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シャープの「AQUOS R9 pro」は“カメラを超える”スマホ 3眼カメラやシャッターキーの意図、19万円台でも投入する意義とは?

ITmedia Mobile 2024年10月31日 6時5分

 「恐らく多くの方が予想されていなかったであろうAQUOS R9 pro。やっぱり作っちゃいました」

 10月29日の発表会で、シャープ ユニバーサルネットワークビジネスグループ長 兼 通信事業本部 本部長の小林繁氏は笑顔で“予想外”のフラグシップスマートフォン「AQUOS R9 pro」を披露した。

 2024年、スマートフォンAQUOSのフラグシップモデルは「AQUOS R9」のみで、2023年に発売した「AQUOS R8」と「AQUOS R8 pro」という2軸のフラグシップ戦略は早々に見直された……と思われた。小林氏は2024年5月にAQUOS R9を発表した際に「proは今期、発売しない」とコメントしており、その「今期」は2024年度を指すと考えるのが自然だろう。しかし、AQUOS R9との同時発表はかなわなかったが、時間差でサプライズ発表される形となった。

 AQUOS R9 proは、カメラ機能をとことん突き詰めた、これぞシャープのフラグシップと呼ぶにふさわしいモデルに仕上がっている。約1型センサーを採用した広角カメラに、超広角カメラと望遠カメラを含めた3眼カメラが大きな円形台座に並ぶ様子は、まさにデジタルカメラそのもの。カメラのハードウェアに最高峰のものを採用しただけでなく、撮影体験を向上させる使い勝手の工夫も随所に盛り込んでいる。

 通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 主任の今井啓介氏は「1型カメラをスマホに載せてきた先駆けのメーカーとして、シャープがたどり着いた答えは、『カメラを超えること』だった」と話す。これまでのRシリーズとは“別物”ともいえる仕上がりになったAQUOS R9 proの中身を見ていこう。

●1型センサーをフルに生かすべく複眼カメラに 望遠カメラの性能も重視

 AQUOS R6でライカ監修のカメラを搭載して以降、シャープはフラグシップモデルには「最高峰のレンズを1つ」搭載することにこだわってきた。しかしAQUOS R9 proでは、他のハイエンドスマホと同様に、広角、超広角、望遠という組み合わせの3眼カメラを採用している。これら3つのカメラ群を総称してライカの「バリオ・ズミクロン」とシャープは呼んでいる。

 各カメラのスペックは以下の通り。

・広角カメラ……有効約5030万画素、F1.8レンズ、焦点距離23mm相当、1/0.98型センサー、光学式手ブレ補正対応

・超広角カメラ……有効約5030万画素、F2.2レンズ、焦点距離13mm相当、1/2.5型センサー

・望遠カメラ……有効約5030万画素、F2.6レンズ、焦点距離65mm相当、1/1.56型センサー、光学式手ブレ補正対応

 今井氏は3眼にした意図について「望遠と(超)広角を付けて、あらゆるシーンで楽しんでいただきたい。そういう思いで3眼にしている」と話す。

 これまでのAQUOS Rシリーズは、0.7~6倍といったズーム域を1つのカメラが担っていた。初期状態では1倍のカメラが起動するが、0.7倍の超広角が本来のスタート地点になる。いうなれば、センサーサイズの大きな超広角カメラを1つ備えていたので、1倍だとデジタルズーム扱いになり、1型センサーをフルに生かせていなかった。

 そこで今回、超広角と広角のカメラを分けることで、「標準域で1型(1/0.98型)を全て使えるようになる。標準(広角)の1倍で撮ったときの画質が大きく変わる」と小林氏は話す。光学式手ブレ補正に対応したことも進化したポイントだ。

 加えて、注目したいのが望遠カメラだ。ハイエンドスマホで望遠カメラ自体は珍しいものではないが、AQUOS R9 proの望遠カメラは1/1.56型という大きいセンサーを備えており、光学式手ブレ補正にも対応する。望遠の65mmという焦点距離は人物撮影をする際、自然に見る視野とほぼ同じことから、ライカが推奨するものだという。ポートレート撮影に適しており、広角レンズで見られる顔の変形やゆがみがなく、背景をぼかす望遠効果も得られる。

 この望遠カメラは、他にライカカメラを搭載したスマートフォンとの差別化にもなる、と通信業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 課長の清水寛幸氏は話す。ただし光学ズームは2.8倍まで。デジタルズームを活用すれば20倍までのズームは可能だが、高解像処理によって2.8倍以降のズームでどこまでキレイに撮影できるかは気になるところだ。

