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スマホの料金プランには価値なし? 月額280円からの「HISモバイル」が目指す心躍るサービス 

ITmedia Mobile 2024年9月5日 21時48分

 H.I.S.Mobileが9月5日、MVNOサービス「HISモバイル」で、新料金プラン「自由自在2.0プラン」の提供を始めた。

 現行の「自由自在プラン」の一部を見直し、利用実態に合うプランへと改定した。価格を据え置いたのは、月のデータ使用量が100MB~1GBの月額550円(税込み、以下同)、3GBの月額770円、7GBの月額990円となっている。

 一方、100MB未満の場合は現行の月額290円から月額280円に値下げした他、月額1340円の10GBプランを新設した。20GBは現行の月額2190円から2090円に値下げし、音声通話オプションは現行の5分かけ放題より1分長い6分かけ放題に変更した。また、新たに月額2970円の30GBプランを設け、6分かけ放題を付加した。

 同日、代表取締役社長を務める猪腰英知氏が、料金プランの見直しに至った背景や、AIを使って最適な料金プランを提案する「AI料金コンシェルジュ」を提供する理由を語った。

●旧料金プランの改善点を踏まえ、月額280円からの新料金プランを提供 

 猪腰氏は「店頭を介して加入する人の数は前年を上回るが、ネット経由で転入する人の数については、この2年間ほどで楽天モバイルの影響を受けて大きく増えていない」と振り返り、オンライン契約の獲得が厳しい現状について触れた。

 実際、これまでにどれくらいの割合でMNP転入があったのか。楽天モバイルの0円プランが終了した2022年7月は、ドコモからの転入が31%、KDDIとソフトバンクからがそれぞれ14%だったのに対し、楽天モバイルからの転入は41%で4キャリアの中で最も多かった。猪腰氏は「他社への乗り換え需要に乗っかれた」と振り返る。

 1年後の2023年7月には、ドコモからの転入が40%、KDDIからが21%、ソフトバンクからが24%、楽天モバイルからが15%と推移。さらに1年後の2024年7月には、ドコモからの転入が40%、KDDIからが21%、ソフトバンクからが28%、楽天モバイルからが11%となり、「楽天モバイルのシェアが多いが、なんとなく正常な割合に戻ってきているのではないか」と猪腰氏は分析する。

 一方、eSIMの契約者は年々増えており、2022年9月で14%、2023年9月で18%だったところ、2024年9月には20%に達したという。「eSIMの普及が確実に進んでいることがみてとれるし、eSIMの普及に伴い2台目需要が増す。やり方次第では大いにチャンスがある」と猪腰氏は考える。

 そんな中、「新料金プランである自由自在2.0プランの提供に向けて、何を改善すべきか考えた」結果、現行の料金プランの改善点が見えてきたそうだ。

 まず、HISモバイルが「注力している」(猪腰氏)7GBが月額990円の料金プランでは、毎月7GBでは収まらずに超過してしまうユーザーが70.2%、3~7GBで収まるユーザーが19.4%、3GB未満が10.4%となった。かといって、20GBの料金プランに変更したものの、実際に使うと20GBを超過してしまうユーザーが51.8%、10~20GBで収まるユーザーが18.1%、10GB未満が30.1%と、「全体的に不整合であることが分かった」と反省点を述べる。

 音声通話に関しても課題があったという。5分以内の国内通話が何度でもかけ放題となる「5分以内かけ放題オプション」は、5分以内で収まるユーザーが42%だったのに対し、5分超過で別料金が発生してしまったユーザーが58%となった。これが6分かけ放題に変更したとすれば、「超過してしまうユーザーは30%減少する」という。

●ahamoやLINEMOを意識し、他社よりも安くした

 新料金プランの名称には、現行プランと同じ「自由自在」の文字が含まれているが、コンセプトは「最安値プラン」から「最適プラン」へと変わっている。とにかく出費を抑えたい人はもちろん、ユーザーそれぞれの使い方に合った料金プランが求められていた。

