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「Pixel 9」シリーズ3機種をじっくりと試す AIを駆使したカメラ機能は健在、ただし進化の余地もあり

ITmedia Mobile 2024年8月24日 6時5分

 Googleは、8月22日に同社純正スマホの最新モデル「Pixel 9」「Pixel 9 Pro XL」を発売した。例年と異なり、Pixel 9シリーズは全4モデル展開となり、この2モデルにやや遅れて9月4日には「Pixel 9 Pro」「Pixel 9 Pro Fold」も投入される。4機種の共通項目はプロセッサに「Tensor G4」を採用していること。プロセッサとOSの間のレイヤーにオンデバイスAIのGemini Nanoを採用しており、最新のAI機能も利用できる。

 4モデルは楽天モバイルを除くキャリア各社からも発売される。日本でシェアを急拡大しているPixelシリーズだが、最新モデルの出来栄えはどうか。発売に先立ち、筆者はPixel 9/9 Pro/9 Pro XLを試用することができた。フォルダブルスマホというやや特殊な立ち位置のPixel 9 Pro Foldを除いた、Pixel 9シリーズの主力モデル3機種に当たる。ここでは、その特徴や実際の使用感、Pixel 9シリーズに新たに搭載されたAI関連の新機能をチェックしてきたい。

●ほぼ同じ使用感のPixel 9/9 Pro、9 Pro XLは大型モデルに位置付けを変更

 まずはデザインから。Pixel 8シリーズは背面が丸みを帯びており、フレームも角をそぎ落としていたのに対し、Pixel 9シリーズはより直線的な外観になった。背面のカーブはほぼなくなり、フレームからも丸みが廃されている。よく言えばスタイリッシュさが増した格好だが、トレードオフとして、やや手になじみにくくなった面があることも否めない。

 ノーマルモデルとの比較で言うと、「Pixel 8」は6.2型のディスプレイを採用していたのに対し、Pixel 9は6.3型に大型化している。その差はわずか0.1型だが、上記のデザイン変更もあり、手に取った際に大きさを感じやすくなった。個人的にはPixel 8の取り回しのよさを気に入っていたため、この点は少々残念なポイントだ。

 面白いのは、ほぼ同じデザインでノーマルモデルとプロモデルを選択できるようになったことだ。スペックの数値を見ても分かるが、Pixel 9とPixel 9 Proは寸法がほぼ同じ。重量の差もわずか1gしかない。Pixel 9は光沢感がある背面につや消しのフレーム、Pixel 9 Proは逆にサラッとしたガラスを光沢感のあるフレームが包む形で違いを出している一方で、ベースとなる形は変わらない。

 メタリックな塗装を施してあるPixel 9 Proの方が持ったときに滑りにくいといった細かな違いはあるが、持ち心地も共通しているといっていいだろう。サイズの違いではなく、純粋に機能の上下で端末を選べるようになったのは朗報だ。Pixel 9 Proが加わったことで、サイズではなく、機能を基準に選べるようになったというわけだ。これまでサイズゆえにプロモデルを諦めていた人にとって、Pixel 9 Proを検討してみる価値は高い。

 もう1つのPixel 9 Pro XLは、Pixel 9 Proをそのまま6.8型化したものといっていい。背面ガラスやフレームの処理は、Pixel 9 Proと共通。片手では手に余るサイズ感だが、映像などの迫力はその分増すことになる。ただし、そのサイズや素材ゆえか、重量が221gとヘビー級。サムスン電子が手掛けた「Galaxy Z Fold6」との差も、18gしかない。

 フォルダブルスマホ側の軽量化が進んでいるためでもあるが、正直なところ、18g重くなる程度であれば、より大きな画面を折りたたんで持ち歩けるGalaxy Z Fold6を選びたくなってしまう。下を見ると通常サイズのスマホが、上を見るとフォルダブルスマホがあり、XLと言いながらもややその位置付けが中途半端になっているきらいがある。大型モデルも残すのであれば、機能で差をつけるか、徹底的に軽量化するなど、もう一工夫を期待したいところだ。

●進化したカメラ機能 AI/ARを駆使した「一緒に写る」もチェック

 AIを駆使したコンピュテーショナルフォトグラフィーは、Pixelシリーズの人気を押し上げた機能の1つ。Pixel 9シリーズでも、その実力はさらに進化している。カメラの構成はノーマルモデルが超広角と広角、プロモデルが超広角と広角と望遠で、メインになる広角カメラのセンサーやレンズなどのスペックはPixel 8シリーズから据え置き。Pixel 9の超広角カメラは、12メガピクセルから48メガピクセルに画素数が向上した。

 画素数向上のメリットは、ピクセルビニングで感度を上げられるところにある。この点で、Pixel 9はレンズのF値も1.7と明るく、“プロ並み”になった。この数値はPixel 9 Pro/9 Pro XLも同じだ。また、Pixel 9/9 Proはペリスコープ型の光学5倍望遠カメラを搭載している。こちらも画素数は48メガピクセルと高い。さらに、ピクセルビニングを解除すれば切り出してズームにも使える。