 超広角カメラでは122度の画角で撮影でき、マクロ撮影にも対応する。

 画像や映像の処理にAIを活用しているのも特徴だ。光源を測定することでホワイトバランスの精度を上げる「14chスペクトルセンサー」をAQUOS R8 proに搭載したが、AQUOS R9 proではAIが被写体と周辺の光を分析することで、難しい光源下でも正確なホワイトバランスで撮影できるという。

 Dolby Visionでの動画撮影では、フレームごとに最適な明るさや色情報を付与することで、より鮮やかな動画撮影が可能になる。

 カメラ機能からは離れるが、AI機能として、Googleの対話型AIサービス「Gemini」を内蔵しており、電源キーの長押しで呼び出せる。画面内でかこった内容から検索ができる「かこって検索」も利用可能だ。シャープ独自の機能としては、留守番電話の内容を要約したり、通話時のキーワードをもとにテキストや画像でまとめたりしてくれる「電話アシスタント」機能も用意する。

●側面にシャッターキーを搭載 ボリュームキーで明るさの調整も可能

 使い勝手の面で注目したいのが、側面にシャッターキーを搭載したこと。長押しでカメラが起動する他、半押しでフォーカスロック、短押しでシャッター操作が可能だ。スリープ画面からでも長押しでカメラが起動するのでシャッターチャンスを逃さない。

 ボリュームキーからはズームの操作ができるが、設定から明るさの調整に割り当てることもできる。シャッターキーとボリュームキーを利用すれば、画面に触れることなくカメラの起動、ズーム、明るさの調整、シャッター操作が行える。そして、このシャッターキーはデジカメで実際に使われているパーツを使用しているそうで、まさにカメラのように操作できるようこだわった。

 撮影画面では、超広角カメラの「0.6x」、広角カメラの「1x」、望遠カメラの「3x」にワンタッチで切り替えられるのに加え、指を広げるピンチ操作でシームレスにズームができる。マクロ撮影は超広角カメラが対応しており、マクロ撮影が可能になると、左端のチューリップアイコンが青くなる。超広角カメラでの撮影時に、意図せずマクロ撮影にならないよう、手動でオフにすることもできる。

 オープンマーケット向けモデルでは、シャッター音をオフにする設定があることにも注目したい。日本のスマートフォンは、キャリアやメーカーの自主規制によってシャッター音が鳴る機種が大半だが、国内モデルでシャッター音をオフにできるのは非常に珍しい。なお、ドコモ向けモデルはシャッター音をオフにはできないという。

 AQUOS R8 proで取り入れた、レンズフィルターを装着できる機構はAQUOS R9では見送られたが、AQUOS R9 proで復活したのも朗報だ。カメラリング用のアタッチメントを付けることで、レンズフィルターを装着できるようになり、シャープ認定のアクセサリーとしてエレコムとLOOFがケースやアタッチメントを販売する。レンズフィルターはケンコー・トキナーとMARUMIの製品を推奨している。

 なお、ケースを装着せず、アタッチメントだけでもレンズフィルターは付けられる。清水氏は「本体でレンズフィルターを付けられるので、(カメラキットのような)アクセサリーがなくても撮影体験を楽しめる」とアピールする。

 AQUOS R9 proの発売に合わせ、シャープはショルダーストラップが付属した純正ケースも用意する。ショルダーストラップを肩に掛けておけば、さっとスマホを取り出して撮影できるので、シャッターキーと合わせて、「いつでも素早く撮影」の体験価値が向上するだろう。

●プロセッサはSnapdragon 8s Gen 3を搭載 ディスプレイが大きく高解像度に

 こうしたカメラの性能を最大限発揮できるよう、パフォーマンスにもこだわった。プロセッサにはSnapdragon 8s Gen 3を採用し、メインメモリは12GBを確保している。くしくも、10月下旬に米国でSnapdragonの次期プロセッサ「Snapdragon 8 Elite」が発表されたばかりだが、こちらの搭載は見送られた。

 プロセッサの選定について通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の中江優晃氏は「AQUOS R9 proを開発するにあたり、性能と省電力、コストとのバランスを重視している。そこを検討する上で今回の選択が一番正しいと思っている」、清水氏は「Snapdragon 8s Gen 3は、カメラのISPはSnapdragon 8 Gen 3と同等の性能を持っている。カメラのフラグシップモデルとしては最適」とコメントする。AQUOS R9 proはオープンマーケット向けモデルで19万円台前半(税込み)を予定しているが、Snapdragon 8 Eliteを搭載するとなると、さらに高額になることが予想されるため、うまくバランスさせた。

