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SIMフリー市場にも“復活”のFCNT arrows We2/We2 Plusの反響、ハイエンド機やらくらくスマートフォンの今後を聞く

ITmedia Mobile 2024年9月24日 11時37分

 富士通からスピンアウトし、arrowsシリーズやらくらくスマートフォンを手掛けてきたFCNTだが、急速に進んだ円安や部材費高騰などのあおりを受け、2023年に経営が破綻。その後、同社はレノボグループに救済され、事業を再開している。そんな新体制の元で送り出す第1弾のスマホが、「arrows We2」「arrows We2 Plus」の2機種だ。

 arrows We2は、3キャリアから発売され大ヒットを記録した「arrows We」の後継機という位置付け。エントリーモデルとしての価格の安さはそのままに、スペックを進化させた。また、今回は上位モデルとしてミドルレンジクラスに機能を向上させたarrows We2 Plusも用意し、ラインアップを広げている。

 2機種を引っ提げた新生FCNTは、自身やMVNOを経由して端末を販売するオープンマーケット(SIMフリーマーケット)にも再参入を果たした。IIJmioはメモリを増量した特別仕様のarrows We2 Plusを販売するなど、パートナーとの協力関係も強化している。一方で、オープンマーケットの競争は厳しい。復活したばかりの同社が、なぜこの市場の開拓に取り組んでいくのか。新機能の特徴も踏まえながら、同社の端末戦略をプロダクトビジネス本部 副本部長の外谷一磨氏に聞いた。

●海外メーカーのミッドレンジスマホとはターゲットが異なる

―― 最初に、今回発売した2機種の概要を説明していただけますか。

外谷氏 arrows Weシリーズは「みんなに、ぴったり」をコンセプトにしたスマートフォンです。そのコンセプトは前回からあって、今回もそれを踏襲して開発するということが念頭にありました。通信事業者やユーザーの皆さまからも、Weシリーズを継続してほしいという声は多くいただいていました。このシリーズをいち早くお届けしなければならないということで、arrows We2を発売しています。

 arrows We2 Plusに関しては、「みんなに、ぴったり」を出しつつも、許容しやすいミドルレンジの価格帯の中で、これまでハイエンドモデルを買っていた方や、ローエンドモデルからステップアップしたい方の受け皿になれる商品として企画しました。社会的な背景として円安もそうですが、テクノロジーが進化していく中でニーズが分かれてきたからです。ここにちょうどいい製品があったかというと、われわれのお客さま視点ではありませんでした。ターゲットをそこまで明確にセグメンテーションしているわけではありあせんが、もうワンランク上のニーズに応えるために出しています。

―― ミドルレンジのスマホは多数世の中に出ていると思いますが、そういった端末を買う人とはユーザー層が違うということでしょうか。

外谷氏 兄弟会社のモトローラも含め、素晴らしい製品はたくさんありますが、ターゲットが違う部分はあります。実際、ミドルレンジのスマホを欲しい方が海外メーカーの商品を手に取っているかというと、取っていない方もいます。日本メーカーでミドルレンジの端末が欲しいが、比較すると見劣りする部分があってなかなか動けない。そういう方にハマる製品だと思っています。

―― 確かに、コンクリートに落としても壊れないミドルレンジのスマホはあまりないですよね。防水性能も非常に高いのは売りになりそうです。

外谷氏 ユーザーの方を画一的に見ているわけではありませんが、われわれの商品をお買い求めになる方は、防水をすごく気にされています。こうした部分で積み上げてきた実績が、大きな差分になると考えています。

―― 初代のarrows Weは超低価格で大ヒットした端末です。今回は2機種に分かれたことで、ユーザーが分散すると見ているのでしょうか。

外谷氏 初代のarrows Weを出したときには、3Gのマイグレーション(巻き取り)に各社が力を入れていたころでした。当時は私もキャリアの方に「3Gから5Gへの一足飛びのマイグレーションをやりましょう」とお話ししていました。まだ3Gが残っている会社もありますが、その需要は一段落ち着いたところはあります。ただ、arrows We2 Plusは、もともとarrows Weをお買い求めになっていた方の受け皿になる一方で、今までarrowsに目を向けてこなかった方も同時に見ています。一部では重なるところはありますが、よりarrows Weシリーズを広げていきたいという思いでPlusを出しています。

