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まるで亡き愛犬が目の前でよみがえるかのような感動 「Vision Pro」は異次元のデバイスだった

ITmedia Mobile 2024年8月12日 6時5分

 掛け値なしに異次元の体験だ――。そう感じたのは「Apple Vison Pro」を手にしたときだった。Vision ProはAppleが2023年6月5日に発表した同社初のゴーグル型デバイスだ。かぶると目の前に絶景が広がるようなデバイスで、指と視線でコントロールする。日本での価格は59万9800円(税込み、以下同)からと個人向けの製品としては高価だ。

 筆者は60万円近くするVision Proを試したく、都内のApple Storeへ出向いた。無料のデモで体験できた時間は30分と短く、コンテンツも限られていた。最初は買うかどうか悩んだが、操作感、装着感など、短時間では全てを実感しづらいことから、高くても長期間使い込んでみたい、と思い、購入に踏み切った。

 冒頭でも述べた通り、Vision Proは個人向け製品としては高価だ。なぜそこまでの大金を出してまで購入したのか、購入して分かったメリットとデメリットは何かお伝えしたい。

 Vision Proの最初の発売国は米国。日本、中国本土、香港、シンガポールでは2024年6月28日に、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、英国では7月12日に発売となった。物価高の日本では発売されない、と推測していたが、米国版の発売からわずか数カ月後に日本での発売が決まった。

 米国版の購入も頭をよぎったが、わざわざハワイのストアまで行き、現地のApple IDがなければストアでのアプリ購入やインストールができない、米国版を買うメリットがあるのか、いまいち思いつかなかった。入るを量りて出ずるを為すということをもっと考えて行動すべきだと冷静になり、結局のところ手に入れることはなかった。

 米国版を買わずに日本での発売を待ってよかったのは、米国のApple IDを作成せずに済むこと、日本でApple Careに加入できることの2点。米国版だと日本で受けられるサポートは限られるそうだ。この情報をApple Storeで得た時点で、米国版の購入をはっきりと諦めることができた。

●かけた瞬間から操作、体験に至るまでの全てが異次元

 そして、いよいよ待ちわびた日本版の発売日。いざ日本版を手にしたときの感動は「宇宙的、近未来的な世界観」とでも表現したい。板状のスマートフォンや折りたためるノートPCなど、肉眼で目の前にある物体のディスプレイを見ながら操作する、という固定概念から一気に解放された感があった。

 指でアイコンやウィンドウに視線を合わせて、それを人差し指でつまむようにしてタップしたり、ウィンドウを動かしたりできるのが基本的な操作方法。言葉だけでは伝わりづらいため、疑問に思う人はぜひApple公式の動画を見るか、近くにApple Storeがあれば体験しに行ってほしい。

 Appleが銘打つ空間コンピュータという言葉だけ目にしたときは、パッと理解できずにいたが、実際に操作すると別世界にいるかのような感覚となり、スマートフォンやノートPCのディスプレイが小さく感じるほどだ。

 最も新鮮な体験だと感じたのはコントローラーが要らないこと。手を膝の上やテーブルの上に置いたままの状態でも、タップやスクロールができるところがVision Proで特に便利だと感じたし、気に入っているポイントだ。

 コントローラーのあるゴーグルデバイスだと手の代わりにコントローラーを握っていなければならず、長時間使用すると手が疲れる。一方、Vision Proは椅子に長時間座る必要はないし、コントローラーを握り続ける必要もない。とにかく、ユーザーがリラックスして使えるように工夫されているのだろう、と感じた。

 Vision Proを装着している状態でも外界が見えるのもすごいと感じた要素の1つ。物理的に目をふさいでいるが、明るい場所なら手元が見えるため、例えば、Vision Proを装着したままコップの水を飲むことができる。外界の映像は前面のカメラで撮影し、内部のmicro-OLEDディスプレイ(両目で約2300万ピクセル)に表示される。なお、暗い場所では映像が粗くなり、手をトラッキング(認識、追尾)できないという警告文言が表示される。

●600gのゴーグルが頭の上に もう少し快適性の向上が必要

 装着感はもうひと工夫ほしい。Apple Storeのスタッフの中には「軽くていい」「予想以上に重量を感じない」と話す人がいたが、自分はそうは思わなかった。約600gは重たい部類に入る200g台のスマートフォンが約3台分に相当する。それが頭上に載っているため、必然的に物理的な重量を感じる。

 ちなみに、Vision Proは後頭部と側面に接する太いバンドで安定性を高める「ソロニットバンド」に加え、頭頂部と後頭部に接する2本のストラップで安定性を高める「デュアルループバンド」が付属する。ソロニットバンドはダイヤルを回すと締め付け具合を調節できて面白い仕掛けなのだが、どちらのバンドを試したとしても、重量は手前に偏るため、重たいと感じてしまう。

