英Nothing Technologyは10月1日にCMFブランド初のスマートフォン「CMF Phone 1」を発売した。直販価格は4万4800円(税込み、以下同)。インターネットイニシアティブ(IIJ)ではワイヤレスイヤフォン「CMF Buds」(6600円)とセットにして3万9800円で販売している。
CMFはColor、Material、Finishに由来し、手頃な価格ながらユニークなデザインが特徴だ。同ブランド初のスマホCMF Phone 1は背面のカバーを付け替えて、自分好みの外観にできる。直販サイトではカバー(4980円)、首からさげるためのストラップ(2980円)、カードホルダー(2980円)、スタンド(1980円)を販売している。CMF Phone 1自体は英国や米国などで7月から販売されており、今回、日本でも発売された格好だ。
スペックとしてはミッドレンジクラスとなる。プロセッサにMediaTek Dimensity 7300、OSにはAndroid 14ベースのNothing OS 2.6を採用。6.67型でリフレッシュレート120Hzの有機ELディスプレイや、5000万画素で広角レンズのアウトカメラ、1600万画素のインカメラを搭載する。
ただ、Nothingのスマホとしては、よりスペックの高い「Nothing Phone (2)」と「Phone (2a)」を市場に投入済み。どちらもパーツの交換はできないが、LEDの「Glyphインタフェース」を活用し、着信や通知などが視覚的に分かる。
この2ラインがある中で、CMF Phone 1を新たに投入する意図は何か、NothingとCMFのブランドの考え方はどう違うのか、日本市場向けのカスタマイズはあるのかなど、Nothing Technologyで日本におけるマネージングディレクターを務める黒住吉郎氏に聞いた。
●CMFブランドとはどのような位置付けか イヤフォンとスマートフォンを同時発表する意図は
―― そもそもCMFブランドを日本に持ってきた理由は何でしょうか。
黒住氏 CMFはサブブランドとして定義していますが、トヨタの中にトヨタとレクサスがあるようなイメージです。そこまで強く分けるイメージはありません。プロダクトのシリーズみたいなイメージでも考えていただければと。
デザイン性を重視し、お客さまに対して、新しいデザインイノベーションを提供していきたい、という考え方はCMFもNothingでも同じですが、CMFではよりアプローチしやすい価格帯を目指しています。
Nothingにも通じる部分ではありますが、それをプロダクトのシリーズでより分かりやすくするために、CMF by Nothingとしてブランドのような形で展開しています。
―― CMFではワイヤレスイヤフォン「CMF Buds Pro 2」、スマートウォッチ「CMF Watch Pro 2」が先に出て、スマートフォンの発売が後発になった理由を教えてください。
黒住氏 Nothingもオーディオ製品のイヤフォンから始まっています。われわれとしてはオーディオ製品を開発しやすいですし、ユーザーさんから見てもアプローチしやすい製品として位置付けられていると思います。もちろん、オーディオ製品はわれわれからユーザーさんへもアプローチしやすいと考えています。
―― オープンイヤー型のワイヤレスイヤフォン「Nothing Ear (open)」とCMF Phone 1を同時発表したように、基本的にはスマホとオーディオ製品はセットで訴求したいと。
黒住氏 もちろん、それはありますね。ユーザーが身につけているテクノロジープロダクトで圧倒的に数が多いのは、今や3つに絞られています。1つはスマートフォン。日本において1年間に3000万~3500万台が販売されています。その次にあるのは恐らくイヤフォンだと思います。調査機関にもよりますが、およそ700万台が販売されています。
さらにその次にあるのが、多機能なものからシンプルなものまである、スマートウォッチですが、この領域はなかなか数字が出にくいです。われわれはテクノロジーでもう1回、皆さんをワクワクさせたいと思っているので、この領域もしっかりとやっていきたいです。
●CMF Phone 1はインドで爆発的な販売数を記録
―― CMF Phone 1はもともと海外で販売されていましたが、売れ行きはいかがでしょうか。
黒住氏 いいと思います。われわれにとって最も大きい市場はインドです。CMF Phone 1はインドで爆発的な販売数を記録しています。予想以上のフィードバックをユーザーさんからいただいている、という感覚があります。
―― そうなんですね。なぜインドで売れているのでしょうか。
黒住氏 インドはテクノロジーに敏感な市場で、新しいものに対して感動が高い市場でもあります。われわれのコアメンバーがOnePlusの共同創業者で、OnePlusも過去にインドでかなり大きな成功を収めたという実績があり、それもうまく活用できたと思います。
