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「AQUOS R9 pro」と「らくらくスマートフォン」 真逆の新機種から見える、日本メーカーの“生き残り戦略”

ITmedia Mobile 2024年11月2日 6時5分

 シャープとFCNTが、相次いで秋冬商戦向けの新たなスマートフォンを発表した。シャープは定番ともいえるミッドレンジのAQUOS senseシリーズにデザインを刷新し、ディスプレイなどにも磨きをかけた「AQUOS sense9」を追加。さらに、サプライズとして、今まで以上にカメラ特化を推し進め、1型超のイメージセンサーに加えて1/1.56型の望遠カメラまで搭載する「AQUOS R9 pro」も披露した。

 これに対し、FCNTは約3年ぶりとなるらくらくスマートフォンシリーズの最新モデルとなる「らくらくスマートフォン F-53E」を発表。型番からも分かるように、同モデルはドコモ向けの最新モデルとして投入される。FCNTもサプライズを用意しており、初となるワイモバイル向けの「らくらくスマートフォン a」も合わせて発表。さらに、オープンマーケット向けの「らくらくスマートフォン Lite」まで導入し、これまでドコモに限定されていたらくらくスマートフォンを一気に広げていく。

 ハイエンドモデルでカメラ性能を突き詰めたAQUOS R9 proと、シニア世代でも簡単に使えるらくらくスマートフォンは、ターゲット層が真逆のようにも思える。一方で、特定の機能や市場にきちんと照準を合わせ、パーツレベルからスクラッチで作り込むモノ作りの姿勢は両社の共通項。こうしたモデルは販売量が少なくなりがちだが、新たな販路を開拓し、市場を広げようとしている点でも一致している。2社の新製品からは、生き残りをかけた日本メーカーの戦略が見えてくる。

●シャープが持つ全ての技術を注ぎ込んだAQUOS R9 pro、カメラも大幅に進化

 「今、シャープが持っている全てをつぎ込んで作った、世界最高レベルであろうといえるスマートフォン」――新たに登場するAQUOS R9 proをこのように評したのは、シャープのユニバーサルネットワークビジネスグループ長 兼 通信事業本部 本部長の小林繁氏だ。そのコメント通り、AQUOS R9 proは、これまでのフラグシップモデル以上にカメラ特化を推し進めている。

 画質チューニングやレンズ選定などにおけるライカとの協業は継続しつつ、本体のデザインを刷新。背面のカメラユニットをリングで囲い、“デジタルカメラらしさ”を全面に打ち出した。単に見た目がデジタルカメラのように見えるだけでなく、側面に本物のデジタルカメラと同じパーツを用いたシャッターボタンを搭載しており、横位置での撮影時に自然とシャッターを切れる操作性も再現した。半押しでのフォーカスロックにも対応する。

 機能面では、メインカメラに1/0.98型という1型をわずかに超えたセンサーを採用している。これまでのAQUOS R(pro)シリーズは、画素数の大きな1型センサーと一般的なスマホカメラより画角の広いレンズを組み合わせており、標準の画角で撮影した際には中央部を切り抜いて使っていた。センサー1つで超広角と標準的な広角を両立させるためだ。

 これに対し、AQUOS R9 proでは1/0.98型のセンサーの全域を利用し、広角撮影を行う。クロップをしない代わりに、別途、5030万画素でマクロ撮影にも対応した超広角カメラも搭載した。これによって、「標準域で撮ったときの画質が大きく変わる」(同)。

広角カメラの精細感が上がり、より細かな描写を行えるようになった。性能の高い広角カメラの実力をさらに引き出すため、複数カメラを搭載する一般的なスマホに近い仕様に変更したというわけだ。

 また、今までのAQUOS R(pro)には、望遠カメラが搭載されておらず、遠距離の被写体撮影を苦手としていた。広角カメラのピクセルビニングを解除し、クロップすることでズームはできたが、やはりそれには限界もある。そこで、AQUOS R9 proにはペリスコープ(潜望鏡)型の望遠レンズを搭載。センサーサイズも1/1.56型と、ミッドレンジモデルのメインカメラ並みに大型化している。焦点距離は35mm判換算で65mmとなり、2.8倍までのズームを行える。

 プロセッサには、Qualcommの「Snapdragon 8s Gen 3」を採用。ベイパーチャンバーを搭載するなど、放熱対策にもこだわった。どちらかといえば、カメラ機能は他社に出遅れていたシャープだったが、AQUOS R6でライカとの協業を開始したのを機に、画質を大きく改善。1型センサーを他社に先駆けて採用してきた。こうした取り組みが奏功し、「ここ数年はライカとのコラボで評判も上がってきている」(小林氏)。AQUOS R9 proでは、さらにそのカメラを一段引き上げることで、フラグシップモデル好きのニーズに応えることを目指す。

●“変えないこと”が難しかったらくらくスマートフォン、部品レベルでの特注も

 フラグシップモデルを突き詰めたAQUOS R9 proを投入したシャープに対し、FCNTが新たに披露したのは、らくらくスマートフォンの後継機だ。新たに投入するのは3機種。ドコモ向けのらくらくスマートフォン F-53Eと、Y!mobile向けのらくらくスマートフォン a、さらにはオープンマーケットモデルのらくらくスマートフォン Liteを展開する。機能面でこれまで販売してきたらくらくスマートフォンの後継機になるのが、ドコモ向けのF-53Eだ。