 ディスプレイは大きく、より高解像度になった。AQUOS R9 proの6.7型は、AQUOS R8 proの6.6型、AQUOS R9の6.5型よりも大きい。解像度はAQUOS R8 proのワイドUXGA(1260×2730ピクセル)からQuad HD+(1440×3120ピクセル)に向上した。これは「撮影した写真をより高解像度なきれいな状態で見てほしい」(清水氏)という思いがあるため。ただし、ディスプレイの解像度が高くなるほど消費電力が増すため、初期状態ではフルHD+(1080×2340ピクセル)に固定されている。

 AQUOS R9 proのデザインは、3つのカメラと、それらを載せた円形の台座が大きな存在感を放っている。AQUOS R9ではデザインを一新し、miyake designが監修。よりプレーンな外観になり、カメラの台座に、円でも楕円(だえん)でもない自由曲線を採用した。

 AQUOS R9 proのデザインは、一見するとAQUOS R9やAQUOS sense9とは一線を画するものだが、中江氏によると、AQUOS R9 proでもmiyake designのデザインを採用しているという。特にカメラ周りの仕上げにはこだわり、「大きなカメラ窓の中のカメラの配置を、微妙に不ぞろいにしている」という。AQUOS R9とAQUOS sense9の自由曲線とは異なるテーマで記号性を持たせた。

●前年から3倍売れたAQUOS R9 それでも超ハイエンドのAQUOS R9 proを出す意義は?

 2024年7月に発売したAQUOS R9は、性能と価格の絶妙なバランスが支持され、「世界的にハイエンドスマートフォンの需要が伸び悩んでいる中、前年比で3倍売れている」(小林氏)というほど好調だという。AIによってよみがえった松田優作さんを起用したCMの効果も大きく、「世間の注目度が爆発的に変わった」(小林氏)。松田優作さんを知る世代をターゲットにしたわけではなく、若者へ訴求するという狙いも当たり、「あのプロモーションによってブランドの平均年齢が若返った」そうだ。

 「デザインの力が大きかった」と小林氏が言う通り、刷新したデザインも受け入れられた。「以前のAQUOSと雰囲気がだいぶ変わったとご評価いただく声も増えてきた」と同氏は手応えを話す。

 メーカーとして、2024年はAQUOS R9、AQUOS wish4、AQUOS sense9だけでも十分勝負できるだろう。それでもAQUOS R9 proを出す意義はどこにあるのか。また、AQUOS R8シリーズのときのように、なぜ同時発表しなかったのか。

 小林氏はAQUOS R9 proについて「数を出せそうにないのはその通り」と認めつつも、「もはやスマートフォンというよりはカメラだと思っている」と語る。「技術の最先端を攻めていく上では非常に重要な商品。ああいうものが作れないと、スタンダードや、タンダードハイといわれるゾーンでもいい画質は作れない」と続け、技術を突き詰める上で欠かせないピースであることを強調する。

 加えて、シャープのブランド力向上にも貢献すると考える。「シャープのカメラはどうなのか? と言われていた時期もあったが、ここ数年、ライカさんとのコラボレーションのおかげもあって、非常に評判も上がっていると実感しているし、世界のトップ集団にとどまるためには、ああいう商品は必要だと思っている」(小林氏)

 proモデルはユーザーの中でも熱烈なファンが多く、そうしたコアなユーザーを大事にしていく姿勢も小林氏は示した。

 発表タイミングが10月になってしまったのは、シンプルに開発が間に合っていなかったからだったという。予告だけでもしてほしかったところだが、「(5月の段階では)まだ出来上がっていなかったので、(AQUOS R9 proの発売を)お約束するのがメーカーとしては難しい。夏のタイミングでは(開発は)ガンガン進んでいたが、どのぐらいのクオリティーになるのか、いつ出るのかは不確実性がある」(小林氏)とのことだった。

 AQUOS R9 proについてのSNSの反応を見る限り、「完璧すぎる」「やればできるじゃん」という好意的な声が多く挙がっている。復活した1型センサー、画質重視の望遠カメラ、シャッターキー、物理キーでの明るさ調整、シャッター無音の設定、レンズフィルター用アタッチメント……など、スマホカメラで「これが欲しい」のニーズに全力で応えたといえる。発売は12月上旬以降と少し先だが、年末商戦の注目機種になることは間違いない。

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