KDDI(au)の高橋誠社長は11月1日の2025年3月期第2四半期決算会見で、売上高2兆8557億円(前年同期比2.8%増)、営業利益5731億円(同2.3%増)と増収増益を達成したことを発表。次世代メッセージングサービスRCS(Rich Communication Services)と生成AI、衛星通信を組み合わせた新たなサービス展開に意欲を示した。
KDDI(au)の2025年3月期上期(4~9月)の連結業績は、売上高2兆8557億円(前年同期比2.8%増)、営業利益5731億円(同2.3%増)と増収増益となった。通信ARPU収入の継続的な増収とDXビジネスセグメントの二桁成長が貢献する一方で、楽天モバイルのローミングサービス収入とグループMVNO収入の減少(合計約112億円減)が減益要因となった。
営業利益の増減要因を見ると、マルチブランド通信ARPU収入が約45億円の増収となり、金融事業とエネルギー事業も合わせて114億円の増益、ローソンの持分法利益も98億円のプラスとなった。DXビジネスセグメントは114億円の増益を記録したが、技術コストの増加(約80億円)や販促費の増加(約40億円)が利益を押し下げる要因となった。通期予想に対する進捗率は50.6%と、順調に推移している。
総合ARPU収入(1回線あたりの収入)は堅調に推移しており、通信ARPUが3930円、付加価値ARPUが1270円を記録。auブランドは前年同期比約3%、UQモバイルは約7%の成長を見せている。UQからauへの移行数は前年同期比で2倍となり、アップセルが続く状況となった。
スマートフォンの稼働数も3168万件(9月末時点)と着実に増加。IoT累計回線数は4633万回線(前年同期比約25%増)と急成長を続けている。
●30GB帯の競争に対応、サブブランドも強化
「市場が中容量帯の競争がホットになっている」と高橋社長は現状を説明する。NTTドコモがahamoの容量を30GBへ増量して以降、市場環境が変化しているという。
これに対しKDDIは、UQmobileで「料金そのままで30GB超に対応」する新コミコミプランを導入。「他社と違って固定とのセットを前提にしていないので競争力がある」(高橋社長)として、独自の優位性を強調する。
ただし、この料金プラン改定がARPU(加入者1人あたりの月間平均収入)に与える影響については慎重な見方を示す。
「やってみないと分からないところはあるが、設計上、料金はそのままにして(容量を上げて)いるので、右肩に上がっていってくればいいなと思う」(高橋社長)。auユーザーが新料金プランを理由にUQ mobileへ移行する可能性も指摘されるが、全体としての収益への影響を見極めていく考えだ。
さらに、メインの携帯電話回線とは別に契約する2台目以降の回線(セカンドSIM)市場での競争も活発化している。「povoはもともと、通信障害など何かあったときのバックアップ回線として使っていただく思想があった」と高橋社長。今回、ローソンと連携した新たな特典も導入し、「他のキャリアのお客さまにもpovoを使っていただきたい」として、セカンドSIM市場での存在感を高める考えを示した。
●AIスマートフォンの販売強化、ミリ波は課題も
端末戦略としては、高機能なスマートフォンの販売に力を入れていく考えだ。「新しいiPhoneにしてもAndroidにしても、オンデバイスAIを備えるような端末を積極的に販売していきたい」と高橋社長は語る。
「高付加価値な端末をお客さまに届きやすい仕組みを作るべき。それによってトラフィックも上がり、KDDIに対する料金もお支払いいただいて、それによってまた新たに投資をするという好循環を作っていく。石破首相が言われる高付加価値創出型経済、まさにそういうことだと思う」(高橋社長)
一方、5Gミリ波対応端末については課題が残る。「開設指針にのっとって整備しているが、トラフィックが増えていない。端末に搭載されていない。もっというとiPhoneには搭載されていない」と高橋社長は説明する。