 重たいか軽いかは人によって意見が異なるようだ。少しでも軽くなり、頭に何かを載せている感が減らなければ、万人への訴求は難しいだろう。メガネのような形状に進化するかどうかは確約できないが、そうなるとまた違った印象を持つことは間違いないはずだ。

 バッテリーも353gと重たい。常に手に握っておく必要はないため、ポケットに入れるなり工夫した方がよい。

●コンテンツはまだ少ないが、亡き愛犬が立体的によみがえる

 さて、肝心のコンテンツについてはどうだろうか。結論からいえばまだ少ないと感じる。iPhone/iPad向けに配信されているアプリの中には、Vision Proでも使えるようApp Storeで配信されているものもあるが、それでもiPhone/iPadに適した設計となっているため、それをそのまま空間に置かれたようなイメージのままでは、使い勝手はイマイチという印象だった。

 iPad向けのアプリならまだ許せる範囲だが、特にiPhone向けの縦画面アプリだと、せっかく大きな空間を生かせるVision Proでも小さく感じる。表示領域ではない余った左右のスペースはもったいないし、いわずもがなiPhoneで使った方が快適だ。

 では、Vision Pro向けコンテンツで、特に魅力を感じたものは何か。筆者はまず「空間ビデオ」を挙げたい。iPhone 15 Pro/Pro Maxで撮影した動画を、Vision Proで見れば立体的に感じるような仕掛けだ。

 実はVision Pro発売のタイミングで愛犬が天国へ旅立った。iPhone 15 Pro Maxで事前に撮影しておいた愛犬の動画はVision Proで再生すると、遠くから近づいてくる様にとても臨場感があり、毛先にまでピントが合い、背景が自然にボケているため、いまは亡き愛犬がよみがえったかのような感動だった。

 空間ビデオと聞いただけでは、どのような体験なのか、よく理解できなかったが、目の前に愛犬を「生き生きと映し出せ、貴重な体験や思い出を“追体験”できる」というAppleのうたい文言は本当だった。

 追体験とは読み手が書物などに書かれている体験と同じような体験をするときに用いる言葉だが、空間ビデオの真価が「現実空間での体験をVision Proで追っかけ体験したときに発揮できる」ことから、AppleのNewsroomでは追体験と表現されているのだろう。

●高価なデバイスだが、満足度が高いVision Pro

 冒頭でVision Proの体験を「掛け値なし」と表現したのは、購入してから約1カ月がたったいまでも、「買わなければよかった」という後悔がないからだ。確かに、高価な物であることは間違いないし、装着感はまだ改善の余地があるが、それでも既存のデバイスとは違う体験要素が多く、満足している点は多い。

 連続駆動時間についてはバッテリーのみでの使用なら最大2時間、動画再生なら最大2.5時間となっており、短いとは感じつつも、今のところは問題ないと感じる。バッテリーをUSB Type-Cケーブルで充電しながら使うことも可能だし、AppleはVision Proのサポートページで「20~30分ごとに休憩を取ることを推奨」しており、先述の装着感や目への負担を考えると、長時間の装着は現実的ではないからだ。

 最後にVision Proに何を期待するのかを少し考えたい。1つは価格。大半の人はまず価格だけを見て、「高価であるがゆえに買うのをためらう」はず。筆者自身も体験するまではそうだった。だからこそ、Appleには低価格のモデルも用意すべきだ。

 もう1つは体験の重要性。Vision Proは高価だからこそ体験の場も重要だろう。WebページやYouTubeの情報だけではVision Proでどのような体験ができ、どのような場面で役立つのかが想起しづらいため、体験できる場やコンテンツが増えるといい。

 付け加えると、体験と感動を手軽にシェアしづらい、というのも課題といえる。例えば、スマートフォンで撮影した写真や動画について、すぐ近くにいる人が興味を示せば、ディスプレイをのぞき込んでもらうかSNSやAirDropなどのワイヤレス通信を介してシェアできるため、「画質がきれいだね」「この写真はどこで撮影したの?」というような会話につながりやすい。

 一方、Vision Proは外から見ただけでは中でどのようなコンテンツが表示されているのか、何を操作しているのか、どのような情報を得ているのかが分からない。だから安全といえるのだが、逆にいえば「体験と感動を手軽に共有しづらい」感がある。

 実はVision Proでしていることを周りにいる他の人に見せることはできる。Vision Proのビュー(見えている映像)をMacやiPadにミラーリング(画面の共有)したり、「ゲストユーザ」機能を使って他の人に本体ごと手渡したりすればよいが、いずれの方法も何らかの設定や操作が必要で、画面を横からのぞき込んで見てもらうスマートフォンと比べると、体験と感動の共有に一手間かかる。

 まだ書き足りないところは多いが、今後、じっくりと使って分かったことがあれば、別途お伝えしたい。今回は自宅内で使ったが、別の場所や乗り物で使うと、別の印象や感想を抱く可能性は十分あると思う。繰り返しにはなるが、Vision Proで少しでも気になることがあれば、1回の体験時間は短いが、Apple Storeにて無料で体験してほしい。

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