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防水スマホの等級「IP68」を過信してはいけない理由 あなたのスマホは大丈夫?

ITmedia Mobile 2024年9月15日 10時5分

 スマートフォンの防水性能で見かける「IP65」や「IP68」といった表記。一般に数字が大きいほど上位の等級だと思われがちだが、実はIPX5に対してIPX8は「上位互換」ではないことはあまり知られていない。

●スマートフォンの「IP規格」と数字の意味を解説

 スマートフォンなどの防水・防塵(じん)性能はIP規格(国際保護等級)で示される。これは2003年に国際電気標準会議によって定められた、電気製品の防水・防塵性能を表す規格「IEC 60529」だ。

 IPコードの「IP」はInternational Protectionの略を意味し、この後に数字が3桁入る。第1数字が「人体、固形物体に対する保護」、第2数字が「水の侵入に対する保護」としている。IP規格は試験方法などが国際的に定められており、この等級を取得していれば、世界中どこで販売しても同じ防水・防塵性能を維持していると証明できる。

 それではIPの後に続く数字の意味を見ていこう。第1数字は人体、固形物体に対する保護なので、主に防塵性能を意味する。ここには0~6までの数字が入り、Xは省略を意味する。数字は0の「保護なし」から始まり、数字が大きくなるほど高い密閉性を備える。例えば、IP4Xは「1mm以上のワイヤーなどの侵入を防ぐ」、IP5Xが「粉じん環境で機能を損なわない」を意味する。

 スマートフォンの防塵性能でよく目にするIP6Xは最上位の「完全な防塵構造」を意味する。数値上では砂浜などで対象物を砂にかぶせても、密閉構造のため内部に砂塵が侵入しない。

 第2数字は水の侵入に対する保護なので、こちらは「防水性能」を意味する。こちらは0~8の数字が入り、Xは省略を意味する。こちらも0が保護なしで、数字が大きくなるほど噴水流に対して高い保護性能を意味する。1~3では対象に水滴を垂らす試験を行い、数字が増えるほど水滴をたらす角度の範囲が広くなる。

 数字の4~6は対象に直接飛沫や噴水をかける試験を一定時間行う。噴水試験はIPX4でジョウロ、IPX5がホースからの噴流、IPX6が家庭用高圧洗浄機の弱設定(100kpa)程度のイメージだ。これを踏まえると以下のような意味になる。

・IP6X→完全な防塵構造を持つ

・IPX5→噴水流に耐える防水構造を持つ

・IP65→完全な防塵構造を備え、かつ噴水流に耐える防水構造を持つ

 スマートフォンによってはIP65、またはIP6X/IPX5と表記されているものがある。これら表記の意味は同じものだ。ちなみに最上位のIPX6は「いかなる方向からの強い水の直接噴流によっても有害な影響を受けない」というもの。実はスマートフォンにおいて、この等級に対応しているものは意外と少ない。

 続いて、IP等級の第2数字の「7」と「8」について解説する。IPX7は「既定の圧力、時間で水中に沈めても動作に支障のないこと」という意味で使われる。前述までの噴水流ではなく「水没」の試験となるため、他の防水性能を示す数字とは試験内容が異なるのだ。

 IPX8は防水を示す最上位の等級を示すものとされているが、厳密な試験方法がIP規格としては明記されていない。テスト方法には「IPX7以上かつ、メーカーと機器の使用者間の取り決め」としかなく、同じIPX8等級を取得していてもその性能はメーカーや機種によって差がある。

 多くの場合、IPX8は「水中で使用できる」「IPX7よりも深い場所に沈めても動作の支障がない」といった旨でテストし、取得しているものが多いとされている。

●IP68は「IP65の上位互換」ではない理由

 ここまで、IP等級の数字によって試験項目が異なることを説明した。一般にIPX8の水没試験をクリアしていれば、水を吹きかける噴水試験も合わせてクリアできるのではないかと思われる。このため、IP65よりもIP68の方が「高性能」「上位互換」と思われるが、両者は試験方法が異なるので必ずしもそうではない。

 IP65は完全な防塵性能を持ち、IPX5等級の噴流水に耐えられる意味となる。もちろん、IPX7や8等級を有していないため水没の耐性は保証できない。 一方で、IP68は防塵構造とIPX8に示すIPX7に示す水没試験+端末メーカーの要求する防水性能を備えていることを意味する。製品にこれしか明記されない場合、IPX6までの数字に示す「噴流水についての耐性」は保証できない。数字が大きいからといって、IP65の上位互換ではないのだ。表記は以下のような意味となる。

・IP65→ 完全な防塵構造を備え、かつ噴水流に耐える防水構造を持つ(水没に対する耐性は保証できない)

・IP68→完全な防塵構造を備え、かつ水没に耐える防水構造をもつ(噴水流に対する耐性は保証できない)

・IP6X IPX5/IPX8→ 完全な防塵構造を備え、かつ噴水流と水没に耐える防水構造を持つ

 IP65に対し、IP68はIPX6までの噴水流の耐性を明記していないため「上位互換」ではないのだ。われわれが日常的に思い浮かべる防水性能は「IPX5/IPX8」といった表記がされていなければ、期待する性能を持ち合わせていない可能性がある。仮にIPX8しか有さない場合、日常では降雨が直接本体に当たる、本体に直接シャワーを当てるといった場面で使用した場合の正常な動作は保証できない。

