楽天モバイルが10月31日に「Rakuten Link」アプリのアップデート内容を発表した。対話型AIアシスタント「Rakuten Link AI」の実装により、Rakuten Linkアプリで悩み相談やアイデアサポートができるようになった。楽天モバイルはこの機能をAndroid向けに順次提供しており、iOS向けには近日中に提供する。
同日の発表会では楽天モバイル代表取締役会長の三木谷浩史氏や、楽天グループ専務執行役員でCAIDO(チーフAIデータ・オフィサー)のTing Cai (ティン・ツァイ)氏が登壇し、楽天グループによるAIを活用した取り組みや、Rakuten Link AIできることを解説した。
●「AIの民主化」を掲げる楽天グループが昨今、取り組んでいること
三木谷氏はまず「楽天グループとしてAIの民主化を掲げている」と宣言し、「社会構造すら変えてしまう変革ともいえるAIを楽天モバイルの武器にしたい」とする。ただ、AIと一口にいっても従来のAIと生成AIとではできることが異なる。
三木谷氏はこう説明する。「従来型のAIは分析、予測、自動運転、医療など専門的な分野に活用されていたが、生成AIではアイデアを生み出したり、文章を作成したりできる。生成AIを使えるか使えないかで人々の生活の豊かさは変わるし、生産性も大きく変わる」
楽天グループの強みは国内で1億を超える楽天IDをベースに、携帯電話、EC、金融、ポイントなどのさまざまなサービスが連携することにある。三木谷氏はこれまでを「ポイントを中心とした経済圏」だったと振り返り、これにAIを付け加えてさらに協力なエコシステムを作りたい」と意気込む。
楽天グループでは既に、マーケティング・オペレーション・クライアントの効率を20%アップさせる「トリプル20」プロジェクトに着手している。楽天グループが保有するデータアセットとチャネルにAIを駆使し、ビジネスにおける効率性や創造性を高めて事業成長につなげる「AI エンパワーメントカンパニー」へと進化し、楽天グループのビジネスパートナーやサービス、さらにはその利用者に対して新しい価値を提案することに取り組んでいる。
三木谷氏は「主にAI活用による生産性最大化」をキーワードに、「創造性と好奇心といった人間が元来持っている才能を拡張し、通常は時間を要するタスクを自動化し、生産性を向上させる」と楽天グループが昨今、AIを活用して取り組んでいることを説明した。
楽天グループは2023年に従業員向けのAIツール「Rakuten AI for Rakutenians」を導入した。「ChatGPT」に基づいた社内向けのAIで、業務を効率化することに役立っている。ツァイ氏によると、「3万人以上の楽天社員がAIを活用しており、毎日8000人強の社員がAIを活用している」そうだ。これらの社員は「ビジネスにおける提案書やマーケティングメッセージの作成、会議のメモにAIを活用している」という。
一方で、一般ユーザーの中には、AI活用による生産性最大化と聞くと、「業務の生産性を向上する」企業向けなのか? と捉えてしまい、どうしても個人ごととしては考えづらい、と感じてしまう人もいるだろう。しかし、今回の発表は企業どころか、個人に向けた大きな発表なのだ。
●Rakuten Link AIは何ができるのか 実際に試して分かったこと
今回の発表内容の目玉はRakuten Link AIで、プライベートから仕事に至るまでのさまざまな相談を引き受けるのが大きな特徴だ。Rakuten LinkアプリのホームからRakuten Link AIのアイコンをタップすると、さまざまな質問にAIがチャット形式で回答する。
三木谷氏はRakuten Link AIを「仕事や相談相手になるし、自分では思いつかなかったアイデアをサポートしてくれる。旅行の計画を立ててくれる相棒のような存在でもある」と表現する。
例えば、「楽天モバイルが携帯市場の民主化って言っていたんだけど、どういう意味? 今までの携帯会社と何が違うのか簡潔に教えて」という質問に対し、Rakuten Link AIは「楽天モバイルが携帯市場の民主化という表現は、楽天モバイルが従来の携帯電話会社に比べて、より手頃で透明性のある料金プランを提供し、消費者に多くの選択肢を与えることで、通信サービスをよりアクセスしやすくすることを意味します」と回答。その上で、他キャリアとの主な違いを箇条書きにする。
「長野県産のリンゴを楽天市場で売りたい。大ヒットしそうなキャッチフレーズを5つ考えて」という要望に対しては、「長野の大地が育んだ、甘さとシャキッと感の極み」「一口で感じる、長野の自然の恵み」「果実の宝石、長野県産リンゴで毎日を特別に」「健康とおいしさを両立。長野のリンゴで元気をチャージ」「長野の恵み、あなたの食卓に。新鮮なリンゴをお届け」と回答した。
