2024年秋、「Galaxy Z Flip6」と「motorola razr 50/50s」という2つの折りたたみスマホが登場した。今回はGalaxy Z Flip6とmotorola razr 50sを使い比べて分かった違いを紹介する。
Galaxy Z Flip6は、高性能とファッション性の両立を目指した縦折り型スマホだ。プロセッサにSnapdragon 8 Gen 3 for Galaxyを搭載し、ハイエンドスマートフォンと遜色ない処理能力を実現しつつ、折りたたみによるコンパクト化を図っている。ターゲット層は、最新技術に敏感で高性能を求めるユーザーと、スマートフォンをファッションアイテムとして捉えるユーザーの2つに分かれる。カスタマイズ可能なケースや多彩なカラーバリエーションを用意して、スマホで個性を表現するアイテムとして打ち出している。
一方、motorola razr 50/50sは、「そろそろ"フツー"に飽きてきた?」というキャッチコピーで、折りたたみスマートフォンの斬新だが普通に使えるスマホだとアピールする。モトローラは、この製品で折りたたみスマホを特別なガジェットから日常的に使えるデバイスへと進化させようとしている。MediaTek製プロセッサの採用でより手に取りやすい価格にしたのも、そのコンセプトによるものだろう。
●販売キャリアと価格
Galaxy Z Flip6はNTTドコモとau(KDDI、沖縄セルラー)から販売されている。一方、motorola razr 50sはソフトバンクが独占で販売している。
両機種ともSIMフリー版が用意されている。Galaxy Z Flip6はサムスン電子の直販で購入可能だ。motorola razr 50は直販とMVNO経由での販売がある。
価格は、Galaxy Z Flip6のSIMフリー版(256GB)が15万9700円(税込み、以下同)から。motorola razr 50のSIMフリー版は13万5800円だ。razr 50sのソフトバンク版は一括で11万5200円だが、最初の1年は月額3円という特殊な割賦方式が取られており、購入補助プログラムを利用すると実質的にさらに安く利用できる。
●どちらのヒンジもピタッと閉じ、折り目が目立たない設計
Galaxy Z Flip6は従来機種と同様に、角ばった形状のデザインになっている。外装のアーマーアルミニウムは素材を強化し、耐久性が向上している。カラーバリエーションはミント、ブルー、シルバーシャドウ、イエローの4色で、Samsung Storeではさらにブラックとホワイトの2つの限定色も選べる6色展開となっている。後述するがGalaxy Z Flipシリーズではケースを使って個性的にスマホを彩れる仕掛けがある。
一方、motorola razr 50/50sは人工皮革を採用し、柔らかく握りやすい質感を実現している。同時に汚れや色あせにも強い特性を持っている。PANTONEとコラボして、ビーチサンド、コアラグレー、スプリッツオレンジの3つのカラーを展開している。ヴィーガンレザーとも呼ばれる人工皮革の手触りは滑らかで、丸っこいデザインもあいまってすべすべと手になじむ。ケースなしで使いたいと思わせる仕上がりだ。なお、SIMフリー版のmotorola razr 50は標準でケースが付属する。
ヒンジ構造では、Galaxy Z Flip6は最新のフレックスヒンジ技術を採用している。このヒンジは、涙型の隙間ができる構造だが、デバイスを完全に閉じた際のディスプレイ間の隙間をほぼなくしている。内部構造は対照的なデュアルレール構造により、外部からの衝撃を均等に分散させる設計だ。
motorola razr 50/50sも涙型のヒンジを採用しており、こちらも折り目や隙間を最小限に抑えている。今回は設計を簡素化したことで防塵(じん)性を向上させた他、片手で簡単に開閉できるよう設計されている。
実機で比較してみても、どちらのヒンジもピタリと閉じて、隙間が抑えられていることが分かる。開閉角度はGalaxy Z Flip6は0度から180度まで無段階で展開する。motorola razr 50/50sも広い角度で開くが、ごく浅い角度で固定しようとすると、保持できずに開ききってしまう。
ディスプレイの「折り目」に関しては、両機種とも改善を図っている。正面から見た場合、Galaxy Z Flip6とmotorola razr 50/50sはどちらも折り目がほとんど目立たない。しかし、斜めから見た際には若干の差異が見られる。Galaxy Z Flip6は光の反射を抑えられているのに対して、motorola razr 50/50sは光沢がやや目立つ印象だ。
両機種とも、ディスプレイの保護にはカバーガラスと追加の保護フィルムを採用している。この保護フィルムは製品の耐久性を高める役割を果たしているため、ユーザーが自ら剥がすことは推奨されていない。実際、このフィルムを剥がすと製品保証の対象外となる可能性があるので、取り扱いには注意が必要だ。
防水性能については、motorola razr 50/50sが防水対応となったことで、両機種ともにIPX8相当の仕様でそろった。
