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夏フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024」でモバイル通信は快適だったのか auの取り組みを聞く

ITmedia Mobile 2024年8月11日 11時56分

 真夏の大型フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」が、2024年も千葉県・千葉市において8月3日から開催された。3~4日、10~12日と2週にわたって開催されるという日程で、さらに9月には茨城県・ひたちなかでも開催される。

 このROCK IN JAPAN FESTIVALを通信面で支えるのがKDDIだ。特別協賛となった同社は、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 supported by au」として、ひたちなかでの開催も含めてイベントをサポートする。

 今回話を聞いたROCK IN JAPAN FESTIVALの運営チーフは、「快適なイベントには安定した通信が基盤中の基盤」と強調し、Starlinkを始めとしたKDDIの通信の取り組みによって大きな効果が出ていると説明した。

●通信問題の解決を模索 Starlinkに可能性があると考えてKDDIに相談

 ROCK IN JAPAN FESTIVALは、国内最大級の夏の音楽フェス。コロナ禍で2年間の休止を余儀なくされ、2022年から千葉県千葉市の蘇我スポーツ公園で開催している。ただ、大きな問題となったのが通信環境で、蘇我開催2年目に向けて運営側はその解決を模索していたという。

 運営チーフは、海外のイベントでVIPエリアにWi-Fiエリアが構築されているような例もあり、そうしたWi-Fiエリアを作ればいいのでは、と考えていたという。ただ、会場全体をカバーするのは難しく、しかもイベント期間だけ仮設で光回線を敷設することもできないといった問題があった。

 そうした中、KDDIとSpaceXの協業が発表され、Starlinkに可能性があると考えてKDDIに問い合わせをしたという。当初はStarlinkとWi-Fiを組み合わせた屋外用サービスはなかったそうだが、相談する中で提供が可能ということになり、導入が決まったという。

 ROCK IN JAPAN FESTIVALの運営は、2023年春のJAPAN JAMからStarlinkの導入を開始。Starlinkを含めたネットワーク構築は、2023年夏のROCK IN JAPAN FESTIVAL、2024年春のJAPAN JAMと続き、今回のROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024で4回目となった。

 「試行錯誤をいろいろしてきた」と話す運営チーフ。2022年のイベント開始時に比べて2023年は「明らかにお客さまの声も少なくなって手応えはあった」ということで、満を持してスタートした2024年のROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024だった。

 来場者からの声を集めるために、同イベント用アプリには「ひと言アンケート」の機能を用意。トイレや通信環境などイベントにおける問題点などが集められるようにしているが、初日の8月3日が終わった時点で、通信環境に関する声は「他キャリアユーザーからの意見の2件しかなかった」という。SNSでも検索をしたところ、これまでは大量にあった通信に関する声も数十件と少なく、「え、これだけ?」と思うほどだったそうだ。

 もちろん、各キャリアのネットワークが万全だったというわけではないが、Starlinkが要所に設置されて安定したWi-Fi環境が構築されていたため、結果としてネットワークに対する不満の声が少なかった、ということのようだ。

●回線混雑の問題をStarlinkのWi-Fiスポットで解決 「費用対効果は十分」

 運営チーフによれば、ROCK IN JAPAN FESTIVALの会場で回線が逼迫(ひっぱく)すると発生する問題が3点あるという。1点目は運営スタッフが使うKDDI回線を使ったIP無線機で、2022年は「本当につながらない」という状況だった。つながっても途切れ途切れで話している内容が聞き取れないといった問題が発生。「主要スタッフ間で連絡が取れないと、(イベント管理ができないため)イベント崩壊の危機になる」と運営チーフは強調する。

 2つ目の問題は、来場者が通信を使えないという問題。LINEを始めSNSが使えず、同行者などとの連絡が取れないなどのトラブルにつながる。3点目がグッズ購入や飲食の際の決済ができないという問題だ。

 2019年まではキャッシュレス決済の比率がそこまで高くなく、QRコード決済も導入していなかったため決済の問題は発生しなかったが、コロナ禍以降に再開したイベントの現場ではQRコード決済の需要が増加し、それに対応したところ通信の問題で決済ができないという状況が発生してしまった。