「1カ月の食費を8万円に抑えたい。家族は筋トレ中の40歳の旦那と食べ盛りの10歳の男の子。明日の献立を考えて」という要望に対しては、朝食に「オートミール」「ゆで卵」、昼食に「鶏むね肉のグリル」「サラダ」「玄米」、夕食に「豚肉と野菜の炒め物」「みそ汁」「ご飯」、おやつに「フルーツ」「ヨーグルト」がおすすめだと提示した上で、食費を抑えるポイントとして、まとめ買いをすることや、外食を避けて自炊をすることなどを提案した。
なお、1回のチャット数の入力上限は50回まで。1回の質問につき500文字まで入力できる。
楽天グループは生成AIのモデルや性能に関する具体的な指標は示さなかったが、ツァイ氏は「バックエンドで柔軟性を持った形でさまざまなモデルを選べる。ユーザーにとって最もベストなサービスを提供できるよう、遅延、コスト、パフォーマンスなどの要素を鑑みて、ユーザーにとってベストなモデルを提供する」と回答した。
●Rakuten Link AIは楽天グループのさまざまなサービスとも連携
Rakuten Link AIのアピールポイントとして、ツァイ氏は「Rakuten最強プラン」の契約者ならRakuten Linkアプリ内で無料で利用できる点を挙げた。
「新しいアプリはダウンロードしたり、アカウントを新たに作成したりする必要はない。新しいユーザー名とパスワード、余分なサブスクションフィー(追加費用)も不要。複雑な手続きなしにRakuten LinkアプリからRakuten Link AIを使い始められ、生成AIを活用できる」(ツァイ氏)
Rakuten Link AIは、先の一例のようなやりとりだけでなく、楽天グループのさまざまなサービスとも連携する。例えば、「楽天市場でおすすめの和菓子」と入力すると、Rakuten Link AIが自動検索でいくつかおすすめの和菓子をピックアップする。「楽天トラベルでおすすめの旅館」という入力に対しては人気旅館を提案し、予約まで支援する。楽天ブックスで人気の本や興味のある本もすぐに提示する。
さらに、Rakuten Link AIで楽天モバイルのデータ使用量や請求など、楽天モバイルの契約内容をリアルタイムに回答し、ユーザーによる複雑な操作や検索は不要になる。回答には楽天グループが持つサービスとRakuten Linkアプリに関するよくある質問から得られた独自のデータベースを活用している。
●Rakuten Linkは「ユーザーのフィードバックをもとにUI/UXもアップデートする」アプリに
Rakuten Linkそのもののアップデートもあった。
これまでRakuten最強プラン契約者は毎月のデータ利用量や利用料金をRakuten Linkではなく「my 楽天モバイル」で確認する必要があったが、これらの情報をRakuten Linkでも確認可能になった。my 楽天モバイルへもリンクするため、「契約内容やオプション内容の詳細も確認できる」(楽天グループ マーケティングディビジョンエコシステム戦略統括部 執行役員ディレクターの波邊昌資氏)ようになった。
連絡先の検索のみとなっていた検索機能もアップデート。ホーム画面で連絡先やメッセージ、公式アカウントを一括で検索可能になった。
Rakuten Linkアプリのアイコンも変更となった。Rakuten LinkアプリからRakuten Link限定の特典、スーパーポイントスクリーン、ポイントがもらえるミッションの他、楽天市場、楽天トラベル、楽天ブックス、楽天証券など、楽天グループのサービスにもアクセスできるようになり、楽天グループとの一貫性を強めたアプリへと進化した。
波邊氏は「Rakuten Linkが国内通話かけ放題になる点が楽天モバイル契約理由のトップ5にランクインしている」ことを挙げ、アップデートの重要性を示した上で、「ユーザーのフィードバックをもとにUI/UXについてもアップデートしていく」と述べた。
楽天モバイルとしてはこれまで「国内通話が無料でかけ放題」をベースとなる訴求ポイントとし、ニュースを読めるようにしたり、楽天ポイントのバーコードを表示できるようにしたりと、Rakuten Linkのアップデートを重ねてきたが、AIが絡むことで楽天グループがRakuten Link AIで描く「真の利便性」が少しずつ見えてきた一方で、楽天グループが一般ユーザーにAIをどう訴求していくのかも気になるところだ。Rakuten Linkのアップデートはこれからが正念場ではないだろうか。