Infoseek 楽天

KDDI「povo3.0」の姿が明らかに B2B2Cモデルで他サービスと連携、“生活に溶け込む通信”へ

ITmedia Mobile 2024年9月5日 11時36分

 KDDIは9月4日、KDDI SUMMIT 2024の中で、同社の携帯電話ブランド「povo」の新たな展開について講演を行った。KDDI Digital Lifeの秋山敏郎社長が登壇し、「povo3.0」の構想を明らかにした。

 povoはau、UQ mobileに次ぐサブブランドとして登場したオンライン専用ブランドだ。2022年に始まったpovo 2.0は、基本料金0円で、ユーザーが必要に応じてデータ通信や通話オプションを「トッピング」として追加購入する新世代の通信サービスだ。例えば、データトッピングは1GB(7日間)390円、SNS使い放題(7日間)、通話トッピングは5分以内かけ放題が550円/月など、多様な選択肢を用意している。また、SIMは物理SIMとeSIMの両方に対応しており、現在約半数のユーザーがeSIMを利用しているという。

●povo2.0のコンセプトは「早く失敗して早く学ぶ」

 秋山社長は、povo 2.0のアプローチとして、「fail fast, learn fast(早く失敗して早く学ぶ)」の方針を採用していると説明。開発にはシンガポールのスタートアップ企業Circlesを仰ぎ、意思決定を迅速化するためKDDI Digital Lifeが運営する体制を取っている。

 povo 2.0のコンセプトについて、秋山社長は「Z世代をメインターゲットとしており、彼らの価値観や行動様式を重視したサービス設計を行っている」と述べた。具体的には、トランスペアレンシー(透明性)、カスタマイゼーション(個別化)、コントロール(制御)、コミュニティードリブンエンゲージメント(コミュニティー主導の関与)という4つの要素を尊重し、サービスに反映させているという。

 例えば、料金プランや利用状況が一目で分かるダッシュボードを提供することで透明性を確保し、ユーザーが自分の使用状況を常に把握できるようにしている。また、「トッピング」システムにより、ユーザーが自分の必要に応じて柔軟に通信プランをカスタマイズできる仕組みを導入。さらに、アプリを通じてユーザーが自由に契約内容を変更したり、サービスのオン・オフを切り替えたりできるようにすることで、ユーザーのコントロール性を高めている。使わない時期は料金がかからない仕組みもこの一環だ。

 コミュニティー主導の関与については、アプリ内に「サンドボックス」と呼ばれる機能を設け、毎月新しい試験的機能を提供。ユーザーの反応を見ながら、人気の機能を正式サービスに組み込んでいくという方法を取っている。

 「Z世代は複数のペルソナを使い分けており、それぞれの生活シーンに溶け込む形での通信サービスを目指している」と秋山社長は説明を加えた。これらの要素を組み合わせることで、ユーザーの多様なニーズに応える柔軟なサービス提供を実現しているという。

 また、秋山社長は、povoの運営において「グローバルな視点を入れて、グローバルでどういうものが通用して、どういうユースケースがあってそれを取り込んでいくか」という点を重要視していると強調した。海外市場で通用するサービスやユースケースを積極的に探索し、日本のサービスにも取り入れていく考えを示している。

 講演には、CirclesのCEO、Rameez Ansar氏も登壇した。Circlesは世界中の携帯キャリアとともに新サービス開発を行っている。その経験から得た成功法則として「変革には上級幹部のコミットメントと長期的な視点が不可欠だ」と言及。また、「外部からのDNAを取り入れ、既存の組織の制限にとらわれない別会社を設立することが効果的」と指摘した。これはKDDI Digital Lifeの設立とpovoの運営方式に通じる考え方だ。

●povo3.0、B2B2Cモデルで新たな展開 Wi2やABEMAとの提携も

 povo3.0の構想で主軸となるのは、新しいB2B2Cモデルだ。これはパートナー企業のサービスにpovoの機能を提供して通信サービスを行うものだ。povo SDKとして、パートナー企業のアプリにpovoの機能を組み込むことができる。

