Infoseek 楽天

モトローラ急成長の要因を聞く 日本のスマホはFeliCaありきで開発、ソフトバンクやIIJとのタッグも成功

ITmedia Mobile 2024年8月9日 13時0分

 前年度比約2.3倍に出荷台数を伸ばし、日本市場でシェアを拡大しているメーカーがある。モトローラだ。フラグシップモデルのrazrはもちろん、ミッドハイのedgeシリーズやミドルレンジのmoto gシリーズを満遍なく投入できたのがその要因の1つ。ソフトバンクやIIJmioといったキャリア、MVNOと密に連携でき始めているのも、モトローラが急成長している理由といえそうだ。同社は、2024年度も同程度の出荷台数拡大を目指すとしている。

 その第一歩となる、ミドルレンジモデルの「moto g64/g64y 5G」を6月に発売。前モデルと同様、Y!mobileが取り扱い、持ち前のコスパのよさを訴求している。また、2024年はedgeシリーズの最新モデル「motorola edge 50 pro」にソフトバンク版の「motorola edge 50s pro」を用意。発売直後から1年返却で実質12円という価格を打ち出し、話題を集めた。さらに、6月に米ニューヨークで発表した「razr 50」「razr 50 ultra」も、今後日本で発売する予定を明かしている。

 矢継ぎ早に新端末を発売しているモトローラだが、同社はどのような戦略で高い成長率を維持していくのか。モトローラ・モビリティ・ジャパンの社長を務める仲田正一氏に、新端末導入の狙いや、今後の戦略を聞いた。

●gシリーズは全世界で最も売れているシリーズ 価格競争力も出せている

―― まずは6月、7月にそれぞれ発売したmoto g64 5Gとmotorola edge 50 pro、それぞれの位置付けを改めて教えてください。

仲田氏 moto g64 5Gはgシリーズの端末で、私どもの中ではスタンダードモデルという位置付けになります。スタンダードの意味合いですが、基本機能がしっかりしていることが挙げられます。カメラ、ディスプレイ、バッテリーなどはしっかりとしたスペックでありながら、価格的にはお求めやすい。こういう意味で、スタンダードモデルと呼んでいます。

 一方のedgeシリーズは、もう少しモトローラならではの機能が搭載されています。「moto ai」のような独自機能が入っていたり、デザイン的にもビーガンレザーを使ってファッション性を高めたりしながら、それでもある程度お求めやすい価格になっています。デザイン、機能性、価格を高いレベルで合わせ込んでいるプレミアムモデルというのが、edgeシリーズの位置付けです。その上には、フラグシップモデルのrazrがあり、こちらはモトローラのイノベーションを象徴していく位置付けになります。

―― moto g64 5Gは昨年(2023年)出た「moto g53 5G」の後継機だと思いますが、スペックは上がりながらも、価格は据え置きになっています。

仲田氏 市場的にはそういう(後継機という)形になります。市場の中で競争力を高めるには、どのぐらいのスペックで、どのぐらいの価格にすればいいのかといったことを日々議論しています。市場の動きや競合他社の製品、価格を考慮した上で、われわれとしてこのぐらいのポジションでやっていきたいという価格をつけました。

―― やはりここはボリュームゾーンなだけに、3万円台半ばとかなり安いですね。近いスペックの他社モデルよりもインパクトがある価格設定でした。

仲田氏 他社のことはよく分かりませんが、gシリーズは全世界で最も売れているシリーズです。これだけのおかげというわけではありませんが、razrやedgeも入れて、全米ではナンバー3、南米ではナンバー2になっています。また、アジア・パシフィックでも出荷台数は大きく伸びています。このような全体の調達力や開発力もあり、moto gは価格競争力が出せています。