 それでは水没に耐えられても、噴水流に耐えられないスマートフォンはあるのだろうか。 実は「Galaxy Z Fold6」をはじめとした折りたたみのスマートフォンがこれに該当する。この手のスマホのメインディスプレイはUTGという薄いガラスが採用されており、通常のスマートフォンの画面よりも柔らかく、爪先などで強く押すことも推奨されていない。ヒンジ部のメカ構造も強度を高めたとはいえ、デリケートだ。

 これは水没させて浸水こそしなくとも、シャワーなどの水流が理由で画面が破損する可能性を否定できないのだ。スマートフォンとしての機能を保てないのなら、IPX6以下の試験をパスしていないのも納得だ。折りたたみのディスプレイやヒンジがデリケートなので、防水といってもシャワーをかけることは控えた方がよさそうだ

 よく考えれば密閉構造を意味するIP6Xを取得していないのに「水没に耐える」というのも不思議な話だが、防塵と防水の試験は別口のため、このような表記の食い違いが起こる。

 それを踏まえて、一般的なスマートフォンを見てみよう。例えばXperia 1 VIではIP6Xなどの防塵等級に加え、防水等級はIPX5/IPX8といった形で6までの数字と7または8の数字が併記されていることが多い。この記載であれば、当該機種は「噴水流」と「水没」の両者に耐える防水性能であることを示している。

 スペックの記載によってはIP65/68というものもあるが、これも意味としては同じだ。重要なのは、防水性能は「6まで」の噴水流を意味する数字と「7か8」の水没を示す数字。これら2つがスペック表に記載されているか否かだ。

 また、防水に関しては原則「常温の水」で試験されており、これ以外の条件での正常な動作は保証できない。例えばサウナなどの高温多湿な環境はもちろん、人肌程度のお湯、海水、プールの水、アルコール消毒液、コーヒーやジュースといった水溶液をかけた場合の動作は保証できないのだ。これはIPX5/IPX8等級の防水性能を有していたとしても同様だ。

●IP規格だけじゃない 各種認証の取得や独自の試験を行うメーカーも

 防水等級のIPX8が「メーカーと使用者との取り決め」と異なる事情に加え、スマートフォンでは多くの場面で利用できることを付加価値とするものもある。そのため、メーカーによってはIP規格の範囲外のテストを行う場合もある。

 IP規格以外では、強靭さを表す指標としてMIL-STD-810H(米国国防総省の調達基準)やIPX9(IPX9K)を用いるスマートフォンも存在する。

 MIL-STD-810Hは28項目あり、末尾の「H」は改定されたことを意味する。1つ前の規定ではMIL-STD 810-Gとなる。一般にスマートフォンでは必要な部分のみ取得しているものが大半だ。タフネススマートフォンとして著名な京セラの「TORQUE G06」も21項目を取得している。確かに、日本で販売するスマートフォンに519.8に示す「砲撃衝撃試験」は必要ないだろう

 MIL-STD-810Hで防水に関連する部分は「風雨」「雨滴」「浸漬」「湿度」「塩水噴霧」「氷結・融解」「氷・低温雨」の項目がある。いずれもIP規格とは異なる試験方法なので、同列に比較することはできない。

 IPX9は厳密にはIP規格での規定ではなく、ドイツ工業規格DIN400 50 PART9で定められた「スチームジェット噴水流」に耐えうる規格だ。拡張で「K」の記載があるものはISO 20653規格に準じている。それぞれ噴射する水量やノズルの径などが異なるため、IPX9とは「完全に同一の規格」ではない。

 こちらは水温80度の高圧噴水流を一定時間、旋回する対象物に複数角度から噴射し、問題なく動作することを示す。主に自動車の電装部品などを対象にした試験で、IPX6よりも高圧かつ量も多い温水を噴射する。そのため、製品によってはIPX6の上位互換として用いられることがある。

 いずれの規格もIP規格と同時に取得していることが大半で、IP規格に示す防水、防塵性能を補完したり、より強化したりする意味で用いられている。それ以外では、これらの規格の範囲に入らない独自の試験を行うものもある。

 例えばFCNTの「arrows We 2 Plus」はIPX5/IPX8等級の防水、IP6Xの防塵性能に加え、MIL-STD-810H(23項目)を取得。これに耐薬品試験(ハンドソープ、アルコール消毒)や高湿度環境試験(浴室での使用を想定)を独自に行っており、付加価値としている。

 TORQUE G06はIPX5/IPX8等級の防水、IP6Xの防塵性能に加えてMIL-STD-810H(21項目)を取得。加えて独自に耐海水、温水、耐薬品試験、各種耐衝撃、耐高温環境試験などを行い、こちらも高い付加価値を提供している。

 まだ残暑の厳しいこのごろ。スマートフォンを水辺に近い環境で使うという人も少なくないはず。機会があればぜひお手持ちのスマートフォンの防水等級についてチェックしてみてはいかがだろうか。

●著者プロフィール

佐藤颯

 生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。

 スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。

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