 秋山社長は、B2B2Cモデルの可能性について、さまざまな業界との連携を視野に入れた具体例を挙げた。例えば、イベント会場や観光施設で、施設利用者が1日パックの一部として通信サービスを利用できるようになるという。

 また、エンターテインメント分野では、ストリーミングサービスと提携し、ユーザーがデータ消費を気にせずコンテンツを楽しめる仕組みを構想している。さらに、旅行業界との協業も視野に入れており、国内外の旅行者向けに、シームレスな接続サービスを提供することも検討しているという。これらの方式に共通するのは、povoのブランドを前面に出さず、パートナーサービスに自然に溶け込む形で提供される点だ。

 今回、povoと提携するパートナーとして富士ソフト、ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)、ABEMAの名前が挙げられた。富士ソフトとの提携については、Wi-Fiルーター向けの通信サービスの提供を予定している。ベーシックなデータ通信専用のプランとなるようだ。

 Wi2とはインバウンド向けのSIM販売で協力する。秋山氏によると、Wi2が運営する空港や観光バスなどのWi-Fiスポットを活用し、訪日外国人向けにサービスを展開する予定だという。既に一部のローソン店舗で試験的にSIMパッケージの販売を始めており、店頭で購入したカードを使ってその場で開通できるサービスを提供している。Wi2のWi-Fiを使って機器を認証し、シームレスに開通できることが特徴だ。

 ABEMAとは、映像コンテンツサービスを組み合わせたSIMの提供を準備しているようだ。秋山氏は「ABEMAとは協議中で、具体的な内容はまだ話せる段階ではない」としながらも、「だいたいこんな形でできるんじゃないかという議論をしている段階」だと説明。サービスの具体的な構成やスケールさせるための今後のステップ、商業的な観点からの検討も含めて協議を進めているという。

●povo3.0の将来~APIの開放とグローバル展開

 秋山社長は、povoの将来的な展開について、さらに踏み込んだビジョンを示した。

 まず、APIの開放について言及した。「将来的には、個人がアプリを作り、povoのSDKを組み込めるような世界を目指している」と秋山社長は述べた。povoのプラットフォームがより広範な開発者コミュニティーに開かれれば、通信と連携するアプリの裾野が広がることになりそうだ。

 また、グローバル展開の可能性も示唆した。秋山社長は「日本だけでなく、例えばシンガポールで事業を広げたいという話があったとき」を想定し、海外のテレコム事業者とのパートナーシップによる展開を視野に入れていると述べた。現在はKDDIのネットワークを利用しているが、将来的には海外のMNO(移動体通信事業者)とも連携し、サービスを展開する可能性がありそうだ。

●povo2.0の今後は? IDのオープン化や支払い方法の拡充が候補に

 povo3.0の将来像がシームレスに溶け込む通信サービスとして示された一方で、気になるのは現状の個人向けサービス「povo2.0」がどう変わるのかだ。今回の講演ではその具体的な方向性は示されなかった。

 ただし、秋山社長は継続的な改善の可能性について言及している。その1つは、IDのオープン化で、メールアドレス以外でのログインを可能にするものだ。また、クレジットカード以外の支払い方法も改善項目の候補として示された。

 povo 2.0がアジャイル開発手法を採用していることを考えると、今後もさまざまな新しいトッピングや機能が試験的に導入され、ユーザーの反応を見ながら迅速に改善することが予想される。

 povo3.0で示されたB2B2Cモデルの考え方を一部取り入れ、povo 2.0でもさまざまな企業とのコラボレーションが進む可能性がある。例えば、人気ゲームとタイアップした「ゲーム専用データトッピング」や、音楽ストリーミングサービスと提携した「音楽聴き放題トッピング」など、特定のサービスに特化したトッピングが登場するかもしれない。ユーザーの反応を迅速に分析し、人気の高い機能を正式サービスに組み込んでいくことで、povo 2.0は常に進化し続けるサービスとなっていくだろう。

この記事の関連ニュース