―― 為替も1年でかなり円安に振れました。

仲田氏 為替の話もそうですし、部材の価格も上がっていますが、そこはメーカーとしてかなり努力をしています。

●1年返却で12円のmotorola edge 50s pro、ソフトバンクには「かなり踏み込んでいただけた」

―― 昨年度、大きく出荷台数を伸ばしていますが、これはやはりmoto g53y 5Gの成功が大きかったのでしょうか。

仲田氏 moto g53y 5Gの販売台数は、大きく寄与しています。gシリーズはわれわれの売れ筋で、何年も受け入れられてきました。ここは当然伸ばしていきたい。

 一方で、今年(2024年)はedgeシリーズにも新たにmotorola edge 50 pro、motorola edge 50s proを出しています。モトローラにおけるファッション性や機能性、利便性といったものを、ぜひ皆さんにご理解いただき、たくさんの方に使っていただければと思います。こちらのモデルは、スペックやデザインも含め、若い方にも使っていただけるのではないでしょうか。スマホ全体の価格は高くなっていますが、motorola edge 50 pro/50s proの価格は、若い方が自分のお金でお買い求めいただける範囲に収まっているのではないでしょうか。

―― 1年で返却する条件でとはいえ、12円なら確かに買いやすいと思います(笑)。

仲田氏 あの価格は私も初めて知りましたが、(ソフトバンクには)かなり踏み込んでいただけたと感じています。われわれとしては、たくさん売っていただけるようお願いはしていますが、最終的にはソフトバンクさんの中で何を推して売っていきたいのかになります。価格も含めてソフトバンクさんの戦略ではありますが、夏モデルに関しては、motorola edge 50s proを推していこうというご判断をいただけたのだと思います。その1つに、神ジューデンに対応していることもあります。19分でフル充電というのは、分かりやすいですからね。

―― 充電器も同梱されてるんですよね。

仲田氏 はい。同梱です。125W対応の充電器を別に買ってくださいということだと、結局ユーザーの方は今までのものを使ってしまい、急速充電のよさが伝わりません。まずはご体感いただきたいということで同梱しています。

―― 125Wの急速充電は、このクラスの端末だと珍しいですよね。

仲田氏 昨年のmotorola edge 40も、急速充電には対応していましたが、ここまでではありませんでした。この価格帯の製品で、これほどの急速充電に対応したものはありません。充電速度だけなら他にもありますが、価格の桁が上がってしまいます。スペックをよくしてゴリゴリの見た目にするのではなく、この価格帯でシュッとした見た目なのに他にないものを備えている製品になっています。

 motorola edge 40はオープンマーケット版しかなく、数はそこそこでしたが、IIJさんが売り出したものはすぐに売り切れてしまいました。そのmotorola edge 40からデザイン性を高めつつ、急速充電に対応し、moto aiも入ってカメラもよくなりました。白飛びなどがなくなり、考えず、気軽に撮れるカメラという意味でも、motorola edge 50 proはいい製品だと思います。

―― edgeシリーズをキャリアが扱うのは初めてですよね。ここもgシリーズ並みの主力商品にしていきたいということでしょうか。

仲田氏 MNOでは初めての取り扱いです。おかげさまで第1四半期はgシリーズがかなり好調だったので、そこまで(edgeが)伸びるかどうかはまだまだ申し上げられませんが、第2四半期はedgeとmoto gの両方を伸ばしていければと考えています。

●MVNOではIIJが独占販売 「今回はこのやり方が一番よかった」

―― ソフトバンクとの話が先ほど出ましたが、オープンマーケットモデルはIIJmioが独占販売しています。MVNO最大手とはいえ、1社だとなかなか規模感も出ないと思いますが、この取り組みにはどのような意味があるのでしょうか。

仲田氏 パートナーの皆さんにお願いしているのは、他社の端末以上に弊社の端末をしっかりと訴求していただき、販売していただくことで、これが重要なポイントです。それを最大化するにはどのような方法がいいのかをいろいろな人とお話しする中で、IIJさんが積極的に取り組んでいただけるということだったので、このような座組になりました。