 こうした問題を解消するために、2023年にはStarlinkによるWi-Fiスポットを提供。これが一定の成果となったことから、今回はさらにStarlinkを拡充。Wi-Fiスポットを増やすことで、さらなる通信環境の改善を図ったという。

 さらに、2023年にはグッズ売り場や飲食ブースで使うWi-Fiスポットを来場者と同じものにした結果、一部で決済が遅くなる現象が発生して現金のみの対応になっていたが、そうした反省を生かし、2024年はStarlinkを3台から11台に増設。さらに決済用にWi-Fiネットワークを分離したことで、4日の段階では決済に問題発生していなかったという。

 2023年は、入場ゲート周辺に急きょStarlinkを設置するといった変更もあったが、そうした課題を踏まえて、2024年は人流が多くなるエリアにあらかじめStarlinkを配備するなど対策も実施しており、回数を重ねたことでノウハウもたまり、さらに通信環境の改善が進んだようだ。

 運営チーフは「Starlink導入のコストは決して安くない」と率直に話す。ただ、その効果は歴然で、「費用対効果は十分すぎるほどある」というのがROCK IN JAPAN FESTIVAL全体の評価だという。

●KDDIの協力なしではイベントが成り立たない

 携帯キャリアが持ち込む基地局車や既存基地局はイベント運営側にコストがかからないため、それで対処しようと考えてしまいがちだ。しかし、通信環境の悪化はイベントにとって「致命傷になりかねない」と運営チーフ。そうした問題にStarlinkは十分に応えているという。

 2019年以来の復活となる「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 in HITACHINAKA」が、9月に国営ひたち海浜公園で開催されるが、これもKDDIが特別協賛としてStarlinkを含めたネットワーク対策を行う。

 国営ひたち海浜公園にはインフラシェアリングの携帯基地局が新規で設置されるなど通信環境は改善されているものの、ライブが行われるエリアの通信環境はそれほどよくはないとのことで、ここでもStarlinkの導入などを行う予定だという。

 現時点で、KDDIのStarlink以外のソリューションも検討はしているものの、トータルでは「一歩及ばない」というのが運営側の判断だという。

 「KDDI(のStarlink)なしではもうイベントが成り立たない、ズブズブの関係になってしまいました」と運営チーフは笑うが、それほどまでの威力を発揮したのが、Starlinkを含めたKDDIのネットワーク対策ということだった。

●4キャリア+Starlinkでスピードテストを実施

 KDDI側の対策としては、会場周辺の既存基地局を5G(NR)化。さらに会期中は基地局車を3台導入して通信環境の改善を図った。こちらもNR化したことで通信容量が前年比で1.6倍となった。さらに1台にはMassive MIMOを導入することで、従来よりも安定した通信を目指した。

 これに加えて、Starlink導入も考慮したエリア設計をして、混雑エリアのトラフィックをStarlinkに逃せたことで、基地局のトラフィック増を緩和できたという。同社はミリ波アンテナを搭載した基地局車も投入したが、Massive MIMOアンテナの効果を測定して、効果が高いと判断すれば今後はミリ波ではなくMassive MIMOアンテナに置き換える(排他のため)考え。

 今回、実際に現地でスピードテストの測定をしてみると、比較的良好なau回線に対して、他キャリアではエラーになることもあり、来場者の通信を制御し切れていない様子がみて取れた。

 ただ、イベント全体としては人が多く集まる飲食エリアやクロークエリア、テントエリアにStarlinkを配したことで、「少し移動してWi-Fiがつながれば通信ができる」という状況になった。その結果、問題を指摘する声が減ったというのが運営側の分析だ。

 現代では、夏フェスのような大型イベントでは、安定した通信環境が不可欠になっている。「ここまでの広大なエリアでWi-Fiがつながるようなサービスを提供しているフェスは他にはない」と運営チーフは胸を張り、「そもそも暑くて決して快適ではない」(同)という野外フェスにおいて、トイレ、飲食と並んで通信においても快適さを提供することで、イベントのイメージ向上や集客につなげていきたい考えを示している。

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