 小容量の料金プランを月額290円で先に提供したのは日本通信で、そのレベルに合わせた最安値をHISモバイルも追いかけた。日本通信は従量制だが、HISモバイルは1GBを使い切ったあとも低速で使い続ける需要がまだあり、「全体のうちの5割強」(猪腰氏)はそうしたユーザーであることから、100MB未満の場合は現行の月額290円から月額280円に値下げした。

 改定を検討した際に最も意識したのが、ライバルの料金プランだという。ターゲット層を「ほぼ使わない人」「低容量を使う人」「中容量を使う人」「大容量を使う人」の4つに分かると、100MB~7GBは他のMVNOを意識し、中容量の10GBはソフトバンクの「LINEMO」、20GBはNTTドコモの「ahamo」に対抗している。

 LINEMOでも10GBは利用できる。3GB未満なら月額990円、3GBを超えると10GBまで月額2090円だが、HISモバイルはLINEMOの3GB超~10GBより750円安い月額1340円だ。20GBについても、ahamoの月額2970円より880円安い月額2090円となっている。ahamoより10GB多い30GBは2970円で、ahamoの20GBの月額料金と同額ながらも、より多くのデータ容量を消費できる。

●AI料金コンシェルジュで利用者に適したプランを自動で提案

 HISモバイルは、新料金プランの提供と合わせて、利用状況に適した料金プランを自動提案する「AI料金コンシェルジュ」も提供する。

 総務省の「情報通信白書令和6年版 インフォグラフィック」によると、2023年はモバイル端末の保有率が97%となった他、有料動画配信サービス加入者の増加、高画質な写真のSNSへの投稿・閲覧頻度の増加、生成AIサービスの普及など、モバイル通信のトラフィック量が前年比19.6%増と年々増加傾向にある。

 一方で、消費者が利用するサービスや用途によって、通信量に大きな差があり、HISモバイルのユーザーも自身に合う料金プランを選択できておらず、利用している料金プランと利用量のミスマッチも顕在化している。

 このような背景から、AI料金コンシェルジュの提供に至ったと猪腰氏は説明する。AI料金コンシェルジュでは、中容量以上の料金プランを3カ月間利用した場合、その利用状況をAIが分析し、6つの料金プラン(100MB~30GBのうちのどれか1つ)と音声通話オプション(かけ放題の有無)の組み合わせを4カ月目以降に提案する。

 猪腰氏は「生成AIを利用しているため、ユーザーが条件を追加すると、さらに最適な料金プランになるよう、現在、さらなるアップデートに向けて開発を進めている」と話す。

 開発は、AIコンサルティングやAI研究開発などを事業とするSparticleが行う。信頼できるデータから情報を抽出し、大規模言語モデル(LLM)で質問に回答する仕組みのRAG(検索拡張生成)を搭載した、法人向け生成AI活用プラットフォームを活用。Sparticleの共同創業者で取締役CSOの湯勁松氏いわく、「生成AIの活用により、使うほど精度が向上する」そうだ。

●携帯電話の料金プランにはみじんも価値がない 今後はHISならではの特典を強化

 今後、HISモバイルはHISグループ会社とのシナジーを狙う方向だという。それに向けて、HISモバイルは契約者向けに、ハワイ「LeaLeaトロリー」1日乗り放題パス(35ドル)が無料、「変なホテル」宿泊代金5%オフとなるなどの特典を提供する。

 また、契約事務手数料が最大99%オフとなる特典を用意する他、アンケートへの回答でハワイ航空券、国内ホテル宿泊券、人気レストランの招待券などをプレゼントする。

 HISモバイルユーザー5444人を対象とした調査で、全体のうちの約6割がHISモバイルに旅行関連の特典を求めたという。猪腰氏はHISグループ全体の企業メッセージ「『心躍る(ココロオドル)』を解き放つ」を引き合いに出しつつ、「モバイルの契約後は心躍らない」「携帯プランにはみじんも価値がない」と自虐的に話す。

 一方でHISモバイルには、HISが旅行業で培ってきた“心躍る”資産がある。「HISならではの楽しいことや体験にお金を使ってほしい」と猪腰氏。HISモバイルは単に安い通信サービスではなく、HISグループの価値をミックスさせたサービスに進化することが期待される。

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