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ドコモが売るスマートグラス「MiRZA」は誰向けか 「XREAL」との比較で分かったメリットと課題

ITmedia Mobile 2024年9月11日 21時28分

 NTTコノキューデバイスは9月9日、設立後初のグラス型デバイス「MiRZA(ミルザ)」を発表した。小売価格は24万8000円(税込み)で、NTTドコモが2024年秋にドコモショップ店頭やドコモオンラインショップなどで販売開始予定だ。

 NTTコノキューデバイスはNTT系のXR(クロスリアリティ)事業会社であるNTTコノキューの関連子会社で、ドコモの100%子会社であるNTTコノキューとシャープが株主となっている。XR技術に関するデバイスの開発が主な事業内容で、NTTグループの技術力とシャープのハードウェア開発ノウハウを結集させるべく設立された。

 設立後初の第1弾製品がMiRZAというわけだ。

 堀清敬社長は、その特徴について「重量は125gと非常に軽い。軽さだけでなく、スマートフォンとの無線接続も可能。非常に取り回しがよく、付け外しも非常に簡単できる」とアピールする。

【訂正:9月12日10時35分】初出時、重量に誤りがありました。お詫びして訂正いたします

 プロセッサは「Snapdragon AR2 Gen1」を備え、このプロセッサを搭載したデバイスは世界初(NTTコノキューデバイス調べ)という。スマートフォンとはBluetooth 5.0/Wi-Fi 6Eを介して接続する。

 中央にRGBカメラが1つあり、左右(テンプルの先端部)に空間認識用のカメラが2つある。マイクは4つあり、将来的には「指向性もサービスとして提供できる」ほどのスペックを持つ。

 開発のプラットフォームとして、「Snapdragon Spaces プラットフォーム」に対応しており、ゲーム開発ツール「Unity」「Unreal Engine」を利用した開発も可能だ。

●レンズにある線は何のため? 装着感はXREALと比べてどうか 

 一見すると、中国「XREAL」のような存在に思えるが、MiRZAはXREALにはない線のようなものがレンズに含まれる。

 仕組みはこうだ。グラスのフレーム部分の内側あるmicroOLEDで表示した映像を、グラス内のミラー(扇型のような線)に反射させて、人の目では立体的な映像として見えるようになっている。

 XREALも光の反射を利用する。MiRZAは光の反射の回数がXREALより1回多いが、レンズの線をハーフミラー代わりにすることで、XREALのようにレンズとハーフミラーを分けて埋め込む必要がなくなり、薄型化に成功している。

 バッテリー内蔵もXREALにはない特徴だ。XREALよりは全体的に太いパーツに見え、筆者が所有する約75gの「XREAL Air 2 Pro」と比べるとMiRZAの約125gは若干重く感じるが、重量のバランスが前後のどちらかに偏らないようになっている。「物が頭にある」感はあるものの、負担になるほどではなかった。

 「非常にかけ心地がライトだし、装着・脱着ともにスムーズに行えるため、ゴーグル型やヘルメット型のデバイスよりは、気楽に利用できるのではないか?」と堀氏が言うメリットは装着するとよく分かる。

●MiRZAでできること スマホとの接続は必須

 さて、肝心のコンテンツはどうだろうか? 

 コンテンツの少なさゆえに、スマートグラスで何ができるのかが一般の人に伝わりづらいのが現状の課題だが、「このハードウェア、ハードウェアに組み込むソフトウェア、ユーザー接点となるスマートフォンアプリの全てを自社で開発できる」(堀氏)ことが、NTTコノキューデバイスとMiRZAの強みの1つとなっている。

 幾つかのコンテンツを体験すると、前提としてスマートフォンが必要だと分かった。そのスマートフォンも現状はシャープの「AQUOS R9」のみ。堀氏は「MiRZAと接続するスマートフォンが、プロセッサ(Snapdragon AR2 Gen1)に対応していなければ、(接続することは)厳しいというのが現状」とした。さらに、「現時点(9月9日)ではiPhoneで利用できるようになる予定はないが、今後、他のメーカーのスマートフォンでも利用できるようにしていく」(堀氏)という。

 ブラウザやカメラでの静止画撮影は「MiRZAアプリ」から行う。このアプリの企画はNTTコノキューデバイスが担当し、UI設計などはICTソリューション事業を手掛けるテックファームが担当した。

