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楽天三木谷氏が語る「AI」×「モバイル」の未来像 「楽天モバイルAIアシスタント2.0」も展開予定

ITmedia Mobile 2024年8月2日 9時3分

 楽天グループは、同社のエコシステムを丸ごと体験できるイベント「Rakuten Optimism 2024」を8月1日から4日までの4日間、東京ビッグサイトで開催する。初日のビジネスカンファレンスでは、同社代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏がオープニングキーノートで登壇。AIに対する取り組みを中心に語った。

●楽天は「AIを民主化」する そのために必要な3ステップ

 冒頭、ゆずの「栄光の架橋」をBGMに、楽天グループの28年の歴史を振り返るビデオが流れた。三木谷氏も「当時のインターネット回線の通信速度は約14.4kbps。誰もインターネットで物を買わない、そもそもインターネットビジネスなんて成功しないと言われたときから、あらゆるチャレンジを行ってきた」と振り返った。

 当時、三木谷氏は「それまでのスタンドアロンのコンピュータの世界から、ネットワーク自体がインテリジェンスを得ていくと思った」という。翻って現在は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やLLM(Large language Models:大規模言語モデル)という「今までにないインテリジェンスが出現している」と見る。

 三木谷氏は、人間の脳細胞の数(約1700億個)とインターネットにつながっているデバイス数(約750億個、CPUの数では約1000億個)を例に出し、「情報処理能力が爆発に上がり、AIがあらゆるものを変えていく」と語った。そして、脳細胞をつなぐニューロンのように、インターネットや携帯ネットワークが全ての情報をつなげる役割を担っていると語る。

 楽天がやっていることは、単に通話や通信を安くすることではないことを三木谷氏は強調する。「新しく出現していくAI仮想社会の伝送部分を圧倒的に効率化することによって、世の中が変わる。その震源地が楽天モバイルであり日本であるということ」と同氏。また、誰かが使えるAIではなく、世界中の人が使えるAI、「AIの民主化」を進めていきたいと語った。

 では、どのようにAIを民主化していくのか。それには3つのステップがあるという。

 まずは、データでAI技術基盤を拡大。第2ステップとして楽天グループ内でAI活用のモデルケースを作る。そして、それを社外にオープン化していくという3ステップだ。

 三木谷氏は、世界の企業の中で楽天グループはAI分野で非常に注目されていると語る。楽天自身が開発している生成AIやLLMも注目されているが、それ以上に注目されているのが豊富なデータを持っていることだという。

 「国内でほとんどの方が楽天IDを持っていて、楽天グループの何らかのサービスを使っている。5000万人弱の方が楽天グループのWebサイトやアプリにアクセスし、そのデータがどんどんたまっていく。ほとんど通貨に近い楽天スーパーポイントは7000億円近く発行され、もしかしたら今年(2024年)はそれを超える。グループのサービスも70以上。世界では18億人の人が楽天IDを持っている」

 こうした「GoogleやMeta、Amazonなど世界のハイパースケーラー企業でも持っていない」幅広くて深いデータにモバイルが加わった。モバイル事業に参入したことによって、「現在750万人弱の楽天モバイルのユーザーさんがいるが、その方々の行動データが、個人情報保護に抵触しないような形でわれわれのデータベースの中に入ってきて、皆さんのサービスにAIを通して使えるようになっていく」とメリットを説明した。

 楽天には2つのAI戦略があるという。1つはOpenAIをはじめとする生成AIやLLMの外部企業とのパートナーシップ。もう1つは独自のLLM開発だ。三木谷氏が紹介したLLM「Rakuten AI-7B」は「小ぶりのAI」だが、日本語の処理における評価が高く、「世界のトップクラスにある」と自信を見せる。

 第2ステップとなるAI活用。三木谷氏は参考例として、楽天グループ社内でのAI活用を紹介した。楽天では、具体的な目標を設定してAIを活用しているという。その目標が、マーケティング効率20%アップ、オペレーション効率20%アップ、取引先企業のオペレーション効率20%アップという「トリプル20」だ。

 そして3つ目のステップ、どうやってサービスを外部に提供していくかは、各サービスの戦略共有会やキーノート後のAIセッションなどで詳しく紹介するとしたが、「今までの店舗運営やサービス運営、それ以外の事業でも、ビジネスのやり方は根本的に変わっていく」とAIの効果を強調した。

●「楽天グループの全てを包含したコンシェルジュ」を開発

 間もなく導入されるAIサービスとして、「楽天グループの全てを包含したコンシェルジュ」のデモビデオが紹介された。

 ユーザーがタルトの画像を示し、AIアシスタントに「これを作りたいので材料教えてください」と音声で入力すると、AIアシスタントは「おいしそうなレモンタルトですね」と受けて、小麦粉200g、バター100gなど材料を回答。それを受けてユーザーが「タルトに合う小麦粉を教えてください」と質問すると、AIアシスタントは適した小麦粉を説明し、楽天市場で購入できる小麦粉を表示した。さらにユーザーが「500円以内がいいな」と指示すると、条件に合った500円以下の商品を表示した。

 三木谷氏によると、買いたいものがはっきりしていない「何となくこんなもの」でも検索が可能だという。

 「これに加えて、『これに合うコーヒーが欲しい』とか、『これを食べられる喫茶店がどこかにありますか?』とかも(調べられる)。ぐるなびなど、われわれのグループ企業にサービス展開していく」

