Infoseek 楽天

通信品質を磨いたら「auマネ活プラン」が好調で、金融事業にもプラス効果(課題もあり)――KDDI高橋社長が語る2024年度第1四半期決算

ITmedia Mobile 2024年8月3日 6時0分

 KDDIは8月2日、2024年度(2025年3月期)第1四半期の連結決算を発表した。売上高は前年度同期比4.2%増となる1兆3891億3800万円、営業利益は同3.9%増となる2769億8800万円で増収増益となった。業績予想に対する進捗(しんちょく)率は、それぞれ24.1%、25%となり、順調な結果であることを高橋誠社長はアピールした。

●MVNO/ローミング収入減も通信収入はプラス 秘密は「通信品質」

 営業利益を見ると、グループMVNO収入(※1)や楽天モバイルからのローミング収入が計62億円減少した一方で、マルチブランド通信ARPU収入(※2)が29億円増、金融/エネルギー事業が46億円増、DX(ビジネス)事業が54億円増となり、差し引きで1030億円の増益となっている。

(※1)KDDIグループが運営するMVNOサービスによる収入(※2)au/UQ mobile/povo各ブランドにおけるハンドセット(音声通話対応)端末における収入(沖縄セルラー電話との合算)

 マルチブランド通信ARPU収入は前年度同期の3707億円を超える水準で、業績の改善に貢献している。これを支えるのが、通信ネットワークの強化だ。

 同社では、au 5GにおいてSub-6エリアを高密度に展開することで、通信品質を向上す戦略を取っている。Sub-6基地局の数でも、同社グループは携帯4キャリアの中では最多の約3.9万局を開設しており、現在もエリアの拡大を進めている。

 このSub-6エリアについて、高橋社長は「(4G LTEからの)転用エリアと比べると、通信速度が約3倍に向上している」と説明する。

 また、同社グループは3.7GHz帯において近接した2つの周波数ブロック(100MHz幅×2)を保有しており、3.7GHz帯と4GHz帯の2つの周波数帯に対応した「Massive MIMO」を導入することで、「通信品質向上と効率的なエリア展開が可能」だという。

●携帯回線の解約率は増加傾向 なのに収益が改善したのはなぜ?

 KDDIの主力である「パーソナルセグメント」では、事業のベースとなるスマートフォン稼働数が3246万台まで拡大した。回線の解約率は、UQ mobileやpovoを含む「マルチブランド」基準では1.11%と上昇傾向にある。ただし、メインブランドの「au」における解約率は「0.5%より上だが、1%よりは低い――その中間ぐらい」で、低水準を維持しているという。

 解約率上昇の背景には、SIM単体での契約があるという。SIM単体で契約したユーザーは、短期でキャリアを移動することが多く、「健全かどうかという話は置いておいて、それが影響して解約率が上昇している」と高橋社長は説明。SIM単体で契約したユーザーの流動性と共に、解約率の推移を注視していきたいとする。

 ブランド別の通信ARPU(1契約当たりの収入)はauブランドで約3%、UQ mobileで約8%のプラスとなったという。auブランドでは機種変更時に使い放題プランに切り替える人が8割超となったこと、UQ mobileブランドでは新規契約時に中/大容量プランを選択する人が7割超となったことが、ARPUの“押し上げ”に貢献した。また、UQ mobileからauへ移行するユーザーが前年度同期比で約2.2倍になったことも、収益のプラスにつながったようだ。

●金融連携の「auマネ活プラン」も好調 ただし課題もあり

 KDDIでは、通信サービスと付加価値サービスの連携強化も進めている。特に金融サービスと連携した「auマネ活プラン」は、7月に100万契約を突破するなど好調で、解約率が他のプラン(※3)と比べて約2割改善し、通信ARPUも約1割増となったという。

(※3)auマネ活プランではない「使い放題MAXプラン」シリーズ

 auマネ活プランのユーザーは、「auじぶん銀行」の口座保有率が他のユーザーと比べて約4.8倍多いという。auじぶん銀行は、対前年度比で預金残高が53.3%増、住宅ローンの貸し出し残高も56%増で、住宅ローンの融資実行累計額も4.5兆円に達しているという。auマネ活プランの成長は、金融サービスのプラスにもつながっているようだ。

