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ソフトバンクもY!mobile/LINEMOの料金改定で“30G競争”が激化 楽天モバイルやMVNOも対抗必至か

ITmedia Mobile 2024年10月28日 20時48分

 10月にデータ容量を20GBから30GBに増量したドコモのahamoに、大手キャリア各社が対抗措置を講じている。前回の本連載で取り上げたように、KDDIはUQ mobileの「コミコミプラン」を「コミコミプラン+」に改定し、データ容量を特典込みで33GBに増量。povo2.0も有効期間が1年間と長いトッピングで、ahamoを下回る価格を打ち出した。

 そんなUQ mobile、povo2.0の発表から約1週間、ソフトバンクも“30GBプラン”の競争に参戦した。同社も、サブブランドのY!mobileとオンラインブランドLINEMOの2段構えでahamoやUQ mobile、povo2.0の30GBプランに対抗していく。ここでは、その料金プランの詳細とともに、MVNOも交えて激化する中容量プランの現状を読み解いていきたい。料金は全て税込み。

●データ増量オプションを倍増させ「シンプル2 M」を30GB化するY!mobile

 ソフトバンクは10月25日に、2つの料金改定を発表した。1つがY!mobile、もう1つがLINEMOだ。いずれも、ahamoやそれに対抗したUQ mobile、povo2.0にキャッチアップするために行う事実上の料金改定で、中容量プランを30GBに上げるというのが主な内容だ。ただし、Y!mobileとLINEMOでは、その中身が少々異なる。

 サブブランドであるY!mobileは、オプションとして用意している「データ増量オプション」を改定する。データ増量オプションとは、その名の通り、データ容量を追加するサービス。現時点では「シンプル2 S」が2GB、「シンプル2 M」「シンプル2 L」は5GBが追加され、それぞれの合計データ容量は6GB、25GB、35GBになる。料金は550円で提供されており、データ容量が不足した際にチャージするよりもお得だ。

 11月1日に改定されるのは、M/Lプランのデータ増量オプション。内容は非常にシンプルで、追加されるデータ容量が5GBから10GBへと倍増する。実質的なahamo対抗として機能するのが、素の状態でデータ容量が20GBのMプランだ。10GBになったデータ増量オプションを合算すると、データ容量はちょうどahamoと同じ30GBになる。しかもデータ増量オプションは7カ月目まで無料。各種割引を適用すると、30GBになるMプランの料金は2178円まで下がり、ahamoの2970円を下回る。

 ただし、シンプル2は音声通話定額が別建てになっている点には注意が必要だ。オプションを付けないときの料金は、従量課金で30秒22円。定額オプションとして1回10分以内の通話が無料になる「だれとでも定額+」(880円)も可能だが、これを付けたときの料金は3058円に上がる。また、8カ月目以降はデータ増量オプションの料金も発生するため、料金は2728円になる。だれとでも定額+つきの場合だと3608円まで料金が上がるため、データ容量33GBで10分間の音声通話定額つきのUQ mobileより割高だ。

 さらに、上記の金額は187円割引の「PayPayカード割」と、1650円割引の「おうち割 光セット(A)」を加味したときのもの。素の料金は1837円高くなるため、割引などの条件がないahamoやUQ mobileと比べると、利用のハードルは上がる。単身の若年層向けに開発されたahamoや、ahamoに対抗するために条件をそろえてシンプルにしたUQ mobileの「コミコミプラン+」に対抗できているわけではない。

 家族契約や光回線とのセット割はキャリアにとって収入増につながるだけでなく、囲い込みの効果も見込める。一方で、料金プランの競争力という観点では、家族契約や光回線の契約を前提にしたことが弱点にもなる。ahamoはオンライン専用プランだが、UQ mobileはY!mobileと同じサブブランドでショップの利用も可能と条件が近い。後出しジャンケンながら、料金的な優位性ではUQ mobileのリードを許した格好だ。

●段階制を撤廃して2970円で30GBを提供するLINEMO、11月から“つなぎ”のキャンペーンを開始

 やや条件が複雑なY!mobileに対し、オンライン専用プランのLINEMOは、よりシンプルに30GBプランの料金を引き下げる。LINEMOは、7月に料金プランを改定し、3GBから10GBの「LINEMOベストプラン」と20GBから30GBの「LINEMOベストプランV」を導入していた。2つの料金プランは段階制でLINEMOベストプランVの場合、20GBを超えると料金が上がり、30GBまで利用できる。その際の料金は、3960円だった。

 LINEMOは20GBのスマホプラン一本でサービスを開始していたが、LINEMOベストプランVはその上に30GBまでの段階を作った形になる。スマホプランからLINEMOベストプランへの改定にあたり、5分間の音声通話定額もセットになった。一方で、ahamoやUQ mobileが料金据え置きのままデータ容量を30GBに増やしたことで、20GBを超えた際の金額が他社に見劣りしていた。

