ホワイトレーベル戦略の下、黒子に徹してコラボレーション先のインフルエンサーや企業のブランドでサービスを提供しているエックスモバイル。起業家の堀江貴文氏と手掛けた「HORIE MOBILE」や、出版社の幻冬舎と展開する「幻冬舎MOBILE」などは、大きな話題を集めた。そんなエックスモバイルが、新たにタッグを組んだのがドン・キホーテやユニーを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)だ。
新ブランドの名称は「マジモバ」。ドン・キホーテのブランドやPPIHグループの電子マネー「majica」を生かし、毎月商品を“おごってもらえる”クーポンを配布するのが特徴だ。料金も、3GBの「驚安プラン」は月額770円(税込み、以下同)と、他のMVNOと同水準かそれ以下に抑えている。現状では店舗限定だが、ドン・キホーテの店内にエックスモバイルのスタッフを配置し、そのまま回線契約できるのもマジモバならではの強みだ。
一方で、現状では店舗契約できるのはMEGAドン・キホーテ三郷店とMEGAドン・キホーテ成増店、MEGA ドン・キホーテ福重店の3店舗に限定されるなど、まだポテンシャルを引き出し切れていない印象も受ける。また、10月にはドコモのオンライン専用ブランドahamoが、データ容量を20GBに上げたことで、マジモバの「最驚プラン」のお得感がやや薄れてしまったのも事実だ。こうした課題を、マジモバはどのように解決していくのか。MEGAドン・キホーテ三郷店で接客していた、エックスモバイルの代表取締役社長、木野将徳氏を直撃した。
●最初にパッと印象に浮かんだパートナーがドン・キホーテだった
―― 最初に、なぜドン・キホーテのPPIHとタッグを組んだのかを改めて教えてください。
木野氏 僕がエックスモバイルを作ったとき、最初にパッと印象に浮かんだパートナーがドン・キホーテでした。激安、驚安の印象が強かったからです。「安い×モバイル」ということで、ドンキと組めたらいいなと勝手に思っていました。実際、1回アプローチしていますが、そのときは形になりませんでした。2年前に再度提案し、現在に至っています。
―― 2年前というと、HORIME MOBILEを始める前ぐらいでしょうか。
木野氏 ちょうどHORIE MOBILEが始まるか、始まらないかというときです。HORIE MOBILEは初めてから1年半ぐらいたっていますが、その準備をしていたタイミングでした。
PPIHの吉田(直樹)社長に再提案した際には、興味を持っていただけました。「そもそも、エックスモバイルって生きていたんだ」という感じ(笑)。格安スマホ業界は買収でなくなったり、再編があったりした中で、エックスモバイルはちゃんとサバイブしているとおっしゃっていただけました。
―― 再提案で採用に至ったのは、MVNOを取り巻く環境が変わったこともあったのでしょうか。
木野氏 あったと思います。10年前だと、そもそも「SIMって何?」というような状況で、格安スマホも今ほど存在感がありませんでした。イメージがわかなかったのかもしれません。この10年で業界も大きく変わりました。
―― 10年前というと創業直後だと思いますが、そこでいきなりドン・キホーテに提案するのはなかなかチャレンジャーですね。当たって砕けろ、のような精神だったのでしょうか。
木野氏 常に砕けるつもりはなかったのですが(笑)。
―― 料金プランは3GBの驚安プランと、中容量が3本立てになっている最驚プランに分かれています。こうなった理由を教えてください。
木野氏 PPIH側からのリクエストとしてあったのは、PPIHが出す以上、業界最安級のプランを用意したいということです。発表会では森谷(健史)常務がかんかんがくがく考えたとおっしゃっていましたが、まさに何度もやり直してあの料金体系になっています。
●ユーザーとコミュニケーションを取りながら要望を反映させることも
―― それにしても、3GBで770円は安いですね。収益性は大丈夫なのでしょうか。
木野氏 もちろん大丈夫です。ギガは少ない(ので同条件で比較できない)ですが、日本通信にはもっと安いプランがあるぐらいですから。楽天モバイルを意識して、そのぐらいの単価にしたいという思いはありました。安くして数を売るのも大事ですからね。ただし、それはやろうと思えばいつでもできることで、うちは高ARPUでしっかり価値を届けたいと考えています。そこで、他のMVNOとの差別化もしていきたい。幻冬舎MOBILEには2万円を超えるコースもありますからね。