●オープンマーケットで製品を購入する人は発信力がある

―― 今回はキャリアだけでなく、オープンマーケットで販売するのも大きなトピックでした。それも広げたいというところにつながるのでしょうか。

外谷氏 販路が広いのは認知が広がることにもつながります。オープンマーケットの事業者も頑張ってはいますが、市場規模自体はまだまだキャリアと比べると小さい。ただ、その中で商品を選ばれているユーザーは、非常にこだわりがあり、目利きも優れています。ここでarrows We2 Plusを問うてみたときに、どのような反応があるのかということは企画当初から気にしながら進めてきました。

 オープンマーケットで製品を購入される方は、ある意味、キャリアからお買い求めになる方よりも発信力があります。これは厳しい声も含めてで、オープンマーケットのお客さまに認められて初めてキャリアも含めたよい評価を獲得できると考えています。先ほど、われわれのお客さまと海外メーカーのお客さまは層が違うとお話ししましたが、そうはいってもオープンマーケットでは海外メーカー(のスマホ)をお使いの方が多い。そういった方々からどう評価されるのか、いろいろなフィードバックを得ることはブランドを広げていくきっかけ作りになると考えています。

―― 一口にオープンマーケットといっても、例えばGoogleのように自社のオンラインだけというところもあれば、MVNOを中心にしているところもあり、家電量販店で広く販売しているところもあります。FCNTはどういうお考えでしょうか。

外谷氏 AppleやGoogleのようなブランド力があれば自社販売も成立するのですが、われわれには歴史はあるものの、今はいろいろな意味でのチャレンジャーです。MVNOのお力も借りながら、両者でWINWINになっていきたいと考えています。量販店は量販店として別の考えがあり、ユーザーの方が訪れたときにarrowsが販売されている意味が大きい。ですから、ここでも積極的に販売していきたいと思っています。

●arrows We2もarrows We2 Plusも相当踏み込んだ納入価格に

―― オープンマーケットはコストパフォーマンスが重視される傾向も強いと思います。今回の商品は2機種とも、そういった部分も考慮された価格設定になっていると思いますが、ここにはレノボグループの力も生かされているのでしょうか。

外谷氏 レノボグループの傘下になって使えるリソースやアセットはふんだんに使おうということで、すぐに取り掛かれる購買関連などは既にレノボの力を使っています。全ての部品ではありませんが、既にコストメリットは出ています。ベースの部分でのコストカットは、今までよりも強化されています。

 販売価格という面だと私からからコメントするのが難しいのですが、納入価格については非常に頑張りました。arrows We2もarrows We2 Plusも、私の感覚では相当踏み込んだ納入価格になっています。そこからは、販売事業者のお考えで、それぞれがベストな販売方法で販売しています。そのような調達価格を踏まえて、よりユーザーに還元していこうと踏み込んでいただけたのが、IIJさんであり、楽天モバイルさんでした。発表会で価格を見たときには、私自身も驚きました。

―― 購買というところでいうと、arrows We2のチップセットがモトローラの「moto g64 5G」と同じMediaTekの「Dimensity 7025」です。この型番のチップを採用したメーカーはほとんどないと思いますが、やはりここも共同で調達しているのでしょうか。

外谷氏 そこがまさに調達のところで、私どもはこれまでMediaTekさんのチップをまったく使ってきませんでした。それが使えるようになったのは、モトローラで使っているからというところがあります。おっしゃるように、Dimensity 7025はわれわれのために、MediaTekとモトローラ、FCNTの3社でチューニングして作っています。われわれだけに提供する決まりではありませんが、この瞬間として採用している端末はわれわれだけになっています。

 Dimensity 7025は、「Dimensity 7020」をベースに、クロック周波数などをチューニングしています。提供したい体験価値に合わせて、パフォーマンスをチューニングしたとご理解いただければと思います。これまで使っていたクアルコムともそういう話をしてこなかったわけではありませんが、これもレノボグループに入ったことによるシナジー効果だと思っています。

●ユーザーからの指摘にはソフトウェア更新で改善できないかを検討中

―― 先ほど反響を問いたかったというお話がありましたが、実際に発売してみていかがでしたか。

外谷氏 メディアの方々に好意的に書いていただけたこともあり、忖度(そんたく)抜きで伝えたいメッセージが広がったと感じています。今はガジェッターの方が中心ですが、ユーザーに届いている感覚は以前より大きいと感じています。発売前からですが、特にarrows We2 Plusは評判がよく、購入後のレビューやコメントも追っていますが、立ち上がりとしてはよかったという判断です。本当にやってよかったというのが正直なところですね。