 これは「Pixel 7 Pro」で採用された仕組みだが、もとの光学5倍に切り出しを組み合わせることで、10倍までかなり劣化の少ないズームが可能になっている。Pixel 9 Pro/9 Pro XLもそうで、10倍ズームで撮ってもデジタルズームに特有の粗さがない。30倍の超解像ズームになるとやや加工感は出てくるが、ディスプレイに等倍表示するなら十分なクオリティー。人物撮影でも、顔の印影や表示のディテールまでしっかり分かる。

 上掲の写真はPixel 9 Pro XLのものだが、同じ写真はより小型なPixel 9 Proでも撮影可能。取り回しがよくなった分、気軽にズーム撮影を楽しめる。超解像ズーム自体はPixel 9も備えているが、望遠カメラを搭載していないため、最大倍率は8倍にとどまる。この望遠の有無が、ノーマルモデルとプロモデルの最大の差分といっていいだろう。

 また、プロモデルでは、動画撮影でも最大20倍の超解像ズームを利用できるようになった。以下が、その機能を使って撮影した動画。1倍から20倍まで、だんだんと被写体に寄っていくことができる。惜しいのは、カメラが切り替わったタイミングで映像がカクンと動いてしまうところ。カメラの位置が微妙にズレているためだが、こうした点はレンズの操作で滑らかにズーミングできるデジカメやビデオカメラなどとの違いと言っていい。将来的にはAIでカバーしてきそうなだけに、今後の進化に期待したい。

 AIを使った撮影の新機能として注目されているのが、「一緒に写る」だ。これは、文字通り集合写真に撮影者が写る機能のこと。最初に撮影する人が撮った写真を位置関係などまで含めて一時的に記録しておき、後から写した撮影者を合成する仕組み。第三者に撮影を頼む必要なく、その場にいる全員を1枚の写真に収めることができるのがこの機能のメリットだ。

 この機能で撮った写真は以下の通り。撮影時には筆者とモデルしかいなかったが、あたかも誰かに撮ってもらったかのような写真に仕上がった。位置を調整するため、画面にガイダンスが表示され、本体の振動でもそれが分かるため、撮影はしやすい。ただし、場所によっては前後関係がうまく認識できないこともあった。「一緒に写る」ではARを使って位置関係を把握しているが、背景が白一色など単調でPixelと被写体が近いとエラーが起きやすかった。この機能はあくまでプレビュー版という扱いだが、精度については改善の余地もありそうだ。

●編集マジックも進化、ただしAI機能は今後の進化にも期待か

 もう1つのAIを使った機能が、「編集マジック」の新機能にあたる「オートフレーム」だ。こちらは、正確に言えば端末そのものの機能ではなく、「Googleフォト」のいち機能になる。処理もクラウド上で行っているため、今後、他の端末にも開放される可能性はあるが、現時点ではPixel 9シリーズ専用の機能に位置付けられている。

 これは、写真の“外側”を生成AIで書き足す機能。他社のスマホにも同様の機能があり、例えばサムスン電子の「Galaxy AI」では、角度補正で足りなくなった外側を生成AIで継ぎすことができる。Xiaomiのハイエンドモデルにも、「AI拡大(AI Expansion)」が搭載されており、トリミングとは逆に写真の枠を広げることが可能だ。メーカーごとに実装方法は異なるが、写真を元にしながらその外側を生成AIで書き足すという点は共通している。

 Pixel 9シリーズのオートフレームは、これらとは少々異なり、編集マジックで機能を呼び出すと、自動的にAIが画角を広げた写真の候補を4枚提示する仕様だ。上記の2例とは異なり、ユーザー自身で画角を決定することはできない。何回か試してみたが、おおむね傾向は共通しており、少しだけ外側を追加している場合には、かなり自然な仕上がりになる。中には、言われなければAIで拡張したと気付かれないようなものもあった。

 一方で、大胆に周囲を広げているような写真は、あきらかに不自然になることも。謎のオブジェクトが生成されてしまったり、街中に突如廃墟のような建物が現れてしまったりといったケースもあった。ユーザー自身で画角調整できないため、想定通りの写真が出るまで繰り返し試すしかないのが難点だが、使い方は簡単で手軽に試せるのがいい。その意味では、AIになじみのないユーザーにも優しい機能といえそうだ。

 ただし、AI関連の機能に関しては、Pixel 8シリーズとの差分がやや少ない印象も受ける。これは、新機能の一部が日本語に対応していないことにも由来する。例えば、撮りためておいたスクリーンショットを整理し、AIで必要な情報をすぐに呼び出せる「Pixel Screenshots」は、日本版のPixel 9シリーズに搭載されていない。電話の内容を書き起こして要約する「Call Notes」も同様。さらには、画像生成アプリの「Pixel Studio」も日本での提供が始まっていない。

 Pixel 9シリーズのメモリはノーマルモデルが12GB、プロモデルが16GBと大きく増量された。これらは主にオンデバイスAIを実行するためといわれているが、肝心のAIがなければ宝の持ち腐れになりかねない。今は、AIのための“器”が提供されているにすぎず、その上に盛り付けられる“料理”がお預けになっているような状態だ。ノーマルモデルと同じサイズのPixel 9 Proが登場した新味はある一方で、使っていくと、既視感を覚えることも事実。Pixelの売りはやはりAIだと再認識したのと同時に、未対応の機能の早期導入を期待したい。

(製品協力:グーグル合同会社)

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