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ソフトバンク宮川社長が語る「経済圏の戦い」「PayPay黒字化」 “AIスマホ”への思いも

ITmedia Mobile 2024年8月6日 22時48分

 ソフトバンクは8月6日、2025年3月期第1四半期の連結決算を発表した。売上高は前年同期比7.4%増の1兆5357億2200万円、営業利益は同23.4%増の3039億2700万円で増収増益。全セグメントにわたって増収増益となり、特に決済サービスのPayPayは連結後初の黒字化を達成した。

 通期予想に対して、営業利益と純利益の進捗率がともに30%を超えており、同社の宮川潤一社長は、「思った以上に順調なスタート」と胸を張る。中期経営計画における第2フェーズ3カ年の最終年度として、宮川氏は計画に対して前倒しで進展しているとアピールする。

●好調のモバイル事業 3件の通信障害はいずれも異なる原因

 売上高の1兆5357億円、営業利益の3039億円はともに第1四半期の業績としては過去最高を記録。純利益も同11%増の1625億1000万円と2桁成長を達成した。

 セグメント別でも、ファイナンス、ディストリビューション/その他・連結調整、エンタープライズの3事業で前年同期比2桁の増収。全セグメントで2桁の増益となっていずれも順調だった。

 主力のコンシューマー事業は、売上高が同2%増の6817億円、営業利益が同6%増の1564億円だった。モバイル事業は同76億円(2%)増の3923億円。携帯4割値下げの影響で続いた減収は昨年(2023年)度に解消し、その後の増収基調が同期も継続した。スマートフォン契約数も同4%増の3090万と堅調に推移した。

 モバイル向けには、対話型AI検索エンジンのPerplexityと戦略的提携を発表。同社モバイルユーザーに対して有料版(月額2950円/年額2万9500円相当)を1年間無料にする施策を実施した。同サービスは複数のAIモデルを利用するAI検索プラットフォームで、「AI検索エンジンとはどういうものか体験してもらうためにお試しいただく」(宮川氏)ためで、ユーザーがAIに触れて今後のAI利用拡大につながることを狙った。

 なお、ソフトバンクは短時間ながら、7月23日、28日、8月2日と立て続けに通信障害を起こしている。それぞれ原因が異なり、共通の問題があったわけではないとのことで、「太陽フレアや熱暴走などいろいろな原因が言われるが、実はそうではなくて、我が社の夏ボケ。もう少しいろいろと緊張感を持ってやれば防げた」と宮川氏は厳しいコメント。

 VoLTE交換機が再起動またはハングアップするなど、それぞれ異なる交換機で別々の理由によって障害が発生したということで、「対処が少し遅かった。現場に発破をかけて夏休み返上で総点検を命じた」と宮川氏は話した。

●ドコモのポイ活や楽天モバイルの影響は?

 携帯各社が金融サービスとの連携を強化して「経済圏の広さを競い合うフェーズに入っている」(同)状況だが、新たにNTTドコモが「eximo ポイ活」プランを発表。ソフトバンクは「ペイトク無制限」プランを提供して先行しているが、宮川氏は「PayPay利用の何割かを還元するように、ポイントの出し方をできるだけシンプルにした」とコメント。

 あえて複雑な条件が必要ないように検討したプランだとしており、「個人的にはまだまだペイトクの方が使い勝手がいいと感じている」と宮川氏。KDDIも「auマネ活プラン」を提供しており、各社がそれぞれの経済圏で競争する状況を歓迎。対抗するために宮川氏は、「第2ペイトクみたいなものも模索していきたい」と、新プランの検討も口にした。

 競争が激化している楽天モバイルに関して問われた宮川氏は、毎日4キャリア間のMNPや他キャリアの純増数の推測をチェックしているそうで「春先ぐらいから楽天モバイルはえらい頑張っていると感じている。さすが三木谷さんだと正直思っている」と話す。

 ただ、楽天モバイルの契約数の伸びについて、「脅威ではあるが、ソフトバンクの目線から言うと、影響はほとんどない」という。宮川氏は「どこから純増が湧いて出ているのか、僕が見てなかったマーケットがあるのかもしれない」として、MNPで他社から契約を取っているというよりも新たな顧客を獲得しているとの分析。