―― 独占だと、逆に他のMVNOの販路がなくなってしまいますが、それを惜しいと感じたことはありませんか。

仲田氏 いろいろな考え方がありますが、今回に関しては、このやり方が一番よかったと思っています。プロモーションもそうですが、いろいろなことを試しながらやっているところです。売り方に関しても、そのときに一番いい方法を選んでいきたいと考えています。

―― IIJmio以外の量販店では販売していますが、こちらでも売れているのでしょうか。

仲田氏 はい。売れています。もちろんIIJさんには売っていただいていますが、いろいろなリテールできちんと数が出ています。

●日本で出すスマートフォンはFeliCaありきで開発している

―― FeliCa(おサイフケータイ)についてお伺いしたいのですが、moto g64 5Gもmotorola edge 50 proも、おサイフケータイに対応しています。必須と考えているというご発言もありましたが、この真意を教えてください。

仲田氏 防水に関しては、われわれ(モトローラ・モビリティ・ジャパン)から必須ということをグローバルの端末企画部隊に言い続けてきました。今では、日本の当たり前ではなく、世界の当たり前になりつつあり、さまざまな国や地域で防水の価値が認められるようになってきました。実際、かなりの製品は防水ありきになっています。

 FeliCaに関しても、ベースとしてNFCを搭載していることもあり、日本に向けて出荷する可能性があるものは、FeliCaを前提にしながら企画開発しています。われわれからも、早い段階でそれを伝えています。これまでは、グローバルモデルにこういうものがあると伝えられ、その中からピックアップしていましたが、逆に、われわれの方からこの機種にはこういう価格帯で、こういった商品性を持った端末を作ってくれという要望を挙げています。そうすると、防水もFeliCaも入るから、これがいいのではという提案があります。こういうものが欲しいので、これを開発してほしい、では、ベースを何にするか……そういう形にコミュニケーションの仕方を変えています。

―― そうなると、次のrazr 50 ultra、razr 50も期待できますね。

仲田氏 これに関しては、その時期になったらお話ししたいと思います。

―― 昨年販売したrazr 40やrazr 40sはやはり反響が大きかったのでしょうか。

仲田氏 ものすごく大きな反響をいただきました。やはり2つ折りがお好きな方はいらっしゃいます。これが手放せないという声もいただきました。2つ折りのよさは、実際に使えば分かっていただけると思います。より多くの方に知っていただく活動はしていきます。われわれだけでなく、サムスンさんやZTEさんが出されたことで、認知が上がっているのもいいことです。認知が上がった中で触っていただくところまで持っていければ、このよさが伝わると考えています。

 razr 50、razr 50 ultraはニューヨークで実機を触りましたが、かなり完成度が高い。ヒンジの部分も改良していますし、デザインやマテリアル(素材)も、かなりいいものになりました。商品として素晴らしいので、日本で発売した際にどのような反響をいただけるのかが、非常に楽しみです。

―― razr 50、50 ultraもそうですが、motorola edge 50 proにも共通戦略としてPANTONEのカラーが採用されています。これはどのような意図でやられているのでしょうか。

仲田氏 ライフスタイルテックというのが、モトローラの推しているポイントです。日常生活の中で使いやすい、使いたくなるもの。皆さんのライフスタイルの中で、スマホがそれをいかに支援していくのか。言い換えると、ライフスタイルの中でテクノロジーをどう活用するのかを提案するのが、グローバルでの戦略です。ファッション性のように、持ち歩きたくなることもライフスタイルでは重要です。そこが、素材選びにも表れています。また、グローバル全体では、ESG(環境、社会、企業統治)の観点でリサイクル素材もどんどん活用しています。

―― 先ほど、日本から要望を出すというお話がありましたが、カラーバリエーションについてもそうなのでしょうか。

仲田氏 そうですね。例えば、motorola edge 50シリーズにはNordic Woodという木材を使ったバリエーションもありますが、社内で議論し、使い方が限定されるという理由で見送っています。逆に、razr 40ではバニラクリームがご好評を得ていたので、定番のように継続しています。

