楽天グループは11月13日、2024年度第3四半期の連結決算を発表した。売上収益は前年同期比9.3%増の5667億円、Non-GAAP営業利益は同534億円改善の123億円、IFRS営業利益は550億円改善で50億円の黒字と増収増益。営業利益はそれぞれ2019年第3四半期以来、2020年第2四半期以来の黒字で、同社の三木谷浩史会長兼社長は「業績は好調に推移」と強調する。
●5年ぶりの四半期黒字化で業績改善 楽天モバイルは成長フェーズへ
最大の懸案だった楽天モバイルは投資フェーズから成長フェーズに移行したと三木谷氏は指摘。11月にはMNOとMVNOなどを合わせて全契約回線が812万回線に到達。米国3位のT-Mobileや楽天カードを引き合いに、800万会員到達がそれぞれ1.1倍、1.7倍早い段階で達成したとアピールする。
楽天モバイルは単独の契約だけでなく、グループ内のサービス利用の促進剤になっていると三木谷氏。楽天モバイル契約者の取扱高は非契約者よりも多く、楽天市場では47.9%、楽天トラベルでは13.5%、楽天カードで26.8%、それぞれ利用額が大きくなるという。
そうした楽天モバイルによるエコシステムの貢献額を、楽天モバイルや各セグメントの利益などに盛り込んでいるのが、同社決算の特徴でもある。
連結の売上収益は第3四半期としては過去最高となる5667億円で、全セグメントが大幅に伸長。特に売上成長の40%が楽天モバイルの貢献で、楽天モバイルがグループ全体の成長のブースターになっていると三木谷氏。
連結Non-GAAP営業利益は、前期が楽天モバイルの752億円という大幅赤字が影響したが、265億円の改善で赤字幅が487億円まで減少。フィンテックやインターネットのセグメントが50%を超える利益により、大幅に改善した。「MNOの設備投資が本格化した2019年第3四半期以降では初めての四半期黒字」と三木谷氏はアピールする。
連結EBITDAもモバイルセグメントの305億円改善、他のセグメントの30%以上の増益が効いて922億円の黒字となった。
●楽天エコシステムに貢献する楽天モバイル
モバイルセグメントの業績は、楽天回線数の増加でMNOサービスの収益が拡大。売上収益は19.5%増の1060億円に達し、Non-GAAP営業利益は265億円の改善で487億円の赤字となった。EBITDAも305億円の改善となる52億円の赤字まで損失額を抑えた。
楽天モバイル単体では、売上収益が30.3%増の730億円、Non-GAAP営業利益は200億円改善の510億円の赤字、EBITDAは241億円の改善で100億円の赤字。2024年内のEBITDA単月黒字の目標に向けて順調に推移している。
11月10日時点の契約数は812万回線で、MNO契約数は741万回線となった。MNOサービスの売上も42.2%増の431.8億円まで成長した。「短期的なポイント獲得目的のお客さま」(三木谷氏)が解約率を押し上げているため、それを除いた「真水の解約率」(同)は1.09%。ARPU(1ユーザーあたりの月間平均収入)は2801円で、目標の3000円に近づいていると三木谷氏。
第3四半期は例年契約数の増減が落ち着く時期だが、「堅調だった」と三木谷氏は振り返る。楽天市場や楽天カード、楽天銀行といったグループサービスからの流入も多いという。家族向けのプログラムなどによって、「若年層は極めて好調」(同)という状況だが、「大きな課題でシニア層が少し弱い」と三木谷氏。これについても最強シニアプログラムを投入したによって、前年同月比で75%増の獲得となったそうだ。
●通信品質の改善も楽天モバイルの好調を後押し
MNPも順調で、「好調の裏で通信品質が相当改善しており、満足してもらっている」と三木谷氏は胸を張る。さらなる改善に向けて、地下鉄や屋内、ビル間の路地、人混みといったエリアでの改善を図る。地下鉄では、東京メトロで帯域の20MHz化を進めており、従来の5MHz幅から40%まで拡大したという。2026年3月末までにはこれを100%にする予定だ。
関東地方での5G出力強化で5Gへのトラフィック分散で人混みやラッシュ時の体感を向上させる、といった工夫や5Gネットワークの整備を進め、ネットワークカバレッジを拡大する。
加えて、災害の停電時には遠隔制御で基地局を省エネモードにしてアップロード速度を抑えて基地局の予備電源を延命する技術を導入する。これによって通常は3時間程度の所、4~5時間まで延長できるという。
「大きな戦略」(三木谷氏)として、AIも活用しつつネットワーク全体で最大20%のエネルギー節約も目指す。仮想化ネットワークだからこそできる取り組みとして、2025年以降本格展開する予定だ。
衛星通信のAST SpaceMobileは、2024年9月12日に商用衛星「Block 1 BlueBird」5機を打ち上げ、アンテナ展開も完了した。これによって米国全土で通信ができることを確認したとのことで、2026年中に日本全域をカバーし、災害時でもつながるネットワークを実現する計画。「地理カバー率ほぼ100%を2026年に実現すべく、鋭意努力している」(三木谷氏)。
●楽天モバイル×グループサービスの利用金額も増加
ARPUに関しては、データ利用量の多いユーザーが増えたことでデータARPUが伸長。さらにこの第3四半期から「楽天モバイル契約によるグループサービス増収額を反映した」というエコシステムARPUを導入。これが762円となった。「契約後1年以上経過したユーザー」に限定すると905円となり、利用期間が長いほど「ロイヤルユーザー化する」と三木谷氏。
このエコシステムARPUを「900円、1000円、1200円……1500円と上げていきたい」と三木谷氏は強調する。Rakuten Linkアプリに導入したRakuten Link AIはその一環とのことで、将来的にはパーソナルコンシェルジュ機能として楽天グループのサービスを提案する機能を投入していく考え。
楽天モバイルは800万~1000万回線、ARPUが3000円程度になれば黒字化するという計画があったため、このままいけば黒字化に近づいている。エコシステム貢献という評価を加えているため、純粋なモバイルの売上ではないが、楽天グループ全体として判断するという考え方だ。
●楽天モバイルユーザーは楽天市場の平均利用回数が約4割多い
インターネットセグメントは売上収益が同4.4%増の3146億円、Non-GAAP営業利益が同54.2%増の212億円。前年がふるさと納税の駆け込み需要が売上を伸ばしたため、成長率は鈍化したものの、営業利益は大幅な増益を達成した。
楽天モバイルの楽天市場に対する貢献額では、契約者が12カ月で利用割合が15.7ポイント増加、平均流通額は契約者の方が47.9%多かった。楽天モバイルの契約者の平均利用回数は40.1%多い、ということだった。
フィンテックセグメントは、楽天銀行、楽天証券、楽天カード、楽天ペイメントといったサービスがいずれも順調。売上収益は12.8%増の2082億円、Non-GAAP営業利益は57.2%増の400億円だった。
特に楽天カードはショッピング取扱高が12.7%増で6兆円に達し、営業利益率も19.4%まで向上。Non-GAAP営業利益は53.9%の大幅増となる165億円となった。楽天カードはさらにみずほフィナンシャルグループとの戦略的資本業務提携を発表。個人向けには楽天ポイントがたまり、ATM手数料も優遇される提携クレジットカードを本年12月より提供する予定など、法人向けも加えてサービスを提供する計画だ。
楽天ペイメントも取扱高が拡大。コストコントロールが奏功したことで、2四半期連続で営業黒字が拡大し、Non-GAAP営業利益は33億円改善の14億円の黒字となった。