―― 2万円超えですか。大手キャリア以上ですね。
木野氏 はい。幻冬舎MOBILEの「見城徹コース」は約2万円ですが、それなりに数も出ています。確かに携帯電話料金が2万円というと高いですが、付加価値が価格に見合っていると思ってくださる方がいるということです。もしくは、これでも安いと思っているかもしれません。
―― ということは、マジモバでもやはり最驚プランを主力にしていきたいというお考えでしょうか。
木野氏 ビジネス的に高いARPUを狙いたいというのはありますが、そこはアジャイル的にやってみて、反応を見ながらですね。売り方や営業方法は、そこに合わせて変えていくしかない。手探り状態でいろいろなことをやっています。例えば、僕のSNSでいろいろなキャンペーンを打ち、ドンキやユニーのアカウントに拡散してもらうというようなこともしています。ユーザーともコミュニケーションを取りながら、要望を反映させることもあります。ギガの繰り越しをしたいというコメントがあったので、既にそれも入れています。
●レジに並んでいるお客さんに声を掛けて営業をすることも
―― サービスが始まったばかりですが、もう新機能を入れたんですね。
木野氏 はい。SNSでアンケートを取ったら数千件の回答がありましたが、その中でトップ3に入っていたのが繰り越しだったので、即対応しました。もともと、やるつもりはなかったのですが。X(旧Twitter)だと20代、30代の方が多く、それなりのリテラシーがあるからですね。
一方で、店舗での販売になると高齢の方も多く、繰り越しと言われても「はて?」となってしまいます。こういうところだと、回線を変えるというより、大きくて見やすくてきれいなスマホにしたいという方もいるので、シャープの「AQUOS wish4」を無料でお配りしています。5000円分の商品券をプレゼントすることもあります。
昨日からやっているのは、レジに並んでいる方にお声がけして、「このお会計を無料にします」という営業です。これで話を聞いてもらうことができます。こういうことをいろいろとやりながら、何が刺さるのかを毎日試しています。
―― それは木野さんがやっているのでしょうか。いきなりレジに緑のスーツの人が来て話しかけてきたら、かなりビックリすると思います(笑)。
木野氏 いやいや、さすがに僕じゃないです。通報されてしまうので(笑)。
―― 店頭での販売を始めてみて、手応えはどうでしょうか。
木野氏 PPIHのブランドになるので数は言えませんが、手応えは感じています。カウンターはまだ三郷と成増だけですが、10月7日から1カ月ぐらいかけて、順次全国の店舗に什器やPOPを入れていく予定です。その店舗のQRコードから申し込んでいただく形を取ります。
―― 店舗だとその場で契約できますが、こういったカウンターは広げていくのでしょうか。
木野氏 現状は2店舗(※取材後にMEGA ドン・キホーテ福重店も追加)ですが、中にはうちの店でもやってみたいと手を挙げてくださっているところもあります。われわれだけだと全ての店舗は難しいですが、三郷や成増とジャンルが違うところだったり、観光客が多いところだったりと、カテゴリーを分けてブース展開、店舗展開していく可能性はあります。
―― 逆に、今後、エックスモバイルの店舗でマジモバを契約できるようになることもあるのでしょうか。
木野氏 エックスモバイルの店舗がPPIHのテナントとして入っていくことを増やしたいと考えています。それなら、スタッフを置いて端末も売れるからで、加盟店にも呼び掛けています。現在、端末は買えませんが、将来的にはやれるようにしませんかとお声がけはいただいています。店舗があれば、majicaの使い方を教えたり、カードの契約を取ったりもできますからね。
●ahamoの影響は分からない 数が出ているのは驚安プラン
―― ところで、マジモバと同日にahamoがデータ容量を30GBに増やすと発表しました。あの影響はありましたか。
木野氏 影響は、正直まだ分かりません。仮にahamoの30GBがなかったとして今より売れたかどうかですが、そこはあまり気にしていません。焦ってプランを変えるのもできなくはないですが、今は店頭プロモーションやポスターを準備しているところです。ポスターが25GBなのに実際は30GBだと、お客さまも混乱してしまう。今のプランもいい料金プランだと思っているので、ひとまずこれをやりながら考えていきたいですね。でも、やった方がいいですかね?