 カラー以外だと、海外では箱に香りをつけたりもしているのですが、日本ではセンシティブなのでそれもやっていません。グローバルのものがあるとはいえ、市場の声は議論しつつフィードバックしています。

―― におい、ですか。

仲田氏 はい。香水ですね。箱につけているようです。

●moto aiでは「キャプチャー」「クリエイト」「アシスト」が柱に

―― razr 50、50 ultraやmotorola edge 50 proには、moto aiが内蔵されています。これはどのようなものなのかを教えていただけないでしょうか。

仲田氏 今のコンセプトは3つで、「キャプチャー」「クリエイト」「アシスト」という柱を立てています。これは、どちらかといえばコンセプトで、例えばカメラ機能をどんどんよくしていくのは、キャプチャーが当てはまります。静止画や動画をいかに使いやすく、簡単に美しくしていくのかという部分にAIを活用しています。自動的に被写体を認識し、フォーカスし続けるというところも、AIの特徴の1つです。

 クリエイトは、今現在商品に搭載されている機能だと、自撮りした写真の服装に合った壁紙を生成し、それを端末のテーマに設定できるというものがあります。この機能はもっと進化していきます。最後のアシストは、AIが状況を考え、どういう使い方をされているのかを覚えることで、この場面ではこういうことをやりたいのではと提案するような機能です。ユーザーの経験や情報、今のコンテキストを踏まえて支援していくのがアシストというコンセプトです。

―― 現状だと、キャプチャーはカメラに、クリエイトは壁紙生成として機能になっていますが、アシストはこれからですよね。

仲田氏 はい。今の機種にはまだ入っていません。

―― 今後、アップデートで過去のモデルに入っていくこともあるのでしょうか。

仲田氏 それもあるかもしれません。

―― moto gシリーズはmoto aiがありませんが、これはなぜでしょうか。

仲田氏 今現在、例えばカメラだとそれなりの品質のセンサーが必要で、AIを動かすにはある程度、チップセットのパワーも必要になります。moto aiには、それなりの性能が必要です。ただ、ハードウェアはどんどん進化していきますし、moto aiも進化していきます。それらが相まって、時間とともに、全てのラインアップに入ってくるようになるかもしれません。

―― プロモーションも強化していくとおっしゃっていましたが、どのようにブランドを拡大していくお考えでしょうか。

仲田氏 40代、50代の方は、昔のモトローラを覚えていることもあり、比較的いいイメージを持たれています。こうしたモトローラが持っている歴史や、アメリカで作られているというブランドヒストリーは押さえつつも、より若い人に使っていただけるブランドに拡張していきたい。そのための認知を上げる方法は、いくつかあります。私の方針として、その商品やタイミングに合わせたやり方をいろいろとやっていきます。

―― 例えば、moto g64 5Gやmotorola edge 50 proでは、どんなことをされるのでしょうか。

仲田氏 これから大きなイベントをやるというより、店頭での訴求ですね。タッチ・アンド・トライのイベントをするとか、実際に使っていただき、販売につなげられる地上戦を強化していきたいと考えています。

●取材を終えて:ドコモやKDDIとどう連携できるかが鍵に

 出荷台数を伸ばし、日本市場での存在感を高めているモトローラだが、moto g64/g64y 5Gも引き続き好調とのこと。motorola edge 50s proでedgeシリーズの販路も広がり、その勢いはさらに増しそうだ。その背景には、日本市場からのフィードバックが反映されやすくなった開発体制もあるようだ。実際、2023年から防水・防塵やおサイフケータイには積極的に対応しており、キャリアでの販売も拡大している。

 とはいえ、毎年2倍以上出荷台数を伸ばしていくのは、なかなかハードルが高い。オープンマーケットの市場規模が限られている日本では、やはり取り扱いキャリアの拡大が必須になる。現状ではソフトバンクとの密接に連携しているが、その実績を引っ提げ、ドコモやKDDIにどう食い込んでいくのかが鍵になりそうだ。

この記事の関連ニュース