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ソニーが「Xperia 5」新機種を見送った理由 小型スマホは終焉を迎えるのか

ITmedia Mobile 2024年9月10日 19時32分

 ソニーマーケティングは9月10日、スマートフォン「Xperia」の販売状況や戦略について、オンラインで説明した。例年秋頃に登場する「Xperia 5 V」の新製品のアナウンスはなかった。説明は、モバイルビジネス本部モバイルビジネス部 統括部長 水野雅夫氏と、モバイルマーケティング課 統括課長 湯原真司氏が行った。

●Xperia 1 VIとXperia 10 VIが好調 その要因は何か

 販売戦略について触れる前に、まずはXperiaのラインアップをおさらいしたい。Xperiaはレンジごとにモデルが分かれている。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが6月7日に発売した「Xperia 1 VI」は、ハイエンドの中でも上位に位置するモデルだ。3社がその約1カ月後の7月5日に発売した「Xperia 10 VI」は、ミッドレンジモデルとなっている。

 Xperia 1 VIは、光学7倍の望遠力を生かした「テレマクロ撮影」で、画質の劣化を気にせずに、遠くの被写体でも大きく拡大して高精細に写し出せるのが、Xperia 1 Vから大きな進化点だ。ディスプレイはアスペクト比が21:9から19.5:9へと変更され、解像度は4KからフルHD+に下がった。価格(税込み、以下同)は、キャリア向けモデルが20~21万円台、ソニーストア直販モデルが18~21万円台となっている。

 Xperia 10 VIは、アスペクト比21:9のディスプレイや、均等なバランスで配置したステレオスピーカーを搭載する。スペックやパフォーマンスの高さが際立つ1シリーズとは違うコンセプトで、先代「Xperia 10 V」のよさを受け継いでいる。価格は、キャリア向けモデルが7~8万円台、ソニーストア直販モデルが6万9300円。

 このうち、Xperia 1 VIはSIMフリー限定色の「スカーレット」「カーキグリーン」に加え、メモリ容量の異なるモデルが複数ある。湯原氏は、メモリ容量のバリエーションの拡大について、「Xperiaとして初めての取り組みだ」と紹介する。累計販売数は、Xperia 1 VIが前年比で128%増、Xperia 10 VIが前年比で130%増となり、「両モデルともに好調に売れている」と湯原氏は話す。

 特にXperia 1 VIについては、「キャリアモデルの発売に近いタイミングでソニー直販のSIMフリーモデルを発売できた」(湯原氏)ことが、好調の一因だという。Xperia 1 Vではキャリアモデルの発売後、4週目にSIMフリーモデルを発売したが、Xperia 1 VIではキャリアモデルの発売後、2週目にSIMフリーモデルを発売した。

 Xperia 1 VIの商品メッセージである「全方位スキのないスマホ」が消費者に届いたことも、好調である理由の1つだという。Xperiaの強みであるカメラ、オーディオ、ビジュアル機能を訴求している。カメラは、AI姿勢推定で動きのある被写体を追随できる。ディスプレイは、画質調整にテレビ「BRAVIA」の技術を取り入れた。オーディオは、バランスよく聞こえるスピーカーやハイレゾ音源への対応などを挙げられる。

 ユーザーから得られた評価については、Xperia 1 VIが先代の「Xperia 1 V」を上回っているそうだ。「Xperia 1 VIご愛用者アンケート」では、総合満足度だけでなく、「メインカメラの画質や使いやすさ」「音楽再生時の音質」「ディスプレイのきれいさ」「バッテリー持ちのよさ」「端末が熱くなりにくいこと」が評価された。

 同じアンケートでは、「カメラアプリが新しくなって不安だったが、使いやすくて気に入った」「Xperia 1 Vは21:9の完成形だと思い満足していたが、1 VIはそれを上回る出来」「従前の4K対比画質劣化がさほどなかった。期待値以上だった」という好意的な意見も寄せられた。

 こうした内容は、スペック表や商品ページだけで、十分に伝わらない感があるのだが、ソニーがXperia 1 VIのプロモーションにおいて「諦めていた、未体験の星空まで映し出す、星空センサー」というキャッチコピーを付けたり、店頭での体験機会を増やしたりした結果、「体験を通して実感できるXperiaならではの価値」が浸透したそうだ。

 筆者としても、Xperiaの実機を体験できる機会は増えた、と実感している。実際、ソニーは5月17日に実機体験会を報道関係者向けに実施。同日夜には、一部の一般客を招き、「Xperia SPECIAL EVENT 2024」を開催した。その後、全国のソニーストアでイベントを開催した際には、「過去最多となる来場者数を記録した」(湯原氏)という。

●体験や比較を重視したキャンペーン実施 過去モデルから新モデルへの買い換えを促す

 ソニーマーケティングは、こうした体験を重視し、体験や旧モデルとの比較を通して、Xperia 1 VIへの移行を促す「Go to 1キャンペーン」を始めた。Xperiaの旧モデルを利用する人に対して、Xperia 1 VIへの買い換えをサポートする。期間は9月10日~10月31日。キャンペーンの内容は3つある。

 1つ目は買い換えに伴うキャッシュバックだ。既存の製品からXperia 1 VIに買い換えると、1万円をキャッシュバックする。対象モデルは乗り換え元がXperia XZシリーズ以降のモデル、乗り換え先がXperia 1 VI(キャリア向けモデル、ソニー直販モデル)。応募はXperia Loungeアプリから行う。