【訂正:9月12日16時25分】初出時、「このアプリの企画はNTTコノキューが担当」と表記しておりましたが、正しくは「NTTコノキューデバイスが担当している」です。お詫びして訂正いたします

 コミュニケーションを意識した機能もある。対面で会話をする際やテレビの音声を文字に起こして字幕表示するような機能だ。

 App StoreとGoogle Playで配信されているアプリ「XRAI Glass」をスマートフォンにインストールし、スマートフォンとMiRZAのマイクで拾った音声をクラウドサーバにアップロードし、翻訳結果や文字起こしのデータをダウンロードして、MiRZAに表示する仕組みだ。XRAI GlassアプリはNTTコノキューデバイスではなく、英XRAIが開発元となっている。

 目の前の視界を物理的にふさぐデバイスだと、このような使い方はできないが、MiRZAでは「相手の表情と翻訳を同時に見られる」のがポイントだ。

 目の前が透けて見えるMiRZAは、作業現場での活用も期待される。例えば、配電盤のメンテナンスの際、MiRZAにマニュアルを表示し、それを見ながら作業できる。9日時点で、MiRZAは単独で通信機能を備えていないが、これがグラスだけで完結すると、利便性が向上するだろう。

 MiRZAは、ビジネス的な用途だけでなく、ゲームコンテンツをプレイするデバイスとしての可能性も秘めている。MiRZAアプリを通じたWebブラウザの閲覧や動画の視聴では、スマートフォンのディスプレイを指でなぞるなどして操作する必要があるが、ゲームのデモでは空間認識とハンドトラッキングの機能を組み合わせて、仮想空間に隠れたゴーストを手で捕まえられた。

 ここで、短時間ながら分かったMiRZAのメリットと課題を整理したい。メリットは、コミュニケーションや手元を見ながらの作業に向くという点。目の前をふさがない構造は、今後、進化を遂げる上でも重要だろう。ただ、レンズの線をハーフミラー代りにするため、配電盤の疑似マニュアルは線と重なってしまい、見づらいと感じた。

 内蔵バッテリーは、USB Type-Cケーブルで充電できる。連続使用時間は、カメラ使用時や明るさを最大にした際などの負荷の高い使い方の場合、1~1.5時間となっているが、「モバイルバッテリーなどでMiRZAを充電しながら使用することも可能だ」(堀氏)という。

●ズバリ誰向けのグラス型デバイスなのか 2世代目は2025年内に発売へ

 MiRZAでできることがおおよそ分かったところで気になるのが、ズバリ誰向けのグラス型デバイスなのか? という点だ。

 堀氏は、「MiRZAをまずは法人や開発者に向けて訴求したい」と話す。ソリューションパートナーはXRAIを含む12社で、事業創出パートナーはENENと三越広島の2社にとどまる。ENENでは家具の配置のシミュレーションを、三越は商品の3D閲覧や遠隔接客で新たな購買体験につなげる想定だ。

 堀氏は、「私たちが想像する利用シーンを超えて、さまざまなシチュエーションでご活用いただけるように、パートナーの方々のみならず、多くの方々と連携しながら、さらに市場を開拓していきたい」と語る。

 「そのため、親会社のNTTコノキューがパートナープログラムを立ち上げ、ソリューションを作ってもらえるようなベンダーの方や、MiRZAを事業に導入する企業をサポートしていく体制も作っていきたい」と堀氏は続ける。

 想定販路には、付け心地や秘めた可能性を訴求できそうな販路を選んだ。法人の窓口を持つNTTコミュニケーションズ、全国に実店舗を持つNTTドコモ、オンラインチャネルとしてドコモオンラインショップ、Amazonが含まれる。ドコモの家電製品などのレンタルサービスの「kikito(キキト)」でも取り扱う予定だ。

 NTTコノキューが東京・秋葉原に設けた「XR BASE」でも9月11日からMiRZAを体験できるようにした。13日からは補正レンズの主力パートナーであるアイメガネ南浦和店の一角にもXR体験コーナーを設けた。実体験できる場を増やす考えだ。

 堀氏は、「まずは法人業務の効率化などでの利用が有力だと考えるが、2025年内のなるべく早いタイミングでMiRZAの2世代目を発売したい。初代が法人向けだとするならば、2世代目は個人向けに打ち出したい。より一般の人が手に取りやすい価格帯を目指し、ずっと装着してもらい、生活に溶け込むような商品としたい」と今後の展望を語った。

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