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実は始まっていた「povo3.0」への布石 povo2.0は他社対抗も含め“完成形”に

ITmedia Mobile 2024年9月7日 6時5分

 KDDIは9月3日~4日の2日間にわたり、「KDDI SUMMIT 2024」を開催した。会期2日目の4日には、オンライン専用ブランドpovoを運営するKDDI Digital Life(KDL)の代表取締役社長、秋山敏郎氏や、同社とともにpovoの運営に携わるシンガポールのCircles CEO、ラメーズ・アンサル氏らが登壇。povo3.0の目指す姿が明らかになった。

 “povo3.0構想”は2月にスペイン・バルセロナで開催された「MWC Barcelona 2024」で初めて公開されたコンセプト。そのより具体的な形が、KDDI SUMMITで明かされた格好だ。その間、KDLは着実にpovo2.0を進化させ、3.0へのアップデートに向けた布石を打ってきた。ここでは、そんなpovoのこれまでの歩みと、povo3.0の特徴を解説していく。

●MWCで明かした新コンセプト、黒子になって生活に浸透するpovo

 2月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC Barcelonaで明らかになったのが、povoのホワイトレーベル化だ。簡単に言えば、povo自体が黒子になり、パートナーのサービスに通信機能を組み込んでいく仕組みのこと。動画サービスから直接それを視聴するための通信を購入できたり、テーマパークでマップの表示やチケット購入をするためのアプリに通信がついていたりといったように、回線ありきではなく、コンテンツやサービスに合わせて必要な回線を提供できること想定している。

 ワンショットでトッピングを購入し、自由に料金やデータ容量などをカスタマイズできるpovo2.0の特徴を発展させたものといえる。それに合わせ、KDLはSDKを開発。povoのサービスを外部アプリから呼び出せる環境を整えている。MWCでは、サンプルとしてアイドルのファンサイトから直接povoの回線契約ができたり、トッピングを購入できたりするデモを披露し、海外キャリアにもその取り組みをアピールした。

 その場ですぐに通信手段を提供できるようにするには、eSIMが欠かせない。オンライン専用ブランドとして成長してきたpovoは、サービス開始当初からeSIMに対応しており、その利用比率も一般的なキャリアと比べると高い。KDDI SUMMITで秋山氏が「eSIMの比率は非常に高く、大体半分ぐらいがeSIMになっている」と語ったように、現状では、2人に1人が物理SIMではなく、eSIMを選択している状況だ。

 同じオンライン専用ブランドでも、ソフトバンクのLINEMOは約4割としていたため、eSIM比率ではpovoが一歩リードしていることが分かる。これは恐らく、バックアップ回線として取りあえず端末に入れておく用途も多いためだろう。実際、KDLは2023年末のコミックマーケットで前週比約2.4倍の契約を獲得するなど、イベントに合わせて成長してきた実績もある。ここでの主体はあくまでpovoだが、こうした事例は、サービスに通信が溶け込むコンセプトの原型を示しているといえそうだ。

 「デジタルネイティブ向けということで、全てオンラインで完結させる」(同)という下地があったからこそ、ホワイトレーベル化が可能になるというわけだ。機種変更が簡単にできるよう、iOS、iPadOSの「eSIMクイック転送」に対応するなど、eSIM化を推進するための利用環境づくりにも取り組んできた。

●データ通信専用や外国人向けプリペイドでpovo3.0への布石を打つ

 一方で、ホワイトレーベル化するとなると、より簡易に契約できる必要がある。日本では、音声通話が可能な回線の契約にはより厳格な本人確認が義務付けられており、マイナンバーカードや運転免許証などの提出が必須だ。犯罪での利用やなりすましを防ぐためだが、トレードオフとして、契約のハードルが高くなってしまう側面があることは否めない。

 MWCで秋山氏を取材した際にも、その課題は認識していることがうかがえた。その対策としてpovo2.0に導入されたのが、データ通信専用SIMだ。3月に開始された「povo 2.0 データ専用」は、文字通り、音声通話機能を省いたサービス。トッピングなどの仕様は共通しており、基本的には電話やSMSが利用できない以外の違いはない。

 MVNOのように、基本料がかからないぶん料金が安いといったメリットもなく、データ専用の存在意義に疑問を覚えた向きもあるはずだ。確かに、音声通話やSMSがないぶん、サービスは限定的になる。その反面、データ専用であれば本人確認を自己申告だけで済ませられる。マイナンバーカードや運転免許証を使ったeKYCも必要なく、利用を始めるまでの時間を大幅に短縮できるのが、そのメリットだ。