 2つ目は店頭での比較体験。Xperia 5シリーズとXperia 1 VIを実際に比較体験できるイベントを、札幌、銀座、名古屋、大阪、福岡のソニーストアで実施する。体験を終えた人がクイズに答えると、ノベルティーをプレゼントする。

 3つ目は製品を比較できるサイトとなる。過去モデルとXperia 1 VIを比較した場合、バッテリーがどれくらい持つのか、プロセッサの性能がどれくらい向上したのか、カメラやディスプレイの性能がどれくらい進化したのかが分かるようになっている。サイトで選択できるモデルは、過去モデルがXperia 1、5のシリーズの歴代モデル、新モデルがXperia 1 VIとなっている。

●小型スマホはディスコン感が否めず ソニーがXperia 5 Vを継続販売する理由

 これらの施策が功を奏して、好調に見えるXperiaだが、Xperiaのラインアップを見ると、例年ではあまり見られない変化が起こっている。ソニーは今期、Xperia 1 VI、Xperia 5 V、Xperia 10 VIの販売を継続することを明らかにした。つまり、今期、例年秋に登場していたXperia 5シリーズの新モデルは登場しないことになる。

 Xperia 5 Vは、横幅約68mmのコンパクトなボディーでありながらも、画質劣化を抑えながら光学2倍相当のズームができるなど、上位モデルのXperia 1 Vに近い性能や特徴を持つ。ソニーストアでの販売価格は、15万9500円のXperia 1 Vより2万9700円安い12万9800円となっている。

 湯原氏は、「クリエイターの意見を踏まえた上で、ディスプレイの解像度やアスペクト比の変更を行ったり、複数に分けていたカメラアプリの統合も行ったりした結果、Xperia 5シリーズの歴代モデルからXperia 1 VIへ乗り換える人が純増した。他社メーカーからの買い換えも増加している」と胸を張る。

 ハイスペック志向の人やガジェット好きの人というより、「もう少しライトなクリエイターの方や、エンタメコンテンツをさらに楽しみたいという、これまで5シリーズで中心だったお客さまが1シリーズへ移行している」(湯原氏)

 こう聞くと、Xperia 1 VIの販売好調が起因して、今期、Xperia 5 Vに続く新モデルが出ないことになったのか? と思うところだが、水野氏は「Xperia 1 VIを含む他のモデルの販売状況を見て判断したわけではなく、お客さまのニーズの変化を踏まえ、ソニーとしてどのような商品、ラインアップをお客さまに提案していくかを検討する中で決めた。この決定は日本だけでなく、販売対象となる全ての国に適用する」と説明する。

 では、Xperia 5シリーズは終わりを迎えるのか? この点について、湯原氏は「来期以降の方針については現時点ではお答えできない」と回答するにとどめ、直接的に言及することはなかった。

 ただ、コンパクトなボディーで握りやすいスマートフォンや、全体的にボディーサイズが小さく持ちやすいスマートフォンは年々減少傾向にある。

 横幅71.5mmの「iPhone 13 mini」は既にAppleのラインアップから姿を消している。2024年9月現在も入手できる横幅67.3mmの「iPhone SE(第3世代)」(Apple Store価格は6~8万円台)はプロセッサがiPhone 14やiPhone 13シリーズと同じ「A15 Bionic」であることや、Lightning端子を採用していること、アウトカメラが1つしかないことなどから、最新のコンパクトスマートフォンとはいえない。

 Androidのスマートフォンにおいても、小型・コンパクトモデルの選択肢は狭まっている。横幅が約69mmで石ころのようなフォルムを採用したミッドハイモデルの「BALMUDA Phone(バルミューダフォン)」は9月30日で販売終了。横幅がXperia 5 Vに近い「Zenfone 10」も選択肢の候補だったが、ほどんどの販路で終売となっており、市場全体で「小型スマホがディスコンとなった」感は否めない。

 Xperia 5シリーズは縦に長いため、他社製品より小型といえるほどではないかもしれないが、Xperia 1シリーズよりはディスプレイサイズが小さく、Xperia 5 Vにおいても握りやすさは健在だ。「Xperiaの過去モデルの販売状況を踏まえると、小型(コンパクト)端末に対する一定のニーズがあるが、ディスプレイのサイズが大きい端末を求める方の方が増えている」(湯原氏)という。

 「Xperia 1シリーズで大画面へのニーズをカバーできる率が向上していること、お客さまの購入タイミングが新商品発売時によらなくなっていることを踏まえ、Xperia 1シリーズとしてはXperia 1 VI、5シリーズとしてはXperia 5 V、10シリーズとしてはXperia 10 VIで、「お客さまのニーズをカバーできると判断した」(湯原氏)そうだ。

 「Xperia 5シリーズの購入を検討した結果、購入しなかった人を含む調査データなどを見ると、要因に価格を挙げる方が年々増加していることが分かった。商品の価格が年々上がってきている中で、当初、われわれが5シリーズで狙ってた、最先端のスペックでありながらも、コンパクトで手頃なXperiaを求める方の位置と、実際の価格ラインが合わなくなってきたことも含めて、ラインアップを総合的に判断している」と水野氏は補足した。

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