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指輪で電車に乗れる ドコモ「EVERING」から見える“クレカ×タッチ決済”の現在地

ITmedia Mobile 2024年8月25日 10時5分

 ドコモがプリペイド式スマートリング「EVERING(エブリング)」という指輪型の決済機器を、一部ドコモショップにて発売した。このデバイスを簡単にいえば、クレジットカードのタッチ決済を利用できる指輪型のVisaのプリペイドカードだ。さらに、7月からのこの指輪で「タッチ決済」に対応した電車やバスに乗れるようになった。

 ここでいうタッチ決済は、近年Visa/Mastercard/JCBなどの国際ブランドのクレジットカードやスマホ決済で利用が広がっている、非接触ICのNFCを用いた決済方法だ。日本では2020年代になり急速に浸透しつつある。

 EVERINGはこのタッチ決済に対応した店舗で、指輪をかざすだけで買い物ができる決済アイテムというわけだ。ただ、ドコモが販売する製品ながらも、現時点でd払いやdポイントとの関連性はない。

 ドコモ広報部にEVERINGとドコモの決済サービスとの関連性を問い合わせたところ、「dカードをはじめ、dポイント・d払い等のドコモサービスとの連携は順次検討していきます。(広報)」という回答を得られた。どちらかといえばガジェットとしての楽しさや、この記事で取り上げる今後のタッチ決済の普及の仕方で対応状況が変わりそうな製品といえる。

 そこでこの記事では指輪型のEVERINGを紹介しつつ、2020年代に急速に浸透しつつある日本のクレジットカードのタッチ決済と、その鉄道やバスなど公共交通機関の対応についてあらためて整理していこう。

●2020年以後日本でも広がった、クレジットカードのタッチ決済

 まずはタッチ決済についておさらいしよう。これは、VisaやMasterCcard、JCBなど、国際ブランドのクレジットカードなどに追加された非接触決済のサービスだ。前述のように、日本でも2020年ごろからキャンペーンや店頭の対応により急激に利用環境が整った。

 例えばVisaのタッチ決済対応クレジットカードを持っている場合、Visa取り扱いかつタッチ決済にも対応した店頭で「クレジットカードのタッチ決済」と伝えて、カード(またはスマホ)を決済端末にかざすだけで決済を完了できる

●日本におけるクレジットカード決済方法のおもな普及時期

・接触:インプリンタでのエンボス転写

・接触:磁気ストライプの読み込み(1990年代)

・接触:ICチップの読み込み(2010年代)

・非接触:タッチ決済(2020年代)

 日本では近年「Visaのタッチ決済」など、各ブランドとも事実上タッチ決済という呼び方になぞらえて普及を進めている。日本以外だと「コンタクトレス決済(Contactless Payment)」と呼ばれる。技術面では、クレジットカード業界のICカードの共通仕様(EMV)が非接触ICのNFCに対応したと考えればいい。

 日本での普及状況だが、2020年あたりから小店舗でもコード決済+タッチ決済に対応した決済端末の導入が増えたことと、海外渡航者の増加によりタッチ決済の利用環境が一気に整った。

 タッチ決済はスマホにも対応しており、iPhoneなら「ウォレット」、Androidなら「Google ウォレット」にクレジットカードを登録すると店頭での決済に利用できる。

 日本だと2000年代後半から、クレジットカードなどの非接触決済としてFeliCaを用いた「iD」や「QUICpay」が普及している。大ざっぱに比較するなら、タッチ決済は海外で2010年代半ばから普及が進んだ、NFCを用いた国際的なサービスといえる。

 後述するが、バス路線や私鉄でも、Suicaなど交通系ICカードの代わりとしての導入も進みつつある。この内容を踏まえて、次はEVERINGを紹介しよう。

●指輪での買い物が楽しいEVERING、ただポイントなどのお得さは薄い

 EVERINGは、2024年3月にNTTドコモと企業のEVERINGが業務提携契約を締結し、5月に一部のドコモショップでも販売を始めた製品だ。EVERING自体は2021年に製品だが、ここ数年でタッチ決済に対応した店舗が増えたことで、大阪・関西万博への協賛や、今回のドコモとの提携などで販売を拡大している。むしろ、これからが売れる時期といってもいい。

 EVERINGの指輪自体は、Visaのプリペイドカードとしての機能しか持たない。だが、利用には月額プランに加入するか、買い切りでの購入(利用期限4年間)が必要だ。決済アイテムを利用するためにお金を出すのは高いと感じる人もいれば、新しい支払い体験として魅力的に感じる人もいるだろう。

●EVERINGの利用プランは2種類

・「定額プラン(最低2年契約、紛失保証)」月額550円(SILVERのみ、初月2200円)

・「スタンダードプラン(有効期限4年)」BLACK/WHITE:1万9800円、SILVER:2万1450円

 金額のチャージ方法や、ポイントサービスについても見ていこう。チャージ方法は専用アプリでEVERINGアカウントを作成し、クレジットカードからチャージするだけだ。スマホとEVERINGの指輪をつなげる必要はない。

 1回あたりのチャージできる金額は3万円、1カ月あたりにチャージできる金額は12万円までだ。オートチャージも利用できる。基本的には、飲食店などでの少額決済を想定したサービスとなる。なお、1つの電話番号につき、1つのEVERINGアカウントしか利用できない。

 支払い時のポイントサービスだが、独自の還元やdポイント対応など、支払い自体がお得になるサービスは今のところ用意されていない。クレジットカードからのチャージにポイントがつくかはカード会社による。

 支払い時は、EVERINGの指輪をはめた指を曲げて、指輪の円を決済端末のタッチ部分に近づけて認識させる。すると、VISAのクレジットカードとして、EVERINGのアカウントに残額があれば引き落としが完了する。

