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FCNTが新「arrows」でSIMフリー市場に再参入 競合ひしめく中で“シェアの奪い合い”にこだわらない理由

ITmedia Mobile 2024年8月8日 19時54分

 FCNTが、MVNO市場に再参入を図る。2023年に経営破綻したFCNTは、レノボ傘下で「FCNT合同会社」として再スタートを切り、2024年5月に新型スマートフォン「arrows We2」と「arrows We2 Plus」を発表した。この時点で決定していた販路はNTTドコモ、au、UQ mobileのみだったが、販路の追加を示唆していた。

 8月8日、FCNTは販売戦略発表会を開催し、追加の販路を発表した。

 MNOでは楽天モバイルがarrows We2 Plusを取り扱う。価格は4万9900円(税込み、以下同)で、MNPを利用すれば最大で1万4500ポイントを還元する。楽天モバイル ビジネス推進本部 デバイス戦略部 副部長の佐々木愛氏は、arrows We2 Plusは子どもからシニアまで、安心して利用できることを魅力に挙げる。最強家族プログラム、最強青春プログラム、最強こどもプログラムなど「楽天モバイルの通信プログラムと親和性が高い」ことにも触れ、「楽天モバイルの各種プログラムと組み合わせることで、多くの価値を提供できる。4万9900円は恐らくキャリア最安値」とアピールした。

 MVNOではIIJ(IIJmio)がarrows We2 Plusとarrows We2を扱う。価格はarrows We2 Plusが5万4800円、arrows We2が3万2800円だが、MNP特価でarrows We2 Plusは3万6800円、arrows We2は1万9800円に割り引く。

 この他、MVNOではイオンモバイル、HISモバイル、mineo、QTモバイル、LIBMO、NifMoも扱う他、量販店やECサイトでも取り扱う。市場想定価格はarrows We2 Plusが5万9950円、arrows We2が3万6850円。

 arrows We2シリーズのオープンマーケット向けモデルは、arrows We2 Plusが「M06」、arrows We2が「M07」の型番を持つ。これは、2019年にSIMフリー(オープンマーケット)向けに発売した「arrows M05」の後継機種であることを意味する。つまり、arrows We2シリーズは5年ぶりのSIMフリー市場に向けたモデルでもある。

 では、FCNTはなぜ、キャリア市場だけでなくSIMフリー市場へと販路を拡大するのか。

●ワンランク上の価値を提供しながら、日本でニーズの高い機能の全部入りを実現

 FCNT プロダクトビジネス本部 副本部長の外谷一磨氏は、arrows We2シリーズの開発が決まった早いタイミングから、「SIMフリー市場への投入もスコープに入れていた」という。ただ、arrows M05を発売した2019年と比べると、OPPOやXiaomiなどの中国メーカーやPixelを擁するGoogleもシェアを伸ばし、国内メーカーではシャープも堅調で、SIMフリー市場はレッドオーシャンとなっている。

 こうした状況は当然ながらFCNTも認識しており、「非常に素晴らしい商品の数々がミドルレンジで存在している」と外谷氏。SIMフリー市場へ再参入するにあたり、「多くの商品をお客さんが選んでいただける自由がある一方で、商品が多すぎて、スペックがバラバラで分かりにくいという声がある」ことに着目。「お客さまが迷わず、間違えなく選べる商品を提供していくのがいいと考えた」(外谷氏)

 その上で意識したのが3つポイントだ。

 1つ目が、競合価格帯と比較してワンランク上の体験を提供すること。arrows We2 Plusは5万円台ながら、プロセッサはSnapdragon 7s Gen 2、メインメモリは8GB、内蔵ストレージは256GBを確保している。5010万画素カメラは光学式手ブレ補正にも対応する。

 arrows We2はさらに安い3万円台だが、プロセッサはMediaTekのDimensity 7025、暗所も明るく撮影できるスーパーナイトショット対応の5010万画素カメラ、4500mAhバッテリーなどを備える。セキュリティパッチは最大4年間提供する。「エントリーモデルでここまでの期間は他にないのでは? 長く安心して使える商品に仕上がっている」(外谷氏)

 ワンランク上の体験は、arrowsならではの特徴にも直結する。arrows We2シリーズは、米国国防省の調達基準であるMIL規格に準拠するが、FCNT独自のテストとして、1.5mの高さからコンクリートに落としてもディスプレイが割れにくい品質を担保しているという。本体はハンドソープを使った丸洗いやアルコール除菌にも対応する。ジャストシステムと共同開発した日本語入力システム「Super ATOK ULTIAS」も継承している。arrows We2 Plusならではの機能として、健康状態を把握できる自律神経の測定も可能だ。

 「他よりもワンランク上の堅牢性や防水性能を備える。こういったことを提供していくことが、arrowsを求めている人のお約束」(外谷氏)

 2つ目が、日本のユーザーが求める機能の全部入り。「買ったけど『これがなかった』という声、そういう不幸をなくす」ことを目指し、日本でニーズの高い機能の全部入りを「妥協なく実現した」と外谷氏は胸を張る。防水、耐衝撃性、おサイフケータイへの対応はもちろん、最大3回のOSアップデート、イヤフォンジャック、外部メモリスロットなどを網羅している。

