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UQ mobileとpovoで“ahamo対抗”を打ち出すKDDI ネットワーク品質強化が差別化の武器に

ITmedia Mobile 2024年10月19日 11時39分

 KDDIは、英調査会社Opensignalの実施した通信品質調査で、過去最多となる13部門で首位を獲得した。他社と共同受賞しているものも2部門含まれているが、単独でも11部門で品質が評価されている。中でも、全国的な通信の安定性を示すことで各社が重視する「一貫した品質」部門で単独1位を取れたことは、同社にとって大きな前進といえる。この部門はソフトバンクが常連になっていたが、今回の調査ではKDDIが逆転した格好だ。

 この受賞を受け、KDDIは10月17日に記者説明会を開催。通信品質が大きく向上した理由を解説した。さらに快適なネットワークをより生かせるよう、UQ mobileの「コミコミプラン」を「コミコミプラン+」に改定し、データ容量を30GBに増量。povo2.0にも1年契約で30GBを安価に使えるトッピングを導入した。では、KDDIはどのようにネットワークの品質を改善したのか。その理由とともに、同社の料金戦略を解説していく。

●Sub6の出力増強で高速通信エリアが拡大、「一貫した品質」でもソフトバンクを抜き去る

 「今回のOpensignalの調査は7月から9月の3カ月間で、Sub6が広がり、通信速度を引き上げることができた後。その3カ月を評価していただきNo.1の受賞につながった」――こう語るのは、KDDIのネットワーク部隊を率いる、執行役員 コア技術統括本部 技術企画本部長の前田大輔氏だ。KDDIは、衛星通信事業者の地球局が移転したことを受け、Sub6の出力を増加。アンテナの角度(チルト角)もより遠くに電波が飛ぶよう浅くし、高速通信可能なエリアを一気に拡大した。

 もともと衛星局との干渉が大きく、出力を抑えていた首都圏では、これを増強したことでエリアが2倍に拡大。さらに、アンテナのチルト角の調整によって、2.8倍までエリアが広がった。これによって、Sub6でつながる頻度が上がり、平均スループットが向上。遅延も少なくなり、より快適に通信できるようになった。ネットワークが混雑しやすい都市部で厚みのある5Gを展開でき、平均を底上げできたのが「一貫した品質」部門で1位を獲得した決め手になったと見ることできる。

 実際、全国平均で20Mbps以上のスループットが出る割合は1月が91%だったのに対し、9月には95%に向上。このうち、より速度の速い50Mbps以上となる割合は増加率がさらに高く、71%から82%まで拡大している。遅延も同様で、オンラインゲームに推奨される応答時間の30ms以下になる率は、1月に88%だったのに対し、9月には92%まで増加。より低遅延の20ms以下に絞ると、51%から71%まで比率が上がっている。

 ダウンロード速度が上がると、動画の読み込みがスムーズになり、自動調整している場合だと画質も上がりやすくなる。遅延についても同様で、ネットワーク品質改善後は、VRコンテンツでの動作がより操作に追従するようになり、動きが滑らかになった。こうしたコンテンツの挙動の変化こそが、Opensignalの調査で重視されている体感品質。前田氏は「お客さまが使われるアプリケーションを評価するため、こういうバランスで評価しているのかというのは勉強になった」と語る。

 Opensignalのスコアを時系列に追うと、ソフトバンクがやや数値を落としているのに対し、KDDIが大きく伸び、順位が逆転したことが見て取れる。4月に発表された調査ではソフトバンクが84.3点だったが、KDDIは82.2点で楽天モバイルを下回っていた。これに対し、今回の調査では、KDDIは84.4点だった一方で、ソフトバンクは82.9点にスコアを落としている。「Opensignalのメダルを取るためにがんばってきたのではない」と断言する前田氏だが、「一貫した品質」部門のスコアでソフトバンクを逆転できたのは、大きな成果と捉えているようだ。会見でも、「ソフトバンクにようやく追い付き、追い越すことができた」と本音をのぞかせた。

●差につながった周波数転用、ソフトバンクの差別化はSub6で図る

 とはいえ、現状のスコアは、KDDIとソフトバンクの2社をトップグループと解釈することもできる。この2社と、ドコモ、楽天モバイルの開きが大きいからだ。では、なぜこの2社がネットワークの品質を維持できているのか。前田氏は、「なんちゃって5Gとやゆされたが、4Gからの転用周波数がやはり重要。デュアルで5Gエリアを形成できたことが、受賞につながった」と語る。

 2位に転落したとはいえ、これまでソフトバンクへの評価が一貫して高いのもこれが理由だ。KDDIとソフトバンクは、ドコモと異なり、まず4Gからの周波数転用や周波数共用で、広い5Gエリアの構築を急いだ。Sub6とは異なり、帯域幅は4Gと変わっていないため、これだけで通信速度の向上は見込みづらいものの、これがあれば「エリアカバーにこだわらず、Sub6の基地局を高密度に打つことができる」(同)。面的に5Gを広げたあと、トラフィックが多い都市部を重点的にSub6でカバーできる。

 面的に5Gのエリアができていると、「無理にSub6を引っ張らず、フリンジ(エリアの端)ではすぐに周波数転用した5Gにハンドダウンして快適な通信をキープする」(同)ことが可能になる。4Gから転用した周波数帯は複数あるため、「ロードバランスを見て負荷の少ない5Gにハンドダウンできる」(同)。同じ周波数帯でも世代が違うことで、Sub6と組み合わせて使う際にチューニングがしやすいというわけだ。