インドはスマートフォンの領域だと、恐らく他の国と比べて最も成長率の高い国です。ネットワークの整備とかも含めて、他の先進国と比べると後発なので、スマートフォンの普及自体もまだ伸びしろがあります。一方で、インドの方々はテクノロジーだけでなく、デザイン、値段にも非常に敏感です。それが、われわれの狙っているところとうまくマッチしたと感じます。
―― デザインの嗜好(しこう)性はインドと日本とで異なりますか。
黒住氏 インドと日本は物に対するこだわりが似ていますが、デザインの嗜好性や方向性は若干異なる部分かと。製品の色、ディスプレイの色の調整なども異なるので、その辺はいいバランスを取っています。
●価格高騰が当たり前の中、低価格を実現できた理由 なぜおサイフケータイはないのか
―― 日本市場においてCMF Phone 1を低価格で提供した理由を教えてください。
黒住氏 そもそもそのわれわれのラインアップには、CMF Phone 1の1つ上に当たるPhone (2a)があります。そのロワーバージョン、つまり安いコンフィギュレーションのもので、価格が4万9800円です。今回、IIJが販売する低いバージョン(CMF Phone 1)は4万円を切る3万9800円です。IIJのモデルはイヤフォンとスマートフォンのセット販売ですから、価格帯としてはプライスバンド(※複数の商品をセットで販売し、個別で販売するよりも安くすること)と見ています。
そこからスタートでメモリが増えたら、4万4800円、5万4800円になって……というように、ステップアップしていきます。ただ、全ての面でトップ・オブ・ザ・トップのパフォーマンスを出そうとしているわけではなく、その価格帯において適切なパフォーマンスを出せるものを目指しています。
昨今は定価が10~15万円以上のスマートフォンが当たり前になってきています。しかも乗り換えをしなければ、なかなか割引を受けづらいという現状もあります。われわれは、ユーザーさんが出せるであろう価格帯が、4万円前後とか5万円前後とか6万円前後とかになってくる、とイメージしています。その中で適切なパフォーマンスになるようにしていきたいとも考えています。
製品を作るときに為替で価格が一気に変わることもありますが、われわれとしても日本は非常に重要な市場なので、手ごろ感みたいなものを考えたときにはこういうものだよ、というものを含めてインプットをかけていき、そこで今当たっているのが3万9800円のラインと、4万9800円のラインではないでしょうか。
―― CMF Phone 1は海外よりも若干高いのでしょうか。
黒住氏 もちろん為替の影響は受けています。Phone (2a)ですとわれわれの製品としては初めておサイフケータイ(モバイルFeliCa)に対応しましたから、その部分はアディショナル(追加コスト)になっています。
あとは日本市場のネットワークとのインターオペラビリティテスト(キャリアネットワークと端末の相互接続性に関する試験)が負担になっていて、本来ならばもう少し価格を上げてもいいのかなと思いつつも、そこはわれわれがぐっと我慢しつつも、適正な価格で提供しています。
―― CMF Phone 1で日本市場向けにカスタマイズした点はあるのでしょうか。
黒住氏 CMF Phone 1における日本市場向けのカスタマイズといえるのは、ネットワークの適合性をできる限り担保しているところです。ただ、NTTドコモやKDDIのメインバンドは対応できていないので、その辺はIIJとも話しています。
―― なぜCMF Phone 1にはおサイフケータイがないのでしょうか。
IIJとの話が進む中、2台目として買う人が多いということが見えてきました。MVNOだからそうなりがちなのだと思います。2台(両方)でおサイフケータイを使う人はどれだけいるのだろうか? と考えると、CMF Phone 1がおサイフケータイに対応していないことはあまり問題ないのかなと思います。
●取材を終えて:Nothingのキャリア進出にも期待
ボディーの内部の一部が見える透明パネルを採用したPhone (2a)や、ボディーの一部を着せ替えできるCMF Phone 1と、デザイン性で個性を出しながらも、手の届きやすい価格帯で日本市場を攻めるNothing。今回のインタビューではNothingが日本市場で独自の切り口で攻めるにあたり、製品にどのようなニーズがあり、製品のコンセプトやニーズを踏まえて製品設計や価格設定を行っていることがうかがえた。
かつてソニーモバイル(現ソニー)のスマートフォン「Xperia」の開発やオーディオ製品の企画に従事し、ソフトバンクや楽天モバイルにも関わるなど、モバイル業界で長年の経験を持つ黒住氏だからこそ、過去の知見をNothingに生かしやい面もありそうだ。スマートフォンとオーディオという別カテゴリーの製品を同時発表し、IIJではセット売りする点は黒住氏ならではの手腕にも見える。こうした戦略は今後、Nothingのキャリア進出へつながるのか、製品だけでなく販路拡大も興味深い。