 一方で、厳しいお声や、「確かに」と思う指摘もあります。この1、2週間、いろいろな声を見てきましたが、そういった声は開発にフィードバックして、ソフトウェア更新で改善できることがないかを社内で探っているところです。

―― ソフトウェアアップデートといえば、初代arrows Weには3回目のOSアップデートがかかりました。廉価モデルでここまでやる機種は少ないと思いますが、arrows We2やWe2 Plusも同様にアップデートしていくのでしょうか。

外谷氏 OSアップデートの回数はarrows Weで2回、ミドルレンジモデルで3回としていて、ソフトウェア更新(セキュリティアップデート)は4年にしています。いったん、このタイミングでコミットできる回数としてお伝えしていますが、初代arrows Weは販売期間が長くなったので、そのぶん安心して使っていただきたいということで、結構無理をして提供しています。ロングランで販売していくことがあれば、継続して使っていただく取り組みをしていきたいですね。

―― 例えばGoogleのPixelだと7年というアップデート期間が保証されていますが、ローエンドモデルだとさすがにそこまでは厳しいですよね。OSの前にバッテリーなどのデバイスに寿命が来てしまいそうですし。

外谷氏 OSバージョンアップもソフトウェアアップデートもタダではなく、特にOSは非常に費用がかかるので、そこは工夫をしなければいけないと考えています。ただ、商品には耐用年数もあります。今の買い替えサイクルが4、5年だとすると、そこにはしっかり応えて強化していかなければいけないと考えています。

●AIのようなイノベーションを提供するのにハイエンドモデルが必要に

―― 今は比較的スペックの高いモデルが中心ですが、スマホに生成AIを取り入れる流れが加速しています。arrowsシリーズをAI対応させるとき、この部分もレノボとのシナジー効果を出していくのでしょうか。

外谷氏 AIにはレノボグループとしてかなり投資をしていて、グローバルではモトローラが「moto ai」を発表しています。FCNTは、そこと共有してAIを活用していく方針です。ただし、われわれのお客さまは日本がメインです。レノボが開発し、モトローラが搭載しているものをそのまま載せればいいかというと、そうではありません。日本語や日本の文化への対応も必要で、ローカライズはしっかり見ていく必要があります。その辺の議論は、ちょうど今しているところです。

 AIはキーワードになっていますが、あくまでいろいろな価値を届けるための手段の1つです。AIを載せることが目的になってしまうと、弊害もあります。そういったマイナスが出ないよう、うまくバランスを取りながら付き合っていきたいと考えています。

―― その意味だと、arrowsのハイエンドモデルに期待する向きもありそうです。ミドルレンジにステップアップした後、そのような端末を投入するお考えはありますか。

外谷氏 何か決まった話があるわけではないことが前提ですが、今お話ししたAIのようなイノベーションを提供するときのハブとして、ハイエンドモデルが必要になってくると考えています。われわれの考えるハイエンドモデルを提供したいという思いはあり、実際、いろいろなところで「arrows NX」の後継機を出してほしいという声もいただいています。どちらかというと、エンドユーザーからそういう声が多いので、それに応えたい気持ちはあります。近い将来、われわれならではの答えをお示しできるといいなと思っています。

 ただ、1つ課題だと思っていることもあります。世の中ではハイエンドモデルの需要が減っているといわれていますが、それは価格に見合った体験価値が提供できていないこともあります。どこまでの価格なら許容でき、そこにどういった価値を乗せていけばいいのかは今探っているところです。いずれにしても、ハイエンドモデルを手に取れなくなることで、日本のお客さまがイノベーションを取り入れられないのはよくないと思っています。そういったことも含め、最適なところを検討していきたいですね。

●らくらくスマートフォン投入には販売チャネルやサポートの整備が必須

―― 発表会では、らくらくスマートフォンの投入も予告されました。いろいろ調べてみたところ、端末の商標はFCNTが持っているようですが、こちらもオープンマーケットに広げていくのでしょうか。

外谷氏 らくらくスマートフォンに関しては、端末だけが優れていても受け入れられるものではありません。端末以上に、販売チャネルだったり、購入後のサポートだったりを含めたインフラがしっかり整備され、初めて成功した過去があります。らくらくスマートフォンを広げるには、arrows以上に条件を突き詰める必要があるので、そこはいろいろな議論を重ねているところです。

―― 一方で、ITに詳しい人も徐々にシニアになっています。IT系の著名なライターでも還暦を迎えていますが、らくらくスマートフォンの需要は今後も残っていくのでしょうか。