 実際、筆者も音声通話ができないiPad Pro用の予備回線としてpovo2.0 データ専用を契約してみたが、記録のためにスクリーンショットを取りながらでも、わずか数分で作業が完了した。一見、タブレットやPCに特化したサービスのように見えるが、このサービスの導入も実はpovo3.0への布石だったというわけだ。それでも契約を伴うため、Wi-Fiのように簡単に接続するというわけにはいかないものの、ホワイトレーベル化に向けて大きく前進したことは間違いない。

 データ専用プランは、既に訪日外国人観光客向けのサービスにも応用している。同社は、東京都内を中心とした一部のローソンで、プリペイドeSIMの販売を開始した。これも、将来的には「インバウンド向けのアプリSDKで(povoを)組み込んでいくというユースケース」を目指し、その布石として展開しているものだ。

 また、4月ごろからpovo2.0にも新たなトッピングを加え、他社対抗路線を明確化している。4月には、楽天モバイルのデータ容量無制限に料金面で真っ向から対抗した「データ放題 7日間×12回分」を導入。8月には、LINEMOの「LINEMOベストプラン」より安い料金を狙った「120GB(365日間)」などを定番トッピングに追加し、ラインアップを充実させている。今後も、競争環境に応じてデータ容量などを変えていく可能性はありそうだが、ひとまずpovo2.0としての完成形を迎えつつあることがうかがえる。

●ABEMA、Wi2、富士ソフトが導入を検討、B2B2Cモデルへの転換は図れるか

 MWCでは、「来年(2025年)上期に3つ、4つは出していなければいけない」と語っていた秋山氏だが、KDDI SUMMITでは、交渉を進めている具体的な会社名が挙げられた。動画サービスのABEMA、公衆無線LANサービスを展開するKDDIグループのワイヤ・アンド・ワイヤレス、業務用ソリューションからWi-Fiルーターまで幅広く手掛ける富士ソフトが、その3社だ。

 秋山氏によると、「お客さまに提供していくトッピングもカスタマイズでき、ご相談しながら決めていく」という。例えば、データ容量をちょうど動画1本ぶんにしたり、自社サービスだけデータ容量のカウントから除外するゼロレーティングのサービスを入れたりといった形で、パートナーが望むトッピングを用意する意向だ。秋山氏は、「パートナーと一緒に新しいものを作っていこうというのが現段階」と語る。

 当初は、povoという名前も比較的前面に出るが、「パートナー側やそのお客さまが見たときに自然な形になるよう、こうあるべきと決めているわけではない。できるだけ(povoの)名前をウォッシュアウトしてしまうやり方はもちろんある」という。より通信がサービスやコンテンツに溶け込めるよう、パートナーの名前で提供していく可能性もあるそうだ。

 回線をパートナーに提供する黒子という意味ではMVNOやMVNOを支援するMVNEに近い印象も受けるが、秋山氏は「MVNOとは違うと思っている」と話す。「お客さまとのエンゲージメントを高めるところをご一緒にして、一緒に作り上げていくコンセプトでこの事業を用意している」(同)とした。将来的には、海外で現地キャリアのネットワークを利用できることも想定しており、「例えばシンガポールで事業を広げたいと思ったら、テレコム同士のアライアンスでコネクティビティをご用意したい」(同)という。

 現状では、B2B2Cに近いビジネスモデルだが、秋山氏は「その先のコンシューマーが個人でアプリを作って、そこにSDKを組み込めるようにして、個々人をエンパワーメントする社会が来るかもしれない」と予想する。ここまで来れば、スマホを使ったサービスにpovoが本当の意味で染み込んだといえそうだ。

 「povoはau UQ mobileをどうトランスフォームしていくかを考えてできたブランド。安いところを追求するというより、将来のテレコ(通信事業者)がどういう形でビジネスを追求し、社会に関わっていくかを模索していくブランドで、全てをオンラインにし、若い世代や今後の世代にどんなユーザー体験を提供できるかをアジェンダにしている」

 秋山氏は、KDDI SUMMITの冒頭で、povoに課せられた役割をこう表した。実際にサービスを出しながら、変化する通信ビジネスの在り方を模索するのが、povoとしてauやUQ mobileからブランドを切り出した理由だ。単なるユーザーの奪い合いではなく、新たな市場を創出しようとしているところにpovoの真価がある。現状はまだ交渉中というステータスだが、サービスの早期投入にも期待したい。

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