 いずれにしても、さらなる成長を目指し、「4大キャリア」として一定のポジションになってくれれば、日本としては健全な競争になると指摘する。

 ちなみに「LINEMOベストプラン」について宮川氏は、「楽天対抗(のプラン)だとよく聞かれるが、実はその通り」と素直に認めつつ、「アンリミテッド(のプラン)は慎重に考えていて、アンケートでは中容量が欲しいという声が多かったので、一度提供してみようとした」と経緯を説明。「おかげさまで見込みよりも好調で、やってみてよかったという商品」(同)だという。

 楽天モバイルがアピールを強めるプラチナバンドに関しては、「他社のことなのであまり大声でコメントはしたくない」と前置きをしつつ、「国から電波を割り当てられたMNOとして責務を果たすべく投資をしてもらいたい」と強調。「今はさほど機能していない、もう少し踏み込んでもらうと責務が果たせていけるのではないか」と、楽天モバイルの投資計画にくぎを刺した。

●ついに黒字化したPayPay 「売上4桁億円」を目指す

 ファイナンス事業は、売上高が同20%増の631億円、営業利益は同75億円改善の57億円で黒字転換。PayPayの黒字化が寄与したという。PayPayカードを含むPayPayの連結売上高は同19%増の572億円、連結EBITDAは93億円となって2年連続で黒字を達成。営業利益の四半期ベースでは初の黒字化となった。

 PayPayの黒字化は、宮川氏の下期という想定よりも早いペースで、「黒字化は今期に来るとは思っていたが、第1四半期からとは思っていなかったので、なかなかいい子に育ってくれた」と語った。

 PayPayの黒字化に伴い、「IPOへの期待感も高まってきたと個人的には思っている」と宮川氏。ただ、決定権はPayPay取締役会にあるとしつつ、宮川氏は「まだまだPayPayは成長できるし、急いで資金調達する必要はない。もう少し成長の先が見えてから大きなIPOをしてもらった方がいいので、急がなくてよいと伝えている」と話す。

 通期では、PayPayの決済事業だけで売上高を「3桁億円ぐらい」を想定する宮川氏。以前から宮川氏はPayPayについて決済事業の1階、加盟店サービスの2階、金融事業の3階という3階建ての戦略を描いており、顧客基盤を使って新たな事業展開が重要だと指摘。金融サービスを積み上げて、売上高で「4桁億円ぐらいまでやりきらないと、金融事業が事業の柱と呼べるほどにはならない」として、さらなる成長を目指す考えを示している。

●GAFAMとは違うAI戦略 「垂直統合型のAIインフラを作りたい」

 決算では、その他にエンタープライズ事業が売上高同10%増の2156億円、営業利益が同3%増の415億円。メディア・EC事業では売上高が同6%増の4083億円、営業利益は同74%増の981億円だった。一過性の要因を除いても20%増の549億円で好調だった。

 注力するAI関連では、AI計算基盤のデータセンターを分散配置する「Brain DataCenter」において、シャープの堺工場跡地にAIデータセンターを構築する計画が進められている。同工場跡にはKDDIもデータセンター構築を検討しているが、これはソフトバンクの検討の中で「急に出てきた話」(同)だったという。

 ソフトバンクは全体の6割ほどを占める液晶工場を再利用する計画で、KDDIは残りの4割の中での利用になるそうだ。「通信会社のAIデータセンターが堺工場に集結することになるかもしれない」と宮川氏。ただ、堺市とシャープの契約次第では撤退も検討する、という状況とのこと。

 宮川氏は、「個人的にはAIスマホを作りたい」としつつ、ソフトバンク社長としては「垂直統合型のAIインフラを作りたい」との目標を示す。Brain DataCenterではコア側からAIインフラを作り、さまざまな地域に分散して配置し、AI RANとして基地局のAI化を図りエッジコンピューティングを設置する。「基地局までは設計ができて進んでいるが、その先の(スマートフォンや自動車、家電などの)デバイスまでやると本当の意味での垂直統合ができる」というのが宮川氏の構想だ。

 これによって、いわゆるGAFAMと呼ばれる巨大IT企業に対して、「違う構造でのAIとの向き合い方がオリジナルでできるのではないか」と宮川氏は説明した。

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