 そこでソフトバンクは、LINEMOベストプランVの料金も改定し、2970円のままデータ容量を30GBに引き上げる。これに伴い、LINEMOベストプランVは再びデータ容量の上限がフラットなプランに戻る格好だ。ただし、11月時点では料金プランそのものを改定するのではなく、あくまで料金プラン改定までのキャンペーンという位置付け。現状実施されているキャンペーンの終了期間をそのまま延長する形になる。

 実質的には、ほぼ料金プランを改定したのと同じだが、新規契約と同月中に20GBを超えた際の日割りになる計算には正価である3960円が使われるため、LINEMOベストプランVの料金体系が残されていることが分かる。料金システムなどを刷新するための“つなぎ”に近いキャンペーンといえる。こうした点からも、このキャンペーンがahamoやUQ mobileの30GB化に対抗するため、急きょ実施されたことがうかがえる。

 とはいえ、セット割引や期間限定割引でようやく他社と横並びになるY!mobileに対し、LINEMOはシンプルに1人で契約しても料金は2970円になる。国際ローミングなどの条件に違いはあるが、基本的には30GBプランになったahamoと料金は同額で競争力は高まった。それでも、料金改定ではあくまで横並びになったにすぎない。UQ mobileのようにデータ容量をahamoより3GB増やしたり、音声通話定額の時間が10分と長かったりといった差別化の工夫がない点は少々残念だ。

●“ahamoショック第2波”で激化する中容量帯、楽天モバイルやMVNOへの影響も必至

 ahamoが率先して30GB化にかじを切った背景には、ユーザーのデータ使用量が年々増え続けていることがある。他社も、おおむね事情は同じだ。ドコモの場合、2022年度から2023年度で約2割トラフィックが増加しており、2024年度はその傾向に拍車が掛かっているという。ドコモの代表取締役社長、前田義晃氏は機関投資家向けの説明会で、8月時点で既に2割弱の増加量になっていることを明かしている。

 ソフトバンクも、LINEMOベストプラン/ベストプランVを導入した際に、トラフィックの増加に対応する狙いを語っていた。旧料金プランのミニプラン加入者は、2024年4月時点で34%が3GBを超過しており、これが料金プラン改定のきっかけになっている。また、Y!mobileもシンプル2導入時に、2023年度のデータ利用量が20年度比で2倍程度に増加しているデータを公開している。

 ahamoをきっかけに、各社が20GBプランを導入したのは2021年のこと。仮に、当時のデータ使用量が10GBだったとしても、年2割程度の割合でデータ使用量が伸び続けると、単純計算で22年には12GB、23年には14.4GB、24年には約17.3GBに達する。25年には20.7GBにまで増加し、データ使用量が20GBプランの上限を超えてしまう。こうしたユーザーが増えた結果として、ドコモではahamoの解約率が上昇傾向にあったという。

 ソフトバンクのLINEMOベストプラン/ベストプランVもこうしたトレンドを受け、導入されたものだ。一方で、ahamoはデータ容量を増やしても料金を2970円のまま据え置いたのに対し、LINEMOベストプラン/ベストプランVは段階制で料金が上がる仕様だった。トラフィックの増加に合わせて値上げを実施したものの、ahamoに出し抜かれてしまった構図だ。ahamoが先行することで、事実上の値下げが進んだといえる。

 大手3キャリアのサブブランドやオンライン専用ブランドがこぞってデータ容量を上げる中、楽天モバイルは沈黙を貫いている。同社の「Rakuten最強プラン」は20GBを境に料金が3278円まで上がる仕組みのため、データ使用量が20GB超30GB以下のユーザーにとっては他社の方がやや割安になる。少なくとも、20GBまでなら他社より安いという構図が変わってしまった。料金を上げる段階を変えるなど、何らかの手を打ってくる可能性もありそうだ。

 また、MVNOもデータ容量の見直しを余儀なくされそうだ。例えば、9月に「自由自在2.0プラン」を導入したHISモバイルは、20GBをahamoなどのオンライン専用ブランド/プランより安い2090円に設定。30GBだと2970円で金額は横並びになる一方で、データ使用量が10GB多いことで大手キャリアとの差別化を図っていたが、各社がデータ容量を増量したことで競争力が落ちてしまった。同社の代表取締役社長、猪腰英知氏は筆者のインタビューに答える形で料金プランに再見直しをかける可能性を示唆している。

 同社を支援する日本通信もいち早くahamoの料金改定に対抗しており、データ容量が30GBだった「合理的30GBプラン」を20GB増量し、名称も「合理的50GBプラン」に変更した。MVNOの主戦場はどちらかといえばよりデータ容量の少ない料金プランだが、データ使用量の増加やユーザー層の変化を受け、徐々に中容量帯にも進出していた。大手キャリアの30GB化への対抗策を打ち出しているMVNOはまだまだ少ないが、今後、じわりと増えていきそうだ。

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