 逆にドコモの場合、当初は総務省に課せられた基盤展開率を順守するため、まずSub6のエリアを拡大した。現在では4Gからの周波数転用も活用しているものの、その数はKDDIやソフトバンクに比べると少ない。逆説的だが「Sub6を重視しすぎると、どうしてもそちらを引っ張りすぎてしまい、フリンジ(エリアの端)で品質が低下してしまう」(同)。「なんちゃって5G」と周波数転用をやゆしていたドコモだが、そこに足を引っ張られているというのが前田氏の見立てだ。

 楽天モバイルは、そもそも4GがBand 3(1.7GHz帯)だけで、本格サービス開始後すぐに5Gを導入しているため、転用する周波数を持っていない。他3社と比べ、ユーザー数が少ないためSub6につながれば快適に通信できるため、ダウンロードやアップロードなどスループットを重視する項目ではトップを取っているが、バランスがやや悪い。やはり、転用周波数とSub6を「デュアルで整備できると、5G全体としてよい品質で広範なエリアができる」(同)。

 一方で、KDDIには品質でトップを取り続けてきたソフトバンクとも、差別化する武器もある。Sub6基地局の「数」と、保有している帯域幅の「広さ」だ。もともと、Sub6の基地局展開に消極的だったソフトバンクと比べ、KDDIのSub6の基地局は5倍以上数が多い。さらに周波数も200MHz幅と大きい。ドコモと楽天モバイルに対しては転用周波数のエリアで、ソフトバンクに対してはSub6の数と帯域幅の広さで差別化ができた結果として、品質調査でトップに躍り出ることができたというわけだ。

●ネットワークの進化に合わせた料金改定、ahamo対抗の意味合いも

 このネットワーク品質向上に合わせ、KDDIは一部ブランドの料金プランも改定する。ネットワークと料金は一見すると、関連性が薄いように思えるかもしれないが、実際には、両者の関係は深い。キャパシティーが十分ないところに安価な無制限プランを入れればトラフィックが増え、ネットワーク品質のバランスが落ちてしまうからだ。実際、キャリア各社がデータ容量に制限のない料金プランを導入したのも、4Gのキャパシティーが十分広がり、5G導入が見えていたタイミングだ。

 古くは「CDMA2000 1x EV-DO」に合わせてフィーチャーフォン向けのパケット定額サービスを初めて導入し、他社を出し抜いたように、KDDIは比較的ネットワークと料金プランのバランスの取り方がうまい印象もある。とはいえ、auには既にデータ容量無制限の料金プランを導入済みで、最大容量はこれ以上増やせない。そこで手を入れてきたのが、UQ mobileとpovo2.0の中容量プランだ。KDDIのパーソナル事業本部 マーケティング本部 副本部長の渡邊和也氏は、「全てのデータ通信サービスのベースになる『つながる体感No.1』を、充実した料金ラインアップでたっぷりお楽しみいただきたい」と語る。

 まず、UQ mobileはahamo対抗として導入したコミコミプランを廃し、新料金プランとしてコミコミプラン+を11月に開始する。データ容量は、これまでの20GBから1.5倍増量した30GBに設定されているが、料金は据え置きだ。さらに、特典として3GBを付与し、合計で33GBを3278円で利用できるようになる。既存ユーザーは料金プラン変更しなければならない点には注意が必要だが、中容量プランとしての魅力は高まったといえそうだ。

 また、povo2.0には有効期間が1年と長い「360GB(365日間)」トッピングを導入する。こちらも1カ月にならすと30GBだが、料金は年2万6400円、1カ月2200円とUQ mobileを下回る安さだ。また、新たに1年間のトッピングを購入した際にau PAY残高に10%の還元を受けられる「1年間トッピングデビュー割」も導入した。このキャッシュバックは、360GBトッピング以外の1年間トッピングにも適用される。新設の「360GB(365日)」から還元されるau PAY残高を引いた実質的な料金は、月額換算で1980円まで下がる。

 もっとも、こうした料金プランはKDDIが先手を打ったというわけではなく、10月にデータ容量を30GBに上げたahamoへの対抗措置という意味合いも強い。渡邊氏も、「ミニプラン(小容量)系は固まってきているが、真ん中の容量(中容量)がせめぎ合いになっている」としながら、「その競争の中での取り組み」と話す。UQ mobileのコミコミプラン+はahamoよりやや高いものの、音声通話定額が10分と長かったり、データ容量が特典で3GB多くなっていたりと、差別化も図っている。

 こうした料金プランを技術的なバックボーンとして支えているのが、ここまで解説してきた通信品質の改善というわけだ。いくらデータ容量が多くても、パケ詰まりが頻発するようではそれを使い切ることができない。渡邊氏が「ahamoや楽天モバイルを意識した料金プランをご提供し、高品質ネットワークをしっかりご体感いただくことにつなげたい」と話していたのも、そのためだ。金額には表れないが、この快適さこそが料金プランの差別化になる。後出しジャンケンながら、ネットワークと料金の歯車がしっかりかみ合った新料金プランは訴求力が高そうだ。

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