「このまま放っておくと韓国のように活用されない形になってしまう」と指摘。韓国では2018年に大手キャリア3社にミリ波(28GHz帯)が割り当てられたものの、基地局整備が進まず、2022年から2023年にはキャリア3社の周波数割当が取り消される事態となった。
総務省ではガイドラインで1.5万円の端末購入補助を認める方向に議論が進んでいるが、「ガイドラインの割引だけでなく、どう活用していくかを考える必要がある」と高橋社長は強調した。
●RCSと衛星通信、次世代メッセージングへ
「RCSは次のポイントになる」と高橋社長は強調する。「GoogleのGeminiなどの生成AIとの連携も可能になる。また、衛星とスマホの直接通信(D2C)との親和性も高い。このあたりの組み合わせで面白いことができないかと考えている」
現在、KDDIはNTTドコモ、ソフトバンクと共同で日本独自の「+メッセージ(プラスメッセージ)」を展開しているが、グローバル標準のRCSへの対応も進めている。
AndroidではGoogle Messageのプリインストールにより標準対応となり、iOSでも標準RCS対応が実現した。+メッセージを置き換えていくことになることだろう。その先陣を切るのはKDDIとなりそうだ。
●衛星通信、年内サービス開始へ
スターリンクを活用した衛星とスマホの直接通信についても、年内のサービス開始を目指している。「今までの基地局回線などに使っていたスターリングは衛星の周波数を使っていたが、今回のD2Cは携帯電話の周波数を使うことになる。そこの整理をグローバルで進める必要があった」と高橋社長は説明する。
「総務省も非常に協力的で、年内のサービス開始に向けて最大限対応していただいている」(高橋社長)という。ただし、「機器は一斉に対応できるものではなく、順次入ってくる形になる」とも付け加えた。
実用面では、米国での活用事例が参考になりそうだ。「アメリカではT-Mobileが今年(2024年)9月、10月の大型ハリケーンの際に、急きょこれを活用することを政府が決めて、12万通程度緊急的にメッセージを送った。社会的な効果が非常に大きかった」と高橋社長。「全く電波がないところでもそれだけのメッセージが送れる可能性がある」として、災害時の重要な通信手段としての期待を示した。
●モビリティAI基盤にも参画意向
NTTとトヨタ自動車が発表したモビリティAI基盤の構築について、「この案件は事前にトヨタさんからもお聞きしていた」と高橋社長は明かす。
「KDDIは3000万台以上の車両でIoTネットワークをご利用いただいており、2020年から町や家、人と車がつながる社会を見据えた研究開発をトヨタさんと一緒に進めてきた」と説明。「今回発表された取り組みにも、KDDIのこれまでの研究開発の成果を生かしていただける」という。
また、日本全国に分散した計算基盤の構築という観点では、KDDIのGPUやAIデータセンターの活用も期待できるという。「5Gや衛星通信を組み合わせた途切れないネットワークという領域では、当然KDDIも参画させていただきたい」(高橋社長)として、貢献の可能性は十分にあると強調した。
●Pontaパス、au以外のユーザーにも拡大
10月2日には「auスマートパスプレミアム」を「Pontaパス」にリブランドし、既に効果が表れ始めている。「開始から2週間で日別アクティブユーザー(DAU)数が約1.5倍になった」と高橋社長は手応えを語る。
「今までは auショップの店頭での加入がほとんどだったが、ローソンさんの店頭で加入される方が飛躍的に増えている」(高橋社長)。これは「auスマートパスという名前だとローソンの店舗で非常に見にくかったものが、Pontaパスという名前に変わったことで、au以外のお客さまにも非常に売りやすくなった」ためだという。
さらに年内には、ローソン店舗でのデータ容量チャージサービス「povo Data Oasis」も開始予定。ローソンに行くとギガがチャージされる新たな体験を提供し、「あらゆるキャリアのサブ回線として利用いただける」(高橋社長)サービスを目指す。2000万会員を目指すPontaパスと、実店舗でのギガチャージという新サービスを組み合わせることで、通信キャリアの枠を超えたサービス展開を加速させる考えだ。