 性能的にはミッドレンジモデルに属するF-53Eだが、実はターゲット層であるシニア世代に合わせ、細かな作り込みがされている。例えば、ディスプレイには静電容量式のタッチパネルの下に感圧センサーを入れ、フィードバックを返すことであたかも本当のボタンを押し込んでいるかのような操作感を再現。カメラも光学式手ブレ補正に対応し、AIも活用することで画質を底上げした。ディスプレイは5.4型に大型化している。

 ただ、一見しただけでは、先代モデルからの変化が分かりづらい。大枠のコンセプトは変えていないため、アウトプットとしての製品も先代を踏襲したものになる。一方で、FCNTでプロダクトビジネス 本部 副本部長 プロダクトポートフォリオ・マーケティング・営業戦略担当を務める外谷一磨氏は、「ガラッと変えることはできたが、お客さまの求める伝統を守り、継続的に進化させるのも挑戦だ」と語る。逆説的だが、変化の激しいスマホ業界では、現状維持の方が難しいこともある。

 一例を挙げると、F-53Eに採用されたディスプレイがそれに当たる。同モデルでは、ディスプレイを大型化したが、それでも5.4型のサイズに収めており、一般的なスマホと比べるとかなり小型だ。これは、らくらくスマートフォンのユーザーが手のひらにフィットすることを強く求めているためだ。一方で、このサイズの有機ELは汎用(はんよう)的な部品がなく、「らくらくスマートフォンのために専用で作り起こした」(同)という。

 横持ちで撮影した際に、指が写り込みにくく、画角が調整しやすいよう、カメラを背面の中央上部に搭載するレイアウトも前モデルから踏襲している。これも、「センターに実装すると、そこにカメラが来てしまって他の部品を乗せられなくなってしまう。だからこそ、他メーカーは左に寄せているが、ユーザーは位置も含めてこだわりが強いので全て実現するために高度な設計している」(同)という。

 背景には、ユーザーのらくらくスマートフォンに対する強いこだわりがある。FCNTの調査によると、同機種からアクセスできる「らくらくコミュニティ」のユーザー300万人のうち、9割もの人が「ドコモでらくらくスマートフォンを使い続けたい」と考えているという。現在使用中の端末への満足度も9割と高い。ユーザーの強いこだわりがあるため、あえて変えないことに挑戦しているというわけだ。

●フラグシップモデルの開発は普及価格帯にも好影響、2社とも販路拡大にも取り組む

 一見すると、ベクトルが真逆のように思えるAQUOS R9 proとらくらくスマートフォン F-53Eだが、メーカーの持てる技術を注ぎ込み、何かに特化した端末を作るという観点では共通性もある。AQUOS R9 proはカメラへのこだわりが強いユーザーにとってのフラグシップモデルだが、らくらくスマートフォン F-53もらくらくスマートフォンの使い勝手にこだわりの強いユーザーにとってのフラグシップといえる。

 どちらもAndroidのミッドレンジモデルやiPhone、Pixelシリーズのようにど真ん中のモデルではなく、大ヒットは見込めないかもしれないが、購入層は明確で、刺さるところには深く刺さるモデルだ。世界各国で広くあまねく販売される汎用的なスマホとの差別化もでき、国内のユーザーのニーズをくみ取りやすい。その意味では、日本メーカーらしい差別化戦略といえそうだ。

 大きな販売数は見込みづらいとはいえ、こうしたモデルを開発するための理由もある。シャープの小林氏は、「技術の最先端を攻めていく上では非常に重要」としながら、「ああいうもの(AQUOS R9 proのようなフラグシップモデル)が作れないと、スタンダードモデル(AQUOS sense9のようなミッドレンジモデル)でいい画質が作れない」と語る。

 また、「ベストを尽くせるという意味では、ブランド効果も非常に大きい」という。AQUOSというスマホを、世の中に示すためには、やはり技術を注ぎ込んだフラグシップモデルが必要というわけだ。「世界のトップ集団にとどまるためには、ああいった機種が必要になる」というのが、シャープの見立てだ。らくらくスマートフォンは母集団が見込みやすく、ビジネス的には安定している違いもあるが、一部の技術はarrowsなども共有できる。実際、F-53Eでは自律神経の状態を測定する機能をarrowsから受け継いだ。

 2社とも、販路を広げ、より多くのユーザーにリーチできる取り組みも行っている。シャープは、台湾、インドネシア、シンガポールといった海外展開を果たしているが、AQUOS R9 proもライカブランドを冠したまま、順次販売を開始していく。これに対し、FCNTはらくらくスマートフォンを初めてY!mobileやオープンマーケットモデルとして展開する。

 Y!mobile版は、ソフトバンクのサポートや健康医療系サービス「HELPO」とも連携させ、ドコモ版にない独自の売りを打ち出した。MVNOに家族で乗り換える際に、親のスマホにらくらくスマートフォンを選べないというユーザーの声を受け、オープンマーケット版はIIJmioやHISモバイルなどのMVNOも取り扱う。さらに、構想段階だが「海外市場にもチャレンジしたい」(執行役員 副社長 桑山泰明氏)と目標は大きい。規模では海外メーカーの後じんを拝している日本メーカーのスマホだが、反転攻勢にも期待したい。

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