NTTは技術公開イベント「NTT R&D FORUM 2024」を11月25日~29日にかけて、NTT武蔵野研究開発センタで開催する。今回のイベントはNTTドコモを含むNTTグループの研究開発を紹介する場となっている。プレスデーで行われた基調講演と、主な展示の内容をレポートする。
NTT執行役員研究企画部門長の木下真吾氏は基調講演で、次世代通信インフラストラクチャ「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」の実用化が本格的な段階に入ったことを明らかにした。
●IOWNが実用フェーズへ、世界最高水準の800Gbps通信を実現
基調講演の冒頭、木下氏は今回のフォーラムのテーマ「IOWN INTEGRAL」について説明。このテーマには「IOWNがさまざまな分野に適用され積み上がっていく」という意味での「積分」と、「IOWNが人類にとって不可欠になっていく」という2つの意味が込められているという。
IOWNの実用化において、最も注目すべき進展は「All-Photonic Connect powered by IOWN」の提供開始だ。これはNTT東日本・西日本が展開する法人向けサービスで、世界最高水準となる最大800Gbpsの帯域を実現している。従来の100Gbpsから大幅な性能向上を果たしただけでなく、イーサネットインタフェースの提供により、企業がより導入しやすい環境を整えた。
●日台間3000キロを17ミリ秒で接続、実証実験も本格化
IOWNの中核技術であるAPN(オールフォトニックネットワーク)の実力を示す実証実験も進んでいる。日本・台湾間(約3000キロ)をAPNで接続したところ、わずか17ミリ秒という超低遅延を達成。光の伝搬による物理的な遅延(約15ミリ秒)以外の実効的な遅延はわずか1~2ミリ秒程度に抑えられている。
このような超低遅延を生かした実証実験として、災害時のバックアップシステムやリモートプロダクションなどが進められている。例えば、日本の工場で生成されたデータを日本のデータセンターだけでなく、台湾のデータセンターにもリアルタイムでバックアップする実験では、従来のフレッツ光の約3倍、一般的な専用線と比べても約2倍の転送速度を実現している。
また木下氏は、APNの新たな活用例として5G基地局の省電力化についても言及した。住宅街と商業地域など、時間帯によって通信需要が大きく異なる地域の基地局を連携させることで、効率的な運用を実現。消費電力を大幅に削減できる可能性があるという(詳細は後述)。
●再生可能エネルギーとの連携も視野に
木下氏は、データセンターと再生可能エネルギーの効率的な活用についても説明した。現在、データセンターの多くは大手町から50キロ圏内に集中している一方、太陽光発電所は50キロ圏外に設置されることが多い。この「ギャップ」に対し、データセンターを太陽光発電所の近くに設置し、送電コストを通信コストで代替する「ワットビット連携」の構想を示した。
また、日照条件に応じてワークロードを移動させる取り組みも進めている。例えば、九州の太陽光発電所が曇りで発電量が低下した場合、晴れている北海道のデータセンターにワークロードを移すことで、再生可能エネルギーの利用効率を最大化できるという。
木下氏は、2026年頃の商用化を目指すDCI-2(データセントリックインフラストラクチャ)の開発についても言及。現行システムと比べて電力効率を8倍に高めることを目標としているという。また、IOWN Global Forumには現在154社が参加しており、最近ではGoogleも加入するなど、業界での認知も着実に広がっている。
●モバイルフロントホールで省電力化に挑戦 時間帯で需要が異なる地域の基地局を連携
モバイルネットワークの進化では、5G基地局の内部の通信をIOWNで効率化する技術が展示されていた。
5G基地局は、電波を送受信する無線装置「RU(Radio Unit)」と、基地局の制御を担う「CU(Central Unit)」および「DU(Distributed Unit)」という装置群で構成される。RUとDU間の通信経路を「モバイルフロントホール」と呼び、今回の展示では、このモバイルフロントホールにIOWNのAPN技術を適用することで、基地局の新しい運用方法を実現する。
現在の課題として、住宅街と商業地域では通信需要の時間帯が大きく異なる。住宅街では夜間の通信量が多く日中は少ない一方、商業地域では日中の通信量が多く夜間は少ない。しかし、それぞれの地域に個別にRUとDU/CUのセットを設置し、常時稼働させているため、電力が無駄に消費されている状況だ。
NTTはこの課題に対し、従来10キロほどだったRUとDU間の距離を30キロまで延長可能にすることで、離れた地域の基地局同士を連携させる仕組みを提案する。例えば、武蔵野エリアと大手町エリア(約30キロ)の基地局を連携させた場合、日中は住宅街である武蔵野エリアのRUをスリープ状態にして商業地域の大手町エリアの基地局でカバーし、夜間は逆に大手町エリアのRUをスリープさせて武蔵野エリアの基地局で対応する。このように、時間帯による需要の変化に合わせてRUとDU間の接続を動的に切り替えることで、消費電力の大幅な削減が期待できる。