●外画面はファッション重視のGalaxy Z Flip6、実用のrazr 50/50s
Galaxy Z Flip6は3.4型、motorola razr 50/50sは3.6型のカバーディスプレイを搭載する。この外側ディスプレイもタッチパネルに対応しており、基本的な操作できる。
時計の表示や通知の確認といった基本的な操作は両機種で共通している。LINEなどのメッセージアプリでは、届いた通知に対して返信もできる。外側画面からカメラアプリを起動して、高画質なセルフィーを簡単に撮影する機能も両社とも備える。カバーディスプレイ上で動作する「パネル」があり、カレンダーやタイマーなどの基本的な機能をこなせるになっている。
Galaxy Z Flip6のカバーディスプレイはファッション性が特徴だ。アクセサリーとして「Flipsuit Case」というクリアケースがある。このケースを装着すると、デザイン豊かなパネルに合わせて、動く壁紙がインストールされる。最近では「ONE PIECE」とコラボしたFlipsuit Caseなども登場しており、今後も拡充が見込まれる。
一方、motorola razr 50/50sの外側の画面はほぼ全てのAndroidアプリがこの画面で操作可能となり、端末を開かずとも多くの作業が完結する。例えばGmailやGoogle Geminiのようなツールアプリから、Kindleのような電子書籍アプリ、PayPayのような支払いアプリまで、閉じた状態で表示できる。「学園アイドルマスター」のようなゲームアプリのプレイまで操作可能だ。縦折りスマホを閉じたまま1日75分以上使う人がいたという前世代モデルの教訓を取り入れて、外側のディスプレイを強化したのだという。
なお、Galaxy Z Flip6は実験的な機能として、マップやGoogle メッセージ、YouTubeのみがカバー画面上で動かせる。ただしここには裏技があり、Galaxy Storeから「Good Look」という拡張機能を導入すると、実はあらゆるのアプリをカバー画面上で動かせるようになるのだ。外側画面の操作性の点では、両機種は同水準にあるといえる。
●ベンチマークテストで性能を比較
Galaxy Z Flip6がプロセッサとしてQualcomm製のフラグシップ製品、Snapdragon 8 Gen 3 for Galaxyを搭載。motorola razr 50/50sのプロセッサはMediaTek製の「Dimensity 7300X」を備える。
メインメモリは、Galaxy Z Flip6が12GB、razr 50が12GB、razr 50sが8GBを搭載。ストレージはGalaxy Z Flip6が256GBまたは512GB、razr 50が512GB、razr 50sが256GBとなっている。
理論上はGalaxy Z Flip6が高い処理能力を持つが、日常的な使用では大きな差が感じられないだろう。ただし、重いゲームアプリなどを動かす場合には、最新のSnapdragon搭載のGalaxyに分がある。
ベンチマークテストを実行してみた。まず、「Geekbench 6.3.0」では、Galaxy Z Flip6がシングルコア2156、マルチコア性能6772というスコアだった。同じプロセッサを搭載する最新ハイエンドモデルのGalaxy S24 Ultraにほぼ匹敵する。これに対して、razr 50sはシングルコア1038、マルチコア2978だった。3年前のGalaxy S21シリーズに相当するスコアだ。
グラフィックスのベンチマークでは、3DMark 2.4.4934の「Wild Life Extreme」テストを実行した。スコアはGalaxy Z Flip6が1884、razr 50sが863だった。Galaxy Z Flip6はフレームレートを20~30fps近くで維持していたのに対して、razr 50sは1桁に落ちた状態でテストを完遂した。グラフィックスが印象的なゲームなど遊ぶ際には、他のエフェクトを犠牲にせざるを得ないシーンが出てくるだろう。
●折りたたみならではのカメラ機能 総合力でGalaxy Z Flip6がリード
カメラ性能はスペック上で比較すると、どちらも拮抗(きっこう)しているように見える。Galaxy Z Flip6は5000万画素の広角カメラと1200万画素の超広角カメラを搭載する。motorola razr 50/50sも5000万画素の広角カメラと1300万画素の超広角カメラを備えている。ズーム領域にはピクセルビニングによる2倍相当のクロップでカバーしているのは、両者のカメラで共通の特徴だ。
両機種とも折りたたみ構造を生かした撮影方法を用意しており、スタンドのように立てた状態で撮影できる。縦位置の動画になるが、講義などの記録やオンラインミーティングでの使用時にスタンドが不要で便利だ。
たたんだ状態の外画面で撮影もできる。ローアングルを生かしたダイナミックな集合写真も撮れそうだ。動画撮影中の画面を外側、内側の両方に表示する機能もあり、被写体が自分の様子を確認しながら撮るモデル撮影もできる。