 3つ目が、販路ごとに幅広いニーズに対応すること。arrows We2はキャリアが扱うモデルは内蔵ストレージが64GBだが、SIMフリーモデルは128GBに増強している。arrows We2 PlusはIIJが扱うモデルのみ、メインメモリを12GBに拡張している。

 arrows We2シリーズについて外谷氏は、「これさえあれば何も要らない。ない方を探す方が難しいほど全方位の商品。『こういうのでいいんだよ』と言っていただける商品に仕上げた」と自信を見せる。

●画面割れだけでも7つの基準でテスト、各基準で100種類の評価

 FCNT プロダクトマーケティング統括部 副統括部長の正能由紀氏は、arrows We2シリーズの「スペックに表れない魅力」を紹介。arrowsでは、ワンランク上の落下耐性を確保すべく、FCNT独自の基準でテストを行っているという。スマートフォンの故障でよくある「画面割れ」については、「破損して返却された端末を1台1台調べている」という。

 「この割れ方はアスファルトに落下したのか、斜めの亀裂はポケットに入れたまま座ったのか、などのシーンを再現して原因を特定する」と同氏。この画面割れだけでも7種類の基準があり、それぞれの基準に対して、約100種類の再現評価を行っているという。例えばポケットの場合、入れ方や角度、ポケットの深さ、位置、さまざまなパラメーターが存在する。このように、細かな検証を繰り返す中でノウハウが蓄積され、次の製品開発に生かしている。

 タフネス性能を追求すると、大きくて重いボディーになりがちだが、arrowsでは「美しさの両立」も目指した。「堅牢性を満たすだけなら、強い材料を足せば何とかなる部分があるが、いかにデザイン性を損なわずに基準を満たすかが最大の難関。それと同時に、使う人を思い、長年追求し続けてきた最も重要な点」と正能氏は話す。

 実際、arrows We2 Plusとarrows We2ともに、タフネス性能を前面に出したモデルには見えないシンプルな外観だ。arrows We2 Plusの重さは約182gで、手にすると「軽くて持ちやすい」と感じた。その一方で、目に見えにくい工夫も施している。例えば、本体の四隅がわずかに盛り上がっており、衝撃を吸収してくれる。これは「画面を優しく守っている証」だと正能氏は表現する。

 カメラは画質のチューニングにこだわった。arrows We2 Plusとarrows We2ともに広角カメラは1/2.7型センサーを用いた5010万画素カメラを搭載。センサーサイズはハイエンド機には劣るが、「暗い場所でもノイズを抑え、明るく解像感のある写真に撮れるよう、人の肌の色、花、風景、よく撮影するシーンで、丁寧にチューニングしている」と正能氏は説明する。スーパーナイトショットではRAW画像を合成することで、暗所でも明るく写せるようにした。このモードはarrows We2 Plusとarrows We2の両方が対応している。

●厳しい目を持つユーザーが多い市場で「ブランドを育てていく」狙いも

 発表会では、MVNOを代表してIIJ(インターネットイニシアティブ) MVNO事業部 コンシューマーサービス部の亀井正浩氏も登壇。亀井氏は、SIMフリー市場で「日本ユーザーを意識した製品が少なくなってきたことを寂しく思ってきた」中で登場したarrows We2シリーズを歓迎する。

 arrows We2シリーズについて「全ての人が使いやすいスマートフォンになっていると感じており、カタログスペックだけでは読み取れない優れた点がある。重みを感じない重心で持ち心地がよい」と魅力を語る。また、「長くお使いいただきたい」という思いから、メモリを8GBから12GBに拡張したと亀井氏は話す。arrows We2 Plusは、既存ユーザー向けに端末割引を行う「mio優待券」の対象になることも明かした。

 外谷氏はIIJとの提携について、「arrowsの復活を一緒に盛り上げていきたい、強いエールをいただいたのがIIJだった」と振り返る。SIMフリーに改めて参入するにあたって「今あるパイを食い合うだけでは面白くない。それはIIJと一緒にすべきことではない」と考えたという。「われわれが持っている安心、安全で長く快適に使っていただける便利さを届けていくことで、SIMフリー市場全体のパイを広げよう」という思いが一致。まずは地に足を付けて展開するとした。

 質疑応答では、SIMフリー市場で戦う意義について、改めて外谷氏が説明した。販路が広がれば、当然売り上げや出荷台数の拡大にもつながるが、「ブランドを育てていく」狙いもあるという。「SIMフリー市場ではキャリア市場以上に厳しい目を持ったお客さまが多くいらっしゃる。そういった中で受け入れられる商品を提供していくことは、arrows全体を強くしていける」(外谷氏)

 目標とするシェアは「公開できるものはない」(外谷氏)と明言は避けた。SIMフリー市場での戦い方については「再参入する上でそこのシェアを奪っても、SIMフリー市場全体を盛り上げていくことにならない。今、SIMフリー市場で買っていないお客さま、arrowsを知らないお客さまにarrows We2をアプローチして育てていきたい」と話す。

 SIMフリー市場はまだ伸びる余地がある、とも外谷氏は考える。「例えば1台目はiPhoneを使っているが、2台目を持ちたいというニーズは年々上がっていると思う。そういった考えでarrows We2 Plusのような商品を選ぶということも、SIMフリーではあるのではないか」(同氏)

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