。これがあると機種変更のときに、他社に行ってしまうきっかけになるからです。eSIMに変えたいという人から2200円取るのはちょっと違うのではないか。こういうものがあれば、長く使っていただけると思います。

―― 既に端末の優待は実施中ですが、家族割引は秋、長期利用特典は冬と、時期がずれています。これはどのような理由でしょうか。

亀井氏 家族割引は4月からキャンペーンをやっていたのですが、すぐに始めるとかぶってしまう人が出てきます。キャンペーンからサービスへと切れ目なく続くようにしたかったので秋になりました。これが家族割引の事情です。

 手数料無料やギガの付与は、開発の順番的なことが関係しています。家族割をするにあたっては、矢吹が申し上げたように名義変更をきちんとできるようにしたいということもありましたが、プロモーションの観点で、先にお伝えしています。

矢吹氏 開発の関係もあってリリースのタイミングは異なりますが、お客さまにどう還元していくかをストーリーでしっかり見せたいことが背景にあります。長期特典は慎重に作らないと誤ったルールを適用してしまうミスもありうるので、そこはしっかり時間をかけて作ることにしました。

●取材を終えて:解約抑止の効果は期待できるが、改善してほしい点も

 既存契約者への優遇が可能になったことを受け、端末割引や家族割引を3点セットとして打ち出したのがIIJmioご愛顧感謝特典だ。端末割引や家族割引は以前のガイドラインでも実現可能だったが、あえて長期利用特典の再導入とタイミングを合わせて認知度向上を図っていることがうかがえる。新規契約の獲得を増やすほどの大きなメリットはないものの、ユーザーの定着を促進し、解約率を下げる効果はあるはずだ。

 ただ、家族割引が同一支払いのグループだけという点はやや気になった。共働きの家庭などで、同居しながら携帯電話代の支払いを分けているケースもある。矢吹氏も話していたように、この点は課題の1つといえそうだ。クーポンに関しても、対象者のみで額も一般には公開されていないため、やや盛り上がりに欠ける印象を受けた。ユーザーに認知してもらうためには、プラスαの仕掛けも必要になりそうだ。

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