 同プランは、auじぶん銀行だけでなく、auフィナンシャルサービスと共同で発行するクレジットカード「au PAY カード」にもプラスの効果をもたらしているという。一方で、同じ金融サービスでも「auカブコム証券」の利用は「大きく伸びている状況ではない」。2024年1月から「新NISA(少額投資非課税制度)」が始まったものの、口座開設数はそれほど伸びていないようだ。

 auカブコム証券は「少し立て直しが必要」ということで、KDDIは共同経営パートナーである三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)との間で協議を進めているとのことだ。

●その他の経営上の取り組み

 決算説明会では、他にも注目すべきポイントがあった。まとめて紹介しよう。

ローソンは9月中に「スクイーズアウト」

 KDDIは5月、コンビニエンスストアチェーンを運営する「ローソン」をTOB(株式公開買い付け)によって持分法適用関連会社とした。ローソンは臨時株主総会の決議により7月24日をもって非上場化され、9月にはスクイーズアウト(※4)も完了する予定だ。

 スクイーズアウトが完了すると、ローソンはKDDIと三菱商事の折半出資会社となる。今後、ローソン、KDDI、三菱商事の3社は「Real×Tech Convenience」を目指して協議を進めていくという。

(※4)株式を強制的に買い取ることで、少数株主を“締め出す”手続き。上場していた企業を非上場化する際にTOBと併用されるケースが多く、通信関連ではNTT(日本電信電話)がNTTドコモを完全子会社化するプロセスでも用いられた

プラチナバンドを得た楽天モバイルをどう見る?

 先述の通り、収入面では楽天モバイルから得られるローミング収入が減少している。一方、700MHz帯(プラチナバンド)を獲得した楽天モバイルは、TVCMなどでさらなる“攻勢”を仕掛けている。

 そんな楽天モバイルについて、高橋社長は「750万契約を超えて、純増ペースは速いと注目している」と語る。KDDIから同社への流出も見られるものの、データ利用量の少ないSIM単体ユーザーの移動が多いため、「大きな影響はない」と見ているという。

 KDDIは、自社から楽天モバイルにMNPした利用者の声を調査したという。すると、通信品質に関する不満が出ているとのことで、5GにいけるSub-6整備を始めとした通信品質の良さをアピールしていくという。

 ちなみに、楽天モバイルの設備投資について、高橋社長は「(プラチナバンドの)開設状況を見ていると、それほど積極的に投資しているようには見えない。あれだけアピールしている割に投資はしないんだなあという印象」と述べている。

生成AIにも注力

 注力する生成AI領域において、KDDIは大規模計算基盤向けには1000億円規模の投資を行う計画だ。

 具体的には、シャープの堺工場(堺市堺区)の跡地に「AIデータセンター」を構築することを検討する他、既にデータセンターを設置している東京都多摩市でも、データセンターの増設を決めるなど、設備投資をさらに推進する。

 LLM(大規模言語モデル)は、ELYZAやNICTと協業して研究開発を進める。生成AIを活用したソリューションに関しては、アルティウスリンクとの協業による「次世代コンタクトセンター」や、野村総合研究所との協業による「高セキュリティAIの活用推進」といった取り組みを進めていく。

 高橋社長は、「生成AIはこれから本当に面白い分野」と強調。すでにKDDI社内では社員の8割以上が毎日生成AIを活用しているという。「デジタルBPOにおけるカスタマーケア領域が“一丁目一番地”で、世界のどのキャリアに聞いてもこの分野だという」と、高橋社長はニーズが高い分野であることを説明する。

 生成AIについて、高橋社長は「これから非常に重要になるのが、通信にどう活用するか」と指摘する。通信のオペレーションにおける生成AIの活用は当然として、「オンデバイスAIが非常に大切」なのだという。

 「クラウド側」と「エッジ側」のハイブリッド処理を、どのような比率で分担するか――その観点から、今後は通信だけでなく端末側の処理能力も重要とも語った。

この記事の関連ニュース