motorola razr 50/50sにしかないのが、「カムコーダーモード」だ。90度に折りたたんだ状態で横向きに持つと、画面の右側がタッチパッドのような表示になり、動画撮影中のズームを滑らかに行える。
実際の撮影結果を比較すると、両機種で特徴の違いが見られた。Galaxy Z Flip6は自然な色調と優れたディテールが特徴で、現実に近い印象の写真を撮影できる。一方、motorola razr 50/50sは鮮やかな色彩と強いコントラストが特徴的で、視覚的にインパクトのある写真を生み出す。Galaxy Z Flip6が総合力で勝るが、razrも十分に映える写真が撮れる。
以下、両機種で撮影した写真の作例を紹介する。
作例1
作例2
作例3
作例4
作例5
作例6
●AIはGalaxy Z Flip6が多種多彩な機能を搭載
AI機能についてはGalaxyの方が積極的だと感じる。Galaxy Z Flip6が搭載するOneUIには、至る所に生成AI機能が組み込まれている。
通話では、リアルタイムでの通話翻訳ができ、海外旅行中にレストランを予約する際に活用できる。また、ブラウザには翻訳や要約機能が組み込まれていて、外国語のニュースなどの概要を把握する際に便利だ。ボイスレコーダーは文字起こし機能も組み込まれている。
AIを用いた画像編集機能も備えている。被写体の位置を調整したり、大きさを変えたりできる他、手書きしたイラストを元にリアルな物体を追加するという面白い機能も備えている。Googleの「かこって検索」やGeminiも搭載している。
Galaxyと比べると控えめな印象だが、motorola razr 50/50sもAI機能を備えている。撮影時に被写体を追尾するフォーカス機能でAIを用いている。生成AIではGoogle Geminiがある他、壁紙を生成AIで作成する機能を搭載している。
AI機能で比較すると、Galaxy Z Flip6の方が遊びがいがある。ただし、AI機能自体が発展途上の感もあるため、現時点でスマホ選びの決定打になることはなさそうだ。
●ディスプレイ連携はどちらもあと一歩
PCとの連携機能はGalaxy Z Flip6とmotorola razr 50/50sの両方が搭載している。一方で、スマホをPC風に使う機能はこの2機種ではrazrのみが備える。
Galaxy Z Flip6のPC連携機能は標準機能の「Windowsにリンク」を用いる。motorola razr 50/50sはLenovoグループが開発する「Smart Connect」が利用できる。
Smart Connectは一歩踏み込んだPC連携機能で、Windows画面上に仮想Androidの画面を複数立ち上げることができる。例えばスマートフォン本体で動画を見ながら、Windows PC上でLINEアプリを開いてメッセージに返信する、といったことができる。
テレビに接続して使えるモードを備えているのはrazrだけだ。Galaxyには「Samsung Dex」という類似の機能があるが、この機能はZ Flipシリーズには搭載されていない。razr 50/50sではSmart Connectでモニターに接続して、PCのようなウィンドウ形式で操作できる。ただし、razr 50/50sはDisplayPort Altモードに対応していないため、テレビとの接続はワイヤレス(ChromecastかMiracast経由)のみという落とし穴もある。
●AI推しのGalaxy Z Flip6か、PC連携が多彩なrazr 50/50sか
Galaxy Z Flip6とmotorola razr 50/50sは、同じ折りたたみスマートフォンというくくりではあるが、性格が異なる2台だ。
Galaxy Z Flip6は、基礎体力の高さに加えて、AI機能やファッション性という要素をアピールする。また、Galaxy AIによる多彩なAI機能は、画像編集や言語翻訳など幅広い用途で活用できる。ただし、外部ディスプレイの機能は限定的で、主に通知確認やカメラのプレビューにとどまっている。
一方、motorola razr 50/50sは外側画面の実用性に重点を置いている。3.6型の外部ディスプレイは、ほぼ全てのアプリを開かずに操作できる点が大きな特徴だ。MediaTek Dimensity 7300Xプロセッサの採用により、Galaxy Z Flip6よりも手頃な価格設定を実現している。ただし、AI機能は比較的控えめで、高度な処理を必要とするタスクではGalaxyに劣る可能性がある。
選択の基準は使う人の優先事項で変わってくる。最高性能とAI機能を求めるならGalaxy Z Flip6だろう。実用的な外部ディスプレイと手頃な価格を重視するならmotorola razr 50/50sをおすすめしたい。ファッション性では両機種とも魅力的だが、Galaxy Z Flip6のカスタマイズ性の高さが光る。PCやモニターとのワイヤレス連携ではrazr 50/50sの対応力が上だ。デザインの好みや価格の差、販売キャリアなども含めて考慮するといいだろう。