 ショッピングやトラベル、さらには金融など、「さまざまなことを全部を拾って答えを返してくれる」コンシェルジュとなる予定で、「楽天グループのAI力は、世界の中でもトップクラスに行っているのではないか」と自信を見せた。

●若年層を中心に楽天モバイルのユーザーが増えている

 三木谷氏は「楽天グループが、なぜモバイルという非常に挑戦的なことをやっているのか」も語った。冒頭で述べたように楽天モバイルは「人工知能の分野におけるニューロン、伝送路を作っている」が、今までのモバイルネットワークは「古い専用型のサーバを使った人力によるネットワーク」で、楽天モバイルのネットワークは「それまでは不可能と言われた仮想化(ネットワーク)。ソフトウェアによって構成されていて、抜本的、根本的に違うもの」とおなじみの説明を展開した。

 仮想化ネットワークのメリットは、「単純にコストが安いことだけではなくて、人間ではなくAIがネットワークをデザインし、マネジメントできること。設計、構築、デプロイ、セキュリティ、運用監視、それからトラブルがあったときの対応も、基本的にはAIベースで行っている」。

 また、ユーザー対応も今後はAIでの対応が増えていく。今後展開予定の「楽天モバイルAIアシスタント2.0」は、「こんなサービスないですか?」「海外に行くときに使って大丈夫ですか?」「家族が増えたけど、どうしたらいいですか?」といった質問にもAIがより自然な形で回答し、サポート。携帯市場の民主化を進めるという。

 三木谷氏は「AIはみなさんのもの」といい、楽天モバイルは「みなさんをつないでいく伝送路を安く、自由に、制限なく使っていただくため」に最強プランを提供。携帯料金の値下げに寄与し、消費者物価指数の上昇も抑制していると語った。

 「今まで出してこなかった」楽天モバイルユーザーの年齢構成も紹介した。2024年6月末時点の人口対契約回線比は、23歳から29歳が9.7%、30歳から34歳までが10.7%、35歳から39歳が10%、40歳から44歳までが8.5%と、若者層を中心に楽天モバイルユーザーが増えている。

 楽天モバイルのユーザーになると「副次的な効果」もあり、契約者は非契約者より楽天グループのサービスを2.45個多く使う。買い物も約50%多い。

 三木谷氏は「エコシステムの根幹は楽天モバイルが加わることによって強化されている」と述べ、MMD研究所の「通信4キャリアユーザーの共通ポイント・金融サービス利用に関する調査」のデータも紹介。4キャリア全てで、楽天カードと楽天証券の利用者が最も多い。楽天ポイントも他3キャリアで2位。楽天経済圏の強さをアピールした。

●「楽天モバイルの方が電波が入る」という声も

 ネットワーク品質の向上についても言及。6月下旬から商用サービスを開始したプラチナバンドについて、「プラチナバンドが始まるということは、本当に画期的なことなので作った」というテレビCMを紹介した。

 5Gの取り組みも紹介。「爆発的に5Gネットワークを増やして」おり、楽天の5Gネットワークは8割超でMassive MIMOを採用するという。「そうすると、ますますスピードがよくなってくる。でも、いくら使っても2980円(税別)というところがミソ」。また、人口カバー率は他社と遜色ない99.9%。「最近は『楽天モバイルの方が(電波が)入る。この会社は入らない』という言葉をたくさんのところで聞くようになった」と胸を張った。

 2026年には、米AST SpaceMobileの衛星とスマホ間がブロードバンドで直接つながる「スペースモバイル」を始め、「自然災害が起こっても、必ずインターネットにつながる状況を確立する」。

●法人のDX化、仮想化ネットワークの世界展開に取り組む

 楽天モバイルは法人市場にも参入している。三木谷氏は「楽天市場の売り上げを上げるだけじゃなくて、もう一歩踏み込んで、DXのお手伝いをしていこうと思っている」と発言した。

 そのために用意したのが「最強プラン ビジネス」。法人携帯を使ってもらいながらトリプル20の実現を支援するという。事例として紹介した木下グループでは、楽天モバイルから8000台のスマホを導入している。また、OpenAIの最新モデルを搭載した法人向けのAIチャットサービス「Rakuten AI for Business」を提供予定であることも紹介した。

 三木谷氏は、今回のキーノートの構成やネタのいくつか(人間の脳細胞の数、世界でネットワークにつながっているデバイス数、CPUの数など)をAIから抽出したという。「スタッフの一人一人、仕事の内容に関わらず、AIが手元にあるということは効率を圧倒的に上げていくと思う」とAIの活用を推奨した。

 他方、楽天モバイルのネットワーク技術は、楽天シンフォニーによって世界展開されている。

 「楽天モバイルのネットワークは、世界最先端のAIベースのネットワーク。これを海外でも提供していくべく、さまざまなソフトウェアを開発し、使っていただく。そうすると世界中の人がネットワークにつながる」

 「言葉を選ばなくてはいけないが」と断りつつ、「今や仮想社会、仮想ネットワークは、実社会よりも重要になりつつある」と三木谷氏。「仮想経済の上に実経済があると思っている。その仮想経済を支えるのが、ニューロン部分である情報ネットワーク。その中核がモバイルネットワークであり、楽天グループはその革命を行っている」と述べた。

 「われわれとしては、世界もだけど、まずはやっぱり日本を元気にしたい」とし、「少しだけ先を見て、そこに向かって果敢に挑戦し、道を切り開いていくこと」が楽天グループの役割と語った。

 「AIによって世の中は根本から変わる。ユーザーとして本当にそう思っている。それを皆さんと共に実現していきたい」

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