 実際の使い勝手だが、リングの厚み2.9mmという点を除けば使い勝手はいい。一部の店舗ではカードが2枚重なっているなどと表示され使えない場合もあったが、いずれは決済端末側の更新などで解決されるだろう。また、落とした場合もスマホで利用停止できる他、先に利用されてもチャージ額以上は使えないという安心感がある。

 EVERINGならではの便利さとして、軽量かつ5気圧防水でランニング中や急な雨でも気軽に決済を利用できる点、NFCを活用したスマートキーでのロック解除が可能な点などがある。

 ただ、もっと便利さを享受するには交通機関のように、スマホやクレジットカードを取り出さずに素早く決済したくなる環境が必要だろう。また、EVERINGの仕組みであれば指輪型以外に、子どもに持たせるモデルや、以前ソニーが販売していた既存の時計のバンドをスマート化する「wena」のような製品があってもいいはずだ。今なら、小型/軽量のスマートバンドに取り付ける用途も考えられる。利用領域の拡大と、普及による決済面でのお得さの拡充に期待したい。

●EVERINGも対応、電車・バス利用のタッチ決済対応は今後どうなる?

 今回EVERINGを装着し、特に利用したいと感じたのが公共交通機関だ。そこで、最後にタッチ決済と交通機関の関係にも触れていこう。

 ここ数年で、Suicaなどの交通系ICカードではなく、クレジットカードのタッチ決済を導入するバスや私鉄が増えている。これは導入費用の他、インバウンド需要に対応できるという部分も大きい。

 EVERINGでのタッチ決済も電車・バスでの利用はできないとされていたが、7月になり公共交通機関での利用に対応すると発表された。

 EVERINGのような指輪型の決済アイテムで公共交通機関を通れるとなれば、いちいちスマホをかざす、左手をひねってウォッチをかざすといった動作をしなくてもより楽に改札を通過できる。

 ただ、EVERINGもプリペイド型クレジットカードならではの制限がある。公共交通機関への支払いは都度払いではなく、翌日に減算される。さらに、チャージ残高が不足していると公共交通機関での利用が制限されてしまう。安心して利用するには、下限金額を多めに設定したオートチャージが必須といえる。

 なぜ、Suicaなどの交通系ICカードのようにすぐ決済できないのだろうか。交通系ICカードは都市部の混雑時でもスムーズな改札処理を実現するため、0.2秒以内に認識から決済までを完了できるという前提で開発されている。このためクローズドな設計で、FeliCa採用に加えて、支払い時はカードにチャージした残額を減算するだけのプリペイド型電子マネーを採用している。

 だがタッチ決済はクレジットカードの後払いなので、決済時にオーソリゼーションと呼ぶ承認手続きが必要になる。店舗のレジでタッチ決済を利用すると認識は高速だが、決済端末の処理に長ければ数秒かかる状態だ。クレジットカード決済はさまざまな国際ブランドや企業のシステムを利用する(交通系ではオープンループとも呼ばれる)ので、一企業の努力による高速化は難しい。さらに、公共交通機関は入場した駅を記録し、駅から降りる際に支払金額を決定する独特な処理が必要だ。処理に時間がかかると、人の少ない電車やバスでも行列ができかねない。

 このため公共交通機関のタッチ決済システムは、改札の入出場時の認証を素早く実施し、時間のかかる決済処理は後ほど行うことが多い。EVERINGで公共交通機関の支払い金額が翌日の減算されるのも、この仕組みによるものだろう。EVERINGのようなプリペイド型クレジットカードは便利だが、この点で若干の制約を受けることになる。

 また、公共交通機関をタッチ決済や、EVERINGのようなプリペイド型クレジットカードのタッチ決済で利用する場合、現在のところは私鉄やバスの導入や実証実験にて決まったエリアでの乗車券にしか利用できないことが多い。今後より快適に利用するには、各社の導入が全駅や複数の鉄道会社をまたぐ利用、定期券に相当するサービスなどの提供が必要だろう。

 最後に、前述の写真のように近年増えている「Suicaなどの交通系IC」「タッチ決済」「QRコードリーダー」の3通りに対応している改札について少し触れておこう。近年の流れとして、非接触ICカードやスマホ利用の増加により「紙の磁気きっぷ」を廃止する流れがある。さらに、インバウンド対応を含むタッチ決済への対応、スマホアプリを活用した特殊な企画乗車券の発行などさまざまなニーズに対応する必要が出てきている。ここから、各社とも複数の方式に対応した改札の導入や実証実験を行っているというわけだ。

 主な特徴を下記に記載した。交通機関各社によって異なるだろうが、当面はどれか1つに絞るのではなく、用途に応じて最適な方法を併用することになるだろう。もちろん、各方式の方針や仕様の変化でバランスが大きく変わる可能性もある。

●公共交通機関の入場方式とその特徴

Suicaなどの交通系IC

・定期券や電子マネーで、都市部の混雑改札を素早く処理

・主要な交通機関と都市部の街中の対応店舗が多い

タッチ決済

・海外客含めクレジットカードだけで支払える

・システム次第で定期券や上限割引なども実装できる

・EVERINGなどチャージからの即時引き落としは苦手

QRコード

・券売機で「紙のQRコードきっぷ」を発行できる

・スマホアプリで特急券や企画乗車券を提供しやすい

 現在は各公共交通機関ともタッチ決済やQRコードの採用の他、磁気切符の廃止を進めているなど流動的な状況だ。今後数年で公共交通機関の決済がどう変わっていくのかも要注目だ。

(製品協力:NTTドコモ)

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