外谷氏 議論をしているところですが、この瞬間の話でいうと、らくらくスマートフォンは、一定数いる、らくらくスマートフォンしか使えない方のためのものです。確かに、シニアが他のスマホに流れていったり、らくらくスマートフォンが他のスマホと違いすぎて教えにくいという声もいただいたりしていますが、それ以上にらくらくスマートフォンを使い続けたいという方が95%ぐらいの割合でいます。その方々に、らくらくスマートフォンを継続して提供していかなければいけない。

 変えてしまうことは簡単にできますが、らくらくスマートフォンには数多くのレガシーが詰まっています。古くなってきたから変えようという話も聞きますが、それをお客さまが望んでいるかというと違うのではないか。あれを継続すること自体に、ものすごく価値があると捉え直しています。そういったことを、この半年間一生懸命やっています。アプローチは変わるかもしれませんが、根底のところは維持していきたいですね。

 また、ITに詳しいシニアの方でも、年齢を重ねていくと目が見えづらくなったり、耳が聞こえにくくなったりという加齢による衰えは必ずあります。こういったところに、らくらくスマートフォンで培った技術を転用できる部分はあります。それがらくらくスマートフォンでなければいけないのかというと、必ずしもそうではありません。われわれはこれを「やさしいテクノロジー」と呼んでいますが、そういった機能をさり気なく搭載していけるといいなと思っています。

●スマートフォン以外の分野に広げていきたい考えはある

―― 先ほどハイエンドモデルのお話はありましたが、スマホ以外の製品を展開していく計画はあるのでしょうか。イヤフォンやスマートウォッチ、タブレットなど、派生商品でエコシステムを作っているメーカーも多いと思います。

外谷氏 まだ明確に決まった話があるわけではありませんが、スマートフォン以外の分野に広げていきたい考えはあります。例えば、arrows We2 Plusに搭載した健康系機能のようなものは、ウェアラブルと非常に相性がいい。そういったところの価値提供ができるのであれば、ぜひやらせていただきたいと考えています。

 また、エコシステムも時代とともに変化していて、例えば3.5mmのイヤフォンジャックも今の端末には搭載していますが、先々淘汰(とうた)されてしまう可能性はあります。同じブランドでワイヤレスイヤフォンを提供することで、ユーザーに対していい体験が提供できるのであれば、ぜひやっていきたい。まずは今のarrows We2、We2 Plusとらくらくスマートフォンですが、次の展開に向けてそういったこともやっていきたいですね。特にヘルスケアに関しては、今あるスマートウォッチやイヤフォンに限らず、今までに見たことがないものも提供できればと考えています。

 タブレットに関しては、先ほどお話ししたarrows NXと同じぐらい、要望をいただいています。実際、市場を見るとお風呂で安心して使えるタブレットがない。他社はハイエンドタブレットを出していますが、それではダメなようなので提供の仕方を考えていきます。

―― レノボグループという意味だと、フォルダブルにも期待してしまいます。今はミドルレンジ以上のスマホが多いですが、あの形状はらくらくスマートフォンとも相性がよさそうですよね。

外谷氏 今のマーケットの需要がどこにあるのかを突き詰めていくと難しい部分はありますが、折りたたみスマホはらくらくスマートフォンのお客さまからの反応もすごくいい。明確な検討をしているわけではありませんが、らくらくスマートフォンやガラケー(フィーチャーフォン)をお使いの方が、同じような体験をより大きな画面でできることの価値は1つあると思っています。現時点ではarrowsとして出すのが本筋なのかもしれませんが、個人的には、価格も含めてうまくハマればらくらくスマートフォンの方に可能性があると思っています。

●取材を終えて:キャリアの販路を以前と同様に拡大できるか

 オープンマーケットへの再参入は、arrowsとしてのブランドをきちんと広げていきたい意思表示だった。レノボグループの調達力を生かせるようになったことで、無理なくコストも削減できているようだ。初代arrows Weのときには、この部分で無理が生じてしまった側面もあるため、体制が構築できたことは心強い。もともと、arrows Weは販売も好調だっただけに、その後継機のarrows We2や上位モデルのarrows We2 Plusにも期待ができる。

 とはいえ、オープンマーケットへの挑戦は始まったばかり。今後、タイムリーかつ継続的に新モデルを投入していけるかは、注目しておきたいポイントだ。また、arrows Weは3キャリアから販売されていたが、arrows We2、We2 Plusではソフトバンクが現時点で取り扱いを表明していない。オープンマーケットの拡大と同時に、キャリアでの販売を以前の水準まで戻せるかは今後の課題といえそうだ。

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