―― うーん、難しいですが、やはり同価格帯でマジモバの方が容量が少なくなっていますからね……。そもそもなんでこの容量だったのでしょうか。
木野氏 これもいろいろとPPIH側と打ち合わせした結果です。(最驚プランの)真ん中を25GBにしたのは、20GBだとahamoとかぶるからですが、まさか発表当日に30GBにされるとは(笑)。逆に、3GBは一番安いところを狙って770円です。当初提案したときには990円という価格でしたが、(PPIH側が)もっと安くしたいという意向もありこの価格になっています。
―― 最驚プランには、15GBもありますね。
木野氏 平均のデータ使用量が大体10GBぐらいで、15GBあればほとんどの人に対応できるからです。ただ、こればかりは正解がないので、とにかくやってみるしかありません。
―― 驚安プランと最驚プラン、どちらの受けがいいですか。
木野氏 やはり驚安プランは、めちゃくちゃ数が出ています。一方で最驚プランも当初の予想ぐらいは出ています。意外とネットで契約する人も多いですね。
●もう少し頑張れば上位MVNOに入れるぐらいの規模にはなっている
―― もう1つ、Wi-Fiルーターもありますが、これはクラウドSIMですよね。どのようなニーズを想定しているのでしょう。
木野氏 最近、電波が悪い(通信速度が出ない)じゃないですか。大手キャリアでも遅いときがあるので、サブ回線のニーズがあります。あとは、光回線も工事に時間がかかったりします。家族全員の通信をまかなうというのでなければ、モバイルWi-Fiで十分。Wi-Fiルーターは「限界突破WiFi」で慣れているので、これからも強めていきます。
―― ところで、木野さん自身が店頭に立っているのではなぜでしょうか。しかも緑色のスーツで(笑)。
木野氏 プロモーションや料金、端末の意思決定をするのは僕ですが、データを見ているだけでは分からないことが多いからです。例えば、お客さまが7年前、8年前のスマホを使っていたりする。店頭に立つと、「それが新しくなる」と言えば、「おー」と反応があることが分かる。お客さまからは、「いつまでやっているの?」と言われますが、これも一時のイベントになってしまうと安心できないから。店頭に立たないと分からなかったことです。毎日ここにいてもいいぐらいですね。
―― マジモバも始まり、エックスモバイル全体でも契約者数が増えていると思います。現状、どの程度まで大きくなったのでしょうか。
木野氏 まだ全然、100万回線には届きません。ただし、もうちょっと頑張れば上位MVNOに入れるぐらいの規模にはなっています。純増に関しては他社の動向も大体把握していますが、MVNOでいえば間違いなく上位に入ると思います。
―― やはり、ホワイトレーベルとしていろいろなブランドを出すことで、ユーザー層が広がっているのでしょうか。
木野氏 言っても、MVNOを使っているのはまだ10%ちょっとですからね。伸びしろはまだまだあります。例えば、今、ドンキに来ている人はほとんどMVNOを知らない。こういう水脈をどんどん広げていきたいと考えています。
●取材を終えて:店舗を順調に拡大できれば勝算がありそう
これまでエックスモバイルが組んできたパートナーとは異なり、マジモバを共同で手掛けるPPIHは小売業がメイン。販売方法なども、従来のコラボとは変えつつ、手探りでユーザーニーズを取り入れていることがうかがえた。
3GBの驚安プランは安さを重視するなど、ARPUを狙う他のブランドとは違いも出しているようだ。イオンがイオンモバイルを展開しているように、MVNOと小売業は相性がよく、海外でも同様の事例は少なくない。店舗を順調に拡大していければ、これまでのコラボ以上に勝算はありそうだと感じた。